魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その78 短編 家族と友達

 

 

十二月三十一日。

 

 長く感じた今年も、いよいよ終わろうとしていた。

 

「次は、そっちの大きい箱をお願い。ルティシア」

 

「はい、母様。……これですね?」

 

 押入れの奥から顔を出した桃子の言葉を受け、部屋のあちらこちらに置かれた箱の一つを手に取るルティシア。

 

 相も変わらず着膨れしている少女は、身長の半分程の大きさの箱を難なく持ち上げる。

 

 押し入れから下りてきた桃子と入れ替わるようにして、ルティシアがそこまで運び――。

 

「母様。これは上と下、どちらですか?」

 

「じゃあ、上にお願い」

 

「はい」

 

 桃子が動かしやすいように、段上まで持ち上げてから丁寧に置いた。

 

「ごめんね、ありがとう」

 

 笑顔で礼を述べる母に戸惑いながら、はにかんだような表情を浮かべる少女。

 

 去年まではそんな顔をほとんど見せることがなかった彼女だが、今夏の打ち明けの一件以来、親しい者の前では度々見せるようになっていた。

 

 あの後はしばらく葛藤に苛まれていたのだが、『もう隠さなくて良い』ことと家族としての在り方を、彼女なりに模索している途中なのである。

 

 とりあえず、これまでは一歩引いていた家族の輪の方へと、恐る恐る踏み出してみるところから始めていた。

 

 それで何もかもが一気に変わるわけではないとは思うが、今までとは違う何かを彼女自身も感じるようになっている。

 

 そんな少女の“変化”について、高町家の人々は当然のように歓迎した。

 

 作業のため足場に乗った桃子が倒れないよう、ルティシアはしっかりとそれを押さえる。

 

「なのはは出かけてるみたいだけど、あなたも行かなくて良かったの?」

 

「はい。『すぐ戻るから家で待ってて』とのことでしたので。母様が作業をするのは姉さんも聞いていましたし、そのお手伝いをしてほしいと判断しました」

 

 桃子からの問いに答えるながら、彼女の作業が終わった所でルティシアは次のダンボールを取りに向かう。

 

 なのは以外の今この場にいない三人――士郎達もまた、今頃は翠屋で片付けに追われていることであろう。

 

 あちらでは他人からの目もさることながら、水も多目に使うため、ルティシアとしてもこちらの方が動きやすいというのもあった。

 

「そういえば、母様。聞きたいことがあるのですが」

 

「あら、何かしら?」

 

 心を開いて、少しずつ家族らしくなっていく末娘からの質問に、作業中の手を止めた桃子が振り向きつつ小首を傾げる。

 ルティシアは、彼女らしいいつもの真面目な顔でそれを口にした。

 

「大掃除とは、何のためにするのですか?」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「――それで、標的(ターゲット)の様子は?」

 

「まだ気が付いていない……かな。たぶん」

 

 問われたことに一人が答えるのだが、確証が無いのか曖昧な表現になってしまう。

 

 そして、案の定そこを言及されてしまう。

 

「随分アバウトね? これは、絶対に失敗出来ないのよ?」

 

「そ、それはもちろん! 成功については間違いないはずだから」

 

 今度は力強く答えたその人物に、横にいた別の人物が待ったをかける。

 

「そうは言うてもな。万が一も、考えとかなあかんやろ? なあ?」

 

「その通り! 『失敗には死……じゃないおしおき』は基本!」

 

 話を振られ、その場でやりとりを見ていた他のメンバーも話に加わってきた。

 

「そういうことや」

 

 怪しく含み笑いをする周りのメンバーに件の人物は大きくヒクも、改めて「大丈夫!」と力強くそう宣言する。

 

「その言葉、しっかり聞いたわよ?」

 

「もし失敗したら……楽しみやな」

 

「ふふ……あっははは!」

 

 一人が笑いだすと、他の二人もまた哄笑する。

 

 そんな怪しい現場に、別の人物がおずおずと歩み寄ってきた。

 

