「おまえたち、よくやった!おれはせんぱいとしてはながたかい!」
「まぁ、あんた達なら楽勝よね!」
貴虎が二宮に人を殺せる云々を言ってから少し時間が経過した頃、玉狛第二は玉狛支部に戻った。
B級ランク戦上位戦を無事に勝利する事が出来たことを陽太郎と小南は我が事の様に喜んでいる。2人共観戦中はホラー映画の様に後ろに人が居るとかそこに行けばいいのにとか言ってたりするのだが、それを知っている面々は言わない。
「なにを言ってるの?問題は次よ、次」
我が事の如く喜ぶ2人に水を差したのは母こと香澄だった。
この人は声に出さなかったものの、2人と同じことを思っていたりする口なのだが割と冷静な方だ。だからこそ、問題は次にある。
「1回目はビギナーズラック、次からが本番……相手に手の内を知られていても勝てるのがプロよ」
今回の玉狛第二は初見殺しな戦法を多く取っていた。
ワイヤー陣、千佳の鉛弾ライトニング、スイッチボックス……まだ本部の人達は千佳が撃てないと考えたり理解しているのだが実際のところは撃てる。最後の一線を越えるのが中々に難しいところ。仮にここで貴虎が介入していい場合は二宮に言った様に何処かの段階で武力行使しなきゃいけないことを言わせて実際に人を撃たせたりして心をへし折り再起不能になるか強靭な心を手に入れるかのどちらかの道を歩ませていたのだが、当人は干渉するなと言われているので直接的に干渉はしない。
「千佳がホントは人を撃てるって分かって修のワイヤー陣に遊真に……私ならあんた達に勝てるけどもB級上位となら互角に渡り合えるわ!」
「つぎもきたいしているぞ!」
「…………」
小南達はB級上位ならば勝てると確信している。
2回目以降、玉狛第二と対戦する場合はワイヤー陣やトラップに気をつけて、メテオラは常備しておかなきゃいけないという考えが流行る可能性はある。実際問題、この戦法は強い。修が撒き餌になりワイヤー陣を展開し千佳がトラップを仕掛けて遊真が仕留める、蟻地獄の様な戦法だ。B級上位とならば互角に渡り合える…………その認識自体は間違いではないがと修は考え、屋上に居る迅の元に向かった。
「迅さん…………玉狛第二に入ってください」
「……どうしてその結論に至ったのかな?」
屋上に自身が現れてもあまり驚かない迅。
来ることは視えていたのならばハッキリと言おうと迅に玉狛第二に入って欲しい事を伝えた。迅はその事について驚かない。どうしてその結論に至ったのか、その事に関して修に聞いてみた。
「今の玉狛第二はビギナーズラックで勝ち進んでいるものです。対策されていなかったから勝てた勝ち星が多いです」
「初見殺しは言い訳に過ぎないよ……オレみたいに色々と視える人ならともかく、1回しか使えない戦法は1回しか使えないと思わせる。そうすることで頭からその戦術は無いと否定させて行動を制限させて裏をかいて実はもう1回使えるかもしれないって事に出来るよ」
今までの勝ち星を修は自身なりに解釈し換算した結果、ビギナーズラックで取れた白星だと認識した。
初見殺しの戦術ばかりで勝てていた、特にB級上位戦の千佳のスイッチボックス、鉛弾、ワイヤー陣に関しては初見殺しである。それをどうすればいいのかという問いかけに関してボーダー隊員は直ぐに答えを出す。玉狛第二に挑むならばメテオラで焼き払うことは想定しなければならない。
初見殺しは言い訳に過ぎない、未来視というチートがあるならばともかくボーダー隊員に出来ることはあらゆる事の予測だ。少なくとも仲間内で戦っているので1%でも可能性があるならば想定しておかなければならない。迅はそのたった1%の未来を視ているので初見殺しは言い訳に過ぎない。
「B級上位と渡り合える未来は視えてる……そう言ったら?」
「それじゃダメなんです。僕達はB級上位じゃなくてA級と戦えるレベルにならないといけない」
B級上位と戦えているだけで立派だと言うが修の目的は遠征だ。
遠征部隊に選ばれる最低条件としてA級にならなければならないと認識している、その認識自体は間違いではない。
