魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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※ 旅館編(略)
 
今回はなんちゃってホラー部分はありません。




その85 旅館――潜みし悪意

 

 

「え? まだ戻って来てないの?」

 

「ああ、そうだ」

 

 旅館内の決められたコースを行く肝試し。

 

 それを終えて割り当てられた部屋に戻ってきたなのは達が、留守番をしていたヴィータからの言葉に不安そうに顔を見合わせた。

 

 実は襖を開けた瞬間、部屋の中から聞こえてきた絶叫に目を白黒させる一幕もあったが、

 

『何も聞こえてないし、見えてない。いいな?』

 

 顔を赤く染めて笑うヴィータにより、すでにそれは記憶から消えている。

 

 ふと視線を彼女の足元に向ければ、なぜか頭からハンマー(アイゼン)を生やしたメーアが倒れているのだが……それも見なかったことにした。

 

「お前達こそ、途中で会わなかったのか?」

 

「うん。ちゃんと地図通りに進んだけど、ルティちゃん達には会ってないよ。だよね、フェイトちゃん?」

 

 怪訝そうなヴィータになのはが答えて、訊ねられたフェイトもコクリと頷く。

 

「確かにいくつか脇道もあったけど、見える範囲にはいなかった。アリシアとアリサならその先に行きそうだけど、ルティが止めてくれる……と思う」

 

「あいつも、なんだかんだ流されやすそうだけどな。……それより」

 

 ヴィータが掛かっている柱時計に目をやる。

 

「もう二十二時を過ぎてるし、先に布団を敷いとこうぜ。その間に帰ってくるかもしれねえし、こなかったら捜しに行けばいいだろ」

 

 その案に、肝試し後発隊の二人も賛成を示した。

 

「あ、そうだね」

 

「うん。それに、ルティも二人と一緒なら、黙って鍛練に行かないはず」

 

 言った後に、少しばかり笑みが溢れる。

 

 ――でも、ルティが戻ってきたら早速三人で練習に行ってみたい。いつもは結跏趺坐(けっかふざ)? という精神修養だけだけど、いつかは模擬戦……まではいかなくても、練習試合はしてくれるかな?

 

 今は、ちょっとずつでも先に進んでいければいい。

 

 そして、少しでも長く一緒に過ごせたらいい。

 

 ここにいる友人達、全員との時間が――。

 

 そこまで考えた時、フェイトの中でナニかが引っかかった。

 

 見えないトラップ型のバインドがいくつも仕掛けられた場所に踏み込んだ――そんな感覚を。

 

 頭の中では激しく警鐘が鳴り響き、絶えず何かを訴えている。

 

 そして部屋の中でソレを見た時、その感覚が正しかったことを確信した。

 

「あはは。でも、ようやく一緒にできそ……フェイトちゃん?」

 

 部屋の一角にある収納スペースから、布団を取り出そうと動きだした三人。しかし、ピタリとフェイトが立ち止まってしまう。

 

 なのはが呼んでも反応するどころか、その表情は大きなショックを受けたかのように固まり、やがてガタガタと全身が大きく震え始めた。

 

「お、おい、フェイト。どうしたんだ!?」

 

 これはただ事ではないと判断し、すぐさま駆け寄ったヴィータが激しくフェイトの肩を揺さぶる。

 

「フェイトちゃん! しっかりして!」

 

 なのはも親友の血の気が引いた白く――そして極度の緊張によって異様に冷たい手を取り、何度も呼び掛けた。

 

「なの……は、ヴィ……イタ」

 

 口の中がカラカラに乾いている。

 

 それでも震える小さな声が二人を呼び、そして訊いた。

 

「私達……なんにんで、ここ……に来た?」

 

「え?」「あん?」

 

 二人はその質問に不思議そうにするが、フェイトがふざけて言っているようには見えないし、そもそも彼女がそんな性格ではないことも知っている。

 

 だから、二人も真面目に答えることにした。

 

「七人だろ?」

 

