麟児さんはあの後トリガーを、T2ガイアメモリを押し続けた。
意識しなくても無意識の内に適合者と引き寄せ合う性質を持っているT2ガイアメモリ。麟児さんは自分が盗ってきたトリガーと大きく異なりUSBメモリに似ているからと気になっただけで手に取ろうとした。
コレがトリガーと呟いて無意識の内にジョーカーメモリを手に取った修と大きく違っていたのでその時から直感的に感じていたのだが、適合するT2ガイアメモリは存在しなかった。
麟児さんでも使えてボーダーよりも出力が高いトリガー(と言う名のベルト)は所有しているが、私が麟児さんに渡せるのは適合するT2ガイアメモリとロストドライバーだけ。他は絶対に渡すつもりは無い。
「歯を食いしばれ、馬鹿どもが」
今日は麟児さんが近界民の世界に行く出発日。
麟児さんは鳩原未来をはじめとする協力者達と共に門が開きやすそうな場所に集まっておりその場には私もいる。
「っが!?」
使えるT2ガイアメモリが無いから使うことの出来る私が来てくれと頼まれたとかそんなのではない。
麟児さんは私に千佳と修の柱になってくれと頼んできて、それを断ったが有事の際には修と千佳は何がなんでも守るつもりだ。行くつもりはない。
もしかすると帰って来れないかもしれない麟児さん達を見送るのと、一発ずつ顔面を殴る為に麟児さん達の元へとやって来た。
最初は絶望させて諦めさせようかの考えがあったものの、協力者達は麟児さんと同じ電磁波を出していた。絶対に諦めないという強い意志が見れた。
「お前の拳……重いな、重くて痛い」
「泣かないでくださいよ、こんなことで。
貴方の説得を、諦めさせることが出来なかった薄い人間の拳なんて軽い。貴方のことが好きで大切な人の拳はもっと重くて痛いんです」
「そうか……いや、そうだな」
私の拳を受けて麟児さんは軽く涙を流すが、泣くな。
見送ろうとしている愚かな男の拳に全くといって痛くないはずだ。もっともっと痛い拳があるのだから。
「お前達もなんの為に近界民の世界に行くかは聞かないが、帰ってきたらぶん殴られろ。
自分の事を心配してくれた人を、今回のことで責任を取らされる人を……どんな理由があれどもこれは越えてはならない一線だ」
何度も何度も忠告しておかなければならない一線で、協力者達は越えようとしている。帰ってきたのならば、ごめんなさいと謝ることも向こうの世界に行こうとした理由を語ることも許さない。
家族から心配してくれる友人から、責任を取らされてB級に降格させられる二宮隊の面々から最低でも一発はぶん殴られろ。
自分達が今からやろうとしていることがどれだけのことか理解しているのか、協力者達は殴られることについては嫌だと言わない。
「修と千佳を頼んだぞ……貴虎」
「下の名前で呼ばないでください、名前負けしてるんで苦手なんです。
それよりもちゃんと帰って来てくださいよ。こっちもGWが開けたら母さんと一緒に銀行口座開設して、準備しておきますので」
「ああ、お前との約束を絶対に果たす……トリガー、
もしかするとこれが最後になるかもしれない会話を終えると、麟児さんはトリガーを使う。
麟児さんだけじゃない、鳩原や他の協力者達もトリガーを使用してトリオン体に換装していくのを見て私は背を向け━━
「……この道じゃないな」
家に帰る道とは全く別の道を歩く。来たときと同じ道でもない道を、サイドエフェクトを頼りに歩いていく。
このまま普通に家に帰ってもなにも問題がないのは分かっている。麟児さん達は近界民の世界に行くことが出来る。行った後、なにをするのかという細かな事は知らないが行くこと自体は出来る。今から行おうとすることは己の私利私欲の為であり麟児さんの為じゃない。
「過去に何度か
今から戦う相手はボーダーで上から数えて直ぐに出てくるほどの強さを持った奴等……そいつ等を倒せなければ、アフトクラトルは夢のまた夢」
これから起きる出来事を思い浮かべ、私はT2ガイアメモリ一式に同梱されていたロストドライバーを取り出す。
思えばこれを使ったのはたった一度だけで、その一度で戦ったのが修というとんでもない内容。あの時は本当に心苦しかった。命を奪わないとはいえ、実の弟をぶっ倒さないといけないのは辛い。
『スカル!』
ロストドライバーを装着すると、自分と2番目に相性の良い
1度も使ったことがなければ、自分と1番相性が良いわけでもないガイアメモリ。本当ならば1番相性の良いEのガイアメモリを使い相手をしたいが、有事の際でも余程の事が無い限りはEのガイアメモリだけは使わないと決めている。それほどまでにEのガイアメモリは恐ろしいからだ。
「変、身!」
『スカル!』