「ね、ねぇ、もうやめようよ~。アリサちゃん。はやてちゃんとアリシアちゃんも」

 

「もう、すずか。今、良い所だったのに」

 

「良い所だったんだ?」

 

 消されていた部屋の明かりを点けながら、眺めていた最後の人物――フェイトがなのはに問う。

 

「まあ、わたし的には良え所やったなぁ」

 

「え? はやてさん、そうだったの?」

 

 何やら残念そうなはやてに、アリシアが興味を引かれて訊ねている。

 

「わたし、何をされるところだったんだろう……」

 

 そのはやての様子を見たなのはは、背筋に冷たいモノが走るのを感じた。

 

 そんな親友に、歩み寄ったフェイトが声をかける。

 

「大丈夫。なのはは私が守るから」

 

「ありがとう、フェイトちゃん」

 

「そうなったら二人まとめて……」

 

 ホッとするなのはに、ブツブツと何かを考え始めるはやて。

 

「はやてちゃーーん!?」

 

「あなた、急がし過ぎてストレス溜まってるんじゃないの?」

 

「はやてさん。疲れてるなら、年末年始の時くらいは休んだ方が良いよ!」

 

「あ~、そうかもしれへんな。でも、せっかくの機会なんやし――」

 

「これはダメね。後で、シャマルさんにでも伝えておきましょ」

 

「う、うん」

 

 なおもブツブツと何かを呟いているはやてを見たアリサが、バッサリとそう判断を下した。

 

 はやてから不吉なものを感じるなのはが頷きを返すと、そんな彼女を庇うようにフェイトが立つ。

 

「で、でも、普通に言っても良いんじゃない? いくら何でも大丈夫と思うんだけど」

 

「甘いわ、すずか!」

 

 無理矢理本題の方に話を戻したすずかだが、アリサはそれにもキッパリと言い放った。

 

 ビシィッ! と、指を差すアクション付きである。

 

「あの協調性皆無なルティシアのことよ? みんなで旅行って知れば、絶対にどこかへエスケープするに決まってるわ!」

 

「ルティシアちゃんならそんなことはしない……と思う……けど」

 

 断言された勢いに飲まれたすずかの答えも、尻すぼみに小さくなって先のなのはのように自信が全く感じられなかった。

 

 助けを求めるように、視線をさ迷わせる。

 

 そのすずかと目が合ったフェイトが、小さく首肯する。

 

「うん。ルティは、言えばきちんと来ると思う」

 

「そうだよねー。ルティシアさんが逃げるっていうのは似合わないかな。それよりは、とりあえず突撃って感じ」

 

「アリシア。それはそれで問題だから」

 

“あちらの顔”を知るテスタロッサ姉妹も、二人でそんな言葉を交わすことですずかやなのはを援護する。

 

「むー……なのはは? 本当に大丈夫そう?」

 

「うん」

 

 不安そうなアリサに、なのははしっかりと頷いてみせた。

 

「前にすずかちゃんの別荘や、春の温泉に行った時、ルティちゃんは不安だったんじゃないかなって」

 

「不安って?」

 

「自分が他のみんなと違うってことをずっと言えなくて、気にしてたんだと思うの。何かあって自分が迷惑をかけちゃいけない。お父さん達に話をする時も、ルティちゃんはずっと震えてたから」

 

 幼い頃に二人でよく遊んでいた鬼ごっこの時にしても、なのはが近付けば近付く程に、ルティシアの動きがぎこちなくなっていたらしい。

 

“たまたま”それを目にする機会があったという父から、打ち明け話の時にこっそりなのははそれを教えてもらっている。

 

 そのなのはの話を、フェイトやアリシア、それとすずかが複雑な想いで聞いていた。

 

「まったく、普段よく分からないことはするくせに。ルティシアも早く言ってくれれば良かったのよ」

 

 むーっと不満そうに唸りながら、アリサがそう溢した。

 