 ヴィータのそれに頷きつつ、なのはが指折り数えていく。

 

「アリサちゃんとアリシアちゃん。ルティちゃんとフェイトちゃんに私、引率のヴィータちゃんとメーアちゃん」

 

「だよな。てか、なんでアイツが引率枠なんだ?」

 

「それ、本当に今さらだよね……ヴィータちゃん」

 

 倒れたままピクリともしない自身と同じ赤い髪の少女。それを見て不思議そうなヴィータに、呆れながらツッコムなのは。

 

 それには「うっ」と小さく呻きつつも、ヴィータは誤魔化すようにムキになって叫んだ。

 

「い、言うだけなら、いいだろ! で、それがどうしたんだよ?」

 

「他にも……誰かいなかった?」

 

「お、おい……フェイトまでおかしなこと言うなよ。そんな話をするのはあの二人だけ……で?」 

 

     ※ ※ ※

 

 

 ――違和感を感じた。

 

「ヴィータちゃん?」

 

 なのは達は肝試しに行く前に、怪談をしていたはずだ。

 

 では、それに参加していたのは?

 

 アリサとなのは、それにルティシア。

 

 しかし、本当にそうだっただろうか?

 

 なのはのは体験談で、ルティシアの話もそれに近いものだった。そうすると残りはアリサになるが、それだと数が合わない。

 

(変だ。だいたい、なんであたしがこいつらを引率してるんだっけ? ヴォルケンリッターの鉄槌の騎士たる…………あたしは……あたしは誰の騎士だ?)

 

 食卓に並ぶ美味しそうな料理。それを食べようとする直前になって、笑顔の女性から「一品だけ私が作ったの」と言われたのと同じか、それ以上の危険を感じる。

 

 だいたい、その料理を作ったのは誰だ? メーア? 違う! あたしよりはちょっとだけ作れるというだけで、こいつは野戦食がメインだ……美味い料理にはほど遠い。

 

 しかし、そこでナニかが引っかかってきた。それと同時に、不快なモノが邪魔するようにまとわりついている感じも受ける。

 

 鋼の意思でそれを一切無視したヴィータは、精神を集中させると、さらに意識の海の奥深くへ潜んでいった。

 

 下へ……下へ。

 

 闇が深まる一方で、耳からはこんな声が聞こえた。

 

「どうして、この部屋に荷物が九個もあるの?」

 

 その瞬間――底知れぬ闇の中で、強く輝く光が生まれた。

 

 躊躇うことなく、ヴィータはそれに手を伸ばす。

 

 光点との距離が縮まれば縮まるほど、指先から感じていた暖かな温もりは徐々に全身へと広がっていく。

 

 騎士……闇の書――夜天の書の……主!

 

 はやて――大好きな、夜天の王。

 

 強く想えば、顔を、姿を完全に思い出した。同僚かつ仲間の騎士達のことも。

 

「はやてーーっ!」

 

 ヴィータが光を掴むと闇が払拭され、まとわりついていたものは弾き飛ばされていく――

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「どうして、この部屋に荷物が九個もあるの?」

 

 フェイトが示した物を見て疑問に思う。部屋に置いてある自分達の荷物。

 

 自分達は七人でここにという考えを、なのはは激しく頭を振って追い払った。

 

 そんなことはない。大好きで大切な家族、大事な友人知人達とここに来たはずだ。

 

 お父さん。お母さん。お兄ちゃんにお姉ちゃん。

 

 すずかちゃんに、はやてちゃん。ユーノ君とクロノ君、それに忍さんやリンディさん達。

 

 ちゃんと思い出せる……思い出せた!

 

 ――でも、どうして?

 

 今のいままでこのことを忘れていたの? ううん、考えないようにさせられていた?

