魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その77 番外編 とある隊士の運・不運

 

 

『――すまん! 四人そっちに行った! すぐに応援が行くから、時間稼ぎ頼むぞ!』

 

「『了解!』……ふぅ」

 

 仲間から連絡を受け、一息入れると集中力を高めていく。

 

 人気の無い通り、他にこの場にいるのは五人の仲間達。

 

 今日は休暇であった青年だが、違法魔導師達の一斉検挙に急遽駆り出されていた。

 

「早く終わらせて勉強の時間を確保しないと、今回の試験はまずいだろうなぁ。……いや、まずはあいつのご機嫌取りからだな」

 

 年に二度ある時空管理局の執務官認定試験。

 

 青年は、それの受験を明後日に控えていた。

 

 忙しい仕事の合間を縫っては参考書を開き、不定期な休みの日には法令を覚えながら大事な妹の相手をする。

 

 執務官試験は一次の筆記と、二次の実技に分かれていた。しかし、一次試験の合格率は十五パーセントを切り、二次はそこからさらに十五パーセントを下回ると言われている。とてもとても狭い門であった。

 

 それでも、その高い人気ゆえに毎年毎回多くの者が受験しては分厚い壁に阻まれる、管理局でも最難関の一つ。

 

 青年の言葉からも分かる通り、そんな試験に挑む彼に、自信は全く無かった。

 

 それも、一次の方から。

 

 今回取った休暇の内、一夜漬けならぬ一日漬け前に一日だけ妹と遊ぶ日を作ったのだが、よりにもよってそれが今日だった。

 

 一日遊べるとご機嫌だった妹は、もちろん急転直下の勢いで雷付きの大嵐へと変わる。

 

 土下座も含めて謝り倒して出撃したが、機嫌は直っていないだろう。

 

 つまり、この任務を終えて帰宅した後に彼女の機嫌を戻さないと、明日にも影響が出る。

 

 自分よりも遥かに年下であるにも関わらず、しっかりもので頭が良く、またその回転も早い妹。

 

 普段は(ちょっと口が悪い所もあるが)兄思いな彼女だが、この日を楽しみにし過ぎた反動はかなり大きかったようだ。

 

 そして、彼にとっては長年の夢である執務官よりも妹の方が大切である。

 

 いざとなれば、今回の試験はスッパリ諦めて妹のために休暇を費やすつもりであった。

 

「(ティアナ。もうちょっとだけ待ってろよ。すぐに帰るからな!)」

 

「ティーダ、来たぞ! 抜かるなよ、すぐに応援が来るそうだからな!」

 

「ああ! お前もな!」

 

 ミッドチルダ首都航空隊の仲間と言葉を交わして、ティーダ・ランスター二等空尉は得意の幻術を発動させる。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「後、一人だ!」

 

 仲間の誰かが叫ぶ。

 

 こちらに逃げてきた違法魔導師の四人の内、この一時間足らずの間に三人は無力化出来た。

 

 あちらの抵抗も激しかったため、最初にいた六人の仲間の内、二人は重傷とまではいかないがそれなりに深い傷を負っていた。

 

 他の場所に逃げた犯人達も、待ち構えていた同僚や他部隊と交戦しているという情報が入ってきている。

 

 途中で、こちらには四人が増援として加わっていたが、これ以上は余裕がないと。

 

 それだけ、今回は相手も大規模であった。

 

 しかし、残すところ後一人。対して、こちらは負傷者の二人を外して八人。

 

 

 捕縛した者を見張っている自分達二人をさらに減らしても、戦力比は一:六。

 

「勝ったな」

 

「そうだな」

 

 肩を並べている仲間の呟きに、ティーダも一息吐きながら答える。

 

 最後の一人に、五人がかりでバインドの鎖が巻き付いていた。

 

 他の場所へ応援に呼ばれるかもしれないが、とりあえず持ち場での戦いは終わりそうである。

 

「(これなら、予想より早く帰れそうだな)」

 

