メガネ(兄)   作:アルピ交通事務局

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第2話

「はい、二人一組作って」

 

「お~い、秀次。一緒に体力測定しようぜ!」

 

「陽介、話を聞いていたのか?」

 

 高校生になり一週間が経過し、今日から授業がはじまる。

 とりあえず、月曜日の一時間目から体育ってもう何かの罰ゲームじゃないのかと私は思う。

 昼前後の体育、最後の時間の体育、一時間目からの体育、どれもこれも憂鬱になる時間割。特に昼前は面倒臭い。

 

「聞いてたよ。今日は50m走とハンドボール投げと握力だろ?」

 

「そうじゃない。クラスの奴と二人一組のペアだ」

 

「……居るのか、ペア?」

 

「三雲、この馬鹿を放ってさっさとやるぞ」

 

 そんなこんなで最初は体力測定。

 二人一組のペアを作れという滅びの呪文を担任が放つが、案外あっさりと決まる。席が前で、ボーダー隊員だからと変に距離感を置いてこない私が三輪とペアを組むことに。

 

「秀次にボーダー以外で友人が」

 

「三輪、お前は普段どんなことをしているんだ?」

 

「ただ普通にしているに決まっているだろう」

 

「で、お前誰?」

 

 空気を読めないのか、このカチューシャは。

 今更な感があることを聞いてきたカチューシャに私は自己紹介をし、秀次をよろしく頼むぜ!と無駄に良い笑顔でサムズアップして自分のクラスに戻っていった。

 

「あ、ペアにあぶれた」

 

「ザマーミロ」

 

 そこそこの悪口を言ったせいか、カチューシャもとい米屋はペアにあぶれた。

 クラスの男子の数が元々奇数だったから仕方ないが、コミュ力とか高そうな奴がボッチになるとは……いや、ボッチじゃないが。

 

「そういえば、三輪は運動は出来る方なのか?

ボーダーのトリガーで変身したら運動能力上がるらしいが、それにかまけたり調子に乗ったりして物凄く太った人が居るとかどうとか噂で聞いたが」

 

「体の方は、鍛えている。

ただ変身しても足が早くなるとかそんなので、根本的な動きは生身の肉体で動かないといけない……ただ、長距離走辺りなら、陽介の方が上だ。あいつは運動神経は良い方……運動神経だけは」

 

「どうした?」

 

「ボーダーの推薦枠が無かったら、今頃陽介は……」

 

 そういえば、ファンブックかなにかで見たボーダー隊員の成績、あいつは下から数えて直ぐの成績の悪さだったな。

 三輪が遠い目をしているのでこれ以上はなにも言わない。聞かないでおこう。

 

「秀次、50m走で勝負しようぜ!負けた方がジュースを奢りで!」

 

「今、終わったところだ」

 

「なに!?」

 

 しかし、米屋のテンション高いな。

 パリピみたいなウザいノリじゃないからまだ良いんだが、凄くググイっと距離を詰めてくるな。

 

「今から三雲の番だ」

 

「そう言うことだ……因みにだが三輪は」

 

「おっと、そいつは言うな!

オレが走り終えてから、見せ合わないと面白くねえだろ」

 

「まぁ、そうだな」

 

「三雲、お前の番だ」

 

「あ、ちょうどオレの番でもあるじゃん。ついでだから三雲も勝負しようぜ!」

 

「構わんぞ……ジュース一本、だったな」

 

「昼のジュースは貰ったぜ!」

 

 男子高校生らしい会話を繰り広げる私達。

 ところで三輪、「おい、俺はするつもりは無い!」とか言わないのか?自信があるのか乗り気だな。

 

「勝てば秀次と三雲から、二本貰える……一本は水として」

 

「位置について、よ~い……」

 

 パンっと銃声が鳴ると同時に私達は同時に走り出す。

 

「貰ったぁあああ!!」

 

「と、思っただろ?」

 

「え、っちょ、マジ!?」

 

 銃声と共に走り出す私達。

 米屋が若干だがフライング気味な気もするのだが、そんな事は直ぐに関係なくなる。

 最初にリードしていた米屋を直ぐに私が逆転し、そのまま一気に抜き去っていき私が先に50mを走り抜いた。

 

「お前、早いっ、て……」

 

「勝てないと分かっている勝負に挑むほど私は馬鹿じゃない。メロンソーダは貰ったぞ」

 

「くっそ~……秀次、お前は何秒だ!?」

 

「7秒ちょうどだ」

 

「よっし!オレの勝ち……×?」

 

