ようこそ実力至上主義の教室へ(仮)   作:黒月 士

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EpisodeⅠ-Ⅱ 犯罪と犯罪

 入学してから一週間、この学校には室長などという役割(ロール)はないのだが必然的にクラスのリーダーというものが決まっていく。

 

 

 Dクラスでは平田というサッカー部の青年がいまだちぐはぐなクラスが分断されないように努力してる。Cクラスは龍園という少々暴力的な生徒がクラスを恐怖で支配し、Bクラスは一ノ瀬という生徒が一段上に立つだけのクラスに仕上げた。簡単に言えば団結が強く、外側からは壊しにくい、そんなクラス。

 

「で、今回言われてた指示はコンプリートだ。他クラスのリーダーの名前を調べ、クラスがどのような状況か入念に調べてきてくださいと言ってたが、有栖、それぐらい、自分でできるんじゃないのか?」

 

 

 入学から一週間、他の生徒がやれ部活動見学だ、やれ買い物だ、などと青春を謳歌している中俺はたった一人で諜報活動を行っていた。それを今有栖の部屋で報告しているのだが……正直その場に倒れたいほど疲れがたまっている。夕焼けが部屋に差し込み、その暖かな日差しに瞼が一気に重くなる。

 

 

「ふふ、連日の調査で零くんの体力に底が見え始めましたね」

 

 

「俺の体力限界を測る為でもあったんなら、相当悪質だぞ」

 

 

「もちろん、後々お願いすることもあるかもしれませんし、むしろそれぐらい、知っておくのが当然ですよ?」

 

 

 俺は一つ大きなため息を有栖に隠さずついた。これが何回もあるのか……正直退学してでも回避したいレベルだが、そうもいかない。さて、筋トレのメニュー内容、さらにきつくしないと……

 

 

「あ、でも今日からはお願い、真澄さんにもお願いするので少しはマシになると思いますよ?」

 

 

 真澄?と言ったら……確かクラスに神室 真澄という生徒が居たはず。所属していた部活は芸術だったはず。しかし、彼女は葛城のように表立って行動するような人間ではない。ではいったい、何故……?

 

 

 

 

 

「お疲れ~どうだった?有栖ちゃんへの報告は」

 

 

 俺の部屋に響いた声の主は、とても人の、それも異性の部屋でするにはあまりに薄着な姿でパソコンの液晶を眺めていた。

 

 

「なあ冬香、調べてほしいことがある」

 

 

「なぁに?」

 

 

 パソコンの横に注いだ緑茶が入ったグラスを置き、俺はベットに腰掛ける。

 

 

「今日の放課後からの有栖の行動が知りたい、それと神室 真澄との接点、どれくらいでできる?」

 

 

「そうだねぇ……見つけられたらすぐだけど、まぁそう時間はかからないよ」

 

 

「わかった」

 

 

 俺はそう返すと、台所に戻り冷蔵庫からさまざまな食材を並べる。

 

 

 まな板の上に皮をむいた玉ねぎを置き、包丁で切っていく。少々涙が出そうになるがこらえつつみじん切りにしていく。

 

 

 

「ほら、最初っから監視カメラをハックしててよかったでしょ?」

 

 

「忌々しいが、そうだな」

 

 

 油をフライパンに引き、中火で熱しながら俺は監視カメラをハックするなどという事態になった経緯を思い出していた。

 

 

 

 

 

 それはなんとも早い、入学式の後の話だった。俺と冬香は今とは逆、冬香の部屋に居た。服装などに差異はあるが最も違ったのは冬香の部屋のテーブルには何とも大きいパソコンがあったことだろう。

 

 

「じゃーん!最新式のパソコンに、外付けハードディスク!」

 

 

「…………なぁ、今の気持ちを正直に言っていいか?」

 

 

「うんうん、いいよ!」

 

 

 気が付いた時には俺の右手はニコニコとしている冬香の頭に突き刺さっていた。

 

 

「お前は馬鹿か!?俺たちの手元に10万円相当のポイントがあるにしても、次供給されたとき同じ額とは限らない!だから消費はできる限り抑えろとあれだけ言ったのに…………!」

 

 

 ビシビシと頭にチョップを叩きこむ。これにはさすがの冬香も痛かったのだろうか。両手で頭をかばうようにしている。

 

 

「まぁ、普通に使うんなら問題ない。いいか、絶対ハッキングなんてするなよ!」

 

 

 

「あ、もうしちゃった。学校中の監視カメラハックしちゃった」

 

 

 ピシっと何か走ってはいけない電気が俺の体内に走った。その電気を感じ取ったのだろうか。冬香が数歩後ずさりする。

 

 

「そうか、そうか。やってしまったことはしょうがないよなぁ……?」

 

 

「そ、そうそう!し、しょうがないよね!うん!それに、色々」

 

 

「ああ、そういえば」

 

