魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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※ お待たせ過ぎて申し訳ありません。戦闘パートラストです。
 
 
 
 
 



その94 四姫敗走

 

 

 遂に統合した四つ目の戦闘フィールド。

 頭上から妖しく照らす四色の月光の下、異なる『赤』を纏った二人の少女が対峙している。

 

 一つは赤金。

 黒いアンダーウェア姿の身体からは、燃え盛る炎のような闘気が時折雷にも似たスパークを生じながら吹き上がっていた。その背には一対二枚の緋翼。濃紺だったはずの髪色も紅に染まり――否、()()()おり、同じく瞳には強い怒りを宿している。

 

 相対するは暗赤。

 じわりじわりと。それはまるで陽炎の如く、少しずつ蝕むように範囲を拡げながら、やがては全てを飲み込まんとして揺らめいていた。

 

 真紅はルティシア。

 

 暗赤色はセッカ。

 

 世界を守護する神竜に仕えし一族と、他者を糧に欲望を満たす魔に属する者。

 

 長く、永い歴史の間。時を超え、場所を変え、常に争ってきた種族同士。

 

 ルティシアは身体をやや横に開きながら、切っ先を向けた右手を後ろに引き、逆手に持った鞘を前に構える。

 

 対するセッカは身を屈めるようにして、両手で持った炎の槍の穂先を下方へ向ける。

 

 互いに手の内は知らないのだが、選んだのは偶然にも同じ系統の技だった。

 

 それは迎撃ではなく、相手よりも先に一撃を加えるという――攻めの姿勢。

 

(――セッカ! 分かったでゴワス。そいつの気配、おそらく噂に聞いた神竜族の可能性が高い! 恨み骨髄なアッシら魔族の天敵。ソラキが負傷してる今、油断するな!)

 

 仲間から飛んできた、苦虫を噛み潰したかのような思考波。しかし、

 

「(し、シンリュウゾクってなんでヤンス? それにテンテキ? ……さ、さっぱり分からん。分からんでヤンスが……しかし、『勝てば魔軍、敗者に口無し、全て良し』という言葉もある)」

 

 知識不足でそれを知らない彼女は、目の前の相手を自分たちと『似て非なる存在』だと判断した。

 

 ちなみにソラキが『興味の向いたこと以外に関心を示さない』とするならば、『興味のないことはすぐさま忘却する』のがセッカである。

 例えそれが、魔族としてごくごく当たり前な事柄であっても。

 

 その癖、知らないことは素直に知らないと言えるソラキと違い、彼女のプライドは地上から遥か上空を突き抜けるほど高い。そのため自分から訊ねることはせず、それとなく相手に説明させるのだ。

 

 自分は常にカンペキ、ミスなどはあり得ない。

 

 彼女にとって仲間とは自分たち四人だけ。それ以外は敵でしかない。それさえ分かっていれば良いのだ。

 

 ――この時、オウキにいつもの平静さがあれば、セッカのそんな面にもきちんと考慮したであろう。しかし予想外なソラキのリタイアと、そこから立て直すのに頭がいっぱいだったがために、『当たり前なことに説明はいらない』と、ごく普通な判断をしてしまったのだ。

 

 それが四姫将を名乗る彼女達にとって、痛恨のミスとなった。

 

「この化け物め!」

 

「それはお互い様です。あなたも、それに私も、人間たちから見たら同じ“バケモノ”でしょう」

 

「ハッ! オウキから聞いたでヤンスよ! お前は、……えっと、シンリュウゾクってヤツだろ!?」

 

「大雑把に言えば。それがどうかしましたか?」

 

「(やっぱり居るんだ、シンリューゾク)――フン。弱くてちっぽけな人間なんか、所詮は我輩たち魔族のエサに過ぎない生き物。そんなのを守るだなんて、ムダなドリョクでヤンスよ」

 

 そう嘲笑うセッカに、ルティシアは無表情に言い返す。

 

「ムダかどうか、あなたと論じるのはそれこそ無駄というものです」

 

「なにおう!」

 

 護る者と壊す者。

 そこには全く異なる思想を持つ両者の、埋めようがない価値観の差がある。

 

 まるで磁石の両極のように反発するそれは、決して相容れないモノだ。

 

 しかし、何事にも例外はある。池に投じた小石がいつも同じ結果をもたらさないように。魔が聖に、聖が魔へと変わることもある。

 

 はやて達と暮らしているメーア、競争世界を嫌ってセイティーグに身を寄せる魔族がいれば、アシェラのように冥魔と共に行動する竜族もいるのだから。

 

 逆に、それらは例外中の例外ともとれる。

 

 生き物は元来、種々の本質や在り方から大きく外れた行動はしないものだ。せいぜい、成長していく過程で千差万別とはいっても、人間は人間なのだ。

 

 その過程に()()()()()()、だが。

 

 が、そんな人間と違い、魔族は個々の性格は別にしても変わらない。閉ざされた魔界における弱肉強食社会では、大きな変化は起こりにくいからだ。ただ相手を陥れ、力を奪い取っては滅し、次の獲物を探す。その繰り返し。

 

 弱者は強者になろうと足掻き、そうはさせないために強者は弱者を滅ぼす。

 