 三輪には勝ったと喜ぶ米屋だが、測定をしている教師が腕を交差して×を作っている。

 フライング気味が原因の様で、若干怪しいのでもう一度となり走らされる米屋。二度目の全力疾走と1回目のフライングで怯えたのか出だしが遅くなり、タイムを大幅に落としてしまう。

 

「因みに私は6,4秒だ。約束通りジュースを……メロンソーダを奢れ」

 

「俺はコーヒーだ」

 

 この学校、自販機にメロンソーダが置いてあるが家の近所のと比べて30円高いから、これは儲けた。

 三輪もありがたく頂いたと笑みを浮かべるのだがグヌヌと負けたことが悔しいのか引き下がろうとしない米屋。

 

「こうなったら、全種目で勝負だ!」

 

「私は構わないが、三輪はどうする?」

 

「俺はパスする……陽介、最後の総合で勝負とか駄々を捏ねるなよ」

 

「オレは小学生か!!」

 

「似たようなものだ」

 

 三輪の毒舌が、米屋にピンポイントに当たっているな。

 しかし、その辺は全くといって気にしない米屋。とりあえずは全種目で勝負することになったが、約束通りメロンソーダは奢って貰う。その辺について言うと分かってるよと普通に頷いてくれた。よかった、ここのメロンソーダ、30円高いから買うのを躊躇ってしまうんだよな。

 

「よ~し、じゃあ全種目の得点で競って……勝ったら賞品なににする?」

 

「ジュースで良いだろう」

 

「いやいや、流石に全種目でジュースはショボいだろう。ラーメンとかどうだ?」

 

「ラーメン……トッピング含めて1500円以内でなら手を打とう」

 

「おっし!じゃあ、それで決まりだ!」

 

 ジュースに続き、ラーメンを賭けて米屋と勝負することになった。

 とはいえ、今日一日で全ての種目をするわけではない。来週の月曜日辺りで決着がつく。特に最後のシャトルランとかやる前に大差をつけなければならない。いや、本当にシャトルランキツい。中学の時も125回越えたら直ぐに足止めてるし。

 

「せーのっ、ってマジかよ……全敗じゃねえか。

ハンドボール投げも握力もどっちも自信あったのによ……って、握力88ってゴリラかよ!!」

 

「なにを言いだすかと思えば……ゴリラの握力は500だ」

 

「ゴリラ、スゲえええええ!!」

 

「陽介、五月蝿い」

 

「あ、悪い……持久走とシャトルランで巻き返してやる」

 

「悪いが、全勝させて貰う。そして玉狛のところにあるラーメンを食いに行く」

 

 ネギとチャーシュー追加トッピングの大盛りのチャーシュー麺を米屋に奢らせよう。

 

「玉狛……」

 

「ああ、三門市の玉狛にあるラーメン屋。

家からだと距離がそれなりにあるから、中々に行く機会がなくてな……チャーシュー麺のチャーシューとネギトッピング、餃子一人前、頼んだぞ」

 

「おい、それぜってーに1500円を超えてるだろう!!」

 

「安心しろ……二人で行かないといけないからどちらにせよ、お前も頼まないといけないから1500円を超える」

 

「あ、それもそうか……ん?」

 

「三輪、次の授業は……」

 

「世界史だ。

とはいえ、最初の時間だから先生の自己紹介と軽い挨拶だろうな」

 

「そうか……早く教室に戻って着替えるか」

 

 論点をずらしたことに気付いたものの、まだ一時間目が終わっただけで授業は続く。

 二時間目は予想通り世界史担当の教師の挨拶と一学期中間は何処までやるかなんかの簡単な説明と簡易的な小テストを受ける。残りの3、4も大体そんな感じの授業で、お昼時がやって来る。

 

「お~い、約束の時間だぜ」

 

「別に放課後でも良いんだが……」

 

「いや、それが今日は防衛任務があってさ。こう言うのは早い内にやっておかないと、後々面倒じゃん」

 

 米屋が乗り込んできた。

 まぁ、休み時間ごとに乗り込んでくるのでまたかこいつはといった顔で周りからは見られている。

 米屋は財布を軽く投げてバシッと掴んでカッコをつけるが、こいつは臨時収入があったとかそういうんじゃなくて普通に私に負けたからであり、カッコよくもなんともない。むしろ自分で挑んでおいて、負けた敗北者である。

 しかし、奢る奢らないの金関係の話は早い内に終わらせた方がいいのは事実なので私はメロンソーダが置いてある自販機に足を運ぶ。

 

「あ~クッソ、中々出ねえな」

 

「なにやってんだ、お前?」

 

「ここの自販機、当たりが出るタイプだけど中々出ないんだよ」

 

「へ~。あ、メロンソーダは売り切れじゃないぞ」

 

「ストップだ米屋」

 