「僕達玉狛第二は1人1芸を組み合わせた……千佳のトリオン、空閑の戦闘力、僕の弱さ、それを利用して勝てました。きっとB級上位と渡り合えますが……A級と比較すればあまりにも地力が違いすぎる」
「それをどうにかするのが戦術……でも、それで今こうしているか」
「空閑依存なのは前と変わらない、いえ、前以上に空閑依存で……蟻地獄を突破されれば、蟻地獄展開前に空閑が倒されればその時点で詰みです」
1つの秀でた能力を武器に変えて戦術に組み込んだ。その結果、上手い具合にフィットした。
しかし、1人1人の能力だけで見ればA級と渡り合える事が出来るのは遊真だけと言う事実だ。物凄い絶対的なまでのエースが居ない部隊も存在している。そういうのは戦術や連携で色々とやっており、B級上位には普通に居る。そしてそんな連中よりも上なのがA級だ。
玉狛第二の目的である遠征関係は戦闘能力云々が物を言うところがある。貴虎は言っていないが、修も何処かの段階で戦わなきゃいけない事を認識している。そうなると戦術的にも遊真1人にかかる負担が多すぎる。
「メガネくんが遊真におんぶにだっこはダメだって色々と頑張ってるのは知ってるよ」
「地道なコツコツとした訓練でないと得られない力もあります。でも、僕達には……空閑には時間が限られている。1日でも早く行かないといけない、裏技として見つけたこの戦術も結局のところは空閑に依存しています。千佳のトリオン任せの戦術はボーダー上層部は恐らくですが技術でなくトリオンによるゴリ押しと認定してあまり良い認識をしてくれない…………A級の人達は唯我先輩を除けば全員前線に出て戦える、そんな人が今の玉狛第二に欲しい……」
結局のところは空閑依存の戦術である。型に嵌まればA級も危うい戦術だが言い方を変えれば型に嵌まらなければA級なら楽勝でもある。
最後に物を言う地力の部分に関して玉狛第二は低い。千佳が人を撃てるならばトリオン能力に身を任せた追尾機能とかの細かな設定を弄っていないハウンドのゴリ押しでいけばいいが、そんな戦術は上はいい評価をくださない。トリオンゴリ押しゲーはやってはいけない、テクニックを選ばなければならない。
「焦るな……とは言えないよな…………千佳ちゃんの友達やお兄さんがどうなっているのか?メロンくんは千佳ちゃんに対して最悪なパターンを言っている。千佳ちゃんもそれに関して腹を括ってそれでもと前に進んでる。メロンくんもメロンくんで色々と覚悟を決めている、秀次の復讐の共犯者になろうとしている……その時がまだ視えていないけども何時かはやって来る。そしてどう動くか」
少なくともボーダー隊員の中には近界民憎しな者が多い。その人達に我慢してくださいと言うわけにもいかない。
でも、何処かの段階で話し合いはしないといけない。だが、何処ぞのメロンは躊躇いなく上層部及び一族を皆殺しにしてからの圧政を企んでいる。あのメロンは割と物騒な考えをしている。
「ごめんな、メガネくん……君をボーダーに入れたのはオレが裏で手引きしたからだ。だから、最後までめんどうを見るのが筋だろう……でも、今は無理なんだ。いや、確かに頑張ればメロンくんに大体を押しつけることが出来るけどもメロンくんの腹は思ったより黒いからなぁ……メロンくんが完全にこっち側だったら即決で玉狛第二に入ることが出来るんだけども」
「なんか、すみません。うちの兄が」
「いや、いいんだよ。メロンくんに頼んだら頼んだで10倍になって返ってくるから」
やろうと思えば貴虎は迅の代理を務める事が出来る。そういう事が出来るガイアメモリを持っている。
ただし、ハトかタカかで言えばハトにする為に汚れ役を担うタカな人間の為に下手に任せれば痛い目に遭うのが分かっている。迅としては力になってやりたいという思いはあるが、心の何処かで貴虎を完全に信用や信頼出来ていない部分がある。味方であるが仲間とは言いづらい絶妙なまでに微妙な関係性を築き上げている。
「メロンくんとはその内やるとして……先を急がなくてもいいって言える方法はある」
「どういう意味ですか?」
「こういうことを言うのは嫌だけど、備える時間が増やせる。少なくとも次の遠征は拐われた友達を助けるんじゃなくてアフトクラトルに向かうことになっている。そうなる様に遠征の航路も徐々に徐々に作られていくから千佳ちゃんの友だちを探すのは難しい…………んで、遊真の体を治す方法がある」