 だからこそ彼らは魔界の外へも目を向ける。強くなるための餌場として。良質な足場とするために、弱者へ襲いかかる。

 

 メーア――魔族メイアは元は人間。そして主人に仕える騎士としての面に重きを置いていた。それがために迅速かつ確実に主人を救出するためとして、人間をどうこうするのも出来るだけ避けていた彼女だが、やむを得ないとあれば戦火を交えるのに躊躇いはない。

 

 事実、彼女の同僚である他の騎士たちはなのは達と平然と交戦している。それは人間に対してへの考え方に相違があるからに他ならない。

 

 魔界へ偶然に迷い込んだ人間を保護しているというフロンティア。メーアの主人たる彼女もまた、元は人間だ。世界を旅する冒険者だった彼女は数奇な運命の巡り合わせの果てに、“魔王”ウルグの魂を受け入れて、彼の騎士を名乗る者達の王となる。

 

 魔王の魂を宿しても、それでも彼女は人間寄りであり続けたのだろう。

 

 だからこそ、それへ反発する者も当然ながら出てくる。現に十二人いた円卓の騎士も離反により、今やその数を半減させていた。

 

 斯様に一つの“変化”が起きることで、内に外にといくつも影響が出てしまうのだ。

 

 では、今ここにいる四人はどうかといえば――。

 

「ですが」

 

 すぐに飛び出せるよう足先へ重心を移しながら、火竜の少女は言葉を続ける。

 

 それに気付き、セッカも姿勢をググッと低くした。

 

 一触即発。

 

 ――外界で、あまつさえ自分勝手な理由で他者を傷付けることを何とも思わない。放置すれば、それだけ被害を増やすことになるだろう者達。

 

 誰もが思い浮かべる、魔族らしい魔族。

 

 なんとしてもこの場でどうにかする必要があった。

 

「“私達”はこれまでもそうしてきましたし、きっとこれからもそうするでしょう。しかし今は、なにより私がそうしたいのです!」

 

「そんなにやりたいなら、あの世でたっぷりするがいいでヤンス!」

 

 叫び、ダン、と先に弾丸の如く飛び出したのは――セッカ。相手の心臓に狙いを定めた彼女は、勢いそのままに空を駆ける。

 

「ハッハーーッ! 我輩の方がはや――――ッ!?」

 

 その場から、捉えていたはずのルティシアの姿が消えていた。

 

 いや――。

 

「(も、もうこっちの懐に)――ヒッ!?」

 

 余りにも強烈な殺気に身が竦む。

 

 既に相手は穂先の内側、ほんの数センチの位置に。

 目と鼻の先で真紅の視線が自分を貫いた時――セッカの着ていた赤いミニドレスの右の肩口が裂け、凍てついた冷気を伴う激しい痛みが走る。

 

 ――貫かれたッ!

 

 身体を炎化させて避ける暇もない、高速の突き。

 

「ガッ――(コレ、氷属性の魔力剣か……!)」

 

 普通(ただ)の剣なら、精神生命体である自分を傷付けることは出来ない。それが可能ということは、これは普通の武器ではなく――自分たち(魔族)()()()()()ことも示している。

 

「神竜剣火竜爪牙≪裂翔≫」

 

 淡々と告げた声は、しかし相手には届いていない。

 

 右肩から刀身が引き抜かれる感覚と同時、間髪置かずに続いた鞘による一撃を顎に受け、小柄な身体は宙を舞っていたからだ。

 

 凄い勢いで吹っ飛んでいったセッカを視線が追い、闘気をさらに吹き上がらせたルティシアの翼が、大きく左右に広げられた。

 タン、とその足が静かに大地を蹴る。

 

 

「チィッ!」

 

 数百メートルばかり飛ばされた挙げ句、遠のきかけていた意識を取り直したセッカはなんとか空中で踏み止まっていた。

 そんな彼女を、地上からここまであっという間に追い付いてきたルティシアの刀が逆袈裟に薙いだ。

 

 情け容赦のまるで無い一撃を、セッカが今度は間に合った炎化でかわす。斬られた断面から上下に炎が広がる。

 

 そうしてルティシアに気取られぬよう、彼女の背中側の離れた位置に移動し――たのだが、すぐさま反転した竜の少女は追撃の様相を見せている。

 

「認めるのは癪だが、身体能力ではまるで勝ち目が無さそうでヤンスな」

 

 たったの二撃で大きなダメージ。打ち据えられた顎に手をやって……再びの斬撃を炎化で避けた。

 

 持ち前のプライドの高さから、相手より劣っていることは認めたくはない。

 

 ゆえに彼女はこう考える。

 

 ()()()()()()()()()()()の相手なら魔界にだってごまんといるし、自分たちは襲いかかってくるそれら全てを撃退してきた。

 

 ――ならば、勝てる。

 

 と。

 

 ついでに、当初の目論み通りにルティシア(アレ)の肉体も我が物とすればいい。

 

 ニヤリ、と口の端をつり上げる。

 

 ルティシア本人が聞いていれば、「皮算用にもほどがあります」などと言っていたであろう。

 

 しかしセッカは皮算用という言葉の意味を知らないし、よしんば分かったとしても自信満々に否定したはずだ。

 

