魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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※ 前話よりかなり間の空いた投稿となり、申し訳ありません。

そして、初登場の敵が強いのは様式美にしてお約束。
 
 



その86 旅館――魔姫狂舞

 

 

「なのは、フェイト! 気を付けるんだ、奴らの見た目と態度に騙されるな! ――グッ」

 

 傷付いた身で二人に注意を促したクロノが、圧縮された風の弾丸に弾き飛ばされた。残っていた建物の残骸に叩きつけられ、崩れたソレの中に埋もれて見えなくなる。

 

「クロノ君!」

 

「クロノ! よくも」

 

 これまでの戦いで、経験の少ないなのは達を引っ張ってきたクロノ。戦闘巧者な彼が倒されたことに、なのは達に少なからぬ動揺が走った。

 

 そのなのはとフェイトが見上げた先、空中から今のを仕掛けた青いミニドレス姿の少女が、その顔にせせら笑いを浮かべている。

 

 なのは達と見た目の年齢は同じに見えるが、もちろんそんなものが当てになるはずもない。

 

「フン! この魔王“四姫将”である天空のソラキ様に、餌の人間如きがいつまでも失礼な口を利くからだわよ!」

 

 見下すように顔を傾けた拍子に、ツインテールの髪が跳ねる。

 

 その両手が、歪な形の両刃を持つ斧へと変わっていく。

 

 そんな刃を舌で舐めな上げながら、魔の少女は“ニヤァ”と口の端を吊り上げる。喜悦という狂気を、その目に宿して。

 

「お前達の恐怖は、果たしてどんな味がするのかとても楽しみ、だわよ」

 

 言って、ソラキはさらに上空へと舞い上がる。

 

「逃がさない」

 

「あ、フェイトちゃん、待って!」

 

 すぐにそれを追って飛び上がったフェイトの後に付いて、なのはも不気味な月が浮かぶ空へと。

 

 靴から発生した桜色の魔力で出来た光翼が、星無き空を彩る。

 

 逃げるソラキを追う二人だが、

 

「うっ!?」

 

「フェイトちゃん?」

 

 先行するフェイトの動きが突如止まり、蜘蛛の網に絡め取られた蝶のように、空中でもがき始めた。

 

 それを見て速度を上げたなのはの前で。フェイトの身体が、真横からの(・・・・・)ソラキによる攻撃で、地上へと吹っ飛ばされていく。

 

「フェイトちゃん!? レイジングハート!」

 

 見た同時に反応したなのはが、愛杖を地上へ真っ逆さまなフェイトに向ける。

 

 主人である少女の言葉にしない意を組んで、フェイトの身体は叩き付けられることなく、発生した桜色の網に受け止められた。

 

 それにホッと一息吐くなのはであるが、

 

《master!》

 

「っ!」

 

 レイジングハートからの警告に、悪寒を感じたなのはは咄嗟の判断で、そちらへとプロテクションを発動する。

 

 刹那、振るわれた凶刃を受け止めた魔力の盾から、激しく火花が散った。

 

「あそこからアタシのファルシャを受け止めるとは、人間如きの割には良い勘してるだわよ!」

 

 プロテクションを力尽くで破ろうと、ソラキは両の手斧に力を加えていく。

 

「え、餌とか、人間如きとかって言わないで! わたしの名前はなのは。高町なのはだよ!」

 

「うるさいだわよ! 食べるだけの餌の名前なんか、いちいち覚えてられないだわよ!」

 

 叫ぶなのはに、負けじと大声を発するソラキ。

 

 魔力光が散るプロテクションを挟んで、なのはとソラキが睨み合う。

 

 両者がさらに出力を高めたことで、ますます激しさを増していく。

 

「ま、また言った!」

 

「言って欲しいなら何度でも――っと」

 

 ソラキが身を翻すと、今まで彼女が居た場所を金色の魔力の矢が幾本も通り去っていく。

 

「プラズマランサー……ターン!」

 

「フェイトちゃん!」

 

 周囲に発射体(スフィア)をいくつも浮かべたフェイトは、なのはの横に並ぶと同時に追加の魔力弾を解き放つ。

 

 加えて、先の飛び去っていったソレらもクルリと向きを変え、猛然とソラキを追撃し始めた。

 

 空中に身を踊らせたソラキはその場に留まり、飛び交う雷槍を最小限の動きでかわしていく。

 

