魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その75 未来(あす)にかける華

 

 

八月二十八日(日)

 

 賑やかに鳴いていた蝉の声も少なくなり、暑さもやや和らぎつつあるものの、もう暫く残暑も続くだろうし秋の訪れにはまだまだ遠い。

 

 夏の始め頃は明るかった時間帯も、日を追うごとに陽が沈むのは早くなっていく。

 

 毎年恒例の夏祭り。特に二日目の今日は目玉である祭りの華、花火大会が行われるとあって、開催場所に程近い埠頭(ふとう)は一時間以上前だというのに多くの人で賑わっていた。

 

 商店街や街の人々が一体となって開催されるだけに、自然と力の入れようも窺えるし熱も入りやすい。

 

 海鳴市外からも、この祭りを見るために大勢訪れる程である。

 

 楽しそうな人々があちこちで見かけられるその一角。

 

「みんな遅いわねー」

 

「アリサちゃん、約束の時間までまだあるから……」

 

 浴衣姿の少女が二人と、女性が一人。

 

 赤系統のアリサと青系統のすずか、すずか付きのメイドであるファリンは紫系統の浴衣であった。

 

 薄目の色の浴衣を、濃色の帯で止めている。

 

 約束の時間はまだ来ていないというのにイライラしながら待つ親友に、すずかは苦笑を浮かべている。

 

「今年の夏はみんなで遊ぼうと思ったのに、なのはもルティシアも、フェイト、アリシア、はやてまで居ない事が多かったじゃない!」

 

「き、きっとみんな忙しかったんだよ。だから、落ち着いて……」

 

 地団駄を踏みながら怒り心頭といったアリサを、手慣れた手付きで宥めるすずか。

 

 例年はみんなで集まっていた自由研究なども、今年はなのは達が用事のため参加しておらず、自然と二人で遊ぶ時間が多かったため、その間に抑えスキルがどんどん上がっていった。

 

「一番腹が立つのはルティシアよ! 『学校で会うから良いのでは? 会う機会の減る夏休みは返信します』と言っておいて、メール送っても返信無いし!」

 

「また電源切ったまま忘れてるんじゃ……そういえば、アリサちゃん。鮫島さんは?」

 

 話題を変える意味も兼ねて、すずかはバニングス家で執事をしている初老の男性の事を訊ねる。

 

「後でどうしてやろうかしら……え、鮫島? 家でパパ達と見るみたい。後で一緒に来るかも知れないけど」

 

 怪しい笑みを浮かべていたアリサだが、何とか普段の彼女に戻ってきた事にホッと一息つくすずかであった。

 

 その時、それらのやりとりをハラハラしながら見守っていたファリンが、何かに気が付いて二人に声をかけた。

 

「あ、フェイトちゃんとアリシアちゃん達ですー!」

 

 二人がファリンの示した方向を見れば、こちらを見付けて元気に手を振るアリシアと、控え目に手を振るフェイト、家族らしい三人の女性が歩いてきていた。

 

「アリサー! すずかさんにファリンさん、やっほー!」

 

 一人先に駆け寄ってきたアリシアも当然浴衣姿であり、彼女は空色の浴衣を白地に黄色い花柄入りの帯である。

 

「アリシア、走ると転ぶよ? すずか、アリサ。まだ時間じゃないのに、早いね」

 

 アリシアと違いゆっくりと歩いてきたフェイトは、黒地の浴衣に黄色い帯を合わせていた。浴衣には、襟元から裾までの稲妻状のワンポイント刺繍が入っており、遠目にも目立ちそうだ。

 

 フェイトとアリシアは今日は髪も結んでおらず、アリサも含めて夕陽に照らされた三人の髪は負けず劣らずの輝きを返していた。

 

「あはは、アリサちゃんが待ちきれなくて」

 

「そうなんだ」

 

 すずかから話を聞いているフェイトの横で、アリシアはニヤニヤした笑いをアリサに向けていた。

 

「へ~、そうなんだ? アリサ」

 

「な、何よその顔は!? ちょっと気が向いたから早く来ただけよ!」

 

「ふ~ん……?」

 

「だからその顔はやめなさいって!」

 

 赤くなった顔を誤魔化すように、アリシアの表情を力尽くで変えようと袖を捲り上げかけたところで、フェイト達の家族らしい三人の女性が目に入る。

 

 アリシアと同じ表情を浮かべている橙色の浴衣に赤い帯の女性と、穏和な雰囲気を出しているレモン色の浴衣と濃黄色の帯の女性、先の女性同様に暖かい視線を向けているどこかミステリアスな女性は、濃紫地の浴衣に薄紫の帯姿。

 

 アリサの視線に気が付いたアリシアは、嬉しそうに三人の方を振り返った。

 

「お母さんのプレシアと、姉のリニスと妹のアルフだよ!」

 

「プレシアよ。いつも二人と仲良くしてくれて、ありがとう。私がいつも忙しくして家に居ない事が多いから、お友達の皆には本当に感謝してるわ」

 

 「あ、姉……?」「妹!?」と、困惑とショックを受けている二人を放置して、プレシアがアリサ達と挨拶を交わしていた。

 

 家族の設定をきちんと聞いていたプレシアはともかく、普段は余り見ることが出来ないリニスの困った顔見たさに、アリシアが考えた上に秘密にされていた本人は、どうするかを必死で考えているようだった。

