魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その73        4闘志

 

 

【ソルベンジュ、緋炎の宝剣】

 

 書の中に封印されていた、破壊神ウルグを宿す女性――フロンティアの身体を依り代に、シャリが復活させた憎しみを抱えて死した歴代の書の主達。

 

 怨念の集合体が動かす憎しみの魔王“闇の女王”の右手には、闇を凝縮させた色合いをし、先端が広がった刀身を持つ直剣。

 

 左手には、火山の噴火を思わせる緋色に燃える炎のような刀身をした長剣が現れる。

 

 女王を縛る、赤い血の色をした魔法文字がその効力を失おうとしていた。

 

「儀式が行われていなくても、徐々に力を取り戻しつつあります。短期決戦でいきましょう。相手が復活を遂げるまで、律儀に付き合う義理はありません。全力全開手加減無用、あの中で眠る魂を呼び起こすことに集中です」

 

 瞑目しているアシェラが、共に戦うなのはやフェイト、ルティシアにそう告げると、自身の周りに大小様々な数百本の刃を呼び出す。

 

「あの黒い剣――ソルベンジュには気を付けて下さい。かすりでもすれば、そこから闇に蝕まれます」

 

「はい!」

 

「うん」

 

 なのはとフェイトは返事を返すと、デバイスを高く掲げた。

 

「アシェラ。彼女に本当に全力でぶつけても良いのですね?」

 

 なのはやフェイト、はやてやユーノ――今ここにいる仲間達と、無事にこれを乗り越える事は大前提で、フロンティアも助けられるのならば助けたい。

 

 自分達の作戦とは別に、今この場で最も状況を把握しているであろう人物――アシェラに、ルティシアは訊ねる。

 

 冥魔王を名乗る彼女である。何か狙いがあってこの場にいるのは確かであるが、いつもと服装や雰囲気が違う彼女に、ルティシアは何故か懐かしさを感じていた。

 

 そして、それ故の信頼感を……。

 

「――依り代になっている娘を助ける“行為”自体は、これからの行動と一致しています。それと、ただでさえ強靭な肉体を持つ彼女は現在書と繋がっているため、中途半端な攻撃は無意味です。先程も言った通り、短期間に大きなダメージを与えること。後は、闇中にいるあの娘に、生きる意思と力がどれだけ残っているかどうかです」

 

 ルティシアが言わなかった狙いをアシェラは正確に読み取った上で、考えを述べた。

 

「分かりました」

 身に付けていた獅子座の黄金聖衣が外れ、小さなオブジェ形態に変わるとルティシアのネックレスに装着され、代わりに別の黄金聖衣が纏われていく。

 

 真紅と黄金の闘気が混じり合い、やがて一つになる。

 

「レイジングハート・レジィナ、エアフォーム!」

 

《ok. stand by ready. air form set up》

 

 レイジングハートの内にある魔宝石――セントジュエルが強く輝き始め……!

 

 左手で高く掲げられたレイジングハートから桜色の光が溢れ、次いで柔らかな緑色の光がなのはの身を包み込む。

 

 いつもの白いバリアジャケットの上から、先程の光がそのまま形ある何かへと構成されていく。

 

 丸み帯びた肩当てと胸甲、そして両サイドに翼を模した飾りを持つ額当て。

 

 濃紺のマントを翻し、胸甲と額当ての中央部にある丸い同色の宝珠が、一際強く輝いて“聖なる風”の到来を知らせる。

 

「バルディッシュ・アサルトエンジェル、天使化」

 

《yes sir. alternative mode get set》

 

 なのはのレイジングハートと交差するように、右手で高く掲げられたバルディッシュが強く光を放つ。

 

 内に秘めたエンジェルシードから伝わる力は、最初は金色に輝き、黒く染まっていく。しかし、恐怖をまるで感じさせないその闇の輝きがフェイトの身を覆っていく。

 

 黒いマントは形を変え、前開きのスカート形式のロングコートに。

 

 その上から、左手だけだった装甲部分が両手と両足、そして脛当てへと追加される。

 

 しかし、それらは決してフェイトの得意とする高速戦闘の阻害になることはない。

 

 背には一対の黒く、全身を隠せそうなほど大きな翼。

 

 黒翼の天使となったフェイトの姿がそこにあった。

 

