「鋼さんに負けたぁ!?」
貴虎がボーダーで無双を繰り広げたその日の夜のこと。
玉狛支部に戻った遊真は師匠である小南に村上と戦い6:4で負けた事を報告した。
「ちょっと、大丈夫なの?あんた負けちゃったら上に上がるの難しいじゃない」
「いや……まだこっちも手札は残してるし、向こうも全力じゃなかったから勝負はこれからだよこれから」
遊真は負けてしまったけれども後悔はしていない。
まだ本気じゃなかった、本気で勝ちを取りに行けば勝てる場面が幾つかあったのだが無理にガッツイて勝利を得ても学習されて対処される。そう判断したので遊真はまだイケると僅かばかりだが余裕を持っている。
「オサムのお兄さんともバトルしたぞ。1本しかやってくれないから本気でやったけど勝てなかった」
「修の兄貴とも戦ったのね、って負けたの!?」
「ボーダー支給のトリガーで戦って負けた……なんというかオサムのお兄さん、不気味だった」
「不気味?」
「なんか全部分かってるみたいだった。奇襲を仕掛けてみてもフェイクを入れても全部対処された」
「まぁ……兄さんだからね」
強化視覚のサイドエフェクトを持っている貴虎に素早い攻撃やフェイントは殆ど無意味に近い。
何処から攻撃してくるのか、重心の上手い動かし方など色々と見抜く目を貴虎は持っており、兄ならば出来なくもないと修は納得している。
「メロンくんは色々とズルしてるからな……下手したら鋼よりも成長速度が早いぞ」
「ズルってアイツが持ってるトリガーは基本的には使わない様にしてるでしょ?」
「う〜ん……コレは言うべきことじゃないから教えられないから……悪いな、小南」
貴虎がやっているチート染みた裏技に関して色々と知っている迅はなんとも言えない微妙な顔をしている。
流石に貴虎が村上の姿になり強化睡眠のサイドエフェクトを再現して物凄い速さで成長して行っているとは言えない。貴虎の持つDのトリガーはそれほどまでに凄まじく危険性を孕んでいるとんでもないトリガーだから表に出すわけにはいかない。
「それでどうするの修?」
頼みの綱とも言うべき遊真が勝つことが出来ない相手が出てきた。
作戦を練ろうにも今回のランク戦のステージ選択権は修達玉狛第二ではなく那須隊が持っている。此処からは素の実力や完成されたり確立された個の力を持っているボーダー隊員が多く犇めく。玉狛第二の使えるカードは現状遊真と千佳の大砲のみ。
「……僕が点を取れる様になれば……」
「……それがホントに正しいと思ってるの?」
「え?」
自分が遊真の様に点を取ることが出来れば遊真や千佳にかかる負担を軽減する事が出来る。
今以上に強くなるしか道はないのだと考えるのだが母はそれでいいのかと疑問を投げかける。
「ランク戦はスポーツじゃないけど、チーム競技のスポーツは確立された個の力があってこそ上に上がる事が出来るもの。修がやろうとしている事は基本的な性能を上げるだけで修が修らしい修の色を持っていないわ」
強くなるのは良いことだ。だがただ強くなるのならば意味は無い。
修の持つ修だけの個性を発揮しなければならない。母はそれに気付いている
「僕らしさってなんだろう……」
「さぁ?少なくとも修は全てを試したわけじゃないわ。気付いていないだけで強力なコンボになるトリガー構成があったりするんじゃないかしら」
「かしらってそんなまた無責任な」
「でも、オサムのお母さんが言ってる事にも一理ある。オサムらしさを何処かで発揮しないとその辺の雑魚兵がちょっと強くなるだけで……ハッキリと言えば足手まといだ」
何があるのかは分からないけれどもきっと修らしい戦闘スタイルが存在している。
遊真や母はそれを見つける事が今後の課題といい、迅もウンウンと頷いている。迅が否定しないと言うことは自分が気付いていないだけで自分にしか出来ない戦闘スタイルが存在しているのだろう。
「まぁ、点を取れるようになる事は決して悪いことじゃない。点を取ることが出来る
その一方で点を取ることが出来ればという話を忘れない。
烏丸は携帯を取り出し元チームメイトである出水に連絡を取り、修の事を任せたいと出水相手にアポを取る。