 ティーダが、帰宅した後のことを考えようとした時だった。

 

 周りが赤く染まる。

 

 空に浮かぶ、禍々しさを感じる赤い月によって。

 

「な、なん――」

 

「うわっ!?」

 

「げふあっ!?」

 

 空を見上げたティーダの声は、仲間達の悲鳴にかき消された。

 

 慌てて視線を戻せば、鮮血を散らしながら宙を舞う四人の仲間達。

 

 そして、目を赤く光らせた捕縛対象の魔導師。

 

「この……抵抗するな!」

 

「大人しくしやがれ!」

 

 残る前線の二人。一人が再びバインドをかけ、チームリーダーはデバイスを向けると、連射型の射撃魔法を放つ。

 

 魔力の鎖が魔導師に巻き付き、魔法の弾丸が三発、吸い込まれるように直撃する。

 

「やったか!?」

 

「あれが当たったんだ。無事ではないさ」

 

 それが誰の言葉だったかは分からない。

 

 分かっているのは、Aランクのリーダーを含めて、光弾によって前線の二人が吹っ飛んだということ。

 

「な、何なんだ……」

 

 リーダー達が道路に叩き付けられる。

 

 倒れた場所から、赤いものが広がっていく。

 

 皆かろうじて息はしているが、危険な状態であるようだ。

 

「ティーダ! 援護しろ」

 

「あ、ああ!」

 

 戦鎚型のアームドデバイスを構えて突っ込む仲間に答え、ティーダも銃型のデバイスを構える。

 

「オリャアァァアアッ!」

 

 突進しながら、うっすらと緑光を纏う戦鎚を振りかぶる仲間の姿が、三人に増えた。

 

 その間を縫うように、魔力が込められた二発の弾丸が追い抜いていく。

 

 魔導師が、弾丸に向けて勢いよく腕を振り払い……そのまま何の感触もないまますり抜ける。

 

「……っ!?」

 

 驚愕の表情を浮かべた魔導師の右肩を、もう一発の弾丸が撃ち抜いた。

 

 そこに振るわれる、三つの戦鎚。

 

 撃たれてバランスを崩していたこともあり、一人目の力任せな横なぶりの攻撃に対しては避ける。

 

 二人目。大振りの一撃を生み出した光弾で受け止めようとして、感触なくすり抜けた。

 

 三人目にはこちらから光弾を放つ。……そのまま通り抜けていく。

 

 そのまま一人目が下からの返しの一撃を放ち、それは魔導師を捉えた。

 

 顎を強かに強打され、魔導師の身体が宙を舞う。

 

 ティーダの得意とする幻術。実体以外は本物と瓜二つであり、一見では見分けがつかない精巧さを誇る。

 

 幻と本物=実体を織り混ぜたコンビネーションが、彼らの必勝パターンであった。

 

「ちょっと、やり過ぎちまったか? おっと、そんなことよりみんなを早く運ばないとな」

 

 魔導師が道路に落ちてくるのを確認すると、重傷者が多数出たことを伝えようとしたが――。

 

「まだだ! 横に跳べ!」

 

「なっ!? があっ!?」

 

 血のように五本の赤い光が仲間を貫き、その状態で止まる。

 

 その手から、戦鎚が滑り落ちた。

 

 倒れたままの魔導師の指から伸びていた五本の光が縮んでいく過程で、引き抜かれた仲間の身体が前のめりに倒れた。

 

「ナシナー!」

 

 ティーダが呼んでも、倒れた仲間はピクリとも動かない。

 

「な……何なんだ、あいつは!?」

 

 あっという間に七人の仲間が倒されたことに、ティーダは戦慄を覚える。

 

 その目の前で、魔導師がユラリと起き上がる。

 

 そして、“変化”が始まった。

 

 体格が一回り大きくなると服が千切れ飛ぶ。

 

 その背からは翼が、頭部には山羊のようにネジ曲がった角が生える。

 