T2スカルメモリをロストドライバーに差し込み、差し込み口を傾けると音声が鳴り私を包む様に小さな竜巻が巻き起こり、目の前に紫色の雷が落ちる変身する。
「……冷たいな」
変身する事には成功した。
Eのメモリで変身するエターナルと比べれば少しだけ物足りない感じがするものの、それでも強い力を感じる。だが、それと同時に暖かさが感じられなくなった。
Sのガイアメモリに宿る記憶は骸骨、
世間は地球温暖化がどうのこうのと言っており、年々暑い時期は増えている。4月末から5月初旬でも下手をすれば夏の温度になるときがある。
今年のGWは雨が降るせいか、ムワッとしていて暑い。此処に来るまでに暑かったのに、スカルのガイアメモリを使い変身した途端に蒸し暑さはなくなり冷たくなっていることを感じる。
「……クリスタルでなく、普通のスカル、か」
曲がり角の電柱にあるカーブミラーに写る自分の姿。
仮面ライダースカルそのものであることに少しだけショックを受ける。
「止めようと私なりに頑張ったが……スカルになってしまったか」
スカルメモリを使って変身すれば仮面ライダースカルになるのは当然と言えば当然に見えるが、当然じゃない。
心の方に迷いがあるのならば仮面ライダースカルでなくスカルクリスタルになってしまうはずだ。T2ガイアメモリだからスカルになってしまったなんてありえない。
麟児さん達を変身してとめようとせずに見送ろうとする自分に後ろめたさがあり、止めれない、説得する能力の無い自分が悪いと思っているのだが、それはそれと思っている自分が確かにいる。
心の何処かで最初から麟児さんを止めるなんて無理だと思っており、止めれなかった事を悔やんではいるもののそこまでじゃないと何処か一線引いていて、これから起きる出来事に覚悟を決めている自分が居た。
その覚悟になんの迷いもない。スカルクリスタルでなくスカルになってしまった。
「これ絶対におまけか」
何故か被っている白い中折れハット。
仮面ライダースカルにはこれがないといけないのは分かるのだが、この中折れハットは仮面ライダースカルに変身する鳴海荘吉が変身前から身に付けている物で、スカルメモリとは全く関係ない。
私を転生させた仏は転生特典に色々と隠し要素があるとか言っていたが、この白い中折れハットもその一つだと納得しているとそろそろ奴等がやって来る事に気付く。
「っ、止まれ!」
奴等が、A級3位の風間隊がやって来た。
正確に言えばトリガーを起動した麟児さんは達を追跡するべく派遣されて、反応のある場所に向かおうとしている通り道に私が居たと言うのが正しい。
名前の通り見た目は骸骨を連想させる姿の仮面ライダーのスカルを見て、風間さんは足を止めて歌川と菊地原を止める。
「貴様、何者だ?」
「俺か?俺は、仮面……いや、違うな」
名前を訪ねられたので、仮面ライダーと名乗ろうとしたが止める。
今からやろうとしていることは、仮面ライダーWでの仮面ライダーの定義に反する。仮面ライダーWの世界に置いては仮面ライダーは街を守る正義のヒーロー。
今からやろうとすることは己の私利私欲を満たすためのことで、仮面ライダーと名乗るには相応しくない。
「スカル、見ての通りただの骸骨だ」
「……」
私の事をジッと睨む風間さん。
今日まで戦ってきた近界民とは大きく異なる姿の私を近界民なのか、痛いコスプレをした奴なのかを考える。鳩原達を追跡しようとしたらこんなのが居たのだから、いったいなんなんだと考えるのは自然のことだ。
「菊地原」
「分かりました……!?」
私がなんなのか判断する材料に欠ける風間さんは菊地原の名前を呼ぶ。
菊地原はサイドエフェクト、強化聴覚の持ち主。7~8倍ぐらい耳が良いという凄いんだか凄くないんだか聞くだけではイマイチ分からないサイドエフェクトだが、心臓の音も聞き分ける事が出来るほどの性能を持っている。
オンオフ出来ない物なので普段は髪で耳を隠して聞こえる音を少しでも減らしている菊地原は髪を結んで音が聞こえやすくするのだが、驚いた顔をする。
「どうした?」
「……音が、聞こえないです」
「どういうことだ?アレがなんにせよ、なんらかの音は聞こえるはずじゃ」
「聞こえないんだって、心音も呼吸音も、なにもかも」
この姿の私がどんな存在なのか音で聞き分けようとするも、なにも聞こえない。
今の私が暖かさを感じないのと同じで、これが
「……お前は何者だ?」
コスプレをした痛い奴ではないと分かったものの、いきなり襲ってくるということはしてこない風間さんは21歳児の貫禄を見せつけるのだが、焦りの電磁波を出している。
