ようこそ実力至上主義の教室へ(仮)   作:黒月 士

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EpisodeⅠーⅣ 思わぬ課題と出会い

 生徒会入りを目指す為ひいてはAクラスでの実権を握る為、俺たち坂柳派は奮闘していた。

 

 落ち着いた雰囲気ではあるが、確かな野心を持つ的場。葛城の方針が気に食わなかったらしい鬼頭。

 

 Dクラスに在籍する櫛田ほどではないが、2、3年に確かに情報網を持つ司城

 

 少しずつではあるが確かに、そして後々Aクラスにおいて重要になってくる人間を厳選して、順番に気をつけながら引き入れていく。

 

 俺と有栖は連夜電話越しに日を跨ぐまで会議を続けた成果もあってか、徐々にではあるが坂柳派とはっきり呼べるような派閥が出来上がって行った。

 

 

 そんな最中行われた小テストごときに気を向けるほどの余裕はなかった。しかし、そこはAクラス、誰も彼もが平均以上の点数を叩き出す。

 

 

 足が不自由な有栖もここぞとばかりに上位陣に食い込み、葛城の点数をどれも上回った。俺も彼女ほどではないが高得点をとり、生徒会入りに向けてアピールをしようとした。

 

 そう、まさか思わぬ課題が残っているとは知らずに。

 

 

 

 

「よ、40点!?」

 

 

 いつも冷めた態度をとる神室にしては珍しく裏返った声を上げた。羞恥心からだろうか、すぐに口を押さえるがここはいつものカラオケルームの一室ではなく俺の部屋、もちろん防音加工などされているわけもなく、今頃隣人は鼓膜を響いた声の奇妙さと発せられた点数の異常さの二重の意味で困惑することになるだろう。最も俺が帰宅してからというもの隣室からは物音一つしなかった為その心配は杞憂に終わりそうだが。

 

 

 無理もない、なにせ冬香がAクラスにしては規格外の低得点を叩き出したからだ。彼女を古くから知る俺からすればまぁそうなるだろうな、と薄々思っていたがまさか本当にこのような低得点をとるとは思っていなかった。

 

「あ、あはは…」

 

 

 このAクラスに在籍した生徒の中では歴代ワースト10には軽々入りそうな点数を叩き出した当の本人は苦笑いを浮かべ元々部屋に常備されていたグラスとは別の、前に5人で買いに行ったグラスに並々と注がれた緑茶を一気に飲み干す。

 

 ちなみにこの部屋に集まってから、冬香一人で軽く1Lは飲んでいる、人間は緊張時、水分を欲することはよく聞くがここまで典型的な例は一周回って稀ではないだろうか。

 

「取った点数については仕方ないものです」

 

 飲み干した紅茶が入っていたカップを物音一つ立てず皿の上に戻すと有栖はそう一言述べる。もちろん一杯目だ。

 

 ちなみにこの紅茶は彼女自身が入れたもので、なんなら次来た時に入れられるようにときっちり教えられた。俺は英国の作法に興味ないんだが?

 

「でもよ、冬香ちゃんの得点は葛城たちにとっていいカードになっちまうんじゃないか?」

 

 

「いいえ、その心配は無用でしょう。葛城くんの派閥に属する戸塚 弥彦くんをご存じですか?彼の点数も実のところ冬香さんとそう大差ないものです、そんな方々が葛城くんの派閥に属している以上、彼らが冬香さんの点数を攻めてくるとしても、我々に与えられるダメージとは比べられないほどの大きなリスクがあります。それに」

 

 

「第一、葛城は俺たちだけが持っている傷を攻めてくる。その傷を持っている俺たち以外の奴がAクラスに在籍しているなら攻められない。それが葛城の流儀であり、強みであり、弱点だ」

 

 

「ほうほう、なるほどね…」

 

 

 なるほどなるほど、とあたかも納得したかのようなそぶりを見せる正義だが、正義ともあろうやつがこんなことに気づかないわけがない。大方俺たち二人を試したのと神室と冬香にその事実を伝えるためだろう。まったく、食えない男だ。

 

 

「ですが、小テストの結果とはいえこれが中間テストに響く可能性があります。零君、彼女の学力面のサポートをお願いします」

 

 俺はわざとらしくため息をつき、冬香の反応を待った。冬香は先程からになったばかりのグラスにまた注がれた緑茶をまるで砂漠でオアシスでも見つけたかのような勢いで飲み干した。

 

 

 

 

 その翌日、図書室にて彼女の答案をもとに参考書や教科書などから適当に抜粋した問題を解かせていた。

 

「じ、実数って何……?」

 

「有理数と無理数のことだ」

 

「じゃ、じゃあその「有理数は分数で表せる数、逆に無理数は分数で表せない数のことだ」あ、……はい」

 