 目は赤く爛々と輝き、その体は黒く染まると鎧の如くゴツゴツしたものへと。

 

「ば、化け物っ!?」

 

 ミッドチルダで最近よく聞くようになった、都市伝説の一つ。

 

『幻獣などといったものとは違う、人に近い異形の化け物がいるらしい』

 

 妹もよく話していたそれを、彼は噂話だよと笑い飛ばしていたのだが。

 

「実在していたんだな」

 

 頬を、冷や汗が伝う。

 

 化け物の両手……鋭い十の爪が赤く光り始めた。

 

 ティーダに向けて爪を向けようとしたが、その対象がまた三人に増える。

 

 その三人に、三本ずつ赤く光る爪が突き刺さっていき、そのいずれもが消え去っていく。

 

 倒れている九人だけがいる道路。

 

 化け物は翼を広げ、空へ舞い上がる。

 

 赤い月を背負うように滞空すると、伸縮自在な爪をめくらめっぽうに辺りに放ち続ける。

 

「(どうする!? どうすればいいんだ!? 応援を呼んで、待つしかないのだろうか?)」

 

 幻影と、光学迷彩スクリーン効果の幻覚を駆使して姿を隠しているティーダ。しかしこれは、大きく動いたり魔力を消費するとすぐに解けてしまう。

 

 攻撃も激しく一歩も動けない状態というのは代わりないが、その中で必死に考えを巡らせていた。

 

 その時、不意に化け物が攻撃を止めた。

 

「(諦めてくれたか?)」

 

 化け物は依然爪を構えたまま……爪先を微調整している。

 

 その先にいるのは――倒れた仲間達。

 

 トドメを刺すつもりのようだ。

 

 それを理解した時、ティーダは反射的に駆け出していた。

 

 不可視にしていた幻術は解け、四人のティーダが空の化け物に銃を向ける。

 

「(約束、やっぱり守れそうにないな。駄目なお兄ちゃんでごめんな……ティアナ)」

 

 赤を纏う十爪が、ティーダ達を次々と貫いていく。

 

 固く目を閉じていたティーダだが、来るはずの痛みはいつまでたっても来なかった。

 

 痛みを全く感じることなく、自分は死んだのだろうか? と、目を開けた青年がみたものは……白銀。

 

「――うふふ。私が当たりでしょうか?」

 

 数本の爪を素手で受け止めている女性が、彼を守るように浮かんでいた。

 

 輝くようなプラチナブロンドの髪がなびき、赤で複雑な紋様が描かれた薄紫色のローブが波打つ。

 

 赤かった月は、美しい白銀に染まっている。

 

「遅くなりました。本局特戦特務調査隊のアシエラです。要請により、これより貴隊の支援に入ります」

 

 妖艶に、身内以外の者へのコードネームを名乗る。

 

「あ……え、あ、首都航空隊のティーダ・ランスター二等空尉です。協力感謝します?」

 

 戸惑いながら、ティーダはアシエラと名乗った女性に敬礼を返す。

 

 受け止められていた化け物の爪が、まとめて砕け散っていく。

 

「中位魔族。やはり憑依どころか、こちらには普通に侵入してきていますね」

 

 化け物が指を押さえている間に、ティーダは周囲に視線を巡らす。

 

「あの……」

 

「申し訳ありませんが、ここへの援護は私一人です。なにせ、こちらは人数が少ないので」

 

 ティーダが聞きたかったことの答えを、先に女性が口にした。

 

「完全に外部とは遮断しましたし、正体を知られる心配もなく久しぶりに力を解放しても良いのですが。まずは……〈完全神聖治癒魔法〉(エリクルス)

 

 天から月光のような白銀の光が、倒れた仲間達に注がれる。

 

 出血が止まり、傷口と共にバリアジャケットの破損も修復されていく。

 

〈神聖武器化〉(ディバインウェポン)〈能力強化〉(フィジカルエンチャント)

 

 次いでティーダのデバイスが、そして彼自身が白銀に輝いた。

 