 

 誰が――そこまで考えた時、脳裏でいつか聞いたような妹の声が甦る。

 

『――負の感情を糧に、自らの力へと変える魔族達はその手段を問いません。特に、目的を持って狙いを定めた相手には。それで負の感情を募らせてくれた方が、自分達にとって都合が良いですしね』

 

『――少しずつ精神的に追い込んで……堕とす。全ての魔族に該当するわけではもちろんありませんが、そんな手法を多くが好んで使うのです。感情が豊かでさらに魔力を持っていることもある人間を、彼らの中には餌としか見ていない者もいるのですから』

 

 フェイトちゃんやはやてちゃんの時と同じで、これもまた魔族の仕業?

 

 あの夢みたいな世界でアシェラさんと会った時に、はやてちゃんの事件の後は落ち着くって言ってたのに……どうして。

 

 これはただの偶然で、たまたまここに魔導師が集まってたから?

 

 ……分からない。分からないけど、このままにしておくのは絶対ダメ! それだけは分かる!

 

 そのために、早くみんなを助けないと。こういう時のために、魔法やあの力があるのだから。

 

 こんなことを平気でする人達には、絶対に負けられない。……負けたくないから!

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 居心地の良かった広めの和室が、今ではすっかり逆に感じられた。

 

「なのは、フェイト。気を付けろよ、何かあるぞ」

 

「うん!」

 

 ヴィータに対し力強く返事をするなのはと、静かに頷くフェイト。

 

 二人と同様に、失われていたアルフやプレシア達に関する記憶を取り戻した彼女は、既に普段の落ち着きを取り戻していた。

 

 しかし、それ以上に内側から溢れんばかりの気迫のようなものを発している。

 

 そんなフェイトに、ヴィータが話しかけた。

 

「あー、フェイト」

 

「なに?」

 

 顔をそらし、視線を合わせようしない姿を不思議に思いながら。

 

「あ、ありがとな。おかげで、はやて達のことを思い出せた」

 

 ぶっきらぼうな物言いをしようとしているみたいだが、表情は見えなくても耳まで赤くてはバレバレであろう。

 

 こんな時ではあるが、なのはと二人、気付かれないようにこっそりと笑いあった。

 

 ただ、フェイトの顔がすぐに凛々しさを伴う気負ったものに変わったことは、見ていたなのはにも分かった。

 

「ううん。それに、私達はまだ間に合うと思う」

 

 静かな物言いではあったが、底にあるのは――

 

「必ず取り戻す。もう二度と、母さん達を失わないために」

 

「(あ……)」

 

 ――怒りだ。

 

 魔族達に翻弄され、奪われる寸前だったのだ。あの時の記憶は、彼女の中で今も鮮明に残っている。

 

「もちろんだ! 徹底的にぶちのめしてやる!」

 

 ヴィータ達にとってもそれは同じ。自分達に温もりを与えてくれた主たる少女を、永遠に失うところだったのだ。

 

 途中で戦線離脱という屈辱のオマケ付きで。

 

 しかもその溜まりに溜まった鬱憤を、この半年の間は全く発散出来ずにいた。シグナムを相手に模擬戦もやったが、どうにもシックリこない。

 

 メーアに至っては戦う前から白旗を上げる始末だ。鬱憤を晴らすどころかいや増していくばかりである。

 

 しかし、相手がこんなことをするのであれば構う必要はない。思う存分暴れてやると、ヴィータは人知れず誓っていた。

 

「メーア、お前もとっとと起きろ! いつまで寝てんだ!」

 

 倒れている少女の頭の上から、置いたままだった相棒を回収して怒鳴る。

 

 だれがそれをやったかなんてことは、既に彼女の頭の中からは消えていた。

 

 その間に、なのはとフェイトもそれぞれの相棒を浴衣の内側から引っ張り出した――のだが……

 

「え……!?」

 

「これは……」

 

 待機状態のデバイスの周りには、黒い帯のようなものが幾重にも取り巻いていた。

 

 いや、帯に見えたがどうやら文字らしい。

 

 直接本体を手に持つことは出来たのだが、デバイスから抗うように発せられる光は、その文字の輪の外には抜け出せないようだ。

 