 

 そのリニスからの視線と、アリシアからの妹扱いにショックを受けているアルフの視線を受けたフェイトは……。

 

「うん、間違ってはいないかな?」

 

 そう言って、それを聞いたリニス達の表情は更に強ばっていく。

 

 しかし、すぐにリニスは元の穏和な表情を取り戻し、コホンと小さく咳払い。

 

「プレシアとはずっと同じ研究室に勤めていて、家の方でも一緒に暮らしているリニスです。その関係で、アリシアやフェイト、アルフとも小さい頃からの付き合いですから、今では姉と呼ばれるようになってしまいました。よろしくお願いしますね」

 

 解釈を付け加えながらもアリシアの設定は損なわず、リニスはアリサ達ににっこりと微笑んだ。

 

 一瞬、アリシアに対して勝ち誇った視線を向けていたが。

 

「さすがはリニス……。まぁ、ちょっとは見れたから、良しとしようかな」

 

「ん? 何か言った、アリシア?」

 

「ううん。何でもないよ、アリサ!」

 

 小声で漏らした呟きに反応したアリサに、アリシアは首を横に振って誤魔化した。

 

「え~……えっと、フェイトの妹のアルフ……って、これ無理だって!」

 

 一応言ってはみるものの、余りにも外見的な関係で設定が苦しい。

 

 それを聞いて爆笑しているアリシアを、怒りで顔を赤く染めたアルフが追いかけ始める。

 

「アルフ」

 

「アリシア」

 

 すぐにフェイトとリニスに名を呼ばれて足を止める。

 

「妹云々は別にしても、家族同然ってことね」

 

「うん、そうだね」

 

 注意されている二人を見て、アリサとすずかは並んで笑っていた。

 

「それにしても、この浴衣ってやっぱり何か落ち着かないね。走りにくいしさ」

 

 アルフが足元を気にしながら言うと、アリサがふと疑問に思ったことを口にする。

 

「そう言えば、フェイト達って着付けの仕方を知ってたのかしら?」

 

「あ、どうなのかな? でも、フェイトちゃん達がお母さんは研究者って言っていたから、着付けの事も知っていたのかも?」

 

「私も前に、ノエルねえ様に何度も教えてもらうまではさっぱりでしたよ~」

 

 ファリンの姉にして、すずかの姉である忍の専属メイド(兼メイド長)のノエルが、なかなか覚えない妹に嘆いていたのは彼女とその主人だけのヒミツである。

 

「三人共、どうかしたの?」

 

 説教を終えたらしいフェイトと、屋台の方を窺いながらアルフがやって来る。

 

 アリサが先程の疑問を口にすると、フェイトは「みんな知らなかった」と隠すこと無く答えを述べる。

 

「リン……隣に住んでいる人達がそういう事に詳しくて、色々と教えてくれたんだ」

 

「あたしらと同じ外国人の筈何だけどね~、やたらと詳しいんだ」

 

 実際は外国どころでは無く、異世界人である。

 

「もうちょっとしたら来ると思う。ぎりぎりまで仕事をするそうだから」

 

「本当は一緒に来る筈だったんだけどさ、プレシアやリニスも今日は一緒だから先に楽しんできてってさ」

 

 リニスはともかく、プレシアはまだ(軽くではあるが)要監視人物のため、外出などでは管理局員の許可が必要になる。

 

 ただ今回は随行するというリンディやクロノ、グレアム達からの許可を得ている。

 

 もっとも、プレシアの監視はもう必要無いと判断している提督の計らいで、現在の状況が出来上がっていた。

 

「あ、じゃあまだ時間はあるから、せっかくだから楽しんでこないと。ね、アリサちゃん?」

 

「そうね。行ってきなさいよ、あたし達はここにいるから」

 

「……うん。じゃあ、また後で。行こう、アルフ」

 

「あたしはあんまりこの格好で歩きたく無いんだけどねぇ」

 

 すずかやアリサに促され、一拍ほど間を置いてから頷いたフェイトは、アルフを伴い家族と共に祭りの人混みの中へと消えていく。

 

「アリシアもそうだけど、フェイトも嬉しそうだったわね」

 

「うんうん。学校とか、いつもとは雰囲気が全く違ったよね」

 

 どこか大人びたクールな姿ではなく、喜びが抑えられないという印象を二人は受けていた。

 

 多忙で滅多に揃わない家族が、今は一緒だからかなと当たらずとも遠からずな予想を二人がしていると、同時に携帯が振動を始める。

 

「誰よ……って、なのはからじゃない……って、ぶっ!?」

 

「えっ!? これ……え~?」

 

 二人が携帯を開いてなのはからのメールを確認した直後、アリサは吹き出しすずかは驚愕の声を上げた。

 

 宛先には他にフェイトやアリシア、はやてにも送られている。

 

「え、どうかされたのですか?」

 

 二人を見て戸惑いながらもファリンが訊ねると、爆笑しているアリサと反応に困った様子のすずかから、同時に開いた携帯を見せられる。

 

 そこにあるのは一枚の画像だった。

 

 顔は見えないが、髪の色と同じ濃紺の浴衣を着た少女が、転んでいる姿が写されている。

 