「でも、アリサちゃん。ルティシアちゃんの気持ち、私もよく分かる……かも」

 

 すずかが、小さくそう呟いた。

 

「前に言われたわ。『誰にも、言えないヒミツの一つや二つある』ってやつでしょ? それはそれで、別に良いのよ」

 

「え?」

 

 何人かの口から、同音の声が上がる。

 

 周りの意外そうな顔を見て、アリサは大きく胸を張って言った。

 

「本当の友達なら、そんなの全部引っくるめて受け入れるわよ。……そうじゃなくてね、あたしが悔しいのは、自分がそう思われてなかったってことよ。あたしなら、全部受け入れた上で『友達』って言ってあげるわよ!」

 

 どう!? と言わんばかりのアリサの様子に、みんなが目を丸くしていた。

 

「すごい。アリサ、格好良いー! 男前!」

 

 アリシアが目を輝かせて歓声を上げると、アリサはさらに大きくふんぞり返っていく。

 

「ふふーん! 言っても大丈夫な友達かどうか、それくらいの判断はしてほしいわね。あたしの器は大きいのよ! 約束を忘れられてたり、メールを送っても無視されたり……って、今何か変な表現された気がするんだけど?」

 

「え? 気のせいじゃないかな?」

 

「そう?」

 

 首を傾げたアリサは、気を取り直すとなのはに指を差した。

 

「ふぇっ!?」

 

 いきなり自分の方へ矛先が向けられて、つい反射的に逃げ腰となる。

 

「なのはもよ! マジックの一つ二つ、使えるくらい隠さなくてもいいでしょうに」

 

「ちょ、ちょっとニュアンスが違うような……」

 

「シャラップ! まあ、そういうこと」

 

 熱弁を振るったせいか赤くなった顔を逸らすアリサに、微笑みながら目尻に溜まった液体を拭うすずか。

 

「ありがとう、アリサちゃん」

 

「ん? 何ですずかが礼を言うのよ?」

 

 怪訝そうなアリサであったが、「ま、いいわ」とそこで話を切り上げることにしたようだ。

 

「じゃ、みんなでルティシアに伝えに行きましょう。『ミステリー発見、地獄温泉フルコースツアー』のこと」

 

 

「賛成ー!」

 

「うん!」

 

 アリシアとすずかに続いて、なのはとフェイトもアリサに同意を示した後。

 

「アリサちゃん、凄いね」

 

「うん」

 

 二人はそっと言葉を交わした。

 

「そういえば、さっきから反応が無い気がするけど、はやては?」

 

「一度に何人もは無理やしな。順番に……となると、誰から――」

 

「シグナムさん、呼んできましょ」

 

 八神はやて。

 

 多忙すぎる毎日を過ごす少女であった。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「ルティシアなら、ついさっき出かけたわよ?」

 

 部屋に居ない人物の行方を桃子に訊ねると、そんな返事が返ってきた。

 

 五人は顔を見合わせ、代表でなのはが口を開いた。

 

「お母さん、ルティちゃんがどこに行ったか、聞いてる?」

 

「いいえ? でも、大掃除のことを聞いてきたわ」

 

「「「「「大掃除ー?」」」」」

 

 えー……という反応をしている子供達に首を傾げながらも、桃子はルティシアとのやりとりを話した。

 

「大掃除にこめられた意味とかいわれを教えてあげたら、『なるほど、そんなにも深い意味があったのですね』って深く感心してたみたいよ?」

 

「あ、新年を迎えるための心構えとか、厄祓いという話ですか?」

 

「そうそう、すずかちゃんよく知ってるわね」

 

 偉いわーとすずかを誉めた後、最後まで手伝いを終えたルティシアが外出したことを、桃子は伝えた。

 

 桃子に礼を述べて外に出た五人であったが――。

 

「ほらー! やっぱり目を離したらいなくなるじゃないーー!」

 

 地団駄を踏みながらのそんなアリサの絶叫が、年の瀬の寒空に響き渡るのであった。

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