 彼女の内面を知らない者が見れば、可憐な妖精がダンスしていると思うかもしれない光景だ。

 

 その内に潜むのは、牙を生やした獰猛な肉食獣であるが。

 

「なのは、さっきはありがとう」

 

 相手を見据えて誘導の修正を加えながら、先程の礼を言うフェイト。

 

「ううん、ぶ――」

 

 無事で良かった、となのはが言いかけた時だ。

 

「――こいつら、見えないバリアでも持ってるんだわよ? 確かにブッタ斬った手応えがあったのに、おかしいだわよ」

 

 今もプラズマランサーの弾幕を避ける姿を見ていたはずなのに、その声が背後から聴こえてきたのは。

 

「えっ!?」

 

 慌てて背後に振り返った二人。だが、そこには誰もいない。

 

「いない!?」

 

 ハッと気が付いたフェイトがさらに背後――元の追尾していた方へ向き直ったが、そこにあった姿までもが消えていた。

 

「ど、どうなってるの?」

 

「これは……」

 

 相手の不可思議な動きによって、二人は完全に撹乱され、動きを止めてしまっている。

 

 それはほんの、僅かな時間。

 

 しかし、

 

「クラウド――」

 

 それだけで十分なこともあるのだ。

 

「う」

 

「えっ」

 

 見上げる二人の視界が青に染まった。

 

「スプリッタァァァ!!」

 

 まさに一瞬。天から地へと、雲すらも割るだろう青い閃光が走る。

 

 彼女自身と、魔力を帯びた両の手斧が描く三本の輝線が宙に()かれていた。

 

 ソラキが着地すると同時に、そこはまるで隕石でも墜ちたかのような惨状になる。着弾と言っても、あながち過言ではないだろう。

 

 すなわち、土砂を空高く巻き上げたそこは半球状に抉れ、クレーターと化している。

 

「あ、しまっただわよ。こいつらを使って他の奴らの恐怖を食べるつもりだったのに、その前に殺してしまっただわよ」

 

 アッケラカンと言う彼女の左右に、新たに降ってきた二つの白と黒の流星によって、小さなクレーターが生まれた。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「ワタシにとっては、そのまま倒れてくれてる方が好都合なんだわさ」

 

 何もない空中に、他メンバーと同じ長手袋とタイツに包まれた手足を組んで座り、溶水のミズキを名乗った少女がそこに居る者達に告げる。

 

「贅沢を言わなきゃ、そのままでもそこそこの食事には、なるといえばなるんだわさ。だから……」

 

 水色のミニドレスを靡かせながら、鋭くも傲慢な眼差しで足元を睥睨する。

 

「そのままゴミ虫のように這いつくばって養分となるなら、ワタシに傷を負わせたことを許してやっても良いだわさ」

 

「断る」

 

 大地に刺さったままの剣――レヴァンティンの柄を掴み、支えにしたシグナムが立ち上がる。

 

 纏う騎士服もあちこちに破損が目立つ。

 

「主はやて、お怪我はありませんか?」

 

「わたしのことはええ。今も、シグナム達が庇ってくれたから大丈夫や。せやけど、リインが」

 

 最後に参戦してきたなのは達よりも、ほんの少し前にこの場へ現れたはやて。戦闘時間も当然短いため、さしたるダメージも受けていない。

 

 彼女自身は。

 

「リインが? リインフォース、どうした?」

 

『ユニゾンするまでに、少しダメージを受けていただけです。問題ありません、我が主』

 

 そう言うリインフォースではあるが、明らかに疲労しているのがはやて達には分かった。

 

 現在は切り離されているとはいえ、元は夜天の書の管制人格にして、ヴォルケンリッター第五の騎士とでも言うべき彼女である。

 

 ゆえに、その能力は非常に高かった。

 

 だが、あの時の戦いでその力のほとんどは奪われてしまっている。力を奪った“闇の女王”が見せたような鉄壁さや再生能力も、今の彼女にはない。

 

 その分、どさくさによって新たに獲得した能力もあったが、防御に関しては確実に低下しているようだ。

 

(主へのサポート能力も落ちている、か。個人戦闘能力に特化し過ぎたこの状態は、今後を考えれば我が主への相談が必要だな)

 

「――イン? リイン、ほんまに大丈夫なんか?」

 

 リインフォースは呼ばれて、意識を思考の海から引き上げる。

 

『失礼しました。今のところは、行動に支障はありません、我が主』

 

 それに、とリインフォースが続ける。

 