「えっと、太刀川隊の隊室は」
翌日2月7日(金曜日)
修はボーダー本部に足を運び入れ太刀川隊の隊室へ向かおうとするのだが道に迷ってしまう。ボーダー本部は無駄に広すぎるせいか馴れていない人にとっては迷路に近い物。
「そこの君、ここでなにをしてるんだい?」
何処だったっけと思っていると太刀川隊の隊服を着た1人の男性が現れる。
「太刀川隊の隊室を探しているんですけど」
「ほぅ?太刀川隊になんの用だね?言っておくが1,B級の隊員を相手にしているほど暇じゃないんだ」
「え、烏丸先輩が出水先輩に話は通してあるって」
「烏丸、烏丸だと!?あんな顔だけの貧乏人の紹介で来たと言うのか!!」
烏丸の名前を出すと露骨に嫌な顔をしている。
この人は太刀川隊の隊服を着ているけれども誰なんだろうと考えていると出水が現れ、男に向かってとび蹴りをくらわせる。
「人のお客さんを勝手に帰らせようとしてんじゃねえぞ、唯我!!」
「い、出水先輩!こんなのを相手にしなくてもいいじゃないですか」
「アホか!お前の相手をするよりメガネくんの相手をしておいた方が何万倍も有益に時間を使える。むしろ邪魔だ、お前は」
「ひ、酷い!人権侵害だ!弁護士を用意してくれ!」
「るせぇ、親の七光りが……悪いな、メガネくん」
「えっと……この人は?」
「唯我尊、うちのお荷物だ」
「酷い!僕だって太刀川隊の一員なんですよ!」
「いや、お荷物だろう」
「なんだなんだ。お客さんが来たのか?」
出水と唯我が言い争っているとどら焼きを口にほおばっている太刀川が現れる。
唯我は自分の事をお荷物だと言ってくる出水に対して抗議をしているのだが太刀川は説明する。太刀川隊のエンブレムは3つの刀に三日月が書かれている。
「三日月は国近で1つ目の太刀は俺の弧月、2つ目の太刀は出水、そして3つ目は……俺のもう一本の弧月だ」
「ガーン!!」
「お前はこの隊のエンブレムに関わっていない……お荷物である事に変わりはないんだ」
「そ、そんなぁ……」
「それよりもお客さんが来てるんだから饗さないと。唯我、ジュース買ってこい」
「ジュースってあんな人工甘味料塗れの物を買うんですか?」
「あ、コレつまらないものですが」
「お〜いいトコのどら焼きじゃん。悪いな」
とりあえず太刀川達と顔を合わせる事が出来て無事に隊室に案内してもらえる。
修は手土産として持ってきたどら焼きを太刀川に渡し、太刀川隊の隊室に案内してもらう。
「こうしてメガネくんとちゃんと向かい合うのは……あの時以来だな」
「そうですね……今日はわざわざ時間を作っていただきありがとうございます」
「いいっていいって、お前の兄貴には色々と世話になってるし悩める
「実は……」
修は話す。
遊真に頼り切った状態でなんとかB級中位にまで向かう事が出来たが此処に来て頼りにしている遊真が勝つことが出来ない壁にぶち当たった。
B級中位でモタツイている暇は何処にもない。なんとかする為には自分で点を取ることが出来る様になりたいのだと出水に事情を話した。
「う〜ん、点を取りたいって気持ちは分かるけども難しいぞ?」
「そうなんですか?」
「
純粋に点を取ることが出来る射手は難しいと出水は語る。
射手のトップ3ぐらいが点を取る事が出来るぐらいで普通の射手は点を取るのが難しい、漁夫の利に近い形で点を取ることが出来ている。
「トリオン能力、ですか」
「そもそもで銃手や射手はある程度はトリオン能力を持ってなくちゃやってられないポジションだ。中には例外も居るには居るけどもそういう奴に限って射手一筋じゃなかったり変な
「はい。レイガストをメインにアステロイドを使って戦っています」
「あ〜……となると難しいな。射手としてのテクニックを教える事は出来るけど、ボーダーの上位陣でレイガスト+射手系のトリガー構成をしてる奴は見た覚えがないな。そもそもでレイガスト自体、雪丸とレイジさんぐらいしか使わないし、二人共想定外の使い方するし」
修のスタイルの手本になるような人物は残念ながら居ない。
