涙しかなかった気もするが、バレンタインデーは過ぎて何事もなく(私は)2年生に進級することが出来た。
1年生としてボーダー隊員の京介、時枝、佐鳥といった匆匆たる面々が入ってきた。と言っても、私のポジションは昨年のノートを取ってあるからボーダーの防衛任務で学校に居ない時にコレつかって勉強すれば?とノートを貸してくれて勉強を教えるだけのお兄さんである。
ボーダーは嫌いだけど、それはそれコレはコレと一線を敷いているキャラで一応は通ってたりする。このまま何事もなければ良いのにと何度も何度も思う……だが、そうは言ってられない。
「入ってきてください」
お正月に手に入れたタイプライターで資料を作ったりしていると私の部屋のドアの前にある人物が立っている。
ここから先は地獄で、とてつもなく辛い道が待ち受けていると占いに出ているのだがそんなものは今に始まったことじゃない。覚悟を決めて、ノックされる前に声をかけるとドアが開き修の家庭教師が……修の幼馴染みの千佳の兄である雨取麟児さんが入ってきた。
「俺が来るのを、分かっていたのか?」
「……分かっていた、と言えば違いますね。
此処にやって来るという可能性が高かったというのを知っていた、と言うぐらいです」
「未来予知かなにかか」
「そんな大層な物じゃありませんよ……それで、私になにか御用ですか?
もしかして修の勉強になにか問題でも?ワンランク下の高校を目指した方が?」
「いや、修は良くやっているよ。
真面目すぎて教えている此方が面白味に欠けるぐらいで、本当によく出来る生徒だ。むしろ、もうワンランク上を……六頴館だって余裕でいける」
「そうですか」
なにをしに来たのか私は知っている。
いきなり本題に入るのは麟児さんでも心苦しいので、一番身近な話題を出してみると良いことを聞けた。修の成績は予想以上によかった。ただまぁ、体育は残念なのは相変わらずらしい。稀に一緒に走っているが、一向に体力が増えん。
「逆にお前の方はどうなんだ?
成績はオール5なんだろう?大学は……何科にするんだ?」
「考古学の神話とか伝承とかそっち系を……近界民が出る前と比べれば倍率エグいですけど」
近界民は隣接する世界の住人、要するに異世界の住人である。
サラッと流しているが異世界の存在を証明することに成功しており、異世界に関する学科とか考古学とかがとてつもない事になっている。もしかしたら、神話や伝承に出てくる世界も近界民の世界とかそういう感じの説も出ており、考古学とか神智学とかの倍率が凄い事になってる。まぁ、案外魔法とかに必要な魔力がトリオンという線もある。
「近界民、か……」
「そろそろ本題を……今日は私になにか御用ですか?」
近界民を話題に出すとなにかを考える麟児さん。
場の空気もある程度暖まってきたので、本題に入ると麟児さんはトリガーを取り出す。
「千佳から色々と聞いた。
近界民から狙われない様に人気の無い廃墟に隠れているところを迎えにいってくれたと……」
「修と一緒に迎えにいきましたよ……トリガーを使って」
「……」
ハッキリとトリガーと言うと固まる麟児さん。
まだなにも言ってないのに、私から情報を出したので全てお見通しなのかと少しだけ焦っている。私は麟児さんが次になにを言うかを待っており、麟児さんは私からなにも喋らないと分かればトリガーを懐にしまい、封筒を取り出す。
「これは?」
「子供の頃から使わずじまいのお年玉や、15になってからバイトをしたりして貯めたお金だ。
色々と合わせて合計で100万は越えている……まどろっこしい話は無しにしよう……俺に、そのトリガーを譲ってくれ!」
私より立派な大人である麟児さんは私より目線を低くし、土下座をする。
私が隠し持っているトリガーが欲しいと、何故欲しいかという説明の過程を全てすっ飛ばして頼み込んできた。
「麟児さん、起承転結ですよ。
トリガー云々は……置いておけませんね。先ずはなんで、ボーダーの隊員でもないのにトリガーを持っているのかを、それを使ってなにをするのかを教えてください」
麟児さんがトリガーを使ってなにをするかは知っている。
麟児さんの妹の千佳が近界民に少しでも狙われない様にする為に近界民の世界に向かう……のだが、ぶっちゃければ無理である。近界民の世界とこちらの世界、合わせて二つの世界だけならばその手段もありといえばありだ。
私は麟児さんに頭をあげさせ、トリガーをなにに使うのか、千佳が狙われない様にと理由を吐かせる。
「誰から貰ったとは聞きません……もっと良い方法はあるんじゃないんですか?