 勝つのは我輩だから間違っていない、と。

 

「奪ったばかりで、まだ完全に我輩のモノとはなってないが!」

 

 斬撃からの闘気を這わせた蹴りを炎化でかわした後に、これまでより遠くに現れたセッカの投げ捨てた槍が燃え消えたのを見て、何をする気かと竜の少女は動きを止めた。

 

 グッと力んだ魔族の少女の臀部から何かが生えてくる。そうして短いドレスの裾を捲り上げながら現れたのは、モフモフした暗黄色の尻尾。

 その数、九本。

 オマケとばかりに、セッカの頭にはやはりモフモフな三角形の獣耳がピョコンと飛び出す。

 

「フハハハハ! ここに居た奴らから貰った力、とくと見るでヤンス!」

 

 セッカの尻尾。その全てが青黒い炎に包まれ、静かに大きく燃え上がったそれはやがて大きな一つの火柱へと。

 

「火竜すら焼く魔界の炎をナメるなよ、でヤンス!」

 

「………………」

 

「狐火、最大パワー――」

 

      ※ ※ ※

 

 

 水には様々な顔がある。

 

 普段は穏やかな姿を見せていたとしても、時に大岩をも穿つ激流となり――時に、鋼鉄をも切り裂く刃となる。

 

「アクアギロチン!」

 

 頭上でクロスさせた両手の間、何もない空間から生じた水は瞬く間に巨大な球へと。

 水色のミニドレスを来た魔族の少女、ミズキはさらに鋸状の輪へと形を変えたソレを投げつける。

 圧縮され平たくなった水輪は無数に分裂し、迫ってくる者達へ襲いかかっていった。

 

《HaKen slash》

 

「はっ!」

 

 フェイトは回避行動を取りながら巧みにバルディッシュを操ると、飛来してきた水の輪を次々と光の刃で撃墜していく。

 

 数が多いために一度で全ては壊せなかったが、残った水輪は案の定弧を描いて戻ってくる。それなら後は落ち着いて、同じ動きを繰り返していけばいい。

 

 色こそ異なるが、黒翼を翻しながらその場で流れるように捌き続ける様は――さながら天使の舞踏。

 

 そうして自分へ向かってきた水輪が全て無くなったのを確認すると、散開した親友達の方へ視線を巡らせる。

 

 はやては円柱状のエネルギーフィールド(スペルブロック)に閉じ籠り、触れれば消去されるのに任せていた。それの抗魔能力の高さはフェイトもよく知っていたため、はやてに関しては大丈夫そうだと判断する。

 

 一方、そんなはやてとは打って変わって――――

 

「アクセルシューター、シュート!」

 

「ファイアーバード」

 

 なのはと、セッカを倒して合流してきたルティシア。

 

 二人がいるその場では、激しくも派手な射撃戦が繰り広げられていた。

 

 ギロチンの名を冠する水の輪一つ一つに対し、迎え撃つのは複数の光弾と炎の鳥。

 

 威力には勝るが、しかし切断すればするほど徐々に減衰していくギロチンを、二人は膨大な数による弾幕で対抗していたのだ。

 

 そして、攻守は目まぐるしく移り変わる。

 

 今度はこちらの番だと言わんばかりに押し寄せてきた光と炎を、機関銃よろしく轟音を伴った水の弾丸が撃ち抜いていく。

 

「アクアブレット!」

 

 僅かな時間、ミズキは右手の五指による斉射を行い――その顔がフェイトへ向いた。

 

「! ――くる!」

 

 ミズキは射撃を止めると同時にその場でクルリと反転。手刀にした左手を薙ぐように動かし、

 

「ホリゾンタルアクアギロチン!」

 

 指先から生まれた水の刃が水平に、格段に違う速さでフェイトを襲う。

 

 避けるか、受けるか。

 

 どちらを取ってもその後の動きに差し障る、絶妙な軌道を取る水刃。ただ避けても追尾してくるだろうと判断した少女は、受け流すことを選んだ。

 

「バルディッシュ」 

 

《Yes sir》

 

 一心同体とも言える忠実な相棒は、すぐさま主の意を汲む。

 

 肥大化する光の刃。

 

 狙いは――――刃としては弱いと思われる三日月の内側部分。そこから両断する。

 

 黒衣の天使がギロチンを斬り払うべく振られた刃は、しかし何の手応えも生むことはなかった。

 

「あ……え?」

 

 途中で強引に軌道を変えたギロチンは、フェイトの片翼を半ばから斬り落とし……その向こうでバリアを解除して攻撃に移ろうとしていたはやてに狙いを定めている。

 

「ッ! はやて!」

 

「へ? ――ッ!?」

 

 フェイトの叫びに、みるみる迫ってくる三日月状の刃に気付いた少女の目が、大きく見開かれた。

 

「マズ……!」

 

 優れた性能を誇るスペルブロックだが、一度解除するとすぐには使用出来ない欠点がある。

 

 そのためはやてとリインフォースは、交互に使用することで隙間の時間を埋めるという、融合型デバイスであることを最大限に活かしたやり方を思い付いて実行していた。

 