 闇の女王が全身を震わせながら、自身を縛る呪縛を破ろうと力を込める。

 

「黒竜爪牙≪ 幻影 ≫(ミラージュ)

 

 速の剣技の基本となる分身。

 

 右手の人差し指から深紅の光を放ちながら、蠍座の黄金聖衣を纏うルティシアが複数人に分かれる。

 

 背中越しにその輝きを感じたのか、何故か離れた位置にいるユーノがその身を震わせたが、それに気が付く者はいない。

 

「深紅の衝撃、スカーレットニードル!」

 

 中空を舞いながら、分身したルティシア達から降り注ぐ深紅の閃光は、さながら万物を貫く紅の流星雨の如く。

 

「幻想舞刀……翔」

 

 ボロボロの法衣とは逆に真新しい長手袋をはめたアシェラが、高く上げていた右手を振り下ろす。

 

 銀色の煌めきを残しながら、周囲の刃物の半数が紅の流星と並走するように飛んでいく。

 

「アクセルシューター!」

 

「プラズマランサー!」

 

 なのはとフェイトの周囲には、それぞれの魔法を発射する同数のスフィアが設置される。

 

「「バラージショット!」」

 

 二人の声を合図に、二種のスフィアが無数の光弾を吐き出す。

 

 桜色と金色、二色の弾丸は寄り添いながら弾幕となって、四方八方から女王へと迫る。

 

【オールアタック】

 

 力づくで呪縛を引き千切った女王が、黒と緋の剣を構え――刹那の内に振り切っていた。

 

 二剣から放たれた破壊の衝撃波は、ドーナツ状に周囲を薙ぎ払いながら多数の刃を弾き飛ばし、迫る光を食い止める。

 

 そのまま、四人への攻撃を開始しようとしたところで、既にその場には彼女達の姿は無い。

 

「刀幻鏡」

 

 いつの間にか、弾き飛ばした物とは別の刃の群れが衝撃波を潜り抜け、刃先を女王に向けた状態で滞空していた。

 

「神雷来来」

 

 瞑目したまま、アシェラの両手から放たれた雷は、女王ではなくその周囲にある刃物へ。

 

 空気中を帯電させながら、刃から刃へと瞬く間に拡散――しかしその威力を落とすことなく――全方位から女王に落ちる。

 

 落ちてしばらく間を置いてから、凄まじいまでの落雷の音が響き渡った。

 

 内への魔法の拡散と継続効果をもたらす、攻撃用の結界。

 

 破壊の衝撃波が通り過ぎた後に、素早くその場に移動してきたフェイト。

 

 移動しながらの左手には、雷球。

 

「何かを得るには何かを犠牲にすること……。でも、わたし達が目指すのはその先にある、犠牲の無い理想という可能性。そのために、わたしはわたしの出来る事をする」

 

 心優しき金色の少女は、今だけ躊躇を止める。

 

 ――力を何のために使い、何を護りたいのかを決めたから。

 

 展開する増幅及び加速効果の環状魔法陣が生成されている。

 

「プラズマスマッシャー!」

 

 以前使用していたサンダースマッシャーよりも、遥かに強化された雷光を帯びる砲撃魔法が、アシェラの雷と同様に展開された刃で拡散されながら、女王に対する雷の檻を形成する。

 

「スカーレットニードル」

 

 一人に戻ったルティシアから、十四条の紅の閃光が放たれる。

 

 刃物の合間を縫うように、閃光は二重の雷を堪える女王の身体に突き刺さるも、そこから血が噴き出すようなことは無かった。

 

 女王の持つ闇の闘気がそれだけ強いのか、今までの攻撃でも目立つ外傷は無い。

 

 “目立つ”ものは。

 

 小さな傷は書の再生機能ですぐに塞がってしまうが、女王の闘気を貫いた上で、四人の攻撃は確かに届いていた。

 

 そして、真上からは膨れ上がった桜色の光球がその時を待っていた。

 

「撃ち抜いて!」

 

《divine buster》

 

「ディバイィーン……バスタアァァアアッ!」

 

 長いチャージを終えて、今までのそれよりも明度を増した桜色の光の奔流。

 

 雷の檻を形成中の刀幻鏡に触れると、桜色に輝く美しき光のドームを作り上げ、その中を一色に染め上げた。

 