千佳が狙われる原因をハッキリと知っているんですか?それをどうにかする道具をボーダーに開発してもらったり、それこそ麟児さんがボーダーの隊員になるとか色々とありますよ。私の友人、ボーダーの隊員なので色々と紹介とかもできますからそっちの方を……」
その理由を聞いた後、私は麟児さんを諦めさせにいく。
ダメだと真っ向から押し付けの否定はせず、妥協案やそれよりも良い方法があるという道を示していく。そうじゃないと、この人は口が上手いので逃れられてしまう。こっちの方が良いかもと思わせないと。
この人のトリオン量が多いか少ないかは分からないが、トリガーを使って向こうの世界に行くぐらいならば、最低でも米屋ぐらいないとまともに戦えない。
「それじゃあダメだ」
「何故ですか?」
「ボーダーはいったい何時まで近界民と戦うつもりなんだ?
百年戦争の様にぐだぐだとやり続けるのか……何処かで「もうこの世界は襲いません、仲良くしましょう」と停戦協定を結ばないといけない。
俺は千佳の為に行くが、そういった事も視野に入れている。もしかすると俺達もボーダーも知らないだけで、この街に第二、第三の千佳がいるかもしれない」
「……」
言っていることは間違っていないと言えば間違っていない。
このまま延々と戦い続けているよりも、もうこの世界は襲いませんと協定を結んだ方がいいに決まっている。
「ボーダーのトリガーは大量生産で、トリガーを使う才能があれば訓練すれば誰でも使いこなせる。それこそ、体育の成績が良くない修でもだ」
「そうですね、病弱の女性でもトリガーを使って変身すれば物凄く走り回れるなんてテレビでもやってたりしましたし」
「お前の持っているトリガーは、違うんだろ?
大量生産でも誰でも使えるものじゃない代わりにボーダーのトリガーを凌駕する力を秘めている……俺に、譲ってくれ」
「……どうあがいても、行くつもりなんですか?
近界民の世界が、どうなっているのか分かっているんですか?なんで狙うのか狙われるのか、近界民が襲撃する理由を分かっているんですか……なにも分からないまま行って、千佳を泣かせるだけ泣かせるんですか?」
「お前ならどうする?」
「質問を質問で返さないでください」
何がなんでも向こうの世界に行こうとする意志を曲げない麟児さん。
向こうの世界に行けたとしてそこで仲良くしましょうの握手に成功しても、他の国が狙う。
近界民の世界でも物凄く大きく物凄く強いアフトクラトルが千佳を手に入れれば、アフトクラトルは今以上の繁栄の道を行く。アフトクラトル以外の国が千佳を手に入れれば、今のアフトクラトル並に繁栄する可能性があり、人知れず気付かず黄金の果実争奪戦は既にはじまっている。
「近界民の世界が、それこそ地球の様に色々と国があったらどうするんですか?
普段襲ってくる奴等がンプルィーヌ・チペペスブ王国で、辿り着いた国、アフガニスタンは全く関係無かったなんて可能性もありますよ」
「なら、そこを経由してンプルィーヌ・チペペスブ王国に向かうまでだ」
「……」
「俺を近界民の世界に行くことを諦めさせるのを諦めろ」
ああ言えばこういい、こう言えばああいう麟児さん。
私が、向こうに行くのは危険だ、行っても無駄な可能性があると、こうする方が良いのではと色々と言えば論破とはいわないが全て突破される。
「……どんな理由であれ、千佳に嫌われますよ?」
「構わない……妹が無事ならば、兄は喜んで嫌われる。お前もその道を辿った筈だろ?」
「……少なくとも、向こうの世界に行くなんてことはしません」
「それはお前がトリガーを持っているからだろ」
なにがなんでも折れない。
この人を説得するのは無理で、直接ボーダーの隊員に通報……三輪は絶対にダメだ。三輪は妹の、家族の為だと言えば、心が揺らぐ可能性がある。何処かの支部の窓口に通報するかと考えていると大きく息を吐く、麟児さん。
「もう、やめにしないか?