 光りは、内に吸い込まれるように消えていく。

 

「では、後は頑張って下さいね」

 

「えええええっ!?」

 

 終わりとばかりに言い残し、どこかに行こうとする女性。

 

 ティーダの声が辺りに響き渡る。

 

 慌てて彼女を引き留めに入る。

 

「待って下さい! 一緒に戦ってくれるのでは!?」

 

「私はそんなことは言っていませんが? 『支援します』であり、それも今、行いました」

 

 倒れた仲間達と、自分を指すアシエラ。

 

「そ、そんな。……あ、危ない!」

 

 残る爪を全て、化け物が背中を見せているアシエラに伸ばしてくる。

 

 ――間に合わない。

 

 咄嗟に、デバイスの引き金を引いた。

 

 白銀に光り輝く一発の弾丸が、赤い爪をまとめて撃ち砕く。

 

「…………えっ?」

 

「うふふ。ほら、出来るではありませんか」

 

 苦しむ化け物と自分のデバイスを、信じられないとばかりに何度も視線を向けるティーダに、アシエラは微笑む。

 

 試しに幻術を使ってみると、八人の自分が現れた。

 

「これ……夢か?」

 

「そうですね。夢かもしれませんよ」

 

 怒りに燃える化け物の指先から、蒼い液体が飛び散った。

 

 再び生えてきた爪が、赤い光りを伴って二人に向けられ……襲いかかってくる。

 

 

 今度は足と、角も。

 

「私は他の場所に行かないといけないのですが、攻撃されれば返さないと失礼ですよね。うふふふ」

 

 楽しそうに笑うアシエラ――アシェラの両の手に、紫電と神々しい白雷が生まれる。

 

「召雷来来……天雷……神雷、〈アークサンダー〉」

 

 一つとなった雷は、空気中を帯電させながら網の目に拡がり、爪と角を次々と粉砕すると……化け物へと。

 

「シュート!」

 

 八つの弾丸がそれぞれに白銀の軌線を引き、弧を描きながら彼の方に迫っていた爪を砕いて、化け物へと。

 

 凄まじいまでの雷に打たれた化け物の身体に、次々と弾痕が穿たれていき……最後に額に穴が開く。

 

 断末魔の声を上げることなく、化け物は額の穴から順に黒い塵となって消えていった。

 

「や……やった?」

 

 呆然と見上げるティーダの耳に、拍手が聞こえてきた。

 

「よく出来ました」

 

 拍手を止めたアシェラが地上に降りてくる。

 

「あ、ありがとうございます?」

 

 一人に戻ったティーダが感謝を述べる。

 

 それが最後の言葉に対してなのか、協力に対してなのかは彼自身も分かっていない。

 

 間近で見る、人間離れしたアシェラ――アシエラの容姿に圧されていたのもあるが。

 

「倒れている人達の傷は塞ぎましたが、流れて失った血はそのままです。しっかり検査させた方が良いでしょう」

 

「は、はい」

 

「それと、今日見たことは他言しない方が宜しいでしょう。貴方の日常を終えたくなければ、ですが」

 

「え……それはどういう意味ですか?」

 

「そのままの意味です。特に、魔……化け物のことを知らしめようとすれば、貴方だけではなく、貴方の大事なものが失われるかもしれませんから」

 

 アシエラの話した突飛な内容に、ティーダは驚きの余り声が出ない。

 

 これが、妹が話しているのなら彼もいつも通り笑い飛ばしていただろうが、この女性が言うと真実味があるからだ。

 

「……さて、私は他の場所に向かいます。不機嫌になったこちらのメンバーの所為で、怪我人を出す訳にはいきませんので」

 

 そう言ってローブを翻して背を向けると、そのまま歩み進める。

 

「あ、あの!」

 

「何でしょう?」

 

 足を止めて、僅かに背後に視線を向けるアシエラ。

 

「あ……ありがとうございました!」

 