 ミズキははやてに、自らの水撃が効果のないことを知っている。

 

 その上ではやては、『ミズキは自分を無視して、先に他の三人へ狙いを絞るだろう』と推測を立てた。特に今はおかしなことになっているルティシアもいるのだ。近寄らせたくはないだろう。

 

「はやてちゃん!」

 

 現に今も執拗な水撃を続けており、なのは達は迎撃を諦め防御を強いられている。

 

 フェイトははやての方に向かおうとしているが、体勢を崩した分だけ初動が遅れていた。

 

 そして、先程までのスペルブロックはリーンが使用したものだ。

 

 ――間に合うか、ギリギリってとこかな? 真っ二つされるのはイヤやなぁ。

 

 刹那の時間にそんなことを思う。

 

 はやては用意していた〈ホーリー〉を止め、スペルブロックを発動しようと――――

 

「――黒竜爪牙……!」

 

 瞬間、赤金色の光が視界に割り込んだ。

 自分を庇う、その背には緋翼。

 

 そして、

 

「はあっ!!」

 

 ドゥン、と爆発にも似た音が辺りに轟く。

 今まさに切断しようとしていた水の刃が解けて空中に霧散していくのを、友人の背中越しに見た。

 

「今みたいなことは苦手ですので、狙って連続では出来ません」

 

「そうやろなぁ。ルティシアちゃんって、理詰めよりも本能で動く方が多そうな感じやし」

 

「どういう意味ですか」

 

 そんなとりとめのない会話を交わす。

 

「今なら竜だってこと、信じられるかもな?」

 

「今までは信じてなかったのですか?」

 

 背中越しに呆れたような視線を向ける友人に、「だってな」とはやては茶目っ気混じりの苦笑で応じる。

 

「ルティシアちゃんが竜だって言ってるだけで、実際にそれを見たって人はおらんし。もしかしたら、言うことやること非常識レベルなだけの、普通の人間なんちゃうかなぁとか」 

 

「前者は見せ物ではありませんし、後者だと私がかわいそうなことになるのですが」

 

 見た目の雰囲気からてっきり会話にならないかと思ったが、目の前の友人からはいつも通りのタメ息混じりな言葉が返ってきた。

 

「まぁ、今みたいなことは普通の人間には出来んやろ……な!」

 

 はやてはスルリとルティシアの前に出ると、スペルブロックを発動させる。

 途端、虫の羽音のような絶え間ない重低音が響く。 合間に輪や、三日月状の水の刃も混ざって切断する機会を窺っていた。

 

「話の流れ的に、褒めてるのか貶してるのか分からないのですが」

 

 もともと覆える範囲が広くなく、狭い円柱状のフィールドだ。

 

 ルティシアは体の前面を包み込むようにして翼を閉じ、激しく噴き出していた闘気についても抑える。それでもキレた興奮は覚めやらないらしく、髪と瞳は依然として真紅のままだ。

 

「あのミズキって子な? 感情の浮き沈みがエラい激しいタイプなんやけど」

 

「はい」

 

「たぶん、今はメッチャ落ち着いてる。冷静にコッチを足止めして、何かを待ってる。そんな気がする」

 

 単なる勘なんやけどな、と付け加えた友人の言葉に考えこむ。

 

 なのはも執拗という言葉ではすまなくなってきたレベルの攻撃を前に、今は魔力障壁(プロテクション)の維持に注力しているようだ。砲撃にはチャージする隙がなく、シューターは弾丸によってたやすく散らされる。

 

「待つ……ですか? 先に倒れた二人が回復して、合流するまでの時間を稼ぐつもりなのでしょうか」

 

 視線を下へ落とした先。 切れた片翼を再生させたフェイトが高速飛行しており、しつこく追尾してきた凶弾をギリギリまで引き付け、寸前に避けることで()()にぶつけている姿が見えた。

 

 そして偶然にも全く同じタイミングで、忌々しそうに()()を見ている者が一人。ミズキは舌打ちするとさらに攻撃を激化させる。

 

「あのバカが役に立たないせいで、このワタシが余計な苦労をするはめに。オウキも何をグズグズやってるだわさ。さっさと魔界に撤退しろ」

 

 

 

 ()()――すなわちオウキによって作り上げられた、大地のシェルターだ。

 

「紫電……一閃!」

 

「轟天爆砕! ギガントシュラーク!!」

 

 熱を持った斬撃が、巨大なハンマーによる鉄槌が、岩山の如きそれを削っていく。このシェルターは相当に厚く作られており、さらに削る先から再生していく有り様だ。

 

 このシェルター自体に攻撃力はないらしく、見た目通り守ることに徹底した術式で構成されている。そしてその代わりだとでも言うように、頭上からは時折ミズキによる攻撃が飛んできていた。

 

 しかしあちらも余力がないのか、こちらへの攻撃は本当にオマケ程度。

 よって二人もその度に防御魔法や、フェイトがしているように岩山を盾にいなしていた。

 

 この場にいるのはヴィータと、怪我から復活したシグナムのみ。高町家の面々やプレシアとリニス、それとメーアの姿はない。

 

 特にその内の四人はバリアジャケットも無く、当たれば致命傷……どころか死ぬ危険性も高いとあって、安全そうな森へ移動することにした。

 

