ようこそ実力至上主義の教室へ(仮)   作:黒月 士

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EpisodeⅠ-Ⅵ 接触

 携帯に表示された櫛田の名前、目的はなんであれ取らないという選択はない。仮に電話してきた目的が昼に話していた減点対象に値する行動について思い出したものがあるなど普通の話題である可能性は……

 

「いや、ないな」

 

 

 俺はそうかぶりを振る。だがこうしている間にも電話の最大待機時間である30秒は刻一刻と過ぎ去ろうとしている。思案するのもいいが電話に出ない限りこの思案に意味はない。

 

 

 やかんに水を注ぎ、IHを起動しやかんを熱する。紅茶をいれること自体あまりしないことのため、少々ぎこちないがそれはそれだ。

 

 

「とりあえず出るか……」

 

 そう言い俺は液晶に表示された緑の受話器アイコンを右にスライドし、携帯を耳に押し当てる。

 

 

『もしもーし、夜分遅くにごめんね』

 

 

「いや、大丈夫だ。今さっきまで風呂に入ってたから出るのが遅れた、すまない」

 

 

 最初に謝罪を入れるとともに、俺はテーブルに置いてあったタオルを頭にかけるとベットに腰を下ろす。

 

 

「それで、どうした?」

 

 

『あ、うん。えっとね……?』

 

 

 電話越しの櫛田は一瞬息をつまらせ、少々言いにくそうだった。それから察するにやはり普通の話ではないようだ。

 

 

 水が沸騰したらしく、やかんが音を上げる。ポットにお湯を少し移し櫛田がどう話そうか、攻めあぐねている今のうちに温めておくことにしよう。やかんはまたIHに戻し熱し続ける。

 

 

『あの後司城くんから聞いたの、今朝見た菊川君のテスト結果がすごかったって』

 

 

「ああ、Aクラスにいる以上それなりの成績は出しておかないとな。成績面でクラスの足を引っ張るわけにはいかない。それで?それがどうかしたのか?」

 

 

『ほら、今回Dクラス0ポイントだったでしょ?しかも前回のテストで赤点とった人が多くて平田くんが勉強会を提案したの』

 

 

「まあ妥当な判断だな」

 

 

 赤点をとった人間に勉強しろと言っても素直に勉強するとは思えないし、仮に勉強する気になったとしても勉強する方法がわからない、勉強しても成果が出ない、勉強にやる気をなくす、さらに成績が落ちる。ここまでのテンプレは見えている。ならば勉強会を企画し、勉強する場所、共に勉強する仲間、一定の勉強する時間を与えることで少しは勉強したという実感が沸く。

 

 塾など、この学校にはないため生徒が勉強会を企画するのは理解できるがそれを俺に言うのは何故か、まさか俺もその勉強会に出席し、勉強を教えてほしいなど妄言を吐くのではないだろうか。それであれば即電話をきる腹づもりだが。

 

 

『それでね?私も教える側に回ってほしいって言われたんだけど……今回の範囲をしっかり理解してなくて、そのまま教えるのはちょっと無責任かなと思って…』

 

 

「クラスの高得点者に聞いてみたらどうだ?」

 

 

『高円寺くんは聞く前に消えちゃって、堀北さんと幸村くんには断られちゃって……平田くんは軽井沢さんたちの対応に忙しいみたいだし…』

 

 

 まあ予想はしていた。堀北に至っては考えるまでもない、その姿が思い浮かぶほどだ。その即断と揺るがない精神だけは兄に似ているということらしい。俺は先ほど以上に音を上げているやかんを熱するのをやめ、ポットに入っていた今となっては水に戻ったそれを捨て、茶葉を定量入れた後お湯を注ぎ、蓋をして蒸す。

 

 これでどうやら抽出をしているようだが紅茶という、イギリス紳士淑女を語るは欠かせないこれは中々面倒だ。

 

 

「なるほど、それで俺に教えてほしいってわけか」

 

 

『ど、どうかな……?』 

 

 

 冬香に教えるついでと考えれば別にそこまで損な話ではない。確かにAクラスの弱点ともいえる冬香をさらすのは少々危険だが櫛田の情報網にかかれば知るのにそう時間はかからないだろう。ならば先にこちらの弱点をさらすことで奴の信頼度を少しでも上げておくのが最適解だろう。

 

 

「ん、わかった。日程だが…明日の土曜日はいけるか?」

 

 

『うん。元々佐藤さんたちと買い物に行く予定だったんだけど、お金が足りなくなっちゃったみたいで…』

 

 

「なるほど…そういう櫛田は余裕あるのか?」

 

 

 その問いに櫛田は苦笑いで答えた、やはり二ヶ月を10万で乗り切れと言うのはDクラスにしてみるとかなりつらいらしい。なにせ5月にもう一度10万が振り込まれる前提で動いていたやつらがほとんどだろう、そうなれば今月残っている残金は精々1、2万、使い切った奴らなら4桁もあり得る。

 

 そんな4桁に割り込んだ奴らが友達に金をねだるのは目に見えている、そして櫛田がその要望を聞くのは実にあり得る話だ。はてさて彼女の所持金はいくらほどか…

 

 

「まあとにかく、明日の…10時から、場所は俺の部屋でしよう。ちょうど俺も教える相手がいるからそいつと一緒になるが…いいか?」

 

 

『大丈夫!Aクラスの人とはあんまり仲良くなれてないから、いい機会だよ!あ、それとできれば、名前呼びがいいな…?』

 

 

「わかった。桔梗、俺の呼び方は好きにしてくれ。別に名前だけでもいいし、呼び捨て、君付けなんでもいい」

 

 

『うん!それじゃあれーちゃんって呼ぶね!』

 

 

 何故そうなる!?

 

 

 

 

 

 電話を終え蒸されたポットの蓋を開け、戸棚からコップを2つ取り紅茶を注ぐ。テーブルにつくと片方は自分にもう片方はこの夜にしては珍しい来客の前に置く。紅茶という時点でだいたいの人は察しているだろうが、来客というのは

 

 

「初めてにしては上出来かと」

 

「教える奴がうまかったんだろ」

 

 

 こんな夜に訪ねてきたときは何事かと思ったが、櫛田の電話の件を話すのにはちょうどいい。いくら電話とはいえまさか同じ部屋にいる有栖に聞こえていないわけがない。

 

 

「で、実際どう思う?」

 

「一言でいうなら、我々Aクラスに対するパイプ作りでしょうね」

 

「ま、そんなとこだろうとは思ってたが…やはり櫛田 桔梗は二面性の善人面かぶった悪魔か」

 

 やはり第一印象というのはあてにならないな、そう呟き紅茶を煽る。

 

「本当にそうでしょうか?」

 

「…と言うと?」

 

「人の欲、特に女性の欲というのは多種多様、冬香さんのあなたを独占したい欲に、真澄さんののらりくらりと生きたい欲、そして私のように支配したい欲」

 

「自覚あったのか」

 

「であれば、彼女の欲は人に頼りにされることでしょう。それを満たすためには八方美人な自分を演じるほかない、いや演じることを苦とは思わないほど人に頼りにされることが心地いいのでしょう」

 

「……改めて女性の恐ろしさを知ったわ…」

 

 

 そういい、俺は紅茶の最後の一口を口に運んだ。味は少々薄くなっていた。

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