 ティーダの謝意に小さく頷くと、アシエラは再び歩き出す。

 

「優しき勇敢な戦士に、竜の神の祝福あらんことを」

 

 彼女が路地影に消えると同時に、白銀の月もまた消え去っていった。

 

 それをボーッと見送っていたティーダだが、ハッと意識を取り戻すと慌てて連絡を入れ始めた。

 

 ――この一日だけで、地上本部が捕縛した違法魔導師は五十人に上る。

 

『たまたま』こちらに滞在していた本局所属の魔導師数名の協力もあり、被害も最小に止めることが出来た。

 

 ただし、本局とは犬猿の仲である地上本部が、この協力を受け入れた経緯については不明。

 

 無料での協力が資金難に苦しむ地上本部に受け入れられたとも、どこかからの多額の寄付があったとの噂話も流れたが、真実の所は分からない――。

 

 少なくとも、一部の犯人と局員が恐怖のどん底に叩き落とされたのは、真実である。

 

「た、ただいまー……」

 

 夜も十時を回った時刻になって、ティーダは十二時間振りの我が家へと戻ってきた。

 

 捕り物が終わった後は報告書の作成。

 

 疲れ果てた身体ではあったが何故か頭は冴え渡っており、いつも手間取り再提出はザラだというのに、今日はスラスラと終えることが出来た。

 

 例の存在については、記載しなかった。

 

 仲間達も、そのほとんどのメンバーが極度の疲労を訴えながら、今も作成作業中である。

 

 家の明かりは全て落とされており、闇が広がっていた。

 

「ティアナ……もう、寝ちゃってるだろうな……」

 

 いつもなら、とっくに就寝している時間である。

 

 間に合わなかったなとため息を一つ吐き、廊下の明かりを点けて奥へと歩みを進める。

 

 そのままキッチン兼リビングのドアを開けるとスイッチに――。

 

「うおっ!?」

 

 彼が押すより早く、灯りが点いた。

 

 急な光源に、一瞬彼の目が眩む。

 

「おかえり……おにーちゃん」

 

「ティ、ティアナ?」

 

 専用の台に乗って、スイッチに手を伸ばした寝ているはずの妹がそこにいた。

 

「おそかったね」

 

「ご……ごめんな、ティアナ。今日は一緒に遊ぶ約束をしていたのに」

 

 誠心誠意を込めて、頭を下げるティーダ。

 

「別にいーよ。休みの日にもよばれて、おにーちゃんも大変だっただろーし」

 

「ティアナ……」

 

「馬鹿で運が悪くて、いつも空回りするのがおにーちゃんだし」

 

「ティアナ……?」

 

 労るのか貶すのか、どっちかにしてくれと思う。

 

「でも、いつも一生懸命なのがあたしのおにーちゃんだから」

 

「……っ!」

 

 妹の浮かべたにこやかな笑顔に、彼は不覚にも涙を流しそうなる。

 

「ごはん、食べよ? すぐに出来る物だけだけど」

 

「ああ、そうだな……。そうしよう! すぐに用意するよ」

 

「おにーちゃんは、先に手洗いとうがいしてきなよ。あと、着替えー」

 

「お前は、本当に出来すぎた妹だよ」

 

「当たり前でしょ。あたしがしっかりしないと、おにーちゃんがもっとダメダメになっちゃう。ほら、ティーダくーいは早く行く!」

 

 苦笑しながらの彼の言葉に、ティアナは肯定すると同時に兄への辛口採点も行う。

 

 妹からのめーれーに、兄は苦笑しながら了解! と返すのであった。

 

「おにーちゃん。今日はまだ、一時間いじょー残ってるけど」

 

「……ああ! ちゃんと遊ぶからな」

 

 

 

「お前を置いてイこうとしてしまった馬鹿な兄で……ごめんな」

 

 昨日が終わって今日が始まり、船を漕ぎ始めた妹をベッドに運ぶ。

 

 布団をかけてやると、彼は静かに部屋を辞した。

 