「え、これってまさか……ルティシアちゃんですか?」

 

 春頃にみんなで泊まった温泉旅館の時、卓球ですずかを相手に抜群の運動神経を見せた少女の転倒画像。

 

「あはははは! な……何やってんのよ、ルティシア……。だ、ダメ。ツボに、お腹が、あははは!?」

 

「あ、アリサちゃん!? 駄目だよ~、笑っちゃ……。そういえば、ルティシアちゃんはあの時も浴衣で歩きにくそうにしていたような」

 

 

 日頃、弱味を全く見せない友人のその光景が何故か笑いのツボにはまったらしいアリサはそっとしておいて、すずかは以前の記憶を引き上げた。

 

「いや~、これは良いもの見せてもろたわ。なのはちゃんに感謝して、消えないように保護決定やな」

 

 笑い声こそ上げないものの、明らかに楽しんでいる声が近くから聞こえてきた。

 

「あ、はやてちゃん達です!」

 

 ルティシアの怪我などを訊ねるメールを送っていたすずかよりも当然早く、ファリンが向かってくる四人と一匹を発見する。

 

 蒼い犬(本当は狼)のザフィーラを先頭に、リインフォースに抱かれたまま良い顔で携帯をいじるはやては、白地の浴衣に赤い帯姿をしていた。

 

 そのリインフォースはモノトーンタイプの浴衣に黒い帯を、その左隣に立つシグナムは濃い赤紫の浴衣に薄い紫の帯でそれぞれに着こなしていた。

 

 後ろにいるヴィータは、赤地にのろいうさぎというキャラのイラストがプリントされた浴衣と同じ柄の帯をしており、通り道の屋台で買ったらしい綿あめをかじっている。

 

 にこやかに三人に手を振っているシャマルは薄緑色の浴衣に濃い緑色の帯だが、一人だけ左前になっていた。

 

(注)左前=自分から見て左側が手前(内側)になる着物の着方のこと。

 

洋服の場合は男性が右前、女性が左前であるが、和服の場合は亡くなった方に着せる場合が左前となる。

 

よって、浴衣は(普通の場合)全員が右前(右側が手前)となる。

 

 閑話休題。

 

「ええっ!? 恥ずかしい……」

 

「シャマル、主はやてとリインフォースが着方について何度も言っていたではないか」

 

 すずかにそれとなく伝えられたシャマルは赤面し、シグナムは道中でも指摘しただろう? と呆れていた。

 

「はやて。最近元気が無いって聞いたけど、大丈夫なの?」

 

 ようやく笑いが止まったアリサが、しかし脇腹を押さえながらはやてに話しかける。

 

「うん。心配してくれてありがとうな、アリサちゃん。もう、大丈夫や……たぶん」

 

「たぶんって……」

 

 変わらぬ元気なやりとりをする中で、寂しさを垣間見せたはやてに、アリサとすずかは気が付くも言葉に迷う。

 

「あのな、二人には言うけど、みんないるのに何かが足りない気がするんよ」

 

 はやての大事な家族が全員――四人の騎士達にリインフォースまで揃って、再び暮らせるようになったのは本当に幸せである。

 

 書の影響が無くなったことで麻痺の進行も止まり、担当医師の石田女医の見立てでは引く気配も見せている。

 

 急な改善に戸惑いつつも、「家族が増えたはやてちゃんの、生きようとする気持ちが打ち勝ったのかな?」と診断をした彼女は嬉しそうに話していた。

 

 これからは、自分で歩けるようにするためのリハビリが始まる。

 

 魔法で治すという意見もあったが、はやては自分の努力で頑張ると決めており、家族のみんなもそれに異を唱えることは無かった。

 

 順風満帆。

 

 だというのに、何故か寂寥感が生まれる。

 

「何かが抜け落ちてるちゅうか、今日のお祭りにもみんなとは別に、誰かと行く約束をしていたような」

 

「不思議な話だが、主はやてと同じものを私も感じている」

 

「私も。前はもうちょっと、賑やかだった気がするのよね」

 

「何か足りねぇんだよな。こう、あたしの横辺りが」

 

 はやての他のメンバーも同じ事を口にして、言葉にこそしないもののリインフォースやザフィーラも同様な感じのようだ。

 

 ヴィータに至っては空いている手で握り拳を作り、それを見つめる視線が物足りなさを物語っていた。

 

 祭りの喧騒が妙に賑やかに感じられる静けさの中で、はやてが大きく手を二度三度と叩いてそれを打ち破る。

 

「ほらほら、みんな明るく明るく! せっかくのお祭りなんやから、楽しまないと!」

 

「って、暗くしたのはあんたでしょうが!」

 

「アリサちゃん、落ち着いて落ち着いて」

 

 つっこむアリサとそれを宥めるすずかに、「いや~、ごめんな?」と笑いながらはやてが謝る。

 

「まだ時間あるよね? グレアムおじさんとその娘さん達も来ているそうやから、ちょっと会うてくるな」

 

 携帯で時間を確認しながら聞くはやてに、アリサとすずかは頷いた。

 

「分かったわ。まだ四十分あるし、あたし達はここにいるから」

 

「行ってらっしゃい、はやてちゃん。あ、フェイトちゃん達も家族で来ているから、もしかしたら途中で出会えるかも?」

 