 『当たらなければ』――とはいっても、美由希が負傷するのを士郎と恭也が嫌がったためだ。

 もちろん美由希はそれに反対した。しかし既に軽傷を負っていたこと、二人が過去に大怪我で剣の道を閉ざそうとしたこと、剣の耐久性も限界に近かったことから、渋々と首を縦に振った。

 飛べなくてはそもそも戦えないだろう、というメーアの身も蓋もないツッコミは流される。

 

 そのメーア。

 三人に、序盤からずっと戦っていたらしく消耗が大きかったプレシア達二人を加えた一行。メーアはそんな彼らと共に移動しようとしており、当然ヴィータはその時に呼び止めたのだが――――。

 

 

     〜〜〜〜〜〜

 

『おい、メーア。お前はコッチだろ』

 

『……残念、私も戦力外』

 

『あん?』

 

『……こちらの世界で覚えた言葉で言えば、ガス欠』

 

『お前はホントに肝心なトコで役に立たねぇな!?』

 

     〜〜〜〜〜〜

 

 

 ――――というやりとりをした結果、ここには二人しかいない。

 

「ふふ。そうむくれるな、ヴィータ」

 

「むくれてねぇ!」

 

 喋っている間も、二人の削る速度は変わらない。

 

「メーアは残り少ない魔力を使って、私たちに補助魔法をかけていったではないか?」

 

 今のメーアに、かつての魔族としての力はない。傷付き過ぎた魔族の肉体を休めるべく、仮の肉体として用意された人間のを使っている。

 そのため魔法関連の能力も大幅に低下しており、使える魔法の種類も、魔力総量もなのは達よりかなり少ない。

 そんな彼女ではあるが、これまでに積み重ねてきた知識と経験はある。いわばクロノに近いと言えよう。

 

 高町家の面々がオウキの作り出した軍団を撃破し続けられたのも、要所要所で使われたメーアの補助魔法によるものが大きい。

 

 『少ない魔力をやりくりしながら状況と必要に応じた魔法を使う』――それが今の彼女のスタイルだ。

 

 それもあって、別れ際の二人に補助魔法をかけることへ繋がったのだろう。

 

 だが、

 

「アイツはなんというか、微妙に信用できねぇ」

 

 修復し始めた岩盤にすぐさまアイゼンを叩きつけ、ヴィータは一拍置くと悩ましそうに告げる。

 

 チラリと覗き見た仲間の顔から、『どう表現したらいいか分からない』という感情が窺えた。

 

「……メーア……メイアが我々の敵だったからか?」

 

「いや、そういうんじゃなくてさ。アイツ、隠し事が多いだろ? 一つ手を見せたらその分、別の何かを隠してるっつうか」

 

「確かに。“あの時”も何か策があるように見せて、その実特攻していたしな」

 

 あの夏祭りの日、メーアを連れて家に帰った後で彼女からは詳しい話を聞いていた。しかし、内容の全てを洗いざらい語っていたかどうかは、分からない。いつも飄々としている彼女からは、こちらは推し測ることしか出来ないからだ。

 

「その件については主はやても説教したし、メーアも了承しただろう?」

 

「頷くまで、さんざん抵抗したじゃねぇか。概念が、価値観の違いがって。アイツのことだし、あれは面倒臭くなって納得した振りをしてるだけだぜ?」

 

「ヴィータの言うことにも一理あるが……しかし、この半年ほどは何も問題を起こしていない。考えすぎだろう」

 

 避けた水弾によって穿たれた場所へ、こちらも抉るような一撃を放つシグナム。

 

「そもそも事件が起きてないしな。だから答えが出ねぇんだよ」

 

「今回がその機会だ、と? 確かに同じ魔族についてならメーアの方が的確に対処出来るだろうが、もう魔力は残ってないだろう?」

 

 水弾によるダメージからの修復が遅いことに気付いたシグナムは、そのことを指で示した。

 

「だから、普段の魔力少ないアピール自体が演技なんじゃねぇかってことだよ。今だって大量に余力を残したまんま、別行動で何かしてるかもしれねぇだろ」

 

 シグナムに頷き、その場所を二人は息の合ったコンビネーションで絶え間なく削っていく。飛んでくる水弾も利用すれば、削りは加速度的に早まっていく。

 

「本当に考えすぎだと思うがな。そこまでいくと、何一つ信じられなくなるぞ?」

 

「ルティシアのヤツも言ってたろ?『不信を懐かせて内部分裂を狙うのは魔族の常套手段です』って」

 

「今さらメーアが私たちの不和を狙うのか? 主はやてに厄災を招こうとしているようには思えんが」

 

「そこまではアタシだって思わねぇよ。そうじゃなくて、こっちの心理誘導? が上手いってことだ。『敵を騙すにはまず味方から』を、地でいくヤツだし。ちょっとずつでもアイツの手札を知っといた方がいいだろ?」

 

「だんだんと、お前が『自分に隠し事されるのは寂しいから』という気がしてきたのだが。……ヴィータ」

 

「ち、チゲェよ! ……近いな、一気にいくぜ」

 

「ああ」

 

