「よーし、オレ達もクイズに挑戦すんぞ」
「おい、やめろ。世間に恥を晒すだけだ」
「米屋先輩、流石に恥は晒しちゃマズイっすよ。これ、広報活動でもあるんですから」
「私、こういう系のゲームは苦手だからパス」
「そこまで言わないくていいだろ!!てか、パスするんすか?」
ボーダーの裏方のスタッフ達が目にも止まらぬ早さで用意していくクイズのセット。
選手用の観客席に移動した私達なのだが米屋が馬鹿な事を言い出したので、京介と一緒に止める。どうあがいてもハズレしか言わない。一昔前に流行ったバカドルの未来しか待ち受けてないと思ったので止める。
「舐めんなよ、確かにこの中じゃオレが一番のビリだ。一番頭が悪い。
だが、クイズってのはなにも知識だけを試すんじゃねえ。知恵も試す問題もあるんだ」
「なにプロフェッショナルみたいに語っている?
そんな事を言うやつは、あれだ。三学期のテスト、一切手伝わないぞ?」
「ちょ、おまっ……それは無しだろう」
「自力で赤点回避という選択肢は無いんですね」
「やだな~とりまるくん……そんなことができたら、私も米屋くんも苦労はしないよ~」
ヤバい、国近先輩の闇が見える。
テスト関係に話題を切り替えたせいで重苦しい空気になってしまったが、直ぐにその空気は無くなる。ボーダーの裏方のスタッフ達がクイズのセットを用意する……と言っても、よくある四角いテーブルと早押しのボタンとクイズのモニターだけだが。
『では、第一試合パーフェクトクエスチョンをはじめたいと思います!時枝、頼んだぞ!』
「了解しました。
パーフェクトクエスチョンはその名から連想される通りクイズバトルで、解答権交代制のクイズバトルで相手が答えなければならない問題を選択することが出来ます。選択されたありとあらゆるジャンルを完璧に答えないとなりません」
『このクイズバトル、頭が良いだけでなく知恵も試される。二人とも頑張れ!』
「まずは第一試合。私が勝って、後に繋ぎやすくするわ」
「皆、勝ってくるね!」
クイズのルールの大まかな説明と一般客への簡単な挨拶は終わった。
ここからはやらせとかそういうのが一切無い本気のクイズバトルで、空気が変わる。
「最初の一問目は早押しです。
先に答えた人が先攻となります。この一問目のみ間違えても失格になりません」
「早押しか……」
「問題の内容次第ね……」
宇佐美と今先輩の間に火花が散る。
最初の一問目は外してもそこまで問題無いのだが、やはり先攻は取りたいものらしい。緊張が走る中、問題を述べる時枝の口が開く。
「アマゾ━━」
「「カンディル!!」」
いや、百人一首か!
思わずそう言いたくなるほどの早さで答える宇佐美と今先輩。
「え、っちょ、まだ三文字しか言ってねえぞ」
「アマゾン関係だと思いますけど……一か八かの勝負に出ましたね」
「けど……今ちゃんの方が早かったよ」
問題の大まかな内容が分かっていないのに答える二人。
第一問は早押し、先にボタンを押した方が解答権を得られる……先に押したのは今先輩で、今先輩のテーブルにあるランプが光っている。
「え~問題は、アマゾン川流域に生息するナマズ型の肉食の魚はなんですかという問題。今先輩、正解です!」
「あ~出遅れた……」
「危なかった……実家で百人一首をやっててよかったわ」
『下の句の札を取る早さが、勝負の分かれ目になりましたね。それではジャンルからお選びください』
「そうね……どのレベルのどういった感じのクイズが出るか、まだ分からないわ。国語の問題でお願い」
『決まりました、宇佐美の第一問は国語です!さぁ、宇佐美は正解することが出来るのか!』
「いきなりの敗けは陽介達に迷惑を掛ける……来い!」
「これらを組み合わせるとなんの漢字になるでしょうか?」
クイズ番組のノリで思いっきり進んでいく、パーフェクトクエスチョン。
負けてしまった宇佐美の一問目はよくあるパーツを組み合わせて漢字を作る問題で【ー|〈+〈□〈=□】と割と簡単な問題だった。
「ええっと……」