仮に居たとしてもマスタークラスに到達していない凡庸なトリガー使いであり、修の求めているパワーアップをするのが難しい。そもそもで攻撃手と射手を組み合わせた近距離中距離主体の万能手に修は近いのだが、手本となる人が何処にもいない。ボーダーのランク戦を行う部隊に入っている隊員の中でも修は中々に無いトリガー構成をしている。
「僕のトリオン能力的にトリガーのフル構成は無理だと思います」
「メガネくん、トリオン能力どれくらいなの?」
「1から10段階で言えば2です」
「……よく、ボーダーの入隊試験通ったな」
裏で迅が口を利いてくれたからボーダーに入隊する事が出来たとは言い難い。
ともあれ修のトリオン能力がたったの2,オペレーターの人よりも下手すりゃ少ない絶望的な数値である。テクニックや
「お前の兄貴に頼るってのは……無しか」
「はい。ボーダー関連では基本的には兄さんに頼らない方針なので」
似たような戦闘スタイルが出来るであろう貴虎の事を思い出すが、貴虎に頼ることが出来るのならばその時点で自分に相談を持ち掛ける事はしない。相談を持ち掛けられて引き受けた身としては丸投げするつもりも無いのでどうしたものかと考える。
「メガネくん、今ポイントどれくらいだ?」
「レイガストもアステロイドも4000点台です」
「あ〜……うっし、決めたぞ。メガネくん、唯我とバトれ」
「な、なんですとぅ!?」
「今のメガネくんに必要なのは基礎的な土台だ。空閑におんぶにだっこ状態が嫌ならとにかくソロランク戦をこなしてある程度の実力にまで持っていくしかねえ。唯我はA級最弱どころかB級の中でも弱い方に部類されると言ってもいい。メガネくんの相手にちょうどいい」
「そんな!僕をレベルアップの素材みたいに言わないでください!僕もれっきとした太刀川隊の一員なんですよ!」
「だったらその姿を見せて来いや!」
唯我は出水に蹴られ、隊室を後にする。
隊室を出て次に向かったのは仮想訓練を行える一室、ボーダー本部には何処にでもある一室で住宅街を再現し早速唯我と修は対決をする
「ハーッハッハッハ!どうやら僕と三雲くんとじゃ力の差がありすぎた様だね」
「いや、普通に負けてんじゃねえか」
対決の結果、修は唯我に負けた。
1回だけじゃない、10回以上戦ってなんとか勝ち星を上げる事こそ出来たものの、トータルで換算すれば唯我に軍配が上がっている。修の素の実力はB級の下から数えて直ぐに近いので普通のA級の隊員ならば負けることはありえない。それほどまでに三雲修というボーダー隊員は弱い。
「メガネくん、唯我は基本的に暇だから何時でも来いよ。相手になってやる……出来ればさっさと強くなって図に乗ってるアイツを引きずり降ろしてくれ」
「は、はい」
「ハッハッハ!もう一戦どうだい三雲くん!」
「……兄貴の方を召喚した方が良さそうか?」
大分調子に乗っている唯我にお灸を据える意味合いを込めて兄を召喚するべきかと悩む。
原作を知っている貴虎は少しだけ時計の針が速く進んでいる事に薄々気付いており、唯我と対面すれば完膚無きまで叩きのめす可能性があるにはあるのだが本日貴虎はボーダーのランク戦を行うブースに足を運んでいない。テスト前の勉強もある程度は出来ているのでやっていない。では、何をしているかと言えば
「……違うな」
宝くじ売り場にやってきていた。
最大100万円を当てる事が出来るスクラッチの宝くじに挑戦をしており、サイドエフェクトをなんの躊躇いもなく発揮して何処に当たりのくじがあるのか探していた。
麟児から貰った種火は売買ゲームで数千万円に変化させた。それを唐沢に提出したので種火になる金が殆どない。大規模侵攻での報奨的なのは貴虎はボーダー隊員ではないので貰っていない。
「あ、これください」
色々と探りに探って遂に見つけ出した当たりくじ。
貴虎数百円支払いスクラッチくじを購入すると見事100万円を当てる事が出来た。早速近くの銀行に向かって100万円を受け取り、売買ゲームに使っている銀行口座に振り込んだ。
「ボーダーの学力向上は学習塾と提携する事でなんとかなる。過去に攫われた人を連れ戻す事に成功した際の社会復帰の土台作りは着実に出来ている……後は連れ戻すだけ」