「それは楽しみやな。じゃあ、ちょっと行ってくる」

 

「はやて~、もうちょっと屋台に行ってきていい?」

 

「ええよ、ちょっとした挨拶だけやから行ってき。シャマルも一緒に行ってあげて。ザフィーラはここで待っててくれる?」

 

「その前に、私はどこかで着直さないと」

 

「そこらで適当に着替えるか、いっそ結界でも張れば良いんじゃねーか?」

 

「馬鹿。この場に何人魔導師がいると思ってるんだ。そんな理由で張ったことを知られれば、騎士の名が傷付く」

 

 先程までのしんみりとした雰囲気からは一転、賑やかなやりとりをしながら分かれて祭りの雑踏に消えていく、八神家の面々。

 

「いつもと同じように振る舞っていたけど、やっぱりどこか無理してるわね、はやて」

 

 三人を護るかのように威風堂々と座っているザフィーラを撫でながら、アリサがしんみりとした口調で話す。

 

「うん……。早く元気になってくれたら良いんだけど」

 

 はやてとの付き合いの長いすずかは、心配そうにはやてが消えた方を見つめている。

 

 それから五分、十分と時は過ぎる。

 

 たまに誰かが寄ってきても、それとなくザフィーラが威圧の視線で追い払い。

 

「あ、アリサちゃんにすずかちゃん! ファリンさんもこんばんはー!」

 

「ザフィーラさ……も居るということは、もうみんな来ているのですね。姿は見えませんが」

 

 ザフィーラだけは事前に気が付いていたようだが、毛並みを触っていた三人の背後から少女二人の声がする。

 

「なのは、ルティ……ぶっ……くっ」

 

「なのはちゃん、ルティシアちゃん!」

 

「こんばんはですー! あ、ノエルねえ様も」

 

 桜色の浴衣と帯に、髪を下ろしたなのはと、必死に笑いを堪えるアリサを不審そうに見つめるルティシアは、ポニーテールはほどかずに濃紺の浴衣に赤い帯姿である。

 

 共に来たノエルは、ファリンと同じ配色の浴衣を着ている。

 

 先程の画像通り。

 

「どうかしたのですか、アリサ? いきなり笑い出すのは失礼ですし、怪しい人に思われますよ」

 

「だ……駄目……話しかけ……思いだし……あははははは!?」

 

「……これ、私は怒って良いのでしょうか?」

 

 涙を浮かべて笑い出すアリサと、それを見て困惑するルティシア。

 

 理由を知るなのはとすずかはその二人の方を見ないようにしていた。

 

「そういえばなのはちゃん。お姉ちゃん達は? 一緒じゃないの?」

 

「忍さんとお兄ちゃん、お父さんとお母さんで別行動になっちゃった。お姉ちゃんは屋台巡りしてくるって」

 

「あ、そうなんだ」

 

 それぞれの仲の良さを知っているため、すずかはそれで納得したようだ。

 

「アリサは一体どうしたのでしょうか。すずかは何か理由を知りませんか?」

 

 アリサの状態に匙を投げたルティシアに聞かれ、正直に理由を言うべきか悩むすずか。

 

 ふとなのはを見れば、明後日の方向に顔を逸らされる。

 

「そうだ、ルティシアちゃん。携帯電話きちんと持ってる? アリサちゃんが返信が来ないって言ってたけど……」

 

「携帯ですか?」

 

 答える代わりに別の質問をすることにした。

 

 それを聞いて、アリサの笑いがピタリと止まる。

 

「姉さん、私は携帯どこに置いていましたか?」

 

「ルティちゃん、枕元に起きっぱなしだったような。着信の合図とか音も消してるし、目覚まし機能しか使っていないかも」

 

 思い出せず姉に聞けばすぐに返ってくる答え。

 

 それを聞いて、暫し考え……ややあって「そういえば」と呟くルティシア。

 

 背後でアリサが拳を震わせていることに気が付いていない。

 

「あれは携帯電話でしたね。目覚まし時計かと……」

 

「あ・ん・た・はー!!」

 

 両肩をがっちり掴んで揺さぶり始める。

 

「本っ当に協調性とか皆無よね! 何!? また何か休み中に変な知識でも増やして、携帯電話の事を忘れてましたとでも言いたいわけ!?」

 

「確かに、読めない文字で書かれた見知らぬ理論書を何冊も読んで、頭痛は起こしましたが」

 

「あんたはもう、訳の分からない事を言って! 夏休みは返信するっていう話は!?」

 

「確かにそんな話はしましたね。すみません、言われるまで素で忘れていました」

 

「ムキーー!」

 

「アリサちゃん、落ち着いてー!?」

 

「ルティちゃんも火に油を注いじゃ駄目!?」

 

 姦しく騒ぐ四人の少女達。

 

 止めなくて良いのかと言うファリンに、お友達同士の交流だから大丈夫よとノエルが返し、ザフィーラも我関せずの姿勢を示していた。

 

 ついと、ザフィーラが顔を向ける。

 

「あらあら、賑やかね」

 

「なのはにルティシア、こんばんは」

 

「なのは、ルティ」

 

 声をかけられてアリサが手を止め、一同がそちらを見るとリンディとユーノ、そしてフェイトの姿もあった。

 