「輜だ、輜。□=口、十とくとなれば簡単に答えは出る」
「いや、出ませんって普通」
「あ、でも普通に答えたよ」
さっきと違って早押しでなく、時間制限付きだが気楽な問題。
調子が出てきたのか宇佐美はサラサラっとテーブルに用意されたフリップボードで輜の字を書いて、正解した。
「じゃあ、私は英語で!」
「英語ですね……□に入るアルファベットを答えてください」
「英語関係ないね、この問題」
「英文とかにすると、面白味も欠けるんですよ」
どちらかと言えばバラエティのクイズ番組に近いパーフェクトクエスチョン。
【□⇔P
↑ ↑
↓ ↓
B⇔D】
という割と簡単な英語の問題を今先輩はあっさりと答える。そして米屋は間違える。
頭を少し捻れば簡単な問題で、これもしかしたら京介でもよかったのかもしれない……なんてことはなかった。
「凸レンズは光を集めるレンズであり、代表的な物と言えば虫眼鏡です。
凸レンズの光を集める性質を利用すれば、黒い物を光で着火させることが出来ます。では、メガネなどの凹レンズを使い光で着火させるにはどうすれば良いでしょうか?」
「水を使ってメガネのレンズの凹みを埋めて凸レンズにする!」
「正解です!」
割と難しい理系の問題が出たり
「Aが大事にとっておいたケーキを誰かが食べてしまった。B「私は食べていない」C「BもDも食べていない」D「僕も食べていない」E「Dは本当のことを言っている」、この中で1人だけ嘘をついています。さて、ケーキを食べたのは誰でしょう?」
「Aがケーキを食べた犯人で、そもそもAの話自体が嘘よ!!」
と無駄に頭を使う問題が出てきたりと、非常に面倒な問題ばかりが多かった。
私以外に答えれているメンバーはこの観客席にはおらず、出水を省いてでも宇佐美を入れて正解だったと改めて思う。しかし、一向に均衡は崩れていかない。宇佐美も今先輩も何事もなくポンポンと普通に答えていく。これ、永遠に終わらないんじゃないのかと心配する両チームの控えだったが、終わりは突然やって来る。
「甲子園の決勝戦、優勝した学校の投手であるTさんは前代未聞の記録を成し遂げました。
なんとTさんは甲子園の決勝戦でボールを投げた球数が考えられ得る最小の球数で完投したのです。さて、Tさんは何球投げたのでしょうか?」
泥沼状態を脱出させるために体育の問題を選択した宇佐美。
この問題も割と楽……じゃない。これ、よくよく見れば引っ掛けだ!!
「え~っと、スリーアウトチェンジでスリーストライクの9倍だから」
「3×3×9で81。でも、打たせて取る方法もあるんで全球打たせてとれば3×9で27だよ」
割と簡単な計算なので頭が回る米屋と国近先輩。
そう、それで正解だ。この問題の答えは27であり、決して━━━
「25球!!」
25球ではない。
しかし、今先輩はその事に気付かずに25球と答えてしまいハズレのブザー音を鳴らした。
「なんで……」
「25球じゃないんですか?
サヨナラなら、25球で終わるはずですよ?」
「問題文をよく読みなおすんだ。
甲子園の決勝戦で優勝した学校のTくんで、完投した試合が甲子園の決勝戦だったぞ」
「あ……」
本来ならばサヨナラ負けでの25回で終わる。
だが、問題文に優勝したや決勝戦を付け加える事により、答えを27に変えた。普通の人ならば、それこそ米屋や国近先輩ならばサヨナラ負けだと入れていない27球と答える。
だが、京介や今先輩の様にそこそこ頭がキレる人ならば、サヨナラ負けの最も球数が少ない25回と答える。今回はこれを逆手に取り、文章を少し弄くってきた。頭が良すぎるからこそ引っかかる問題だ。
私と同じ事を時枝が今先輩に説明をするとホッとする宇佐美。だがまだ、ホッとするのには早い。次に宇佐美が問題に答えられなければ、宇佐美もドボンで引き分けに終わる。
「狼の前にはゴリラが一匹、ゴリラの前には狼とフクロウが一匹ずつ、フクロウの後ろには狼とゴリラが一匹ずつ、狼の後ろにはフクロウがいます。さて、動物は何匹いますか?」