 玉座に座る傲慢な王の如く、こちらを睥睨し続けるミズキ。

 

 旅館の右翼にいた自分達の、背にしていた建物が執務官の少年を受け止め、脆くも崩れ去っていくのを感じながら。

 

『奴らをどうにかしないことには、事態を好転することは出来ないかと』

 

「……そうだな」

 

 リインフォースの言葉に頷き、シグナムはデバイスを構える。

 

「みんなで楽しい温泉旅行やったはずなのに、なんでこないなことになってるんやろな」

 

「主はやて、旅館主催のアトラクションと考えるのはどうでしょうか?」

 杖を構えながら嘆く王たる主人の少女に、烈火の将はテレビで覚えた知識を披露する。

 

「そうやなあ……怪我とストレスと命の心配がないなら、一考くらいはしてもええかな?」

 

「ふーん? このアタシを目の前にしてるのに、随分と余裕を見せてくれるだわさ」

 

 家族の会話を断ち切ったのは、いきなり不機嫌さを露にしたミズキ。

 

 ゆっくり立ち上がった彼女の顔には、それまでの見下した態度からは一転、不愉快さが前面に押し出されていた。

 

「『烈火の将、我が主。今は時間を稼ぎましょう。あの戦いと同じならば、奴らを倒す鍵は高町なのはとフェイト・テスタロッサにあります。あの二人か、もしくは鉄槌の騎士と“魔道士”が合流したチームが倒すのを待って、こちらも反撃に移ることを提案します』」

 

「『了解した。……ヴィータが文句を言っていたのはそのせいか?』」

 

「『あたしだってはやてのトコに行きてぇのに、とは言われたな。だが、これが戦術的にベストだろう。既に執務官と大魔女も了承済みだ』」

 

 思念通話で素早く打ち合わせをする二人。

 

 ミズキが胸の前で、クロスさせた両の拳を握り込んでいた。それが攻撃の前動作と知るシグナムは、はやてを庇うようにして立つ。

 

「『よ、よっしゃ! わたしも頑張る――』」

 

「『我が主には、もう一つ大事な役目が』」

 

 意気込むはやてに、リインは自分の考えを伝える。それを聞いたはやての目が驚きに見開かれるが、すぐに意志を固めた少女は小さく頷いた。杖を持つ手に力が込もる。

 

 動きに気付いたミズキの眉が跳ね上がった。

 

「あくまでアタシに抵抗するその態度、気に入らないだわさ!!」

 

 激高に合わせて、両手の甲から四本ずつ刃が突き出てくる。刃渡り十五センチほどのソレが、歪な月の光を凶悪に照り返す。

 

「来る――――っ!」

 

「シャーーーーッ!!」

 

 間の距離など関係ないとばかりに、一気に飛びかかってきたミズキ。

 

 縦に振るわれた右の爪をレヴァンティンで、続く左の爪による突きを鞘が受け止めた。

 

 ジリジリ迫る爪と食い止める力が噛み合うが、拮抗したのは僅かな時間だ。

 

「――やはり……化物染みた、凄まじい力、だ」

 

 足が押されている。

 

 前に踏み出して体重をかけていたはずが、それでも深く地面を抉りながら後ろへと。しかし己の意思通りに、自分からは一歩たりとも後ろへは引かない。歯を食い縛り、全力で抗う。

 

「こ、コノォォォッ! 生意気だわさーー!」

 

 吠えて、さらに力を加えてくるミズキであるが。

 

「――――フッ!」

 

「なっ!」

 

 鋭い呼気と共にシグナムは身を捻り、凶爪を左へと受け流したのだ。

 

 それにバランスを崩したミズキの身体が泳ぎ、

 

「ハアッ!」

 

 その隙を逃さず、放たれたシグナムの左膝がカウンター気味に、ミズキの腹部へ突き刺さる。

 

「グッ…………ハ!?」

 

 自らの勢いを逆に利用された形で、身体をくの字に曲げて吹っ飛んでいくミズキが、かろうじて残っていたブロック塀に叩き付けられ――

 

「陣風っ!」

 

 そしてそれも粉砕し、水平に放たれた衝撃波がミズキをさらに遠くへと運んでいく。

 

「主はやて、今です!」

 

「う、うん! 来たれ、聖なる光よ!〈ホーリー〉」

 

 神々しいまでに白く輝く光の球がミズキの飛んでいく方向の上空に現れると同時に、はやての指示で水色の少女に撃ち落とされる。

 