「リンディさん、ユーノ君、フェイトちゃん!」

 

「みんな浴衣なのですね」

 

「あはは……僕はクロノの巻き添えだけどね」

 

 当然のようにリンディと、疲れた様子を見せるユーノも浴衣を身に付けていた。

 

 リンディは髪の色に合わせたエメラルドグリーンの浴衣と黒い帯を、ユーノは黄緑色の浴衣と茶色の帯をしていた。

 

「なのは、身体はもう大丈夫?」

 

 先週の闘いの後、なのはとフェイトはしばらく動く事が出来なかった。

 

「うん! もう大丈夫だよ、ユーノ君」

 

「二人共、止められていたのに途中から出力を上げていたからです。フルドライブではありませんが、それでも負担が大きかったようです。本来は年単位で慣らすものですから」

 

 クロスマッシャーや、翼による防御、最後の砲撃時など、他にもあるそうだが要所要所で解放していたらしい。

 

 問題は、周りが理解者ばかりのフェイトと違って、急にハードな運動をしたせいで全身筋肉痛という、苦しい言い訳になってしまったなのはであった。

 

「あ、あはは……ユーノ君、クロノ君やエイミィさんは? 管理局から一緒に来たんだよね?」

 

 フェイトが、『よくお世話になるお隣の人』をアリサとすずか達に紹介している間、話を誤魔化すようになのははここにいない二人の姿を探す。

 

「ここに来る途中でね、マリィさんとエスロさん……アースラに残ってる友達へのお土産に、射的だっけ? をエイミィさんが始めたんだ。なかなか当たらないのを横に居た人がフォローしてくれたんだけど……」

 

 

「それがたまたま君達のお姉さんで、エイミィと何故か意気投合して、一緒に屋台巡りしてるよ」

 

 疲れきった声の少年――クロノがいつの間にか近くまで来ていた。

 

「あ、クロノ君」

 

「みゅー姉さんも満喫していますね」

 

 クロノは黒い浴衣に青い帯を締めていたが、声と同じく疲れた表情を浮かべていた。

 

「それと、その人が君らしき人物の転倒画像を見せてくれたが」

 

「は?」

 

「あ……」

 

 訝しげな声を上げるルティシアと、小さく声を漏らしたなのは。

 

「姉さん、まさか……」

 

「と……撮ったのはお姉ちゃんだよ!? お茶目で回したのは私だけど……」

 

「姉さんは茶目では無く、青目ですが」

 

「そういう意味じゃ無いんだけど……」

 

「やはり、着物型の服や下駄は苦手です。満足に動けません」

 

 もちろん、本国の竜の国には和服や下駄等は無い。

 

 動きにくさに溜め息を吐く少女に、クロノが真面目さを取り戻して話しかける。

 

「ルティシア。自分の事を話したそうだな?」

 

「ユーノから聞いたのですね。アシェラから話を聞いて、ようやく話す決心がつきました……逆に驚かされましたが」

 

「あっさりと、既に知っていたと言われたらね……」

 

 週の半ば、アシェラに呼ばれて海鳴公園に赴いたルティシア。

 

 いつもの冥魔王としての姿で現れた彼女からは、消息を絶っている三人の姉達の行方や自分達の目的について聞かされた。

 

 冥魔の中でも特に強力な者達が作り出した空間で、(おそらくは今も)他の世界の仲間達と共に戦っていること。

 

 一部の魔族が、冥魔を巻き込む形で罠を仕掛けていたこと。

 

 負傷し、魔族の仕掛けた罠を見抜けず発動させてしまった自分を助けて、姉達がその中にいること。

 

 冥界の束縛を抜け出したいメイオルティスに取引を持ちかけられ、協力していること。

 

 それぞれの守護世界からの救援は、その世界の危機を招くためにあり得ず、自分達に匹敵するか、強いと思える存在を探しながら、自分達の戦力を集めていること。

 

 今は探しながら、育成も行っていることを語った。

 

 戦力が集まった所で“あの時”に戻り、目的を果たす、と。

 

「それを、何故今になって話すのですか?」

 

「うふふ。もちろん、貴女やあの少年少女達を取り込むつもりだからですよ。この世界は冥魔こそいませんが、魔族の干渉世界となっています。それの駆除と引き換えに、こちらへの協力を要請しようかと」

 

 表情を変えることなく、冷徹にアシェラは話す。

 

 断れば、は口にしない。

 

「巻き込むのですか、ラエ姉様」

 

 それを聞いたアシェラの顔に悲しみの色が浮かぶが、すぐに冷静な表情に戻る。

 

「貴女の姉の一人は亡くなりました。その証拠に、本国のデータからも消えています。あの時……メルと契約を果たした時に。共に歩む道を塞いででも、三人を助けられればそれで良い。最近まで、このやり方に迷っていなかったと言えば嘘になりますが、私が進む道はもう……定まりました」

 

 光だけでは闇を退けて光を助けられない。ならば、更なる闇を以て闇を退け光を助ける。

 

 例え、自分がどう思われようと。

 

 どんな烙印を押されようと。

 

 その覚悟を持って、目的の為に進む。

 

「――アシェラから彼女の覚悟の話を聞いて、私も打ち明けようと思いました。先に進むために」

 