「え~と……4匹!狼、フクロウ、ゴリラ、狼の順で並んでるよ!」
「あ~国近先輩、ファイト」
「え、違うの?」
最後の最後でかなり難しい問題をぶつけられ、ミスしてしまった宇佐美。
正解のピンポーンでなく、ハズレのブザー音が鳴り響いてなんでと驚くのだが時枝から答えを教えてもらうと納得してしまう。
『一回戦、パーフェクトクエスチョン!!両者不正解により、ドボン!!引き分けに終わります!!』
「ごめん!!間違えちゃった!!」
試合が引き分けに終わると慌てて此方にやって来る宇佐美。
申し訳なさそうに謝るのだが、まだ挽回するチャンスは残されている。
「これは5対5の団体戦で、引き分けの場合は次の試合で勝った人がいるチームの勝利とするルールだ。
国近先輩が別役と旗揚げ勝負で戦って勝ったら第一試合も此方側の勝ちとなるから、まだ落ち込むんじゃない」
「そうそう。次の競技は絶対に勝てるからね~」
「ごめんね~」
若干涙目で国近先輩に謝る宇佐美だが、引き分けに持ち込めただけでも充分だ。
少なくとも他の三人は何度か問題を間違えていたから、ドボンで負けていた。ここは考え方を変え、二勝を一気に手に入れる事が出来るものだと励ます。
「すみません、勝てたのに焦ってしまって」
「気にしないで、今ちゃん。
ぼくもだけど、ここにいる皆は何問か間違えていたし今ちゃんじゃないと引き分けに持ち込めなかったよ」
「そうっすよ。オレなんて、一発目でポロロッカって間違えたんですから!」
「太一、それもそれであってるわよ……」
「……とにかく、次だ。
太一が勝利すれば第三試合で弓場さんが勝ってくれて、俺や来馬さんまで繋ぐことなく終わる。頼んだぞ」
向こうもそんな感じで励ましていた。
「じゃあ、いってくるね」
「頼みますよ、国近先輩。流石にここで負けたら、後が無いんですから」
「京介、ハードルを上げるな」
「大丈夫、大丈夫。私、ピンチの方が燃えるタイプだから」
そんなこんなで始まる二回戦、エンドレスフラッグ。
基本的に旗揚げと同じルールなのだが、指示を出す人が自分と対戦相手で交互に入れ替わり、言う人は動かさず言われた人のみが旗を動かす物凄く地味な競技。
集中力と何事にも動じない精神力、咄嗟の判断力が試される競技なのだが
「赤、上げずに白あげてから赤上げずに白下げて」
「え、え~っと?あ、動かさなくて良いのか?」
なにか物凄く心配だ。
試合が開始して直ぐに国近先輩が圧倒的なまでの優位に立つのだが別役はミスをしない。
「あいつ、何気に状況判断能力高いな」
「なんだかんだ言って狙撃手ですからね。
基本的に待ったりすることが大事で、忍耐力とかは既に充分備わっていますよ……まぁ、国近先輩に翻弄されまくりですから、5分持てば良いんじゃないんですか?」
そんな別役を褒める米屋と京介。
国近先輩が翻弄しまくりだからと、後何分かで負けると見ている。私もそう思うのだが、何故か物凄い迄に違和感を感じる。
「白、あげて!青、下げる!」
「おい、あいつどさくさに紛れて全く別の色を言いやがったぞ。ルール違反じゃねえのか?」
「時枝くんがなにも言わないから、セーフだよ」
中々に姑息なフェイントを入れてくる別役。一瞬だけビクリと国近先輩は反応をしたが、それだけで旗は動かしていない……勝てる、このまま続けば勝てる筈なのだが、物凄く嫌な感じがする。
「なぁ、なんか国近先輩腕震えてねえか?」
「あ、確かに震えてる……なんでだろ?」
その嫌な感じは直ぐに判明した。
圧倒的なまでに優位に立っている筈の国近先輩は、気付けば劣勢に立っていた。
「確か、別役が言った一番最初の指示って……」
「赤をあげて、だけだった筈ですけど……」
「国近先輩、赤を一度でも下げたか?」
「!?」
国近先輩の赤の旗を持つ腕が震えている。
この旗挙げがはじまり、赤を揚げてから、一度も赤を持つ腕を下げていないから当然と言えば当然だ。なんだかんだで4分ぐらい経過しているぞ。
「ま、まさか太一の奴……」