 今や岩山の一画はすり鉢状に凹み、その向こうには何者か――オウキの気配がする。

 

「そういや」

 

「ん?」

 

「たんにアイツが目的を達成して、思わせ振りなだけで気の抜けてる素のパターンってのもあるな。変にポンコツな時もあるし」

 

「私には分からん。急げ」

 

「……だな。――いくぜ、アイゼン!」

 

《Jawohl!》

 

 そして壁が崩れた――。

 

      ※ ※ ※

 

 

「ひ、必殺技の構えの時に殴るとは〜……お、オヤクソクの分からぬヤツめ〜」

「さっきから何を言ってるでゴワスか、この阿呆は」

 

 半目で見下ろす先には、ソラキの横へ寝かされたセッカの姿。

 

 強硬に別行動をしておきながら、ソラキの元へ集まった自分たちに気絶しながら合流するという離れ業を見せてくれた彼女。ミズキでなくとも文句の一つは言いたくなる。

 

 だからいい加減うるさいとばかりに作った石鎚で軽く顔面を小突いてやれば、静かになった。

 さてどうするか、と放り捨てた槌が土へと還る。

 

 考えるべきことは山ほどあった。

 

 今の状況のこと。

 

 人間のこと。

 

 どうして敵対種族がいるのか。

 

 どうして自分たちは“力を発揮できない”のか。

 

 そして、どうして魔界に戻れないのか。

 

 他にもあるが、挙げ連ねればキリがない。

 

 他の三人は揃って考えごとが苦手な者ばかり。落ち着いてる時のミズキなら少しはマシだが、生憎と彼女は外で時間稼ぎ中だ。

 ここには自分と、気絶してる二人の姿しかない。

 

 シェルターを襲う震動が徐々に大きく、音も近付いてきている。余り時間はなさそうだ。

 

 急いで打開策を考えなくては。

 

 力を発揮出来ない。これは自分たちがあの月――月匣の仕組みをきちんと理解していなかったのだろう。本来は魔族が力を発揮するはずの空間が、何故か自分たちを制限しているのだから。

 

 そうでなければ――百歩譲って――適当に連れてきただけの死人(ゾンビ)ならともかく、自分の作った人形(ゴーレム)が魔力も持たぬ人間に、多少の補助魔法を受けたところで壊せるはずがない。

 

 魔界で生き抜くということは、想像以上に厳しいのだ。そうして試行錯誤の中で作り上げた人形(ゴーレム)は、軽く倒せる代物ではない。

 

 本来の性能を発揮しているのであれば、だが。

 

 人間界に対するリサーチが足りなかった?→認めよう。

 

 人間に対する認識が甘かった?→不本意だが認めよう。

 

 自分たちが劣っていただけでは?→それだけは絶対に認めない。

 

 しかし、今の状況で続行するのは得策ではないだろう。

 

 生きてさえいれば再戦は可能なのだ。それならここは引くべきだ。

 

「自分たちの力を活かし切れず、さりとて魔界へ帰ることも出来ない。これではまるで檻でゴワスな。それとも生け簀か?」

 

 これが誰かの仕組んだことであれば、自分たちを餌にして誰かを強くするつもりなのかもしれない。

 

 しかし、そんな様子には見えない。そもそも、誰がそんなことをするのか?

 

「アッシらはタダでエサにならんぞ。逆にコチラが食いやぶって、必ず上に登りつめてやるでゴワス」

 

 そのために、

 

「……アッシら同士の攻撃は互いに影響を与えることに、誰か気付いたな」

 

 ――この時、一際大きな轟音と共にシェルターへ大穴が穿たれた。

 

「これしかないか」

 

 オウキの目に、鋭い光が宿る。

 

 

      ※ ※ ※

 

 

「オウキ!」

 

 撤退完了の合図はない。

 

 自壊を始めたシェルターを見て、焦るミズキは攻撃を止めると移動を始めた。

 

「む?」

 

「はあああっ!」

 

 崩壊していく壁面に沿って翔んできたフェイトの一撃。

 

「しゃらくさいだわさ!」

 

 振るわれた光の刃。

 それを素手で掴み取り、このまま握り潰してやると力を込め――――

 

「グ! グギ、ギ……ガァァアアッ!?」

 

 絶叫を上げるミズキの顔が苦痛に歪んだ。

 

 掴んだ右手からはブスブスと白煙が上がっている。

 

 自分を拒絶する、激しい力を感じて。

 

「!」

 

「アァァォオオーー!」

 

 それはまさに雄叫びだったのだろう。

 

 咄嗟に無事な左手でフェイトの手を掴むと、バリアジャケット越しにも折れるのではないかという握力で振り回し始めた。

 まるで勢いがついて止まれない回転ゴマの如く。

 ほんの数瞬で三桁近くも振り回すと、視界の隅で米粒のようだったのに今やハッキリと細部まで分かるほどに接近してきた“紅”に向かって、叩き付けるようにして投げ飛ばす。

 

 そうして、グラリと傾いだミズキの身体が地上へ向かって墜ちていった。

 

「…………フェイト」

 

 ルティシアの視線は降下というよりは落下に近い状態のミズキを追ったが、その身体が水泡と消えたことで追撃を打ち切る。

 

