ようこそ実力至上主義の教室へ(仮)   作:黒月 士

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EpisodeⅠ-Ⅰ坂柳 有栖

 早々に入学式を終えた俺達Aクラス一同は足早に教室を目指す。その中ではすでに自己紹介が始まりそれに感化されたのか冬香も女子生徒と話し始めている。そんな状況のなかかくいう俺は

 

 

「なあ零、女子が集団を好むのは何故だと思う?」

 

 

「男子よりも女子のほうが他者に対して共感してほしい感情が強い、要するに承認欲求が強いからじゃないか?」

 

 

 橋本 正義と何気ない会話をしていた。彼と話を何分かした結果わかったことだが、彼には漠然とした志がない。正確に言えば仲間を仲間と見ないということだ、人を自分にとって有益か無益か、そこだけを見ている。こんな人間ほど情に流されることなどがないため裏切られにくい。最も俺にそれだけの力があればの話だが。

 

 

 ようやく教室に着き、ドアを開いた先頭に続き雪崩のように人が教室に流れていく。自分の席はすでに把握していたため一直線に向かう。肩から掛けていた鞄を下ろし、どさりと席に着く。ふうっと一息つくと視線を移す。

 

 

「いやぁー席が隣でなにより、なにより」

 

 

「おまえ、なんか(・・・)してないよな、もしかして入学早々退学になる気でもあったのか?」

 

 

「ちーがーうーよー」

 

 

「わざわざ伸ばすな」

 

 

 机の上で両腕をバタバタさせる冬香に鞄でも投げてやろうかと考えたが、なんとか抑える。

 

 

「今回のはほんと偶然、むしろ機材もなんもないのにやれっていうほうが無茶だよ」

 

 

「まぁ、そうだな」

 

 

 俺がそう返すと会話に区切りがつき、それを待っていたのだろうか、数人の女子生徒が冬香に迫った。その中には先ほど話していた女子生徒もいる。大方今さっき知り合った友達を冬香に紹介しているのだろう。

 

 

 こんなことを言うのは野暮だが、冬香はそれなりに美人だ。人気が出るのも頷ける、橋本はなにやらスキンヘッドの生徒と話し込んでいるらしくこちらには目もくれない。一気に手持ち無沙汰になった俺は背もたれにもたれかかる。

 

 

「菊川 零さん、ですよね?」 

 

 

 話し声が打ちっぱなしのコンクリート壁に反響し、お世辞にも静かとは言えない教室。そんな中でその声ははっきり聞こえた。その声を発した少女が右隣の席に座っていたのもあるだろう、しかし、その声だけでわかる。こいつは……

 

 

「ああ、そうだけど…あんたは?」

 

 

「坂柳有栖です、以後宜しくお願いしますね?零さん」

 

 

 化け物だ。

 

 

 今の一言も他の生徒とは意味がまったく違う、これからなかよくしていこうなどという生易しい言葉じゃない。自分の配下か右腕になれと、そう彼女は言っているのだ。それも初対面の俺に。

 

 

 心臓を握られたかのような衝撃が走り、普段出てはいけない場所から冷ややかな汗が拭きだす。それでも表情を崩してはいけない。これは一種のテストだ、崩そうものなら俺は間違いなく配下、崩さなければ右腕、そもそも今の言葉の意図に気づかない者は友とすら見ない。驚いた、入学初日で16歳が持つ標準的な精神年齢を超えてくる人間に、それも二人も出会うことになるとは。

 

 

 先ほどの言葉からどれだけ経ったのだろうか、体感では何時間にも感じられたが大方二、三秒程度なのだろう。彼女からおもむろに手を差し伸べられる。これは、つまり…

 

 

「ああ……よろしく頼むよ」

 

 

 合格、というわけなのだろう。とりあえず一安心。

 

 

 

 俺は細く、小さな手を握る。どうやら俺はとんでもない学校、クラスに来てしまったのかもしれない。

 

 

「零くん、そうお呼びしても構いませんか?」

 

 

「ああ、こっちは…有栖でいいか?」

 

 

「はいっ。それと後で連絡先も交換して頂いてよろしいですか?」

 

 

 俺はその言葉に静かに頷く、なんとも機械的な会話だが成立したのが少しでもうれしかったのだろうか。やったと小さく笑って見せた。日本では珍しい銀色のショートヘアーが揺れ、その姿は西洋の人形のようだ。

 

 

 教室までの移動で見ていない理由はすぐにわかった、机の横に立てかけられている杖、その年で杖を使うということは生まれつきか、はたまた事故の後遺症などで足が弱いのだろう。

 

 

 その後、適当な会話をしていると、教室に担任であろう男が入ってきたことで会話は一旦お開きとなる。

 

 

 

 彼女がいる限り、俺の学校生活に退屈など訪れないだろう。

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