京介は別役の狙いに気付き、冷や汗をたらりと流す。そう、別役の狙いは━━
「国近先輩に、腕の疲労困憊で赤を降ろさせるつもりだ」
「真の悪にも程があるだろ!!」
別役の狙いは、旗揚げで勝つことじゃない。体力比べで勝つことにある。
相手の赤か白のどちらかをずっと上げっぱなしにしておけば、腕が疲れていって震えていき下ろしたいと言う欲求に駆られる。
国近先輩はボーダーの中でもトップレベルのアホの子でもありスポーツ出来ない女子でもある。10分間腕を上げるなんて筋肉系の男子ぐらいしか出来ないだろう。
「フィジカルで挑むか、普通?」
正々堂々と頭や心理戦で挑まず、フィジカルで勝負してきた別役。
競うところが間違っていると叫びたくなるのだが、叫んだところで別役は何一つルール違反をしていないのでどうすることも出来ない。
「うぅ……」
「あ、まずいよ!涙目になってる!」
フィジカル勝負になると部が悪い国近先輩。
腕の疲労が限界に達してしまうのだが、必死になって堪えて腕が疲れて痛いのを我慢する。
「まだか……こうなったら、赤下げて!白上げて!」
「え、いいの!やったあ!!」
中々に潰れない国近先輩に痺れを切らしたのか、別の手を興じる別役。
どんなフェイントを入れても国近先輩は対処するから、なにをしても無駄……いや、違う。
「赤上げて!白下げて!」
「腕振らせて疲れさせる作戦に出たな」
「もう旗揚げっつーか、根気比べじゃねえかよ……」
これそういうバトルじゃないのに、なんでこんな事になったのだろうか?
別役が落ちるか国近先輩が疲労でギブアップするかのどちらかで終わるこの試合、今先輩も別役がなにをしたいのか気付き、なんか下衆な物を見る目で別役を見ていた。
「白上げずに白下げずに赤上げて白上げて白下げて抹茶フラッペ白上げて!!チョコレートクリームチップショットヘーゼルナッツシロップバニラシロップキャラメルソースチョコレートソースエクストラホイップエクストラチップ飲みたい!!……ごめんね」
「え、チョコ……なんすかそれ??」
国近先輩は必死になって頑張ったものの、フィジカルの勝負で勝てるはずもなく赤の旗を持つ腕を下ろしてしまう。最後の悪足掻きなのか、所々おかしなというかスタバのメニューを間に挟み、別役の頭の中をかき混ぜて、両旗を上げなければならない別役の腕を止めて……終了のブザーが鳴った。
「え~っと……」
「国近先輩が言った通りに太一は旗を動かさなかった。けど、国近先輩は動かしてはいけない自分の旗を動かしましたね」
これはどういうことかと考えて悩む宇佐美に、結果のみを伝える京介。
カメラ判定……なんてものがあるはず無いな、旗揚げでカメラ判定なんて聞いたこともない。これはどうなる、もしかしてと修以上の冷や汗を垂らしながら審議する嵐山さんと根付さんを見守る。
『審議の結果をお伝えいたします。
国近の指示通りに動けなかった太一が本来ならば敗けなのですが、国近が指示を言い終えた際に自身の旗を下ろしました。
ルール上、指示以外では旗は動かしてはいけない事となっていますのでこの試合は……引き分けとします!』
「嘘だろ、嵐山さん!嘘だって言ってくれよ!!」
運営もとい嵐山さんの引き分けのジャッジを聞いて、焦る米屋。
第一試合の勝敗を決めるものでもある第二試合が引き分けということは……
『第一試合、第二試合ともに引き分けとなっておりますので第三試合のギャング★スターで勝利したチームが、第一、第二試合を制した事となります!!因みにですが、ギャング★スターは機械判定をしますので引き分けはまずありません』
二試合分どころか三試合分の勝敗が中堅戦で決まる。
それを聞いた来馬隊の面々は弓場さんを見つめてガッツポーズを取り、国近先輩は終わったと物凄く落ち込みながら此方に戻ってきた。
「三雲くん……参加賞の、A級の部隊のエンブレムのバッジあげるよ」
「国近先輩、諦めるの早すぎませんか?」
「一対一の銃撃戦で弓場さんが相手だったら誰でもそうなるよ……私が、勝ってたら……」