貴虎は本音を言えば修に色々と答えを教えたい。修が修らしさを出すことが出来る戦い方を原作知識等で知っているから。
しかしただ普通に答えを教えても意味はない。修の血となり肉となる方法で修のスタイルを身に着けておかなければならないのを知っているから。
「ん、出水からか……もしもし」
『よぅ、今何処にいるんだ?』
「銀行で色々とやっている。レポート形式の課題は手伝わないぞ、アレは自分でやってこそ意味がある」
『いや、そっちは大丈夫だ……お前の弟が、メガネくんがやって来たよ』
「……そうか」
ここに来て貴虎は時計の針が速く進んでいる事を知る。しかし時計の針が速く進んでいる事は決して悪いことではないので驚きはしない。
『随分とあっさりとしてるな』
「修は他人にものを教わった方がいい段階だからな。どうだ?」
『クソ弱えよ。うちの部隊のお荷物相手に勝ち越す事すら出来なかった』
「そこまでなのか……」
『けどまぁ、考え方を変えれば伸び代はまだまだあるって事だ。唯我の野郎と交換したいぐらいだ』
「修は修の部隊を率いているんだ、引き抜くなんて真似はするんじゃない」
『馬鹿、冗談だよ冗談……けどまぁ、1日2日でパワーアップをする事が出来るかどうかで言えば無理だ。1年じっくりと時間を掛ければA級隊員とやり合う事が出来るようになる』
「そうか……やっぱりどうあがいても無理か」
『ああ、無理だな。トリオン能力が低いけども運動神経抜群とかそういう感じの隊員じゃねえし、マジでなんで入隊する事が出来たかどうか謎だ』
「何処ぞの実力派エリートによる裏口だ……裏口の手を引いたのなら最後まで責任を持つのが筋だと思う」
『やっぱ迅さんか』
修がボーダーに入隊する事が出来たのも玉狛支部に所属する事が出来たのも全ては迅が裏で暗躍しているからだ。
裏で暗躍しているんだから責任を取って一人前になるまで面倒を見ろと言う思いは貴虎は持っているが迅は迅で何かと忙しい身で修の面倒を見きれない。貴虎はそれを分かっているのだが一応の責任はあるんだぞと愚痴を零す。
『……お前は見えてるのか?』
「なにがだ?昔、言ったが私は未来は見えていないぞ」
『違えよ……メガネくんは壁にぶち当たってる。時間を掛ければ解決する問題とそうでない問題がある。今からB級上位陣とバチバチやり合うのなら普通じゃない手段を見つけないといけねえ……お前、分かってんだろ。メガネくんがこれからどうすればいいのかを』
「……結論だけ言えば分かってはいる。ただ私が教えたら意味がない……今は試行錯誤を繰り返す時間だ……だがまぁ、私はお兄ちゃんだ。ついつい弟を甘やかしてしまうからアドバイスだけを送ってやってほしい」
『結局のところ手を貸すのかよ』
「弟がそれだけ可愛いという事だ……末っ子には分かるまい」
口ではあまり言わないがブラコンの度合いは嵐山とタメを張れる程に強い貴虎である。
『で、メガネくんが上とやり合うにはどうしたらいいんだ?』
「修はトリオン能力の都合上、トリガーの枠を全て使う事が出来ない……攻撃系のトリガーでなく補助系のトリガーに鍵がある」
『補助系って、エスクードとかのことか?アレは結構トリオンを食うからメガネくんに向いてないぞ』
「だろうな……だが、トリオンが少量でも問題無いトリガーがある筈だ……それと修には勝つ方法でなく負けない方法を教えてやってくれ」
『勝つ方法じゃなくて負けない方法?どういう意味だ?』
「私から言えるアドバイスはこの2つだけだ。この2つが上手く噛み合えばB級の上位陣とバチバチやり合う事が出来る……修はきっかけを与えて揉まれれば伸びる。問題は別にある」
『トリオン怪獣のことか……人が』
「撃とうと思えば撃てるよ千佳ちゃんは……ただまだ覚悟が決まっていないだけだ」
『そう、なのか?』
「言っとくが千佳ちゃんが普通でお前等が異常なだけだからな……まぁ、とにかく言うべき事はそれとなく伝えておいてくれ。補助系のトリガーに鍵がある。具体的に言えばスパイダー」
『それ具体的じゃなくて答えだろ』
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