「生徒会?」
神室の犯罪を知ってから少し経ち、もうじき5月がやってくる4月の末。隣の部屋から響く低レベルの歌唱力と共にやってくる曲という名の爆音兵器に鼓膜を少々痛めつつ、俺は、いや俺たちはカラオケの一室に集っていた。
「ああ、どうやら葛城は立候補する腹らしい」
横長のソファに肘を置き、橋本はそう言った。
生徒会と言えばうわさで聞いたが、部活動紹介の時に威圧してきたことで有名らしい生徒会長を筆頭とした組織。生徒に10万も与える学校なら生徒会が持つ力も普通ではないように思えるが……
「冬香、生徒会で空いてる役職は?」
「えっとね……確か書記と副会長ぐらいじゃないかなぁ…?一年が副会長になれるとは到底思えないし、書記を一年で取り合う形になりそう」
「それと坂柳、あんたの指示で調べてきたけど、今の生徒会長は正直言って別格よ」
「別格、ですか?」
神室は烏龍茶を一杯あおり、言葉を続ける。
「なんでも一年で書記を務めて、そのあと圧倒的支持をもって生徒会長に就任。クラスはずっとAクラスのままらしいわ」
「はえぇ、ずっとAクラス……上級生からクラスポイントでクラスが変動する話聞いた後だとすごい話だね。でもずっとAクラスだとそれに対するプライドも高いだろうし、Aクラス以外の人が入るのは難しいんじゃないかなぁ…」
「なるほど……つまり、このままだと葛城が生徒会入りする可能性が高いってわけか」
「だが、それじゃあ困る。もし、葛城が生徒会しようものなら葛城派の勢いは一気に加速する。俺達は劣勢になってそのまま吸収されちまう。どうする、有栖」
俺たち四人は司令塔の有栖に支持を乞う。有栖は目をつぶったまま動かない、支持を乞うてからおよそ30秒後、まるで菩提樹の下で悟りを得た釈迦のように目をゆっくりと開いた。
「零君、生徒会に立候補してください、正義さんはそのサポートを。真澄さんは他クラスで生徒会に立候補した者が居ないか、冬香さんは生徒会メンバーの周辺調査を」
「了解」「零、自信もっていけよ?」「はいはい、やればいいんでしょ」「うん!頑張るね!」
四名は了承や応援、愚痴を叩きながら部屋を後にする。全員が後にした一室に残った有栖は紅茶を一口口に運ぶ。
「ここが正念場、葛城君が生徒会入りせず零君が入ることができれば我々は圧倒的優位に立てる。まぁ、たとえ零君が入れなかろうと、野心が薄い葛城君に入れるとは思いませんが」
4月最後の休みの土曜日、俺は一人生徒会長と面談していた。生徒会の傍に立っている女子生徒はどうやら現在書記の橘先輩らしい、クラスはもちろんA。
「1年A組 菊川 零か」
「はい」
生徒会長から発せられる冷めきった声、なるほどこの声を発するならあの時に威圧することも可能だろう。
「先生からお前の資料をもらった。基本的能力は秀でたものはないがどれも平均を上回っている。それにどうやらこの学校のシステムを学校側から発表される前に知ったようだな」
「さて、なんのことやら」
「悪いが、Aクラスの寒桜 冬香という生徒に聞かれたと三年から報告があってな。だが、聞かれ、話した生徒は口が堅いことで有名でな、普段なら口を割らないやつが口を割った理由を聞いてみた。すると、そいつが二股していた証拠を突き付けられて仕方なく話したらしい」
「冬香が脅した、と?それで同じクラスの俺が生徒会入りすることは認められないと?」
「俺はこのことでお前を糾弾するつもりはない、むしろ素質がある。この学校で生きていくな」
脅しが素質とか……なんだ?この学校はマフィア養成学校だったのか?そう思うと頭が痛い。確かに社会で生き抜くためには必要だろうが……
「とはいえ、さすがに素質があるからと言うだけの理由で副会長の椅子は渡すことはできない」
「ふ、副会長?確か書記があったはずじゃあ…」
「書記はつい昨日、副会長の南雲の一推しで一年が入った。確かBクラスの生徒だったな」
おいおいなんてタイミングの悪さだよ。しかも南雲といえば二年をほぼ掌握していることで有名な南雲 雅。生徒会長が許してもそいつが許すかどうか
「そこでだ、俺から一つ提案がある」
「提案?」
「入れ」
その一言を待っていたかのように先ほど俺が通ったドアの扉が開かれ、入ってきたのは見覚えがあり、特徴的な頭部。
「む、菊川、なぜここにいる?」
「葛城……どういうことですか、堀北 学生徒会長?」
「次の試験後のクラスポイントが1000ポイント以上の場合菊川、1000ポイント未満なら葛城が生徒副会長の座につく。たったそれだけだ」
生徒会長から発せられた言葉の意味は実に単純。クラス内でつぶし合えというものだった。いや、クラスポイントという未知の単語からそう予想しただけだが大方合ってはいるのだろう。
「なるほど……それは難しいですね…」
生徒会長の一言の後、俺は帰路についていた。その横を歩く有栖は珍しく困った顔をしている。まあ無理もない、なにせ今クラスを指揮しているのは葛城であり俺たち側の人間の数はたかが知れてる。では、葛城の勝利が揺るがないのかと言われたらそうではない。
誰だってポイント言う名の金は欲しいに決まっている。葛城側につくということは自分で自分の首を絞めるのと同義。俺達にだって何とか勝機は見える。
クラスポイントと銘打っている以上それがクラスに供給されるPポイントの決定に関わっているのは明白、となればそれを下げようとする葛城とそれを上げようとする俺たちに対する課題が見えてきた。いや、見させられたとでもいうべきか。
葛城は自身の野心のためにクラスを巻き込み、損をさせる覚悟があるのか。
俺達はクラス内の人間を引き寄せるだけのカリスマがあるのか。
クラス内の人間はどちらにつくかによって今後の立ち回りが大きく変化する。
4月も後5日、俺達Aクラスは入学して一月足らずで大きな変革と選択を生徒会という名の権力に強いられるのであった。
零と葛城が去った生徒会室には生徒会長と書記の橘、そして生徒会長が腰掛ける横に座るもう一人の生徒の姿があった。
「いやぁ~どうなることやら、堀北先輩はどっちが勝つと思いますか?」
「南雲、今回の案はお前が出したものだったが、俺は正直納得できん。クラスは結託するものであってつぶし合うものではないはずだ」
「嫌だなぁ、俺もそんなことは重々理解してますよ。というかむしろこれは俺なりの思いやりなんです、今のAクラスにはリーダーが二人いる。そんな状況じゃ結託も何もない、だからリーダーを決める機会を与えたまでですよ」
「機会、か」
その一言は生徒会室に漂う闘争を願う空気に押されて潰れていった。