勝っていれば、こんな苦労にならなかった。
宇佐美は落ち込んでいる。米屋と京介も諦めムードであり、空気が重たかった……重い空気だな……。
「これをするのは、疲れるが……」
この重たい空気を変えるには勝つしかない、勝つ以外には生き残る道はない。
米屋達の言うとおり弓場さんは銃の名手なんだろう。生身の肉体で、今の自分が出せる全力で挑まなければならない。私はメガネを外し、メガネケースに入れた。
「ギャング★スターはビームピストルを使います。
ビームピストルのセンサーに反応する衣装を用意していますので、あちらで着替えてください」
「時枝、一応聞くがその衣装はどんな感じだ?」
「ガンマン、白スーツ、嵐山隊の隊服、太刀川隊の隊服、他にも色々とありますよ」
ボーダーのスタッフが機材などの準備をはじめる中、コスチュームチェンジの指示を時枝から受ける。
こちらですよと簡易的な更衣室に案内され、更衣室前には様々な衣装が吊るされたハンガーポールがあった。
「……これは荒野の王子様で着ていた服、これにするか」
割とマジでロクなのがなかった。
ボーダーの隊服は嫌なのでそれ以外は無いかと探していたら面白い物を見つけたので、それにすることにした。
「あ……どうも」
着替え終わり、更衣室を出ると隣の更衣室から白いスーツを着た弓場さんが出てきた。
「ガンマンか……中々に似合ってるじゃねえか」
「弓場さん、も似合ってますよ。サングラスとかつけたら、もっと漢前になります」
「よせよ、褒めても手は抜かねえぜ」
一切の裏なく弓場さんを褒めると照れる。
冗談とか社交辞令一切抜きでこの人、白いスーツが似合う。グラサンをつければ、実写版白龍と言ってもおかしくないぐらいだ。
「そういえば、弓場さんは来馬隊の人でなく、自身の隊をお持ちの人なんですよね?何故、この企画に参加したんですか?」
これから先、試合がはじまるので聞くならば今しかない。
ずっと気になっていた事を聞いてみるとメガネをキラーンと光らせた後、メガネのブリッジをクイっと中指で動かした。
「三雲、だったか?オレ達ボーダー隊員にとって2月、3月はなにかと忙しい月でな、遊んでる暇はねぇ。
順位を決める隊同士がぶつかり合う模擬戦であるランク戦をしたり志望校に受かるための受験勉強をしたりなにかとゴタゴタが多い時期でな、今年はオレがその受験生だ。ボーダー推薦枠っつー手もあるが、あれをあんまり使いすぎればお前のところの米屋や太刀川を量産する可能性がある。特に太刀川は大学生になったと思えば、レポートを溜め込んでて本部長を怒らせる始末、うちはそうじゃねえと証明する為にも自力で合格を目指している」
「それだったら、わざわざこんなところで遊んでなくても……」
「話は最後まで聞け、三雲ォ。
確かにお前の言うとおりで、遊んでる暇はねぇ。だが、隊長であるオレが受験の為にランク戦の準備なんかをゴタつかせたりしている。勿論、ランク戦でも手を抜くつもりはねぇ。だが、迷惑を掛けた詫びなんかが必要だと思っている。
色々と考えたオレはこの企画の優勝したチームの一人だけ使える、どんな願いでも叶える権利を使って、ランク戦が全て終わり、オレの受験も終わった後の打ち上げのセッティングとその打ち上げ代の支払いを叶えるつもりだ。その為に、一人足りない来馬隊に入れてもらった」
リアル、願いの内容が思いの外、リアル。
「これは隊の誰にも知らせていねえ。
現に隊の奴等は防衛任務中で来馬隊の奴等には口止めしていて、オレは蓮乃辺市の図書館で勉強してることになっている……絶対に言うんじゃねえぞ、三雲ォ」
「言いませんよ……」
弓場さんは物凄く仲間思いで、ツンの要素が強いインテリヤンキーのようだ。
タイプライターが欲しい為だけに出場している自分と比べればすごく立派だと感じた。
「この試合は私が勝って、ここで終わりますから最初から言わなくてもなに一つ問題ありません」
「あぁ!?」
弓場さんが仲間思いの良いインテリヤンキーで立派だったことと、私が煽るのは別の話だがな!!