(『上手く相手に隙が生まれたら、主の魔法を奴に放って下さい。データ通りならば、奴らに通用するやもしれません』)

 

「――が、ガアアッ!?」

 

 墜ちてきた光球に飲み込まれたミズキが苦痛の声を上げていた。

 

 魔族達とは対極に当たる属性の力。

 

 最上位のアドヴェントは現在(いま)のはやてでは使えないが、様子を見る限りでは下位のそれでも十分な効果はあるようだ。

 

 光が消え去り――ガクリと膝を突き、項垂れるミズキ。

 

「勝負あり――か?」

 

「え、ホンマに?」

 

「『これは、予想以上に効果がありましたね』」

 

 警戒のため距離を取って様子を窺っていたが、その場からピクリとも動かないミズキ。倒れこそしていないが、はやて達の位置ではそれ以上のことは分からない。

 

 頭上では、なのはとフェイトがソラキと空中戦を繰り広げていた。もう一人の相手、オウキと戦闘中のヴィータからの連絡はまだないが、あちらにはプレシアも含めて人数も多い。

 

 ザフィーラとシャマルもいる。そうそうに戦線が崩れるとは思えなかった。それに魔導師や騎士ではないが、恭也と士朗に美由希もいる。地上戦だけならば、彼の者達の戦闘力は頼りになるだろう。

 

「この場は私が引き受けます。主はやては、クロノ執務官を確認して、高町なのはとテスタロッサの援護をお願いします」

 

「了解や! シグナムも気を付けるんよ? 手負いの獣は手強いからな」

 

「承知しました。……リインフォース、主はやてを頼んだぞ」

 

 隙なくレヴァンティンと鞘を構えるシグナムをその場に残し、はやては倒壊した建物を目指して飛んだ。

 

「『油断するなよ、烈火の将。メーアの仲間達と同類と考えた方が良い』」

 

 メーアの仲間、好き勝手していた彼女の同僚達のことである。メーア自身の話と、直接戦ったことのあるなのは達の体験談を考慮すれば、これで終わりと判断するのは早計だろう。

 

 そのため、シグナムとリインフォースははやてを遠ざけようと芝居を打ったのである。

 

 それにシグナムは、先程から既に違和感を感じていた。永い時間、戦の場に身を置いていた彼女だからこそ、その変化に気付けたのだ。

 

「(なんだ……この空気が絡み付く感じは。 風……いや、これは水か? ――水だとっ!?)」

 

 名乗りとは違い、目の前の相手が使わなかった力。

 

「――ッ! しまった、主はや――」

 

「ファルシャ!」

 

 振り返ったシグナムが目にした光景は、なのは達と戦っていたはずの相手が、建物に到達する直前のはやてに襲いかかっている姿だった。

 

 地を蹴り、そちらへ飛び出していくシグナム。リインフォースが居るとは分かっていても、主の危機を見過ごせるはずもない。

 

 だが。

 

「クッ、間に合わんっ!」

 

 相手はその両手――斧と化したソレを振りかざしている。

 

 愉悦の笑みを浮かべながら、明確にして強烈な殺気と共に迫り来る手斧二本。リインフォースの支援を受けている主たる少女は、それに対し杖を振りかざして――すり抜けた。

 

「な……に?」

 

 両者が激突の瞬間、突撃してきたソラキの身体は、そのままはやてを通り抜けてしまったのだ。

 

 予想外な出来事に呆然とするシグナムだが、それでその場に止まるようなことはしない。はやての元を目指す。

 

 

「主はやて! リインフォース!」

 

 余りなことに、その場に立ち竦んでしまったのであろう。怪我一つ負っていないことに、シグナムは肩を撫で下ろす。

 

「主はやて、ご無事で何よりです」

 

 返事はない。だが、それも無理もないと、シグナムは思う。数奇な巡り合わせがあったとはいっても、はやてはこれまで普通の暮らしを送っていたのだ。あんな生々しい殺気を当てられることなど、今まであるわけがない。

 

 シグナムが彼女を安心させるために伸ばしたその手は、しかしむなしくすり抜けてしまう。

 

「なっ!?」

 

 むしろ、シグナムの目の前ではやての身体はボヤけていき、徐々に薄くなると空気中へ溶けるように消えてしまった。

 

 さすがのシグナムもそれには驚愕し、

 

