蒼髪少女(中身青年)のプレイ記録(旧題:ワタシはワタシたりえるか?) 作:鋼色の銅鐘
キャラ紹介含んで二十一話目です。
三人称にしてみました。どちらにしても難しい……。
それではどうぞ!
早朝。である。
昨日は早目に寝たというか夕方からずっと寝ていた。ログアウトもせずに、だ。
アイドル業をこなしていた頃と比べると、かなり自堕落な生活リズムになりかけている気もするが……その辺りは気を使っていかないといけないか。
理由も『デスペナルティや決闘の敗北(によるアバターの再構成)が長期間無いと
……今お腹についている肉はどっちかというと筋肉だから、今のところは安心だと思いたい。
それに、戦闘系の<マスター>としてレジェンダリアに所属している間は筋肉量だの体重だのが安定すると思われる。一週間に一回かはクエストを回される訳だし。
たまに<UBM>対応のクエストを優先して渡したいと宰相殿とかから言われるのだが、その度に辞退している。
対単体戦闘能力がズバ抜けて高い訳でもないし殲滅力も中遠距離型の広域殲滅型と比べると劣っているから、ワタシよりも適任な人物はいると思うのだよな。
……それでもワタシにクエストが回ってくる理由というのが、今のレジェンダリアを取り巻く
真っ当に国に所属して働いている奴らもかなり少ないと聞くし、所属していない面々も厄介な連中ばかりとのこと。
端的に言ってしまえば、国から直接クエストを回される人材が少ないのだ。アイドル業をこなしていた頃もかなりの頻度でクエストを受領していたし。
過労死するほどではないけれど、そろそろ真面目に人材探した方がいいと思う。ティアンの内情もキナ臭いし。
……だらだらと脳内思考を垂れ流すのは悪い癖だな。矯正は今更できないのが更に悪いが。
それはそれとして、掲示板のほうで『集合時間いつだよ』とか催促されているのでもう向かったほうが良いだろう。
多分もうかなりの人数集まっているかもしれないし。
◇
アムニール闘技場。
本日は公式的な演目は何もない予定ーーなのだが、そんなことは知らぬとばかりに大勢の<マスター>達がロビーや観客席で寛いでいる。
ロビーと観客席を合わせて百人は超えているかいないか、といった程度だ。
あるものは手元のウィンドウを注視し、あるものは周囲の<マスター>達と何事かを話し合い、あるものはこれから起こる事態を観覧する姿勢に入っていた。
そして、ソラ・イスタルテ……今回の事態の渦中にいる人物がロビーに入った途端俄かに騒がしくなる。
ここにいるのは彼女に対して様々な感情を持ち合わせるものが多く、彼女自身を恨みこそすれまだ完全に憎み切れてはいないものもいる。
彼女自身だけは二〇〇〇年代から続くオンラインゲーム文化の中で生まれたいわゆる“ネカマ”や“姫”といったそれではないのではないか、と淡い期待を抱くものもまた存在する。
実際、彼女自身からの謝罪などはあれど彼女の事情を語られたことはないからだ。
彼女が彼であるのはどう言い繕おうと真実である。
しかし何故、『彼女』になっているのかということはこの場にいる大半の<マスター>の心の内にあった。
そんな彼らの思考を他所に、ソラは無言でロビーを通過して中央の舞台へ向かう。
何人かは追い掛けるが、他の者たちは大半が観客席へ移動した。
そして舞台の中心に立ったと同時に、ソラが【拡声の指輪】を装備して話を始める。
「本日は集まってくれたことに感謝をしたい」
「ワタシがこうやって、ワタシを恨んでいるかもしれない君達を集めたのはケジメをつけたいからだ」
「ケジメってなんだよ、と思う人もいるだろうけれど、ワタシにはこうやることしか出来ないからね」
「……とても簡単に言えば、殴り合ってスッキリすれば多少はマシになるんじゃないかというやつだよ」
元号が二個くらい前の頃の思考かもしれないね、と彼女は自嘲する。
「殴り合いだなんて、と思うなら決闘というテイにするか一対多のバトルロイヤルになるかな」
そう告げて、自身の<エンブリオ>……【トール】を紋章から手元に出現させる。
ソラとしては乗って貰うのが一番だが、それでもアクションを起こさない<マスター>も当然一定数はいた。
ということは無論、乗った側の<マスター>達もいる。
全身鎧から農作業用の衣類まで、様々な格好をした男たちがおおよそ八名ほど。
その八名のうち二名ほど、本来は非戦闘職と思われる<マスター>までもが彼女の話に乗っていた。
闘技場に集った人数からすれば非常に少ないだろうが、彼らは皆、彼女やここに来ている<マスター>にまで周知される程に“ソラ・イスタルテというアイドルのファンだった”面々である。
感情のあまりに奇行を犯した者や、熱心にライブに参加した者など。
実績は様々だが、それ程強くのめり込んだファンだからこそ自分達が納得する為にこの誘いに乗った。
そして、代表として黒い全身鎧の青年が前に出て彼女へ告げる。
「遠慮も加減も、いらないということか」
「当然だとも。そうしなければワタシも身の振り方に決着がつかないさ」
「それじゃあ、各々準備やルールの話し合いが必要だと思うから三十分後にこの舞台で、ね」
ソラも、彼らへ真っ直ぐに目を向けて言葉を返す。
三十分後、この舞台に立つのはアイドルとファンではない。自分が納得する為に戦うことを決めた者達である。
◇