 どうやら、これでレイジングハート達を封じていたのであろう。

 

 なのはもフェイトもそれを見て驚きを顕にしていたのだが、やがて二人は両手で包むようにして相棒を持った。

 

 その顔には絶望も、悲壮感もない。瞑目し、うつむいた少女達にあるのは……信頼だ。

 

 両手を取り巻く形になっていた文字列が、内側から押されるかのように乱れ始めた。

 

「大丈夫だよね、レイジングハート。わたしも、絶対に諦めないよ。一緒に頑張ろう!」

 

「バルディッシュ。まだまだ終わりじゃない。これからも一緒に」

 

 二人の両手の隙間から光が漏れ出し、整然とした並びが大きく乱れる。

 

 二人から吹き上がった桜色と金色の魔力の輝きが、部屋の中を染め上げていくほどに文字が一文字ずつ弾かれ、次々と消えていく。

 

「風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に、不屈の心はこの胸に! レイジングハート・レジィナ、セーットアーーップ!」

 

「行くよ。take a shot セットアップ」

 

《stand by ready master. set up》

 

《yes sir. set up》

 

 光の中に最後の一文字が消え去り、白と黒――バリアジャケット姿の二人が現れる。

 

「いくぜ、アイゼン!」

 

《jawohl! panzer geist》

 

 赤い騎士甲冑を身に纏ったヴィータの足元でも、

 

「……酷い目にあった。さっきので私の大事なINTが下がったら、どう責任を取ってくれる?」

 

 起き上がりざまにそんなことを言うメーア。魔族としての力を失っている彼女は、着ていた浴衣姿のままだ。

 

「もう一度殴れば戻るんじゃね?」

 

「……打たれ強くなるだけだと思う」

 

 適当過ぎるヴィータの返答に、やれやれと肩を竦めた少女はポツリと、「おかげで」と呟く。

 

「……せっかくマークしていたはやての反応を、気絶していた合間に見失ってしまった」

 

「って、ここで何か起きてるの知ってたのかよ!?」

 

「……もちろんだ。この身は人間の子供だが、同胞の気配を察知するくらいは分かる。はやてのアレを避けるためだけに、温泉で結界を張っていた訳じゃない」

 

 怒鳴るヴィータに、悪びれた様子もなくメーアは答えた。

 

「やっぱり、魔族なんだ」

 

 なのはが呟き、フェイトはギュッとバルディッシュを握り締める。

 

「……ただ気配は微弱で狙いも掴めない。ただ、魔力を持たない人間達を真っ先に除外してきたからな」

 

 自分達の誰かだろうと推測を述べたメーア。

 

「……そして、その除外した者達に危害を加える様子もない。おそらくその狙いは――」

 

「お前な……」

 

「……うん?」

 

 その筋肉の付いていない肩を怒りに任せたヴィータがガシッと掴み、

 

「もっと早く言えってんだよ! 何か対策が出来たかもしれないじゃないか!」

 

 ――激しく前後に揺さぶった。

 

「……不確実な情報は私の沽券に関わる」

 

 揺さぶられながらも舌を噛まずに喋る少女が、そんな状態で何故か胸を張っている。

 

「なんで変な所で意地を張るんだ、お前は!」

 

 二人のやりとりを思わず唖然として見ていたなのはだが、そんな場合じゃないと分け入った。

 

「そ、そんなことよりヴィータちゃん、みんなを探す方が先だよ!」

 

「あ、そ、そうだな」

 

 ヴィータから解放されたメーアだが、頭を押さえてその場で踞ってしまう。

 

「……この身体はか弱すぎる。気持ち悪い」

 

「それでメーア。相手の正体と狙いは?」

 

「それと他のみんなは!?」

 

 勢い込んで訪ねる二人を片手で制したメーアだが、喋ろうとした所で口許を押さえた。

 

 

「……落ち着くまでちょっと待て」

 

「あーーっ、もう! お前は肝心な時に役に立たねぇな!」

 

