イナズマイレブン!アレスの天秤 半田真一伝説!〜導かれしスカウト達〜 作:ハチミツりんご
「サッカー部でーす!!部員募集してまーす!!」
「やる気ある人大歓迎!!一緒にフットボールフロンティアの頂点、そして世界を目指しませんかー!!」
今日も今日とて勧誘を続ける半田と大谷。数ヶ月前の円堂と木野を彷彿とさせる彼らの姿は、もはや雷門中の日常となりつつある。
が、今日はそんな彼らに変化があった。具体的には、2人ほど人員が増えている。
「うーい、サッカー部!サッカー部いかがっすかー!!………おっ、高杉!!どうだサッカー部!!」
「あ?俺はいいわ。にしてもお前、マジでサッカー部になったのな。風丸の真似か?」
「真似ゆーなし。俺は自分で考えて決めたんだよ!!」
一人は先日陸上部からサッカー部に転部した速水。陸上選手としては風丸と並んで名が知れていた彼は、その気のいい性格も合わせて校内に友人は多い。目をつけては声を掛けていくが、芳しい結果は得られていないようだ。
「サッカー部、部員募集中!興味がある人は気軽にお声かけどうぞ!!」
そしてもう一人、勧誘をしているのは、落ち着きを感じる青髪をした鋭い目付きの男子生徒ーーー冷泉だ。サッカー部では無いにも関わらず、こうして律儀に勧誘に付き合ってくれている。
「あれ?冷泉先輩、サッカー部入ったの!?」
「いや、勧誘を手伝ってるだけだよ。どうだ、サッカー部」
「うーん、うちは運動はちょっとぉー……」
「そっか。無理に、とは言わない。よければ他の子達にも宣伝しておいてくれないか?」
後輩の女子から声を掛けられるが、にこやかに対応してサラッと宣伝も頼む冷泉。頼まれた女子生徒は「かしこまり〜!」といいながら冷泉に手を振って教室へと戻っていく。
「見ろ半田、後輩の女子から声かけられただけじゃなく楽しそうに会話しやがったぞ。アレが冷泉錐って男だ………」
「くっ、モテない男子学生の敵め……!!」
「おいなんだその言い方。半田は半田でそんな感じだったか…?」
冷泉の手馴れた対応を見て速水が半田の肩をぽん、と叩きながらそんなことを言う。半田も半田で目を固く瞑りながら拳を震わせており、そんなキャラだっけ?と冷泉は苦笑しながら首を傾げる。
「………あら〜〜?」
そんな時、不意に耳に入ってきた間延びした声。どこか朗らかな雰囲気すら感じるほどにぽやぽやとしたその声と共に、ふわりと漂ってくるのは、どこか安心するような香り。
半田たちが振り向けば、そこに居たのは一人の女子生徒。胸につけるリボンは緑色、つまり半田たち4人と同学年であることを表している。
髪の色は淡い黒、所々ぴょこんと跳ねており、後ろ髪をヘアゴムで一つにまとめ、左肩から前に流している。とろんと垂れた目は綺麗な桃色に輝いており、優しそうな雰囲気が伝わってくる。
そんな彼女は、物珍しそうに瞳を丸めながらゆったりと言葉を紡いだ。
「冷泉君じゃない〜!サッカー部、入ったの?」
「あぁ、椎名。いや、手伝っているだけで入部はしてないよ」
「あら〜…そうなの〜……冷泉君がやっと自分のやりたいこと見つけたのかと思ったのに〜……」
冷泉からそれを聞いた彼女は、しゅんとした表情になりながら残念そうに呟く。2人から漂う親しげな雰囲気に、冷泉の知り合いかなと思う半田と速水だったが、そこに割り込む人物の姿があった。
「紅絹乃ちゃ〜〜〜ん!!!」
「!つくしちゃん〜〜!!」
小走りで駆け寄った大谷を見て表情を明るくすると、キャー!と2人で笑い合いながら抱き合う。性格の明るい大谷だが、廊下で人と抱き合う事をするのは見たことが無い。それだけ、彼女と親しいのだろうか。
勧誘していた仲間のうち2人と仲良さそうにしている彼女に向けて、ぽかんとした表情を向ける半田達。そんな彼らの表情に気がついてか、大谷が半田達の前へ彼女を連れてくる。
「アハハ、ごめんごめん!2人は初めてだよね。こちら、料理研究部の副部長にして、私の友達!【