「――逃げ水、浮島、お前達はアレコレ分類しないと気が済まないみたいだが、ソレをまとめて蜃気楼と呼んでいるみたいだわさ」

 

 永久凍土よりも冷たい氷のような声が、シグナムの耳元で囁かれる。

 

 水というは物質はさまざまな形に姿を変える。熱すれば水蒸気となり、凍てつかせれば氷となる。

 

 ミズキは、その水そのものだ。ただし、極端にそれが変動する。熱しやすく、冷めやすい。

 

「見てるものは真実? 聴こえているのは確かな音だわさ? それが正しいものだと、絶対に言いきれるだわさ? 今まで築いてきたものは、本当に存在してるだわさ?」

 

 前後、左右、上下。

 

 内から、外から。

 

 耳を塞いでも聴こえてくるミズキの声。

 

「た、戯言を!」

 

「戯言? 今ここにいることは、連綿と続く夢かもしれないだわさ。お前もアタシも、全て幻ということもあるだわさ」

 

「違う! ここにいるのは夢などではない! 私も、他の――――」

 

 そう叫んだシグナムの眼前、ほんの目と鼻の先にミズキの顔が現れる。

 

 底冷えするような光無き水色の目に見据えられ、口の両端は吊り上がって三日月のようだ。

 

「そう……これは現実だわさ。ただ一つの、お前が得た結果という」

 

 甘い吐息にも似た、囁き声。

 

 煌めく爪に、動きを止めていたシグナムの目が大きく見開かれた。

 

「クラウドスプリッタ!!」

 

「ペラジッククリーヴ!」

 

 本物のソラキも合わさったミズキの刺突による一撃は、シグナムの意識を根こそぎ刈り取っていく。

 

 そしてソラキは、不意打ちの際に着地したシグナムの背中を蹴って、一気に天高く舞い上がる。

 

 ミズキの幻に翻弄されている白と黒の少女達に、万全な状態で技を撃ち込むために。

 

 

 

 

 

 

「な、なんやこれ、どうなっとるん? 飛んでも飛んでも、建物に辿り着けんやない」

 

 シグナムと分かれたはやてだが、飛べばすぐのはずの建物との距離は、いっこうに縮まる様子がない。

 

『魔力的な要素ではないようですが、状況的にはコレも相手の仕業と考えるべきでしょう』

 

「こういう時はどうしたらええんかな? ゲームとか本とかやと、何かアイテムがあったりするんやけど」

 

『すみません、我が主。ヴィータと違い、私はそういったものには疎いです』

 

 今の状態も分からない中で闇雲に飛び続けるのは魔力が無駄だし、なにより危険だと判断したはやて。そこに留まり、この状況を打破すべく頭をフル回転させる。

 

「考えても無駄だわさ」

 何の前触れもなく、目の前に現れた悪魔の声が囁くと、回転はアッサリ止まってしまった。

 

「あ……」

 

「お前達は、最初からアタシ達の手の中にいるのだわさ。こちらが有利になるように、ごく自然な形で誘われているのに気付かずに。そしてお前達の最大の失策は、アタシ達一人ずつを相手に戦っていると、思い込んだことだわさ」

 

 ミズキのそれは、はやての見たドラマやアニメの一シーンのようだ。まんまと裏をかかれて悔しがる者を前に、自ら犯行の手口を明かす怪盗の。

 

 しかし、これは虚構ではなく現実。

 

 一歩二歩と、はやてが後ろに下がった分だけ距離を詰めながら。

 

「アタシ達は常にチームで動いているのだわさ」

 

 黙っていれば妖精のような可愛らしい顔を邪悪に歪ませ、獲物を前にした捕食者らしく舌舐めずりをしながら。

 

「主と呼ばれていたからには、意外にもお前が群れのリーダーだったか。それならば、この四姫将が長である溶水のミズキが、お前の恐怖を魂の髄まで喰らってやるだわさ」

 

 三つの隕石が庭先だった場所に墜ちる中、歩み寄るミズキを前にしたはやての手は、しかしキツく杖を握り締めていた。

 

 倒れている騎士を目にした王の内側が、恐怖から別の感情へと彩られてゆく。

 

「こっちからも教えといたる。家族を傷付けられた窮鼠はな、猫どころか獅子を噛むこともあるんよ」

 

 魔王を名乗る少女が足を止めて不愉快そうに爪を構えると、最後の夜天の王もまた、杖を向けて魔法を唱え始めた。

 

 

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