 がくりと肩を落としながら冬香はぼそぼそと思考をまとめるためだろうか、はたまた俺に対しての恨み節だろうか、呟きながらペンを動かす。

 

 このペースじゃすぐには終わりそうにないな。そう判断した俺は家から持ってきた本を閉じ、図書館の中を歩く。

 

 図書館の本は綺麗だ。それは司書の方や利用者が丁寧に扱っているからという嬉しい理由とそもそも使用者が少ないという悲しい理由を抱えた本たちに目をやる。

 

 どれも読まれることを、棚から引き出されるのを待っているのだろうか。あまり読まれていないにもかかわらず埃が積もっていない本棚。だが今まで止まることなく動いていた目線はどこか違和感を感じ取った。

 

 違和感の正体はすぐにわかった。本の順番が数字通りに並んでいない、幸い五巻と七巻を入れ替えるだけで良かったが、まさか本が一人でに動くわけもなく、この本が置かれていた一列を弄った人間がいるということは明白。

 

 だがこの図書室にはほとんど人の気配らしきものはない。

 

 

「仕方ない…」

 

 

 そう呟き、俺は江戸川 乱歩が書いた有名小説 怪人二十面相を手に取る。たかが推理小説だの知名度が高いからと言ってこの小説を舐めてはいけない。

 

 一瞬冬香のもとに戻って読もうかと思ったが、あそこに帰れば憂さ晴らしついでに質問を馬鹿みたいにぶつけられるだろう。それはごめん被りたい、かと言ってこのまま帰れば冬香が拗ねてとてもめんどくさいことになる。

 

 何処かいい場所はないものかと、吹き抜けとなっている二階を見上げた時、夕日が窓から差し込み、その光がうまいこと席に当たっているではないか。

 

 間違いなくこの図書館を設計し、配置した匠はこうなることを予測していたのだろう。その匠もまさかここまで人が来ないものとは思っていなかったかもしれないが。

 

 二階に上がり、目的の席を見つけるのと同時に俺は一人の少女も発見していた。読みましたと言わんばかり位に積まれた本たち、そして今読んでいると語りかけてくるように少女の膝の上に開いたまま鎮座する小説。その小説を膝に置きながらすやすやと穏やかな寝息を立てている少女は間違いなく同学年、というより、俺は彼女を知っている。

 

 椎名ひより、Cクラス所属にして中心核に関わる人物。Aクラス内でも彼女と交流がある人物はほとんどおらず司城に聞いたところ彼女が人と絡んでいる姿はほとんど見たことがないと語っていた。今回の一件と同時進行で他クラスともコンタクトをとっておきたかったのだがこれは暁光。

 

 ちらりと積まれた本たちに目をやるとどれもマニアックな本、それも外国人が著者の物がほとんどだ。これは俺の知識が少しは生きるやもしれない。

 

 一階に視線を移すと、下ではうーうー言いながら問題にかじりつく冬香の姿とその様子を見にきたのだろうか数人の友人の姿が見える。

 

 

「下に降りなくてもいいんですか?」

 

 

「学問は本人のやる気によって結果が左右される、頑張っていたし、ここいらで休憩でもいいだろ」

 

 

 そう返すと俺は先ほどまで寝ていた、いや寝ていたフリをしていた椎名に視線を戻す。俺と冬香の関係性を知っているという事と俺は彼女を肉眼で捉えることが今回が初という事、そして勉強していたスペースから図書室の一つしかない出入り口が見える事から、俺たちがこの図書室に来る前からここにいた事は確定する。

 

 

「俺たちの監視、か?」

 

「いえ、ただ本を読んでいただけです」

 

 答えはなんともあっさりとしたものだった。第一印象の文学少女はどうやら的を得ていたようだが無駄に気を張った。

 

 もちろんこれが嘘だという可能性もあるが、根拠が薄いと言われれば何も言い返せないが彼女はそんな小さな嘘をつく人間には思えないのだ。いつも理屈を並べる人間世界代表にも選ばれそうな俺が第六巻的な発言をする事自体おかしな話だが今回はそれに従うべきだと、なぜかそう思えた。

 

「いつもここにいるのか?」「ええ、普段はいつも」「一人で?」「はい、共通の趣味を持った人というのがあまりいないもので…」

 

「俺も本は読むけど…やっぱり紙じゃないと読む気にならないんだ」「奇遇ですね!私もなんです!」「紙をめくるときのあのなんとも言えない感覚というか」「ええ!それがそれこそ紙媒体書籍の存在理由のような気がするんです!」

 

 

 話は弾んだ、予想の斜め八十五度程に。途中からは素同士語り合った。そこにクラスの壁はない。そう実感しているとき下の階からなんとも言えぬ雰囲気を視線に乗せてきている冬香に気付く事なく。

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