鳩原達を追い掛けている途中に私と遭遇してしまい、私は未知の存在。頼みの菊地原で調べてみるも、なにも出てこない。私を見逃すのは危険で倒さなければならないが、それに時間を使えば鳩原達を逃してしまう可能性がある。かといって私を無視することも出来ず、増援を呼ぼうにもトリガーを盗んだ奴を追い掛けてたら邪魔が入ったので増援をくださいとは下手に言えない。
『風間さん、そこに誰か居るんですか?』
「……なんの反応もないのか?」
『はい、そこには生体反応やトリガー反応は全くといってありません』
「……」
通信の電波が入ってくるのが見える。
風間さんの言っていることからして、レーダーに写るとか写らない関係の事だ。
『トリガー!』
「今、トリガーと……」
『トトト、トリガー!』
このままぐだぐだとやっていれば実力派エリートや本部長がやって来る。
待つのでなく攻めに行くとT2トリガーメモリを取り出して何度も何度も鳴らすと歌川は反応し、菊地原と風間も警戒心を強める。
「1つ……我が身可愛さに、最善で最高の手段を選ばなかった」
確かな方法はあった。
麟児さんを止めて、千佳をどうにかする方法は確かに存在していた。私が思う最高で最善の手段はあった。だが、我が身可愛さに選ばなかった。
麟児さんが家に帰って直ぐに出水や米屋に通報しておけば、今こんな事をしなかった。それをすれば自分のトリガーがバレて下手をすれば取り上げられて記憶消去される可能性があり、自分も街を守るために戦えと言われる。街を守るために戦うのは良いが、大人のくだらない権力や勢力争いに巻き込まれるのはごめんだと我が身可愛さに選ばなかった。
「2つ……越えてはならない一線を越えさせてしまった」
麟児さんがやろうとしていることだけは無駄なことだとハッキリと言える。
ボーダーと深く関わっておらず、千佳の価値をハッキリと理解していないが多少の犠牲を払っても必要な存在なのは分かっている。
拐われてしまった家族を救う為ならばまだ可能性や希望はあるが、麟児さんだけは無い。仮にアフトクラトルを味方につけることが出来たとしても、他の国家が狙ってくるだけだ。
ボーダーに通報しておけばそれが分かるようになったかもしれないのに、通報しなかったせいで越えてはいけない一線を越えさせた。
「3つ……私利私欲の為だけにお前達を今から完膚なきまでに撃ちのめす」
追っ手である風間隊を倒す。
麟児さんの為でなく、今の自分が実際何処まで戦えるのか知る為に戦う。攻撃手二位で個人総合三位の男が率いる近距離戦ではトップレベルの部隊に余裕で勝つことが出来なければ、これから先なにも出来ない。
修が最初と最後の一歩を踏むための後押しを出来るようになるためには、此処で勝てなければ意味がない。風間隊には悪いが倒させてもらう。
「俺は俺が背負わなければならない自分の罪を数え終えたぞ、ボーダー……さぁ、お前の、お前達の罪を数えろ」
メガネ(弟)「当小説が二乗ほど面白くなるおまけコーナーと言う名の設定とか裏話!!」
メガネ(兄)「遂に下の名前が公開された好物がメロンのメガネニキだ」
メガネ(弟)「いやぁ、長かったね。三雲貴虎、兄さんの本名が出るまで」
メガネ(兄)「長かったが実はまだ、だらだらと引き伸ばしても問題無かったりする。
ぶっちゃけ最初から下の名前で呼ぶのは小南パイセンで米屋と太刀川さんは素で読めない……木虎じゃなくて貴虎なのに、素で読み間違えるからなあの二人は」
メガネ(弟)「貴族の貴を「たか」と読む人は中々にいないからね」
メガネ(兄)「画数も多いから正直に言えば面倒だ。まぁ、キラキラネームじゃないだけましだけど」
メガネ(弟)「貴族の様に
メガネ(兄)「おい、やめろマジで。ハードルが上げられると本当に辛いから、マジでやめてくれ」
メガネ(弟)「ご、ごめん」
メガネ(兄)「とにかく、私の名前が判明した。
それとなんとなくだが2つ目のトリガーがなんなのかうっすらと見えるようになった。1番最初に使用したトリガーで1番最初に使用した私以外には使うことが出来ないトリガー、そしてそれの上位互換に位置するともいうべきものが2つ目のトリガーだ」
メガネ(弟)「分かってても、言わないのがOTONAの対応だよ。今日は特にこれ以上は語ることは無いので、次回予告!」
メガネ(兄)「仮面ライダースカルへと変身した貴虎は風間隊と激突
カメレオンで姿を消し、勝負を決めようとする風間隊を前に余裕を見せる貴虎。全力ではないが、本気で叩きのめすべくT2ガイアメモリの力を今、発揮する!」
メガネ(弟)「次回、ワールドトリガー!「Sの覚悟、背負いし罪」にトリガー、オン!」
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