「あの連中の話は疲れるだけだから詳しくは聞かないが、なのはの家族に知られていたというのは?」

 

「簡単です。私がこちらに来てしばらくしてから、隊長……上司の人が挨拶に来ていたそうです」

 

「は?」

 

 クロノが珍しく間の抜けた声を出し、ルティシアも大きく溜め息を吐いた。

 

「翠屋の方に訪ねてきたってお父さん達が言ってたの。自分達の事を詳細に説明して、出来れば協力してほしいって頭を下げられたって」

 

「竜という、この世界では怪物である事を話して、恐怖されるだろうかと戦々恐々で打ち明けたら、『あれ、知ってるよ?』と。いえ、それを私が聞いていませんから……。瞳や髪の色が変わっているのは、ふとしたことで他人に怪我をさせたり物を壊さないように封印しているからとか、苦手なウソを頑張ったら実はすぐに知られていたとか……」

 

 未知なる存在を人は恐れやすい。

 

 それを姉から聞いていたために、話す覚悟を決めたとはいえ、恐怖されることにはまだ不慣れなルティシアは、話す直前まで怖がっていた。

 

 それが……。

 

 一緒に士朗からの話を聞いていたなのはが補足する横で、みるみる暗い表情になったルティシアがブツブツと嘆き始める。

 

「ボクも聞いていたけど、呆然としたルティシアが真っ白に燃え尽きてたよ」

 

「だろうな……」

 

 それを見たユーノがクロノに話したことは、ルティシアが高町家のみんなに素性を話して受け入れられたことだけだった。

 

「それを見て、なのはも話すつもりになったと」

 

「う、うん……私の場合はそういう事は無いと思うけど、黙っておくのが怖くなっちゃって……」

 

 説明に慣れているクロノやリンディ達に、魔法の事や魔導師の事を話しても良いかと確認を取り、それなら……とこの祭りの日が選ばれた。

 

「説明役は僕も母さんも問題ないが、きちんと君自身の言葉でも伝えてほしい」

 

「うん、ありがとうクロノ君」

 

 クロノは、確認する時間を稼ぐために少女達二人と談笑を続けるリンディに、念話で合図を送る。

 

「花火大会が終わった後に説明する……と」

 

「あ、みんないるいる!」

 

 クロノがそう締め括ったところで、家族と別れたアリシアが戻ってきた。

 

 気が付けば、花火開始の十分前……集合時間となっていた。

 

 人山も花火の開始を待って、みんな海の方を見つめながらその時を待っていた。

 

「フェイトとアリシアになのはにルティシア、あたしとすずか。はやては?」

 

 メンバーを見渡して点呼を取るアリサだが、一人まだ居なかった。

 

 少女達に巻き込まれまいとクロノとユーノは離れた所に立っており、主を迎えに行ったのかザフィーラの姿も消えていた。

 

「はやてちゃん、どうしたのかな?」

 

「団体行動でしょうし大丈夫とは思いますが」

 

「人が多いから、進むのに手間取っているのかもしれない」

 

 結界も感じないし、あの戦力なら滅多なことは無いだろうと思う三人。

 

 それでも、念話で話しかけてみようとした時――

 

     ※ ※ ※

 

 

「――ッ!? ……ここは?」

 

「気が付いたかい、『分かたれしもの』?」

 

 ごく小規模で特異的な――円卓の騎士達が仲間達だけで集まる時に使う――結界の中。

 

 目の前に居るのはクスクスと笑う、黒ずくめの少年。

 

「虚無の子? 何故、お前が……それに、私は虚無の剣で存在ごと消え去った筈」

 

 自分の手……左の黒鎧の手と、右の女性の手を呆然と見つめる、闇の円卓の騎士『分かたれしもの』メイア。

 

「僕の事を忘れたの? 僕は叶わなかった願いを叶える者。どんな結果をもたらそうと、それが僕を動かす幾千万の意思さ」

 

 芝居がかった演技で一礼する、『虚無の子』シャリ。

 

「君は願ったんだよ。あの時に」

 

「なるほど……な。だが、代償は代償。私の存在は消えている」

 

 自嘲気味にメイアが呟く。

 

「おかえりメイア。それがちょっとおかしな事になってるんだよね、これが」

 

 この場に現れたのは黒髪に黒目の女性。右手に持つのは魔王の剣。

 

「フロンティア様!? 無事復帰出来たようで、何よりです」

 

 臣下の礼を取る騎士に、主はヒラヒラと手を振って見せる。

 

「それは良いから。でも、頑張ってくれてありがとう。問題は、気が付いてる?」

 

「……。フロンティア様、何故私のことを……」

 

 認識出来ているのですか? と皆まで言わせず、フロンティアが途中で遮る。

 

「うん、把握してるね。でも、理由は私にも分からない。魔界に帰って調べてみないとね。私よりも頭が良くて、こういうことに詳しい人も居るから」

 

 言いたいことを理解している事に満足そうに頷くが、フロンティアにも状況は把握しきれていないようだ。

 

 そして、王の目で真っ直ぐに騎士を見据える。

 

「時間が無いから簡潔に聞くけど。メイア、あなたはどうしたい?」

 

「どう……とは?」

 

「私の騎士として、魔界に帰るか。それとも、この地に残るか」

 