お前が諦めさせようとするのは分かっている。だが、俺は折れない。
俺を止める方法はボーダーに通報をするしかない……それをすれば、俺はお前がトリガーを持っている事を喋る」
「……脅しですか?」
「ああ、脅しだ」
麟児さんは強行手段に出てきた。
脅しかと聞いてみると脅しだとハッキリと認めた。普段はそういうことをする人じゃないのに、脅してきた。妹のためならばとトリガーを盗ってくる人だから、脅しだと認めてもなにもおかしくない……が、眉一つ動かさないのか、この人は。
もう潔く諦めて、トリガーを見せて終わりにした方が良いんじゃないのかと諦めの気持ちが出てきた。
「お前の言っていることは、なにも間違っていない。
俺が協力者と一緒に近界民の世界に行くのは無謀なのかもしれない……だからこそ、行く意味がある。
例えば、そう。近界民の世界に色々と国があるなら、発展途上国や後進国と色々とあるはずだ。俺が此方の世界の代表だと言い、近界民の世界で1番の発展途上国と何らかの形で協定を結んで帰ってくれば、此方の世界を襲撃しようなんて早々に出来なくなる。その為にはお前の持っているトリガーが必要になる」
諦めの気持ちが出てきた私を麟児さんは説得しようとしてきた。
私のトリガーがなんなのか知らないのに必要だと、確かにあれば生存確率が上がる可能性がある。ボーダーの隊員が日頃使っているトリガーと違って、戦う事以外にも色々と出来る。
「千佳の事をボーダーに教える、と言うのはダメですか?
幸いにも私の友人はボーダー隊員で比較的に話が通じる人達ばかりです。千佳の事を話して、それとなく偶然に気付きましたと言う展開を作ることは、千佳が自分で抱え込むタイプなら、周りが気づいてあげたのならば良いのでは?正直な話、麟児さんが近界民の世界に行っても、生き残れないと思います。麟児さんはそれを使うことが出来るだけで、それを使いこなせるわけでも、ボーダーの訓練を受けたわけでもありませんよね?」
「お前がなにを言おうとも、俺は折れない。お前の言いたいことも気持ちも分かっている……だが、それでもだ。
ボーダーが千佳の存在に気付いてなにかをしてくれていればこんなことをしていない。千佳を守るとボーダーの隊員になっている。
だが、近界民が此方の世界に大規模な侵略をしてきてから約四年もの月日が経っているのにボーダーは千佳の存在に一向に気付いていない。ボーダーはこの街に近界民を誘導する門を設置しているにも関わらず、近界民を撃退する以外はシェルターを作るぐらいで他に目立ったことはなにもしていない。それどころか、三門市よりも蓮乃辺市よりも四塚市よりも更に外、北海道や京都なんかの県外に行ってボーダーの隊員になれる人をスカウトしている。お前はその事について怒っているんだろ?」
「その辺に関して思うところはあります……ギブアップです」
色々と、色々と頑張ってみたものの私が折れてしまった。
薄っぺらな人間である私と比べて、絶対に折れない鉄の意志を見せつけられた。これ以上はどうすることも出来ないと折れた……が、まだやれることはある。そっちの方を優先するのに切り替える。
「私が渡すのは麟児さんの分だけで、協力者には渡しません。
私の持っているトリガーは使用者を選ぶ類なので、麟児さんが使えるトリガーがあれば渡します……もしかすると無いかもしれませんし、幾つか譲れないトリガーもあり、渡そうが渡すまいが条件を出します。その条件に応じないと、出しません」
「その条件は?」
「今すぐにやれとかそんなのじゃなくて、帰ってきてからやってほしいことがあります。一つ目の条件は生きて帰ってくることです」
「生きて帰ってくるか……俺も一つだけ、条件を……いや、条件じゃないな。
これは本当に身勝手な俺からのお願いだ。こんなことを言うぐらいならば、と思うだろう」
「じゃあ、言わないでくださいよ」
「そうはいかない」
メンタリストならば、きっと上手く誘導することが出来ている。
こう言うことは本当に向いていないなと麟児さんを見つめ、数十秒ほど沈黙が走り、口を開いた。
「千佳と修の柱になってくれ」
麟児さんの切実な頼みを聞いて不謹慎だというのに私は少しだけ笑みを浮かべてしまった。
「…………抽象的なので分かりやすく言ってください」
「俺が近界民の世界に行ったら、千佳や修はなにかをする。
一番ありえる可能性は千佳や修がボーダーに入って近界民の世界に行って俺を探そうとすることだ。それを止めてくれなんて俺には言う権利はない。お前に頼む権利もない。なんだかんだと言っているが、ボーダーに入るのが一番なのは確かだ」