 

 冬香の言葉を遮り、俺は彼女の両肩を掴み、ベットに押し倒す。

 

 

 

「朝のバスでの一件の借り、まだ返してもらってないよなぁ?」

 

 

「あ……」

 

 

 冬香の顔色がみるみる悪くなっていく、カメレオンでもここまで一気に変化することはないだろう。俺はポキポキと指を鳴らしながら笑みを浮かべる。

 

 

「さぁて、今度はこっちが攻める番だ。準備なんてとーぜんできてるよな?」

 

 

「えっと…後24時間ぐらい待ってくれたらできる、かも?」

 

 

「へぇ…つまり、今なら準備もできてないから攻めたい放題ってわけか」

 

 

「あ……」

 

 

「こっからは俺のターンだ、覚悟しろよ?」

 

 

 

 数時間後、すねた冬香を尻目に俺は一人晩御飯を作っていた。そう、今と同じように。

 

 

 

 

 

 

「居たぁ!」

 

 

 冬香の声で意識が現実に帰還した俺は、今の状況を確認する。手には形が整えられた楕円形のひき肉の塊、どうやらハンバーグを作っていた最中らしく、手のひらから手のひらへ移動を繰り返している。

 

 

「何処だ?」

 

 

「今日の放課後、コンビニ前の監視カメラに写ってる!ん?二人で何か話してる…?」

 

 

「見せてくれ」

 

 

 ハンバーグを二つ、中火で熱せられたプライパンに置く。肉が熱せられる匂いが台所中に充満し始める。ひき肉が付いた手を洗い、タオルで拭きながら冬香の元に向かう。

 

 

「読める?」

 

 

「いや、有栖は器用に神室の背中に隠れてる、これじゃ読唇術は使えないな……ん?」

 

 

 映像の中ではどうやら神室と有栖話し合っているというより、有栖が問い詰めているような空気に感じられる。すると神室が何かを有栖に突き出す。

 

 

「突き出してる物、拡大できるか?」

 

 

「ちょっと待ってね……」

 

 

 拡大された神室の手に握られていたのは細さからして銀色の缶の飲料、買ったものだろうか、にしては……

 

 

「見覚えがない、な。冬香、この店で売られてる缶の飲料をリストアップしてくれ」

 

 

「りょーかい!」

 

 

 彼女がリストアップをするなか俺はフライパンに置かれた二つのハンバーグをひっくり返し、蓋をする。タイマーを八分に設定し、冬香の元に戻る。

 

 

「できたか?」

 

 

「多分だけど……これじゃないかな?」

 

 

 液晶に映し出されたのは、かの翼を授けるで有名なあの飲料だった。しかし、腑に落ちない部分がある。

 

 

「この青い部分、カメラに写ってない。となるとこいつじゃないが……他にないのか?」

 

 

「うーん、飲料だとこれしかないよ。コンビニに来るまでの神室さんがどこにもよってないから間違いなくコンビニで買ってるはずだよ」

 

 

「…なぁこの店に売ってる銀色の缶の飲料、全部出してくれ」

 

 

 液晶で映し出された缶は二本、先ほどの飲料と……

 

 

「こっちなのかなぁ……にしてもこれって…」

 

 

 

「ああ、ビールだな。それもプレミアムの」

 

 

 映し出されたビールの缶と先ほどの神室が握っていたものを見比べる。同じ物、と言っても過言ではないほど似ている。だが問題がある。俺達高校生はもちろん成人していない為アルコール類を購入することは不可能。だが神室は現にこうしてビールを手にしている。それはつまりレジを通さなかったということ。つまり…

 

 

「万引き、か。それも快楽系の」

 

 

「なるほどね~で、それがバレて有栖ちゃんの手下になったってことかな」

 

 

 手下、俺も一手間違えていたら同じ道だったのだろう。万引きという犯罪をハッキングという犯罪で暴く、なんとも皮肉なことだ。その時、設定していたアラームが響き俺は台所へと向かう。

 

 

「今のところ、有栖に属する人間は俺、冬香、橋本、そんで神室。神室のほうがランクは下と見ていいだろう、他クラスの状況は?」

 

 

「今のところ変わりないけど……Dクラスの赤髪の人、確か……須藤だったかな?彼が所々で暴力沙汰を起こしてるみたい、まぁ事件一歩手前だけど、その内事件に発展しそうだね」

 

 

「そうか……了解した、とりあえず喰うぞ」

 

 

 作ったソースをハンバーグにかけ、皿に盛られたハンバーグをテーブルまで運ぶ。冬香はパソコンを地べたに置き、後から運んできたコップや箸、白ご飯を並べる。俺も床に座り、二人とも手を合わせ、誰に対して言うように決められたのか分からない言葉をお互いに向けて言い放つ。

 

 

「「いただきます!」」

 

 

 

 

 


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