ほくそ笑む感じで弓場さんを煽ると、沸点が低いのか一瞬にして弓場さんはキレて怒りマークを浮かべ、こいつ競技で全力で潰すと殺意を抱かせた。
メガネ(弟)「当小説が二乗ほど面白くなるおまけコーナーと言う名の設定とか裏話!」
弾バカ「前回言った通り、おれはこのGBFが終わるまではこのおまけコーナーのレギュラーだ!」
メガネ(弟)「よろしくお願いします、出水先輩!」
弾バカ「おう!いや~メガネくんとは絡みやすいから、やり易いわ」
メガネ(弟)「兄さんとは絡みづらい、んですか?」
弾バカ「いや、あいつもあいつで面白いから良い。槍バカともな。
けど、三輪と太刀川さんはちょっと無理だ。三輪はこういうの嫌いだし、出たとしてもクソマジメにして、面白くねえし、かといって太刀川さんはノリノリなんだけど、毎回確実になんかやらかすからよ……唯我は論外で、柚宇さんとこういうのしないといけないの多かったり……」
メガネ(弟)「た、大変なんですね」
弾バカ「こういうのは嵐山隊の仕事だからな。
ところで、仕事で思い出したんだけどメガネくん……原作主人公としての仕事(出番)は?」
メガネ(弟)「僕は基本的に原作開始してから出番が増えて、今のところは本編にチラッと出てくるぐらいです」
弾バカ「でも、近界民もしかしたら人間で普段から戦ってる奴等ロボット説とか、ボーダーは何度も何度も近界民の世界に行ってる説とか色々と聞いてんじゃねえのか?それでなにか変わったりは」
メガネ(弟)「色々と聞いていますけど、それだけです。
結局のところ、此方の世界にやって来るトリオン兵は侵略や拉致目的で来ていて、それを倒しているボーダーは街を守ろうとしています。二極論で、しかも正義か悪でこういうことを語るのは良くないことですが、少なくともボーダーは正義側です。
兄さんがどうしてトリガーを渡そうとしないかも教えられていたりしますし、自分の中でそれは納得出来ることであり、いざというときは躊躇いもなくボーダーに知られたりするリスクを承知で兄さんが使うことも知っていますので、特になにか言うことはありません」
弾バカ「や、やべえ……後輩&弟の鑑だよ、メガネくん。アイツが立派すぎるとかそういうの、言うだけあるわ」
メガネ(弟)「あ、でもそのせいか原作開始時に色々と変化があったりしますよ」
弾バカ「ネタバレはダメだぞ、メガネくん。
その辺については本編を楽しまないと……そういや、メガネくんはアイツが兄貴で辛いとか苦しいとかそんな事無いのか?」
メガネ(弟)「辛い、ですか?」
弾バカ「あいつ、なんだかんだで基本スペックたっけーだろ?
蓮乃辺市で一番頭良い中学に通ってたし、高校も進学校余裕で通えるレベルだし、なんだかんだで人良いし、トリオン量も滅茶苦茶多いしよ。弟として……その、辛くないか?」
メガネ(弟)「そう、ですね……一時期辛い時はありました。
物凄く頭が良いわけでもなんでもなく、上の下の下ぐらいの成績が良いだけで済むレベルで本当に頭が良い人と比較すれば劣ると分かった時は特に」
弾バカ「えっと……何時頃に?」
メガネ(弟)「小学2年生の時に、僕も兄さんみたいにと思ったんですが上手く行かなくて……当時は兄さんも兄さんで、僕に誇れる様な兄にならないとと必死だったらしいんですけど」
弾バカ「いや、笑い事じゃないからな……それで、どうなったんだ?」
メガネ(弟)「僕が中途半端に勉強が出来て生真面目すぎたのが相まったのか、父さんと母さんも特に兄さんと比較する事を最初からしなくて、それが逆に辛かったんですけど、兄さんが「守りたいと思ったら絶対に守る、誰であろうと見捨てないという思い、例え絶望的な弱さだと分かって苦しくて泣こうとも前に進もうとする修の方が立派だ」って言ってくれて、それがとても嬉しくて、辛くなくなったんです」
弾バカ「弱さを認め、拒んで乗り越えようとせず、弱さを受け入れて前に進もうとする力、か……心の強さなら、誰よりもメガネくんがぶっちぎりでトップだろうな」
メガネ(弟)「いえ、そんな僕は……結局のところ、自分がそうすべきだと思ったことを行動に移して、ちゃんとどうにかすることが出来ていないのでまだまだです」
弾バカ「やべえ……唯我とマジでチェンジしてえ……でも、それ勝手にやったらセコム(空閑)が出動するんだよな……次回もお楽しみに!」
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