 手早く刀と鞘を亜空庫へ戻したと同時、腹部に衝撃が走った。後方へと飛ばされるのに身を任せながらも徐々に勢いを殺し、抱き止めたフェイトに出来るだけ負担をかけないよう留意する。

 

「ごめん。ありがとう、ルティ」

 

「いえ、それよりも大丈夫ですか? フェイト」

 

「ちょっとだけ、肩が」

 

 肩……と一つ呟き、怪我の具合を確かめようとしたルティシアは、いつの間にかフェイトの背中にあった黒翼が消えていることに気付く。

 バルディッシュに組み込まれているエンジェルシード。それを起動させた“天使化”――オルタナティブモードは消耗が激しく、また負担も大きい。

 それは同種の魔宝石を使用しているなのはにも言えることで、そのために二人は制限時間を設けていた。

 それは練習を共にしている者達も把握していることで、ルティシアは当然のようにそちら側だ。おそらくはその制限時間が切れたのだろう。

 

「さっきのスイングの時ですね。魔傷ではないと思いますし、脱臼かもしれません。念のため、後でシャマルさんに診てもらいましょうか」

 

 ですが一応、と患部付近に手を当てて〈神聖治癒魔法(エリクス)〉を唱える。暖かな光に包まれ、フェイトは暫し目を閉じてそれに身を委ねる。

 

 相手で残っているのはあと一人。金剛のオウキ。

 

 そしてこちらは……戦っているのは自分だけではない。

 

 地上(した)にも、(うえ)にも仲間が――

 

 そこまで考えた時、フェイトの頭の片隅で何かが引っ掛かった。

 

 なんだろう? 何か見落としてるような――。

 

 うーん、と思いを巡らせてると、目蓋の向こう側が桜色に輝いた気がした。

 

 

 

 

 地上では崩れた瓦礫を舞台に、死闘が続いていた。

 

 ガン、ゴン、ギィン、とそれぞれの得物が激しくぶつかり合う音が響く。

 

「お前ら、いい加減しつこいんだよ! さっさと終わっちまえ!」

 

「それはこちらの台詞でもある。だがアッシら四人を相手に、お前たちの見せた粘りは賞賛に値するでゴワス」

 

「その余裕具合、まだ勝てるつもりでいるのか?」

 

 同時にパッと、三方向に散る。レヴァンティンを正眼に構えるシグナムに、弓で直接殴っていたオウキは首を横に振る。

 

「……いいや。ソラキ、セッカに続いてミズキも破れたようだ。コチラの勝ちは無いでゴワス」

 

「それなら――」

 

 その後に続くシグナムからの降伏勧告を遮り、オウキはクルリと黄色のミニドレスを翻しながらその場で一回転。

 

 何も無かった手に、数えきれないほどの色とりどりな矢が握られている。

 

「四姫将は、アッシはまだ負けていない。スカウリングアローはここからでも、全員を射抜ける」

 

 全て自分の魔力で作り出した非実体の矢だ。威力も申し分ない。

 そんな矢だからこそ、言葉通り全員を射ることも可能ではあるが――射“抜ける”とは、本人も考えていない。

 

 ソラキのクラウドスプリッタやミズキのペラジッククリーヴでも倒せていないのだ。一度に攻撃可能な範囲には長けていても、威力で大きく劣る自分の技で全員の息の根を止めるのは、おそらく不可能だろう。

 

 そうと分かっていても、オウキは攻撃を取り止めるつもりはない。それは絶対に降伏はしないという意思の表れ。

 

 相対するシグナムとヴィータにも、その意思を気配で感じ取ることが出来た。

 

「出来ると思うか? お前がそれをつがえるよりも早く」

 

「あたしらがボコボコにしてやる」

 

 ヴィータもシグナムと肩を並べながら、しかし油断なく身構える。

 

 注意を引くため、彼女の後方で輝く()に気付かれないようにと。

 

「出来るとも。アッシの、このオウキの守りは四姫将でも随一。半端な攻撃など通用しないでゴワス」

 

「その割には全部ぶっ壊されてるけどな」

 

「……ならば、試してみるでゴワスか?」

 

「面白ぇ」

 

 三人はジリジリと距離を積めながら――――途端、ヴィータとシグナムが左右へ飛び退る。

 

 相手のいきなりな肉食獣から逃げる草食動物のような高速離脱振りに、オウキも思わず呆気に取られてしまう。

 

「む?」

 

「試してやるよ。――悪魔の砲撃でな」

 

 ――――ヴィータちゃんヒドいの!? という声が去り際に聞こえた気がした。

 

 背後から照らす桜色の輝きにようやく気付き、振り返ったオウキの顔が驚愕の表情を示す。

 

 自分へ真っ直ぐに突き進んでくる直径二十メートル以上はある光の柱を前に、盛り上がった岩壁はとても頼りなく感じる。

 

 守ってくれるはずの壁は間もなく砕け散り、自身の肉体も大地へと還っていっているのに、しかしその顔には満足気な表情が浮かんでいた。

 

 

      ※ ※ ※

 

 

 夜空に浮かぶ月と満天の星空を見上げると、ひどく懐かしく感じる。

 