【デュアルスペル リフラックス ポップシールド】

 

 剣を頭上で十字に組み、圧され少し姿勢を崩した状態ではあるが、女王は早口で二種の魔法を唱え上げていた。

 

 攻撃魔法と物理攻撃の威力を削ぐ盾の魔法が、女王の身体を覆うことで直撃から身を守っていた。

 

「レイジングハート、フレイム!」

 

《flame form set up》

 

 砲撃を続けているなのはの身体を、レイジングハートから飛び立つ炎色の鳥が取り巻く。

 

 やがてその炎が取り除かれると、鎧やバリアジャケットの大部分に、髪を結んでいたリボンさえ消え去り……赤い薄手の衣装姿のなのはが現れる。

 

 防御を捨て……バリアジャケットに回していた魔力さえも最低限にして、全てを攻撃に回す。攻撃一辺倒となった、聖なる火のフォーム。

 

「ルシフェリオンバスタアァァッ!」

 

 桜色から徐々に赤味が増し、威力も迸る奔流の太ささえも、従来のディバインバスターを大きく引き離す一撃。

 

 フェイトに放った時のスターライトブレイカーも優に超える深紅の砲撃は、刀幻鏡の刀を吹き飛ばし、女王のバリアさえもあっさり砕いて着弾する。

 

 巻き起こる爆炎と爆風、舞い上がるのは大地を構成していた物質。

 

 発生した凄まじい爆音と震動に、立ち上りたなびく赤い魔力煙は、シャリの方に向かっていたクロノ達を振り向かせ、彼らの中の常識ラインを破壊するのに充分以上の効果を示した。

 

《it’s a direct hit》

 

 肩で大きく息をする主の少女に、レイジングハートは今の一撃が直撃したことを知らせる。

 

「や……やりすぎちゃった?」

 

 拠点で行ったトレーニング――仮想ではあるが――より大きな結果に、なのははそっと大事な相棒に訊ねてみる。

 

《don’t worry》

 

「良かった」

 

 大丈夫そうな答えに、なのははホッと安堵の息を漏らした。

 

【テレポート】

 

《master!》

 

 レイジングハートの警告は一瞬遅く、なのはの隙を突いて女王が目の前に転移してくる。

 

 身に付けていた胸甲は砕け、まだ炎が燻っていた。

 

「――あ……っ!?」

 

 構えられている、女王の二剣――。

 

 そこに間一髪で飛び込んできたのは……。

 

 数秒前――。

 

 視界を爆煙で遮られていたため、気配で女王を探っていたルティシア。

 

 聖衣を外し、左手で虚空から取り出していたのは、白いガス状の物が詰まった三つの小瓶。

 

 元々女王に向けて使うつもりだったそれを、頭上後方の転移先へと、振り向くと同時に素早く投げ放つ。

 

「奏でて、ミスト!」

 

 そのまま、小瓶と同様に虚空から引き抜いた愛刀の氷雨で、三つまとめて切り裂いた。

 

 裂かれた小瓶からは光が溢れ、一つに重なる。

 

 霧状の特殊な物質であるそれは、拠点でも僅かにしか精製できないが、直線運動を加えることで高密度の物質エネルギー体を生み出す。

 

 三体の力を一つにまとめた、合体召喚。

 

 頭頂部には鋭く長い刃を持ち、長い胴体部には細長い羽が生えた、一刀獣と呼ばれる召喚獣。

 

 十メートル近い体躯にも関わらず、白い尾を引く光となって女王へと突進していった。

 

 その速度から繰り出された一撃は、今まさになのはを斬ろうとした女王を中断させ、逃げるための僅かな時間を稼ぐ。

 

「ゴールド!」

 

《gold form set up》

 

 元の白いバリアジャケット姿に、髪を結ぶリボンも戻ってくる。

 

 ただ、その後ろ腰からは白い尻尾が生えており、バリアジャケット共々黒い虎縞模様が描かれていた。

 

 このフォームの両肩にも肩当てがあるが、エアフォームの緩やかな丸い形と違って、爪を思わせる突起の付いた鋭角的な形であった。

 

 攻撃のフレイムとは違って速さを重視しているゴールドは、高速移動魔法を使うまでもなくそれに劣らぬ速さで、白き虎は女王から距離を離していく。

 

【ソニックブロウ】

 