 同学年のボーダー隊員こと出水がコーラを買っていて、何事もなく普通に会話する米屋。

 財布を開いてお金を入れようとするので、そこで手を止める。当たりつき自販機で普通にお金を入れて購入なんて、勿体ない。

 

「えっと……」

 

「こいつ、秀次と同じクラスの三雲。

一時間目の体育の50m走で秀次と三人で誰が一番早いかってなって……やぁ、見事に負けたぜ」

 

「そうか。おれは出水公平だ。三雲、大丈夫だったか?こいつ、いきなり勝負を挑んできただろ?」

 

「問題ない。今、絶賛勝負中で勝ち越している」

 

「勝負中って、更に挑んだのか!?」

 

「おう!玉狛付近のラーメン屋1500円分の奢りを賭けてな!

早く走るとかは秀次や三雲が上だったけど、長座対前屈とか反復なら絶対に負けないから次は勝ち越す」

 

「自分でフラグを建てやがって……三雲、さっきからなにしてるんだ?」

 

「しいて言うならば、乱数調整だ」

 

「「?」」

 

 米屋や出水にお金を入れさせず、自販機のボタンをポチポチと押す。

 時折おつりレバーを引いたり、おつりレバーを引きながらボタンを押したりとお金を入れていても意味の分からない事を繰り返しており、二人はなにやってるんだこいつ?とおかしな顔をする。

 

「これでよし。米屋、メロンソーダ」

 

「なにがよしなんだ?」

 

「見ていれば分かる」

 

 さっきまでやっていた事に疑問を持ちながらも、米屋はお金を入れてメロンソーダを購入した。

 

「おお、当たった!」

 

「2本目も貰いだ!」

 

 メロンソーダが落ちてくると同時にルーレットがスタート。

 7777と4桁の7が並んで大当たりし、米屋がコーヒーを押す前に2本目のメロンソーダを購入した。

 

「あ、ズリい!

それで秀次のコーヒーを買おうと考えたのに」

 

「甘いぞ、米屋。

私がなんのために当たりが出るように調整をしたと思っているんだ。この2本目のメロンソーダも私のものだ。

この奢りの一本目から生まれた2本目は謂わばおまけ。私がありがたく頂く」

 

「くっそ……」

 

「やってること、どっちもケチ臭えな」

 

 なんとでも言え。

 ともかく、メロンソーダ2本分の代金が浮いたのは良かった。1本目のメロンソーダは勝利して手に入れた物なので、旨い。勝利の美ジュースを噛み締めながら私達は教室へと戻る。

 

「そういや、さっきのボタンとかレバーとか弄くってたけど当たりと関係があるのか?」

 

「自販機も何だかんだで機械で出来てるからな。

確率とかそういうのをボタンを弄ったりして、ちょっと調整をしていたんだ」

 

「へ~……どうやんの?」

 

「……知らん」

 

「いやいや、知らないもなにもお前はさっきしてただろ?」

 

 予想通りと言うべきか、自販機で確実に当たりを出す方法を聞いてきた米屋。

 やり方について聞かれても知らんとしか私は言えない。

 

「大丈夫だって、誰にも言わねえからさ!」

 

「あ、じゃあおれにも教えてくれよ!」

 

「そういうんじゃなくて、本当によく分からない。

自販機の種類とか残っている飲み物とか私が買う前に買った飲み物がなんなのかとか、とにもかくにも一回ごとにやり方が違うんだ」

 

 今回は比較的に早く済んだからよかった。

 酷いときだと5分ぐらい時間がかかるときもあるから1分で済ませることが出来てよかった。

 

「ん、じゃあどうやって分かったんだ?」

 

「此処の学校のは、珍しいタイプの自販機じゃなくてついさっきオレがコーラを買ってたから分かったんじゃないのか?」

 

「……秘密だ」

 

 米屋と出水の質問を、私は答えない。

 なんでそんな事が出来るかと聞かれれば、答えることは出来る。だが、それを答えれば怪しまれる。サイドエフェクトを私利私欲の為に使っているのだから。

 

「秘密って、教えてくれよ。唐揚げも奢るからさ」

 

「お前、それ負ける前提で話してないか?炒飯、奢るからおれも」

 

「絶対に教えない……言ったところで、信じないだろう」

 

「「……」」

 

 因みにだが私のサイドエフェクトはトリコのココの能力、つまるところ転生特典である。

ギャグ短編(時系列は気にしちゃいけない)

  • てれびくん、ハイパーバトルDVD
  • 予算振り分け大運動会
  • 切り抜けろ、学期末テストと特別課題
  • 劇団ボーダー
  • 特に意味のなかった性転換
  • 黄金の果実争奪杯

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