「……ちゃんと帰ってきてくれたからいーよ」

 

 部屋に戻ったティーダもベッドに身を横たえた。

 

 疲労困憊な身のため、横になっただけでも眠気が押し寄せてくる。

 

 

 それに負けそうになりながらも、枕元に置きっぱなしになっていた参考書を開く。

 

「……あれ?」

 

 分かる。

 

 見ただけで問題が解けるし、必須内容も全てが理解出来る。

 

「は、はは。見える。見かるぞ! 俺にも執務官の道が!」

 

 苦戦していた内容が、まるでスポンジが水を吸うが如く吸収出来ることに、ティーダは白銀の月の女神に感謝した。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 本局、特戦特務調査隊の待機部屋では――。

 

「グレアムさんは……」

 

「とっくに帰ったよ。さっき、アーちゃんも見送ったよね?」

 

「もともと我々がいない間の待機員であるしな。しかし、さすがは名うての人間だということはある。きちんと依頼書のデータはまとめてくれているようだ」

 

「おかげでわらわ達の作業がはかどるな」

 

 部屋にある七つのデスクの内、現在使われているのは一つだけ。

 

 正体を隠すための琥珀色の長髪の少女が、そこで端末を叩いていた。

 

 その様子を、琥珀色の短髪の少女、赤いドレスの金髪女性、緑色の和服を着た黒髪女性が眺めている。

 

「彼が優秀なのは分かっています。メルとビューネイさん、報告書の作成をしてくれませんか? ヒミコさんも、実体術が使えるようになったのですから」

 

「あは。答え、分かってるくせに」

 

「すまんな。人の言葉を使っての筆記は苦手なのだ」

 

「わらわも、ずっと封印されていたせいか、文明の機器とやらは不得手でな」

 

「うふふ。つまり、私に四人分の報告書を作成しろというのですね?」

 

「あっちに介入出来るように、アーちゃんがちょっとずつ手を広げてきた成果だよ?」

 

「最近は大量に仕事がくるおかげで、気がねなく暴れられる」

 

「ありがたいことじゃな」

 

「当然です。あの者達を狩り出すためにしているのですから。それに、今日の狩りも数で言えば私が一番少ないのですが」

 

「アーちゃんは中位を倒してるでしょ! あたしなんか下位だけだよ? あんなんじゃ物足りないよ!」

 

「それはこちらもだな。しかも、正体に気が付いて戦意喪失した」

 

「お主らはまだ良いではないか。わらわが本気で暴れようとすれば、人の目を完全に無くさねばならんのじゃぞ?」

 

「あー、もう! なんかまだムシャクシャするなぁ。良さそうなシゴト無いの? すぐ暴れられるやつ」

 

「付き合うぞ、メイオルティス殿」

 

「わらわもじゃ」

 

「それよりも報告書の方をお願いします。これまでは部での活動報告で済んでいましたが、これからは個人単位での――」

 

「アーちゃん、頑張れ。活動口実のシツムカン? の試験だって、ほぼ反則で問題ないんだし。そうなれば、シツムカンと仲間達で行動出来るんでしょ?」

 

「それはそうですが、所属ということでここも残す必要があります。引き入れた者達の受け入れ場所としても――」

 

「頑張れ、アーちゃん」

 

「このメンバーではアシェラ殿しかおるまい」

 

「わらわとしては手伝いたいのじゃが、まずは機器とやらを覚えるところからじゃからな。ふむ、グレアム殿と娘御は優秀じゃな。わらわ用に読みやすいのがある。これにしよう」

 

「うふふ。艦長職を退いた後のリンディさんも来てくれる予定ですが、部隊指揮が取れる人材と、きちんとしたメンバーも欲しい……ってもう行きましたか。さらに三人分が増えるのですね。うふふふふ……」

 

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「あれ……昨日は全部分かった気がしたのに……やっぱり夢だったんだろうか?」

 

「おにーちゃんが全部分かるなんて、ありえないでしょー」

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