先程の宣言からきっかり三十分。
ソラと八名の<マスター>達が舞台へ集まった。
三十分の間に両陣営間で話し合われ決定された今回の決闘ルールはバトルロイヤル、
そして、ソラまたは八名全員のHPを削り切ることが互いの勝利条件となる。
ルールが決まった後も<マスター>達はギリギリまで作戦を立てていたようで、今も小声で話し合っている。
対してソラの方はいつものように振る舞っているが、どこか落ち着きが無いように感じられた。
そして八名がそれぞれ位置に付き、ソラは呼吸を整えると同時にーー戦闘開始を告げる笛が鳴らされた。
「《
初手から、先程の話し合いの際にガンダと名乗っていた全身鎧の青年が必殺スキルを発動する。
その発動と共に彼が身に纏っていた鎧が大量の砂となり、彼を包み込み……数秒後には、おおよそ五メテル程の砂の巨人と化した。
最初から必殺スキルや奥義などを使用して全力を発揮するのは、初見同士の戦闘においてかなり有効な戦術であるということを見越してのものである。
そして、全力を発揮するのも彼一人では勿論無い。
「ーー《
《雄々しく地に立つ者》と同じタイミングで、一角獣型ガードナーの必殺スキルと【騎兵】系統上級職【槍騎兵】の奥義が発揮される。
一角獣の角が淡い光を纏い、槍の如く突撃に適した形状となり、騎乗しているアストラ……馬上槍を装備した銀髪の青年<マスター>共々
《聖浄なる槍角》には聖属性付与の効果も含んでいる為アンデッドに対して有効となる必殺だが、今は特攻が乗らない。
それでも発動したのは、行動制限の為。
突撃と巨大化で圧をかけることで行動範囲を狭め、最初の高火力攻撃を撃たせない。
そして、その隙に……
「こうするんです!《
黒髪の眼鏡をかけた青年ーージロウと名乗っていたーーが、自身のエンブリオである美女とタコを掛け合わせたような外見のガードナーに必殺スキルを繰り出させる。
スキュラのぬめった触手はソラの四肢に高速で伸び、本来であれば縛れすらしない部位だろう両腕を重点的に筋力と弾力を利用して捕縛した。
「行くよ、《レーザーブレード》」
「《オフェンシブナックル》ゥァァッッ!!」
「《ダガージャグラー》!」
「うおおおおおっ、《ストロングスライサー》ぁ!!」
「カシャ、《ヒノグルマ》!」
そして、その隙に他の五人が各々のジョブスキルやエンブリオスキルで連携して攻勢を掛ける。突撃をかけたアストラもその勢いのまま突っ込む。
ジロウは非戦闘職である【調教師】の為残っているが、ガンダは貴重な効果時間を使い、反撃に備えて念の為の観察に徹している。
そして激突の余波で舞台に煙が立ち込め、周囲の観戦者達からは数十秒で決着か……と思われた、が。
「一発で終わりじゃ味気ない、から、ね……っ。ちょっと、無茶させて貰ったよ」
ーーまだ、終わらなかった。
パリ、と身体から電気を漏れさせてソラが立つ。
スキュラの拘束は彼女程のSTRであれば短時間で抜け出せるものだったが、体勢の関係で“無茶”をしなければやや時間がかかり……突撃と連携攻撃を半分以上もろに受けたことで、HPも三割を切っている。
拳撃と戦斧のなぎ払いを使ってきた二人と体当たりをしてきたカシャは【大魔槌士】の奥義《エレメントブラスト》を使用したカウンターで沈めたものの、残りはしっかりとダメージをもらっている。
なお、公然の話に近しい事だが、彼女のエンブリオスキルに『身体から電気を発生させる』ものはない。
そしてガンダがジロウの方を向いてみれば、いつの間にかスキュラ共々雷撃を食らったように痙攣を繰り返している。
どうやって、と彼らの中で疑念が渦巻く。
「不思議な顔してるけど、ネタばらしをするとだね」
……話によれば、一瞬でボロボロになり果てた彼女が言うには、【トール】は実体があったりなかったりしているとのこと。
故に、【トール】を構成する電流を
スキルを介して発生する電流では威力が高過ぎるが、エンブリオそのものを構成していたものは若干威力が弱い。
そこを一瞬で判断し、すぐに実行へ移したのは戦闘系超級職保持者の意地からか。
それでもまさしく狂った所業としか表現が出来ないものである。
そして車とネコを掛け合わせた姿のガードナーであるカシャが倒れたことで、非戦闘職の【鑑定士】である楠は自主リタイア。
痙攣中のジロウもリタイア。
【剛拳士】アマグニと【斧巨人】エリオットはノックアウト。
一度の激突で四名が倒れたものの、ガンダ含んだ戦闘系四名は未だ健在。
ガンダの必殺スキルの効果時間がまだ残っている為、盤面は<マスター>陣が有利。
ーーだが、彼女がここからひっくり返せるかどうかは彼らの奮戦と彼女の一発に掛かっている。
両陣営共に重い一撃を入れられてしまえば終わりだが、奥義や必殺スキルを使用したこともあり余力もあまり無い。
余力を温存しきっている二名がどれだけ真価を発揮出来るかで、ここからの展開も決まって来る。
……これまでも本番だが、ここからが、本番である。
To be continued
今回もここまで読んで頂きありがとうございました!
主人公死にかけてる割に描写うっすいな……という感じですが、作者は文を膨らませるのが壊滅的に下手だということに気付いたのでこうなっています。
文章経験値を稼ぎたい。
あと、私事ですがアニメ放映日とかが決定して小躍りしてました。