「もっとハッキリと」
「修と千佳に、戦う事は向いていない。
修と千佳が信頼することが出来て、前に出て戦うことが出来て、前で戦ってくれるだけで安心することが出来るのはお前だけだ。
千佳の側にいて心を支えることは修に出来るが、いざ戦って守るとなるとお前にしか出来ない。近界民と戦う時、絶対に折れない存在、部活動で言えば大将、部長、エース、そんな存在に……二人の柱になってくれ」
絶対に折れない存在、折れてはならない絶対の象徴。
千佳と修限定で良いからオールマイト的な存在になってほしいと、麟児さんは言う。私はそれを聞いて、お腹を抑える。
「クックックックック……フッフッフッフフ」
「ど、どうした?」
「はーっはっはっははっは!!」
「なにがおかしいんだ!?俺は真面目に、千佳と修の支えになれと……お前の弟の事でもあるんだぞ!!」
「いや、すみません。まさか、そう言われるとは思いませんでした」
麟児さんが私に頼んだことが、余りにも衝撃的な事だった。
私の見た目が手塚なのも運命だったのかもしれないと笑いが止まらない。麟児さんには申し訳ないが、笑ってしまう。
麟児さんが割と本気で怒るので笑うのをやめ、何時もの表情に戻して私は口を開く。
「無理です」
修と千佳の支えに、柱になってくれという麟児さんの頼みを私は直ぐに断った。
面倒だとか痛いのが嫌だとかお前が残れば良いだけの話だろうとか、そういう感じのことじゃない。修と千佳の支えに、柱になるのは私じゃない。私だと余計なことしかせず、修と千佳が本当に成長して一人前にならない。私だとダメだ。
「二人の支えになる人物は、もっと良い奴がいます」
まだ会ったことがないが、私は知っている。
修や千佳にとって戦いでの支えになる絶対的な柱になってくれるそんな人物がいるのを……そこに立つのは、私でなく空閑遊真だ。
メガネ(兄)「当小説が二乗ほど面白くなるおまけコーナーと言う名の設定とか裏話……本編が若干グダッているが」
メガネ(弟)「仕方ないよ。
部屋を一歩も動かずに説得するだけだから……麟児さんは口が上手いから」
メガネ(兄)「いや、私が口下手なのも悪い。
私みたいな薄っぺらな人間と比べれば麟児さんは……スナプキンキツネだ」
メガネ(弟)「それ……褒めてるの?」
メガネ(兄)「まぁ、それなりには褒めている。
今日は大学とか情勢とかそっち系についての説明をしようと思う」
メガネ(弟)「近界民の出現が世界にどう影響を及ぼしたのか?
チラリと本編で兄さんが語っていたけど、考古学とかの学部の倍率が凄くなってるんだよね?」
メガネ(兄)「ああ、四年前と今とじゃ段違いだ。
存在するかしないか、理論上はあるかもしれない、もしかしたら程度で確実な証拠が無い異世界。
近界民の出現によりそれが証明された。そうなれば昔、魔法とか神話に出てくる別の世界なんかはもしかすると近界民の仕業だったのかもしれない。そんな考えが出てきている」
メガネ(弟)「確かに、アニメの方でも神隠しは近界民が此方の世界の人を拐ったのかもしれないって言ったから、その考えは大きくありえるよ。キャトルミューティレーションも宇宙人でなく、近界民がやったことかもしれない」
メガネ(兄)「かもしれないじゃなくて、本当にそうだと私は思っているぞ。神話とかで登場する武器とかは実はトリガーでしたなんてオチもありえる」
メガネ(弟)「武器って、エクスカリバーとか?」
メガネ(兄)「エクスカリバー……アーサー王関連で分かりやすく言えば、選定の剣だな。
引っこ抜いた人が王様になる剣で、実はそれは黒トリガーでしたなんて考えれば……タンマ、これなしだ」
メガネ(弟)「え、どうして?
伝説の剣が黒トリガーだったのならば、神様に選ばれた人とかが使えたとかそう言うのに納得がいくはずだよ」
メガネ(兄)「いやだって、アーサー王が聖剣(トリガー)ぶん回して国をどうにかしようとしているのに諸外国のBANZOKUぴんぴんしてるんだぞ。確かにトリガー使わないと無理じゃないかなと思う逸話とか色々とあるけど……トリガーを使っても倒せないBANZOKUってなに?」
メガネ(弟)「ええっと……近界民?」
メガネ(兄)「……考古学関係の学部に行ったら、神智学とかも勉強しないとまずいな。次回もお楽しみに」
メガネ(弟)「次回、遂に兄さんのトリガーが判明」
メガネ(兄)「ハードルをあげないでくれ」
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