 選択肢を与える。

 

「魔界への転移にも力が要る」

 

 四人目の人物は、青白い肌と額に第三の目を持つ男。円卓の騎士筆頭であるヴァシュタール。

 

「ヴァシュタール殿!? 冥魔達と戦っていた筈だが……」

 

 特攻していたメイアには、自分以外がどうなったのかは分からない。

 

 フロンティアがこの場に居ることから、はやて達の作戦が成功したのだろうとは思うが、その程度である。

 

「不穏分子の始末を兼ねたフロンティアを取り戻す小芝居と、メイオルティスの奴にかなり力を奪われてしまったがな。おかげで我の力は残り少ない。一回分のテレポート程度だ」

 

「私はずっと閉じ込められてたから、この世界の座標は分からない。それに、この付近の次元世界に誰かが結界を張ってる。この状況で確実に行き来出来るのはヴァシュタールだけで、私は魔界のみんなの所に帰らないといけない」

 

「あ、僕はやることがあるからそこまで協力しないからね」

 

「ということだから、選びなさい。戻るか、残るか」

 

 

 一回だけの選択。

 

「それは、悩む必要もありますまい。虚無の剣の効果は不完全だったかもしれませんが、人間達からは私の記憶は消えているでしょう。ならば、残る必要は――」

 

「残ってるなら、ここに居るんやな?」

 

「……っ!?」

 

 この結界は、魔族の中でも円卓の騎士の関係者しか入れない。

 

 それなのに……。

 

 四人を囲う様に立つ騎士甲冑を纏った五人の人影。先頭に立つのは、背に三対六枚の羽を生やし、剣十字の杖を持つ小さな王。

 

「何故、ここに入れる? それに、何故私の記憶がある? 八神はやて、そして騎士達よ」

 

「わたし達は大事な家族の一人を探しに来ただけや。理由はそれしか思い当たらんけど、それで充分やろ」

 

 メイアの問いに、はやてが迷い無くキッパリと答えた。

 

「何か忘れてる気がして、ずっと気になってイライラしてたんだ。場合によってはまとめてぶっ潰して、発散させてもらう」

 

 ヴィータがグラーフアイゼンを突き付けているが、その先端は真っ直ぐメイアを指している。

 

「保険がわりに書への進行ルートをいくつか開いておいたけど、消滅する前に私と繋がっていたから、あの子に力の残滓が残ってしまったみたいね……。あの~はやてちゃん、私は一応味方味方」

 

「あの時はそうやったけど、今もそうとは限らんしな?」

 

 小声で何かを呟いた後、何やら味方をアピールするフロンティアに、はやては冷静に応対していた。

 

 レヴァンティンを構えながら、四人を見つめていたシグナムの目がスッと細められる。

 

「フロンティアと言ったか? 詳しい事情を聞く前に姿を消したと、クロノ執務官やリンディ提督から話を聞いているが?」

 

「話を聞く、説明する、まともに聞き入れられず闘技場送りということがあってね……。それに、私はこう見えても魔王だから、簡単に応じる訳にも……」

 

「ごちゃごちゃと五月蝿い! おいメーア、お前はどうしたいんだ!?」

 

 フロンティアの話をばっさりと斬って捨てると、ヴィータはメイアに向かって苛立たしげに問いかけた。

 

「どう……と言われてもな」

 

「メーアちゃん。あなたがそちら側ということはみんな分かっているわ。それでも、はやてちゃんにとって……私達にとっても家族の一員なのよ?」

 

 戸惑うメイアにシャマルが言葉をかける。

 

 心なし、黒い甲冑である左半身が薄らいだ。

 

「……しかし、私は魔族。本来、人とは相容れない存在。はやて達の所にいたのも、自分の目的のため」

 

「理由はどうあれ、お前のおかげで主はやてが助かったことは事実」

 

「そや。それに、メーアがうちに来ることで何か問題があるというなら、わたしがその責任を取る。メーアが魔族と言うなら、わたしも魔王や!」

 

 ザフィーラの後を継いだはやての言葉に、『いや、それは違う……』と心の中でツッコミを入れるメイア。

 

 ――面倒見が良く、頑固で、辛さを内に溜め込む性格は把握していたが。

 

「……私が居ない間にいったい何が……」

 

 この展開を楽しんでいるらしいシャリはともかく、フロンティアやヴァシュタールが目の前に居るというのに、はやて達には全く臆する気配が無い。

 

「……フロンティア様、一つ宜しいでしょうか?」

 

「手短にね」

 

 フロンティアは柔らかい笑みを浮かべており、ヴァシュタールは溜め息を吐いている。

 

「……円卓の騎士はほぼ半減し、これから忙しさを増すことは重々承知の上で、暫し静養の時間を頂きたく」

 

「良いよ。騎士メイア、暫し……気が済むまで休みなさい。思えばずっと働いていたわけだしね、人世界で百年位は構わないわ。ヴァシュタールが回復したら、時々様子を見に行かせるわね」

 

 フロンティアは応用に頷いて見せると、はやて達の方へとメイアの背中を押す。

 

「ただし、円卓の騎士メイアへのダメージは実際はかなり大きいもの。よって、メイアとしての力は封印して休ませるわ」

 

 フロンティアがソルベンジュを掲げると、メイアの体が光に包まれる。

 