 多少バランスを崩したものの、女王は左右から二連撃ずつ――高速の四連撃が一刀獣を一瞬で斬り刻み霧散させてしまう。

 

「始まりの光よ、闇を祓え! 〈ディヴァインコロナ〉!」

 

 後ろにやってきたなのはを庇いながら、ルティシアの前には三重の魔法陣。そこから太陽のごとき大光球を放つ。

 

「ミラージュ……バスター!」

 

 妹の分身を真似して、ゴールドフォームに高速移動魔法も組み合わせての、高速砲撃魔法。

 

 それは、かつて時の庭園の入り口で、ルティシアが見せた光景を思い起こさせる。

 

 レイジングハートを構えたなのはが、至る所に現れては消えを繰り返しながら、砲撃魔法を放つ。

 

 一撃一撃はディバインバスターよりは劣るものの、アクセルシューター並の砲撃による弾幕。

 

【スペルブロック】

 

 向かってくる光の束を前に、女王が高速展開する魔力場が円柱状の障壁となり、向かってくる魔法を次々と無力化してしまう。

 

「ええっ!? 効かない?」

 

 砲撃が女王に触れる事が出来ない状況に、なのはは驚きを隠せない。

 

「……効くからこその、あの防御結界なのでしょう。おそらく、対魔法の切り札ではないでしょうか? あれの使用中は足を止めるみたいですが、近付いた所であの剣技で対応するでしょうしね」

 

 使用している術式が異なる自分となのはの魔法が無効化されている事から、ルティシアは魔力素か魔法そのものを無力化する結界の一種と推測した。

 

「えと、じゃあどうするの?」

 

 なのはの問いに答える前に、ルティシアは上空の女王を基点に二等辺三角形を描く位置にいるフェイトと、足止め目的で魔法攻撃を乱射しながら彼女の横に移動して何かを話しているアシェラに視線を向けた。

 

 説明を受け、頷いたフェイトがバルディッシュを構えている。

 

 フェイトやアシェラと、ルティシアの視線が重なった。

 

「……あくまでも、「魔法」攻撃に対してですから。それ以外で仕掛けます。姉さんも先程ので疲れているかもしれませんが、もう少しだけ魔法攻撃をお願いします」

 

「うん」

 

 魔法を無効にするというのであれば、取れる手段は自然と限られてくる。

 

 ソルベンジュを警戒して近接戦を避けるのであれば、仕掛けるのは魔法を用いない遠隔攻撃。

 

 すなわち……魔素を使用しない自然そのものの力か、闘気法。

 

 氷雨の刃先を横に倒すと、寝かした刀身の背に左の手のひらを添える。

 

 軽く息を吸い込み、精神を集中させる。

 

 ネックレスからは黄金の輝きが飛び出し、ルティシアの身を覆っていく。

 

 それは、乙女座の黄金聖衣。

 

「ファイアーバード……」

 

 竜の吐息は口から吐くだけではない。それが一番手軽な方法ではあるが、それを他の手段を用いて扱える者も存在する。

 

 基本的な四肢を使用する他にも、溜めて全身から放射したりなど。

 

 ルティシアも自身に流れる火竜の力を――本国における姉が指導していた修行の際に――イメージしやすかった鳥の形にして扱える様にしていた。

 

 何らかの理由で魔法が使用できず、口からの吐息も出来ない状況を想定しての修行。

 

 しかし、それは表向きの理由で……。

 

 それは人社会での勉強を終えて帰還後、竜種によっては人の姿で吐息を吐くことを嫌がる者が出たことに端を発した。

 

 そのため、その者達に配慮した理由を考え追加された修行であるという裏事情は、セイティグの名を持つ姉妹といえども、当事者より下の妹にいくにつれ伝えられていなかった。

 

 閑話休題。

 

 ルティシアの周りに現れたいくつもの小さな種火は、いつも使用する通りに翼長三十センチ程の深紅の炎の鳥に変わっていく。

 

 しかし、今回は違う。

 

Ω(オーム)……!」

 

 炎の鳥達が次々と重なりあって、一羽の黄金に輝く……一刀獣に勝るとも劣らぬ大きさの炎の鳥へと――。

 

「天魔降伏アナザーフェニックス!」

 

 力強く一声鳴くと、大きく羽ばたき……黄金の闘気を宿した炎の鳥が、一条の光となって飛び立つ。

 