「!?」
遊真の体はトリオン体だ、生身の肉体はヘマやらかして死にかけの状態である。
遊真の父である有吾が黒トリガーになることによって延命しているだけに過ぎず徐々に徐々に寿命を迎えようとしている。
「ど、どうしてそれを空閑に言わないんですか!?」
「それがわかったのがつい最近なのと…………治す過程でミスったり遊真の肉体が先に限界を迎えて死んでしまう未来が多く視えるんだ」
「それは……サイドエフェクトで1番いい未来を導くことが出来ないんですか?」
「そうしたいんだけど…………問題はその方法なんだ……………メロンくんが遊真を治す方法って言うか物を持ってる」
ホントに可能性として限りなく低いのだが黒髪の遊真が迅には視えている。
それ以外に遊真の肉体が黒トリガーから出てしまい治療が間に合わなかった、正しい治療が出来なかった等で死んでしまう未来が多く視えている。その過程で鍵を握るのは兄である貴虎だ。
「メガネくん、メロンくんからUSBメモリみたいなトリガーみたいなのを受け取ってるんでしょ?」
「はい……万が一を備えて持っています」
『ジョーカー!』
修はジョーカーメモリを迅に見せる。
「メロンくんはそのトリガーを使いたがらない。いや、そもそもでそれがトリガーだと言う認識そのものが間違いだ。それは生身の肉体を別の生物に改造する生体兵器の様な物でもある…………使い続ければ、何かしらの後遺症が生まれる。メロンくんはそれが嫌だからそのトリガーを使わない。そしてメロンくんは自分の持っている物を1から10まで全てを理解しているわけじゃない」
「…………兄さんの持つT2ガイアメモリのどれかに、空閑を治す事が出来る物があるんですか?」
「傷が完全に治っている遊真が視えるけど、メロンくんがスカルになった時に使ってるベルトが装着されてる。メモリを使って治療した。そう認識して間違いないと思う……でも、問題はそれがなにか?メガネくんのジョーカーメモリ、メロンくんが意図的に隠しているEのメモリ、そして実際に使ったスカルメモリ以外の23個の中から選ばなきゃいけない。オレのサイドエフェクトは複数の未来が視えるけど全ての未来が視えるわけじゃない……遊真が完全に治るまでの過程が視えない」
未来は常に何時だって不規則に動いている。23個のメモリの中に遊真を確実に治す事が出来るメモリは存在している筈だ。
だが、問題はそのメモリがなんなのか?23個全てを試した未来が視えればいいのだがそこまで都合のいいサイドエフェクトじゃない。
修のジョーカーメモリで治せるならば修は即座に実行するだろう。死んでいる状態になるので未来が視えなくなるスカルは無いだろう。意図的に隠しているEのメモリは万が一を備えてボーダーと対峙した際に使うつもりだとも聞いている。
「残りのメモリは
ジョーカーと言えば切り札という意味だ。
修はある種の切り札だ。何をしでかすか分からないという意味合いでも切り札であり、修の人間性が色々な人を動かすことが出来て未来をいい方向に向かわせている。ジョーカーのメモリは修に相応しい物だと迅や貴虎は認識している。
ガイアメモリの名前を聞いてそこから何が連想できるのか?少なくともジョーカーメモリは適合者の精神力次第で幾らでもパワーアップする事が出来るというそこそこ狂った性能をしている。ジョーカーと言う単語からそれは連想することは不可能であり、他のガイアメモリもそれに通じている。
「メロンくんならなにか知ってるかもしれないけど……う〜ん……」
「迅さんが聞きにくいなら僕の方から聞きましょうか?」
「いや、明日にでも聞く機会はあるんだ。ただ、メロンくんがあんまりいい顔をしてない……なんのデメリットもなく完全に治癒する事が不可能だからだと思う」
ハイドープ化する可能性もあるし、生身の肉体を治すので何処かの過程で人体構造を弄くる、というかそもそもでガイアメモリそのものが人体構造を弄くる道具である。遊真の人体構造の何処かを弄って治す。遊真が受けている傷はそのレベルの大怪我だ。