「……実に理不尽だ。原因はどれもヴィータだというのに」

 

 ヴィータにブツブツと不満を言いながらも、メーアは二人に「すぐに分かる」と告げる。

 

 立ち上がりながら切れ長の目を動かし、面白そうに口の端を上げた。

 

「……どうも、自己顕示欲の強いタイプらしい。自らの策が我らに通用しなかったからな……業を煮やして出てくるみたい」

 

「なにっ!?」

 

 少女と騎士の人格が混ざりながらの話を聞いてなのは達が身構えるのと、

 

 

『アーハッハッハ!』

 

 どこからともなく、甲高い少女の笑い声が聞こえてきたのは――同時だった。

 

『たかが人間の分際で、よくこのアタシの術を破ったな! 特別に誉めてやるだわよ!』

 

「「「だわよ?」」」

 

 三人がハモって、その語尾を口にする。

 

『ふふん! やっぱり失敗してるじゃない。最初からワタシに任せれば良かったのだわさ!』

 

「「「だわさ……?」」」

 

 それはよく似てはいるのだが、どうやら別人のようだ。

 

 しかし、なのは達の眉間には皺が寄っている。

 

『よく言う。他の奴の始末を買って出て、まだ仕留められん奴は黙ってるでゴワス!』

 

「「「…………」」」

 

 三人目。しかし、なのは達は呆れて言葉も出ないといった様子だ。

 

「……窓の外」

 

 唯一反応を示していないメーアが、スッと指を向ける。

 

 なのは達がそちらに駆け寄ると、確かに空には三つの人影があった。

 

 青。黄。水色。

 

 それぞれの色に染められたミニドレス。

 

 色こそ違えど、三人とも全く同じ容姿と服装をしている。

 

 ただ青い子以外の二人は半透明で、実体ではないようだ。

 

 左端の青い子が動く。体重を右にかけながら右膝を曲げ、左足を真っ直ぐに伸ばす。両手で大きく弧を描いてから左上で固定し、

 

「アタシこそ、魔王“四姫将”が一人! 天空のソラキだわよ!」 

 

 続いて右端の水色の子は逆に、体重を左にかける。こちらは両手を忙しなく右上、左上と動かすともう一度右上に持っていった。

 

「同じくワタシは、溶水のミズキだわさ!」

 

 真ん中の黄色の子はその場で両膝立ちになり、両の拳を打ち付ける。

 

「同じくアッシが金剛のオウキでゴワス。以後、見知りおけ」

 

「「「………………」」」

 

 一陣の風が両者の間を吹き抜いていった。

 

 数秒ほど、ポーズを取っている三人を下から見上げていたなのは達が、揃ってため息をつく。

 

「こらー! なんだ、そのため息は!? 人間如きが魔王たるこのアタシに向かって、失礼だわよ!」

 

「青いのはともかく、ワタシをバカにするのは許せないだわさ!」

 

「身の程を知るべきでゴワスな」

 

 怒り出した三人を無視して、なのは達は困惑気味に顔を見合わせる。

 

「なあ。魔族ってのはみんなあんなのばっかか?」

 

「少なくとも、みんな独特ではあった……かな?」

 

「関係ない。わたし達の敵なら倒すしかない」

 

 一歩前に踏み出したフェイトが、空にいる三人を見据えた。

 

 外に繋がる障子なんかを開け放ちながら、ボソリとメーアが呟く。

 

「……私が『あんなの』に含まれているのか気になるが、油断はするな。あんなのであっても、お前達から気付かれずに記憶を奪っていたのだぞ?」

 

 その発言にハッとするなのは達。

 

「見た目で判断したら駄目ってことだよね」

 

「メーア。あなたも魔族の一人なら、何か知ってるのでは?」

 

 愛杖を油断なく構えながら言うなのはの横で、相手から眼を離さずに問うフェイト。

 

 しかし、メーアからの答えはアッサリしたものだった。

 