 光の中でメイアの身体はどんどん小さくなり、メーアとしての姿で現れた。

 

 何故か赤い浴衣姿だが。

 

「……これは。私が作った姿は消えたはず」

 

「僕が叶えたのはメーアとしての願いだしね。さっきまでの姿は、君に気が付かれないように作った、いわば精巧な幻みたいなものさ」

 

 メーアの問いにシャリが答えるが、転移するらしく笑いながらその姿は闇に包まれていく。

 

「じゃ、ヴァシュタール。私達も帰ろ」

 

「了解だ」

 

 魔剣の切っ先をだらりと下げて指示するフロンティアに、ヴァシュタールが応じる。

 

「あの……ほんまに構わへんのやろか? メーアのこと」

 

「ん? うん、大丈夫だよ。元々うちは小さな国で、他の領土に攻めこむつもりもないしね。それに不満だった騎士もいたけど……」

 

「みんなが意見を一致するのは難しい……」

 

「そうそう、良く知ってるね。とりあえず、今残っている騎士達はその点は大丈夫だから、こっちのことは心配せず、はやてちゃん達はせっかくの奇跡を謳歌しておいで。お友達のみんなが待ってるよ、約束の時間」

 

 

 はやての返してきた言葉に一瞬キョトンとした顔を見せるも、説明を加えながらフロンティアははやてに笑って首肯する。

 

 そして、時間が近いことを知らせるとヴァシュタールと共に転移に入る。

 

「あと、虚無の剣はこっちで引き取っておくからね。神器の魔力で、領土の結界を張り直すから。それでは、良い時間を!」

 

 二人の姿が完全に消えると、結界も消え去り賑やかな喧騒が戻ってくる。

 

 屋台が立ち並んでいる辺りの裏手、ヴィータ達と合流したはやて達が牽かれるように足を踏み入れた、賑やかな通りからは死角になっている場所。

 

 通常の世界に戻ってきた所で、それぞれ騎士甲冑を解除していく。

 

「何はともあれ……これでみんな揃うたな」

 

 リインフォースに抱き抱えられる形で融合を解除したはやては、そう言って最後の欠けた記憶……メーアを見つめた。

 

「おかえり、メーア」

 

「……ただいま」

 

「ほな、みんな合流場所に急ごか! なのはちゃん達から念話が飛んで来る前に」

 

「……私の説明は?」

 

「そうやな……、祭りには興味が無いから家に居たけど、何度も呼ばれたから仕方なく来た家族でどうやろ?」

 

「……無理がありすぎる」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「はやてちゃん、『呼んで』みる?」

 

「んー、でもなのは。さすがにこれだけ賑やかだと、呼んでも聞こえないんじゃない?」

 

 普通に叫んで呼ぶと思うアリサが、なのはにそう答えている。

 

「あ、はやてちゃん来たよ!」

 

「シグナム達も一緒にいるね」

 

「こっち、こっちー!」

 

 すずかが走ってくる目立つ一団を見つけると、フェイトもそれを確認して一息吐き、アリシアは元気に手を振っている。

 

「いつの間にかメーアも一緒にいますね」

 

「あれ、ほんとだ。それで遅くなったのかな?」

 

 ヴィータに追いかけられている赤髪の少女を見つけたルティシアに、なのはも小首を傾げている。

 

「それよりなのは。わたしの浴衣どうかな? 変じゃない?」

 

「とっても良く似合ってるよ、フェイトちゃん! ね、ルティちゃん?」

 

「はい、フェイトの色が良く出ていると思います」

 

「良かった。二人も良く似合ってる」

 

  

 

「“虚無の剣にこめられたメーアとしての願い”は叶えてあげたよ」

 

 シャリの声がメーアの耳に届く。

 

「……遊び屋め」

 

「何だとー!?」

 

「……ヴィータの事じゃない。むしろ、言われる心当たりでも?」

 

「うるせぇーー! 屋台で遊んだだけだ!」

 

「ほら二人とも。他の人に迷惑かけたらあかんって」

 

 開始を告げるアナウンスが始まり、夜空を大輪の華が彩り始める。

 

 

 

 

 

「空の特等席で花火見物……は良いけど、まんまと虚無の子には逃げられちゃったよ、アーちゃん」

 

「かの者の性格上、また現れると思いますし、余り気にしなくても良いでしょう、メル? ビューネイさん、ワインもありますよ」

 

「いただこう。わらわは酒の方が嬉しいのじゃが。分かっている、少し待ってくれヒミコ」

 

「アーちゃ~ん、おかわり」

 

「はい、どうぞ。うふふ、(ソラ)に月、天に星、空に華。特に今宵は良き物が視られるとあらば、私達は華見と洒落こみましょう」

 

 

 

「コホン……。それでは高町なのは、いきます! 夜空に向かって……スターライトォブレイカァァアアーーーッ!!」

 

 

 




 
 
※ 以上でA’s編は終了となります。(番外編で追加される場合はありますが)

どの陣営にも様々な考えを持つ者が居り、その全てが白か黒で割り切れる訳ではなく、見方を変えれば入れ替わるもの。

後半ごちゃごちゃし過ぎたのは、投稿の遅れも相まって作者の力量不足です。申し訳ありませんでした。

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