「ふふふ。スペルブロックは状況が合わされば確かに鉄壁でしょう。本来の貴女の腕ならば、その状態を維持しながらの攻撃も出来るはず。しかし、“貴方達”がそれを行えるのを待つ程、このラエシアは人……竜が良くありません。悪しからず」

 

 片手で聖光の魔法を連射していたアシェラはそれを維持しつつ、残る片手で手早く何かの印を切る。

 

「これは素早い相手には向かないため実戦的ではありませんが、今の貴方は良い的です」

 

 アシェラの指が動く度に、なのは達の攻撃で今までのような即再生とはいかない女王の身体に、その指の動きの通りに細かい切り傷が刻まれていく。

 

 本来は空間ごと物質を切り裂く技ではあるが、今回は別の目的のため切断よりは切ることを重視した力配分をしている。

 

 こちらに対しては再生機能が即座に効果を発揮しているものの、作戦通りに痛みを与え、かつ煩わしいそれは女王の黄金の鳥への対処を阻害し、直撃へのアシストとなる。

 

 黄金の炎が燃え盛る中、スペルブロックが消え去ったことでなのはの砲撃が次々と命中し、爆音を轟かせる。

 

 慣れない激しい動きによる疲れでなのはの砲撃が止むと、そのタイミングが分かっていたかのように、詠唱するフェイトの周りに浮かんでいるのはプラズマランサーの発射スフィア。

 

 その数――七十六。

 

「――バルエル・ザルエル・ブラウゼル。プラズマランサー・ファランクスシフト」

 

 スフィアからは、合図の時を待つ雷光が生まれている。

 

「撃ち……砕け! ファイア!!」

 

 詠唱の終わりと、発射のトリガーとなるキーワードと共に振り下ろされるバルディッシュ。

 

 六秒間、スフィアからは毎秒七発――合計3192発にも及ぶ稲妻の矢が、文字通りの弾幕となって断続的な爆発と重低音を響かせる。

 

「――はぁ……はぁ……」

 

 必要となる膨大な魔力に対してはエンジェルシードの補助を最大限に活用しているとはいえ、それで負担が完全にゼロになる……というわけにはいかない。

 

 大なり小なり消費する魔力は――例え魔力の実で回復させたとしても――それを扱うことによる疲労感はすぐには拭えなかいからだ。

 

「バルディッシュ……、アシェラ……、女王は?」

 

《target lost, sir》

 

 荒い呼吸を整えながら二人に問うフェイトは、撃った後もその場に残っているスフィアを集めて、その魔力を用いて雷の槍を作り上げる。

 

 未だ噴煙が晴れぬ状況の中、相棒からは女王の反応を見失ったことを伝えられる。

 

 アシェラからは、ただ一言あるのみだった。

 

 来ます、と。

 

 ――直後。

 

【――――――ッ!!】

 

 怨念そのものをぶつけてくるような、声無き叫び声。

 

 突如として起きた、嵐のごとき暴風が残る炎を、噴煙を吹き散らす。

 

 その余波は、離れた位置にいるなのは達四人はもちろんのこと、女王からはかなりの距離を取っていたシャリや、その相手をしているクロノ達の衣裳や髪を大きくはためかせた。

 

「アハハ、結局一番悪足掻きしてるのは誰なんだろうね? おっと、危ない」

 

 クロノやアルフ、アリシア達からの攻撃を、夜天の書を持ったシャリは時折笑いながら、のらりくらりと避け続けていた。

 

 もっとも、クロノ達を見て笑っているのでは無く、彼の視線はただ一点――女王にしか向けられていない。

 

 現れた時のような道化染みたやりとりと共に見せた悪意らしき物も、素らしき口調のそれ以外はまるで既に役目は終わったと言わんばかりに感じられなくなっており、それがクロノ達の調子を狂わせていた。

 

 しかし、向けられる魔法や拳を見ることもなく回避し続ける点や、ユーノのバインドが効果を発揮すること無く霧散すること、何よりもシャリからは一回も仕掛けてくる気配がないことから、無駄と判断したクロノ達からの攻撃は自然と減少していく。

 

「君達もゆっくり見物していれば良いのに。光と闇が奏でるワルツと、その演奏の果てを」

 

 

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