「……知らぬ。聞いたこともない」

 

「――って、知らねえのかよ!? 闇のうんたらって偉そうな肩書きを持ってんだろ!?」

 

「……円卓の騎士だ。仕方なかろう、魔界の広さがどれだけあると思ってる? 時空管理局が管轄する次元世界を全て合わせても、まだその数倍はあるのだぞ」

 

 その想像を遥かに超える広大さに、想像したフェイトとヴィータはイヤな光景を思い浮かべてしまった。

 

 それだけの土地に、満員電車のようにひしめきあう魔族達の姿を。

 

 なのはは次元世界全てと言われても今一つピンとこないが、とにかくとてつもなく広いということは伝わった。

 

 二人の表情からそれを読み取ったメーアは、

 

「……まあ、大きく間違ってない。下級はそれこそ星の数、ある程度の強さを示す――俗に言う魔王級にしても五桁六桁はいるのだから。ピンからキリではあるし、その上の大魔王クラスからはグッと少なくなるがな」

 

「こらー! こっちの話を聞けだわよ!」

 

「上のあいつらが魔王ってのも、あながちウソってわけじゃねえんだな」

 

「……そういうこと。だから、油断だけはしない方がいい。お前達は結果的に魔族、もしくは対抗出来る存在が身近に長くいたがために、奴らの術に抵抗出来たのだ」

 

 不本意だろうがと、フェイトに視線を向ける。

 

 プレシアに、長年二体の強力な魔族がとり憑いていたからというのは、確かに納得出来ないことだった。

 

「でも」

 

 しかし、それなら気になることがあるとフェイトが疑問を口にする。

 

「近くにいた私が抵抗出来たのなら、一緒……利用されていた母さんは?」

 

 言い直したのはただの心理的なモノだ。魔族と“一緒”よりは“利用されていた”の方が、いくらかは良いというこだわりである。

 

「……それなら」

 

 メーアが説明しようとしたところだった。

 

「無視するなって、言ってるんだわよ!!!!」

 

 空気が震えるほどの大音量がそれを遮る。

 

 思わず耳を押さえながら見ると、肩を上下させながらこちらを睨むソラキの姿が。

 

「ハハ。手緩いから舐められるんでゴワス」

 

「遊んでるだけのオウキには言われたく――痛っ」

 

 嘲笑するオウキと、言い終える直前に不快そうに顔を歪めるミズキ。

 

「えーい! 子供を使って親の絶望を喰おうと思ったが、やめるだわさ! ……ソラキ、オウキ! フィールドを一つにまとめるんだわさ!」

 

「……なるほどな。複数に分割して、エリアを作っていたか」

 

 相手の言葉から、どこに捕らえているのかを探っていたメーアは得心したとばかりに頷く。

 

「人間相手に何やってるんだわよ!」

 

「だから、アッシは最初からその方が早いと言ったでゴワス。小細工よりは直球が一番と」

 

 口論に近い言い合いを続けながらも、三人の魔族の少女達は同時に嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

 その背後に、三人の色が混ざりあった異質な月が現れた。見ているだけでも、それが放つ薄気味悪さが伝わってくる。

 

 景色が一変した。

 

 旅館はあちらこちらが崩れ落ち、そして――

 

「み、みんなが……!」

 

「母さん!」

 

「はやて! ……クソ、やっぱ見た目通りじゃねえってことか!」

 

 傷付き膝を着く――あるいは地に伏す仲間達の姿だった。

 

 前線で立っているのはプレシアと、士郎と恭也のみという状況だ。

 

「さあ!」

 

「第二ラウンドと」

 

「いくでゴワス」

 

 不敵な笑みを浮かべ、ミズキ共々実体化したオウキが指を鳴らした。

 

 一同の目の前でみるみる大地が盛り上がり、地中からは次々と何かが這い出してくる。

 

 森の奥にも無数の赤い光点が灯り、それらはユックリとした速度でこちらに迫ってきていた――

 

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