「はじめまして〜……サッカー部の半田君に、陸上部だった速水君よね〜。私、同じ学年で料理研究部の椎名です〜!つくしちゃんからお話聞いてるわ〜」
頬に手を当てながらぽやぽやと自己紹介をする彼女こと椎名。大谷よりも少し背の高い彼女は雰囲気も相まって、同学年というよりも一つ歳上にも見える。
「あぁ、今のサッカー部でキャプテンを務めさせてもらってる半田だ。よろしくな、椎名さん」
「同じくサッカー部、速水だ。まっ、元陸上部だけどな」
挨拶を受けた半田と速水も同じように自己紹介を返すと、椎名はニコニコと笑いながら軽く頭を下げる。半田からしたら始めてみる相手であるが、顔立ちの整った椎名から笑顔を見せられればなんだか悪い気はしない。彼は良くも悪くも平凡、女子に対する耐性はあまり無かったりする。
「……あぁそうだ。椎名、お前サッカー部に協力してくれないか?」
「へ?私がサッカー部に?」
そんな中で一人、冷泉のみ勧誘の看板を持ちながら椎名へと声を掛ける。唐突に勧誘された椎名はぽかんとした表情を浮かべており、半田たち3人は思わず冷泉の言葉に耳を疑った。
「え、でも冷泉君、紅絹乃ちゃんってそんなにスポーツ得意じゃないよ?それに、料理研究部の活動もあるだろうし………」
3人を代表して、一番椎名と親しい大谷がそう言う。
確かに椎名のスポーツの成績は高いとは言えず、精々が平均レベル。料理研究部に所属していることから、容易に彼女がインドア系であると想像出来る。
仮に彼女の方からサッカー部に入りたいと申し出てきたなら、半田たちは喜んで迎え入れる。初心者でスポーツが苦手であろうと、努力すれば必ず結果はついてくる。なのでスポーツ成績の良し悪しなどは大した問題にはならない。
しかし、それは相手側から申し出てきたなら、だ。別の部活に所属している彼女を無理やり引き込むのは憚られる上に、陸上部以外にも睨まれる結果を産むだろう。
それに何よりも、自分から望んでいない相手を、意思に関係なく引き込むのは雷門サッカー部として、彼らの代表としてここに残った者として。半田にとって、出来ることではなかった。
それ故に冷泉の提案を取り下げようとした時、冷泉は意外そうに聞き返してきた。
「いいのか?彼女、サッカー経験者だぞ?」
「______はあっ!?」
まさかの発言。サッカー経験者______もうこの雷門には存在しないと思っていた、その存在。
半田は統括チェアマンである轟から、この雷門に眠る可能性を探し出し、育てることを託されていた。故に彼は未経験者の中から協力してくれる人物を探し出そうとしていたが、まさか料理研究部に経験者がいるなんて思いもしなかった。
「ちょっ、し、椎名さん!!本当か!?」
「え、えぇ……一応、小学校の頃までやってて………」
「必殺技は!?」
「一つだけなら使えるけど……」
「使えんのかよ!?」
まさかの必殺技習得済みという事実に、思わず速水が声を上げる。詳しく聞けば、小学校時代に編み出したブロック技だと言う。
これを聞いた半田は、正直に、椎名に協力して欲しいと思った。
半田はMF。しかもバランス型だ。秀でたものが無い代わりに全体的にこなせる、その点を買われて雷門に残った人物。
しかし、逆に言えば彼がいれば安心!という分野が無いということでもある。
仮にここに残ったのが円堂なら、守護神としてチームを守り、同時にキャプテンとして引っ張っていけただろう。
豪炎寺ならば、その圧倒的な攻撃センスで得点を量産することも可能だ。
鬼道ならば優れた指導力で皆を纏め上げ、指示を出すことも出来ただろう。
しかし、半田はどれもこなせない。さらに言えば皆から指導に向いていると評価されていたとしても、彼自身はそんな自信は皆無だった。
「し、椎名さん!頼む、サッカー部に入ってくれないか!?」