 今までの騒動がウソのような静けさが、維持する者がいなくなって解除された月匣の外に広がっていた。

 

 旅館も壊されてない、無事な姿を見せている。

 

 ようやく終わったという誰かの声が全員の実感へと変わり、次いで押し寄せてきた疲労にその場で座り込んだ。

 

「なるほどな。魔族が実に迷惑な存在だと分かった」

 

 ああいった者たちを管理局で相手にするのは、随分と骨が折れるだろう。粘ったことでソラキにやられたダメージは、思いの外大きい。僕もまだまだ訓練が足りないな、とクロノは既に今後の対応について頭を巡らせていた。

 

 高町家の剣士達もそれぞれに体を休ませながら言葉を交わし、はやて達は家族の無事を確認している。

 

 一方で――――

 

「なのは。やっぱり解除してなかったんだ」

 

 約束したのに、と自分も怪我人であることを忘れて半目になるフェイト。

 

「いくら魔力残滓が多くて今までよりチャージ時間が短くても、モードチェンジの負担は大きいんだから」

 

 平然と無理をしたことに呆れながらも、身体への違和感が無いか心配するユーノ。

 

「私のこと言えないじゃないですか。今回は姉さんが正座です」

 

 部屋に戻ったら、とリボンが無くなったことで地面に着いてしまう髪を持ち上げながら言うルティシア。

 

「に、にゃはは。で、でも」

 

「「「でもじゃない(ありません)」」」

 

 セントジュエル稼働状態(エアフォーム)でのスターライトブレイカーを二発、さらに時間延長と――文字通り限界まで酷使したなのはの身体は、もはや立っていられないほどであった。

 

「うう……」

 

 そんな状態のため、反論は許さないという三人になのはも何も言えない。

 

 それでも、いつしか四人の間で誰からともなく笑いが溢れ始め……不意にルティシアの周りを無数の光の粒が漂い始めた。

 

 まるで蛍の光のようなそれは次々と幾何学的な紋様となり、しかしルティシアだけはそれが神竜族で昔に使われていた文字だと分かる。

 その文字が意味するところは分からなかったが、それらが帯のように自分を取り巻いている光景が今の姿になった時と重なり、一つの推測を導き出す。

 

「ルティちゃん?」

 

「ルティ、大丈夫?」

 

「分かりませんが……きっと大丈夫です」

 

 やがてルティシアの身体も仄かな輝きを放ち、その様子に気が付いた皆が見守る中、光は取り巻く紋様と共にゆっくり内へと収束していった。

 

 落ち着いた後には元の、濃紺の髪色と瞳をした竜の少女の姿。

 

 自らの髪を一房掬い上げると、

 

「まだ、こちらの姿でいろということでしょうか? それとも――」

 

 最初にかけられた術は、自分が破ったあの一回で終わりのはずだ。

 再発動の術式で組まれていたのかもしれないが、そういったことに自分は然程詳しくない。それに全てが終わったこのタイミングでなるのは、いささか都合が良すぎる気がする。

 もちろん、可能性はゼロではないが。

 

 それよりは、『他の誰かによる封印』である可能性の方が高い。

 

 そこで思い浮かぶのは、白銀の女性。

 

 ――これもあなたの仕業ですか? あなたの目的のために、意味がある行動なのですか? アシェラ……いえ、ラエシア……姉様。

 

 

 今は冥魔王を名乗る、姉の一人。

 

 彼女ならば、この封印術を知っていてもおかしくない。だが、彼女がそれをする理由が分からなかった。

 

 敵か、味方か。

 

 偽善か、偽悪か。

 

 彼女が口にした計画。

 その真意がどこにあるのかは、結局のところルティシアには分からなかった。

 

 冥魔王の二人――メイオルティスとアシェラがこの次元世界で真に何を狙っているのか。

 

 魔族も気になるが、これからは冥魔達の動きにも注意を払うべきだろう。

 

 静かに決意を固めた少女が月夜を見上げた時――ザワザワと木々がざわめき、草葉を揺らしながら一陣の風が吹いた。

 

 風はザアッという音を伴いながら、落ち葉を巻き上げて過ぎ去っていく。

 

 ふと、視界の端でヒラヒラと細長いモノが漂っているのが見えた。それは絡まった白と黒のリボンで、彼女の封印が解けた際に解けてどこかへ飛んでいったものだ。

 

 ――落とし物、確かに届けましたよ?

 

 まるで狙いすませたかのように手のひらへ納まったそれからは、そんな誰かの声が聞こえるようだ。

 

 ルティシアは小さく肩を竦めると一人ごちる。

 

「もしかしてセイティグの名を持つ姉妹達は、皆お人好しだったりするのでしょうか? ……私以外」

 

 そう語る自分こそが、姉妹の中でも一位二位を争うほどお人好しであることを――彼女が知る筈もなかった。

 

 





残り一話を挟みまして、長すぎた旅館編は終わりです。

書き始めた三ヶ月以内に本来は終わっていた(予定)なんて、誰が信じるだろう……。

追記裏話:熊本地震のためオウキの活躍を削り、代わりに三行で終わっていたセッカのところを加筆しました。

オウキ&セッカ「おい」




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