貴虎はシンプルに原作開始前にボーダーに見つかりたくなかったのと、使いすぎることで生身の肉体に異常を起こしてハイドープ化する事を恐れてガイアメモリを使おうとしない。自分自身が使わないのに他人に無理に使わせたくない。修が力を求めており、自分自身が力を貸せば本当の意味で修の成長に繋がらない、でもせめての思いで修にジョーカーメモリを託している。
「一応は明日、メガネくんから聞いてくれないか?」
「明日、聞く機会があるんじゃないんですか?」
「メロンくんから視える未来が枝分かれしまくってるんだ、オレから干渉して未来を変動させたりするのが難しくてな……後、向こうも向こうでホントの意味で心を開いてない。確かな情報を教えてくれない可能性が高い」
万が一に備えて想定してEのガイアメモリだけを意図的に隠している。
迅はボーダーや皆にとって都合のいい未来になるならば時には色々な反則技を使ったりするわけだが、貴虎が機密にしている事を利用しなければならなかったりで何処かの段階で貴虎とぶつかり合わなくてはいけないのだと判断している。それは物凄く近い未来……貴虎との真剣勝負、死ぬことだけは無いのだが絶対に勝たなければならない危険な勝負が待ち構えている。それに勝たなければ、貴虎、いや、三輪達を止める事が出来なくなってしまう。
「分かりました。明日、聞いてみます」
「悪いね、メガネくんにばかり負担をかけて……ああ、そうそう。強い隊員ならメロンくんやオレ以外にも心当たりはある……ただ、可能性としては五分五分ぐらいだ……けど、成功すれば玉狛第二に足りないピースが埋まる。A級とも戦えるようになるよ」
ただし、それが成功すればの話だが。間もなく未来が動く、大きいか小さいかは分からないが変動していく事だけは確定だ。
修は迅のスカウトに失敗したが落ち込みはしない。確かに空閑が落ちればその時点で詰みに近い。自身が連携できるほどに強いわけでもないが、全てのカードを使い切ったわけではない。
遊真を治す事が出来る方法に心当たりがある……そういえば、遊真が怪我をしてるとかの話をしたことがあったか?と思い出そうとする。
「
「風間さんが皆に宿題を出したからですよ」
翌日のボーダー本部を歩く迅と風間。
昨日の出来事を教えれば大胆過ぎるにも程があると呆れつつも面白いことを考えると少しだけ笑みを浮かべている。
「多方面に技を会得するのでなく一芸にだけ特化させる、一点突破の部隊だ。聞こえはいいがその一点突破が通じなければ負ける」
「でも、冬島隊はそれでA級2位ですよ。如何にして効率良く相手を狙撃して逃げるかの戦略でA級になってます。バランスのいい嵐山隊や草壁隊よりも上に居ます。選択肢としては間違いじゃないですよ」
「だが、太刀川隊には負けている……最後に物を言う基礎能力が玉狛第二には欠けている。タネが分かった手品ならば意識していなくても無意識にタネや仕掛けを見る。そこを上手く利用する戦術をしようにも実際の戦闘で相手を確実に倒せるのが空閑だけだ。空閑をフェイクに誰かが動くことが出来ない以上はA級の壁は越えられない」
「いや〜手厳しい……基礎的な部分はなぁ……メロンくんの裏技がメガネくんも出来れば楽なんだけど」
「……まだなにかあるのか、あいつは」
サラリと語る貴虎の裏技、それを知れば色々と反則だろうと大抵の人は言うだろう。
なにせ理論上は迅だろうがヴィザだろうがハイレインだろうが忍田本部長だろうが再現する事が出来るのだから。
「弟の指揮で動く迅……もしくはボーダーのトリガーに慣れた兄か……どちらにせよ見てみたいと言う野次馬な思いはあるな」
「ハッハッハ、それは何れという事で……なにせ実力派エリートなものですから、多忙なんですよ」
迅は会議室の入口を開く鍵に手を翳す。
手を翳せば、ドアが開かれて忍田本部長、城戸司令、沢村、東、嵐山、太刀川、冬島、レプリカ……そして貴虎だ。
「全員揃ったようだな……では、緊急防衛会議を始めようとしよう」
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