だが、ここでブロック技を使える椎名が加入してくれれば事態は好転する。攻撃ももちろん大切だが、守りという物は一朝一夕でこなせるようになるものでは無い。しかし、一人でも経験者がいてくれれば守備陣の要として、守りを安定させる事が出来る。
それになによりも、オール初心者で育てなければならないと思っていたのだ。ここで指導者が増えるのは、半田にとってこの上なく有難かった。
「…………ん〜〜…………」
そんな彼からの誘いを受けた椎名は頬に手を当て、悩む素振りを見せる。当然だ、彼女からしたらインドアの料理研究部からいきなり全国大会優勝校のスポーツ部に誘われたのだから。しかも指導する事を含めて、だ。
「そうねぇ〜………こんな風に誘ってくれるのは嬉しいし、力は貸してあげたいし………つくしちゃんもいるし〜………」
急な誘いだったものの、椎名はなるべくなら力を貸したいとぼんやりと考え込む。仲の良い大谷もいるし、料理研究部の活動はなにも毎日行われている訳では無い。兼部しても問題は無いし、何より彼女は、まだ速水しかスカウト出来ていないサッカー部のことを見れば極力手伝いたい、と思えるような善人であった。
そんな椎名は、唐突にポンッと手を叩くと、笑いながら近くの人物______この勧誘の発端となった冷泉の肩を掴んだ。
「じゃあ、冷泉君も入部するなら入りますぅ〜!!」
「………はァっ!?」
突然そんなことを言われて、素っ頓狂な声を上げた冷泉。普段の落ち着いた立ち振る舞いからはあまり想像出来ないその様子に、去年からの付き合いの速水は珍しいものを見たように目を丸くした。
「おまっ、椎名!うちの事情知ってるだろ!?部活入る余裕なんか無いぞ!?」
「あら、確かに知ってるけど、私むしろおじ様から『うちの錐がワガママ言わなくなって…』って相談されたのよぉ?部活入った方が、おじ様安心すると思うけどぉ……」
「んな事言ったって………あぁもう分かった!分かったから力入れるな!」
冷泉が珍しくぞんざいな扱いを見せながら、椎名を払う。そして大きくため息をついてから、半田達の方を向いて頭を下げる。
「……悪い、変なとこ見せて。入部出来るか怪しいけど、とりあえず今日親父に聞いてみるよ」
「へっ!?あ、あぁいや!それはいいんだけどさ!」
ブンブンと手を振る半田、大谷。その隣で速水がニヤニヤと笑っており、そんな様子を見た冷泉がわけも分からず首を傾げた。
「な、なぁ冷泉。そのさ………」
そんな中で半田が恐る恐る、ゆっくりと冷泉へと尋ねる。
「………椎名さんと、どういう関係で?」
「……あぁ、その事か。幼なじみだよ、家がご近所で家族ぐるみで付き合いのある腐れ縁…みたいなもんだ」
「もぅ、小さい頃から一緒なのに腐れ縁は無いでしょう〜?ねぇ半田君、つくしちゃん、速水君、聞いて?冷泉君ってね、昔から他の子に優しかったんだけど、小さい子に自分のおやつあげて影でしょんぼりしてたりしてね……」
「へぇ〜、そんな事もあったんだな、お前」
「………頼む、マジでやめてくれ椎名。あーもう!!ほら、勧誘続けるぞ!!お前も手伝え椎名!!」
冷泉が無理やり話を切り、足早に勧誘へと向かってしまう。そんな冷泉を眺めながら速水と大谷は冷泉の幼い頃の話を面白そうに椎名に尋ねていたのだが、半田だけふと気になる事があった。
「……そういや椎名さん」
「呼び捨てで大丈夫よぉ」
「そっか。んじゃ椎名……冷泉の家の事情って?」
先程冷泉自身が口走った事。部活動に入らないことに関係があるのかと思い尋ねると、それを聞いた椎名はゆっくりと首を振った。
「……ゴメンなさい、流石に言えないわ。______ただ、冷泉君はスポーツとか大好きなの。だから、彼が何を言っても諦めずに誘ってくれないかしら?」
「……そっか。分かった、俺も冷泉とサッカーしたいし!あ、もちろん椎名ともな!」
「!………ふふっ、ありがとう、半田君」
微笑みかける椎名の様子に照れくさそうに笑いながら、半田は大谷達と共に勧誘を続けていった………。
なお、その日の収穫はゼロだった模様。