メガネ(兄)   作:アルピ交通事務局

31 / 143
第31話

 ボーダーの入隊試験を受ける為の申込用紙にサインを書いてもらう為に出された3つ目の条件、兄である貴虎に勝つこと。その条件を出された兄弟は家を出て近所の公園へと足を運んだ。

 

「ふーー……修、その」

 

「メガネを外してよ」

 

 紙風船を膨らませ、浮かない顔をする貴虎。

 今から修と紙風船を柔らかい素材で出来た玩具の剣で割りあって勝負をするのだが、勝負をする前から分かっていた。どう頑張っても勝てないと。

 力や技術、素早さで勝負するのでなく与えられた手札を見て知恵と工夫で戦うタイプの修は地力が低い。対する貴虎は地力が高く考えるタイプで、力によるゴリ押しに弱い。

 運動能力が向上しているトリオン体でなく生身の肉体と変形もなにもしない玩具の剣だけでは知恵や工夫を凝らしても限界が直ぐに来る。メガネを付けたままでも勝てると確信しているのだが、修は伊達メガネを外すことを要求してきた。

 

「僕が自分でしたいと、やりたいと思ったことを、ちゃんと成し遂げるには兄さんに勝たないといけない」

 

「そうか……」

 

 3つ目の条件を言われた当初は戸惑っていたが、これから先は貴虎に頼ってはいけないと、頼るばかりじゃダメだと気持ちを切り替えた修。貴虎はそんな修を見て成長を感じたのだが、少しばかり心残りがあり頭に紙風船を乗せた後、剣を握らずに修に近寄る。

 

「最初はグー!!じゃんけん、ポン!!」

 

「え、あ?」

 

「よし、私の勝ちだ」

 

 なんの前触れもなくじゃんけんをする貴虎に咄嗟に反応してしまった修。

 結果は修のパーが貴虎のチョキに負けており、貴虎の勝ちだったが貴虎は手を休めない。

 

「あっち向いて……ホイ!」

 

 そのままあっち向いてホイに移行し、それにも反応した修はあっち向いてホイにも負けた。

 

「よし、まずは1/12だ」

 

「兄さん、なにを」

 

「はい、じゃんけん、ホイ!!」

 

 あっち向いてホイにも負けたものの、これは母さんから出された条件でもなんでもない。兄さんはなにをしようとしているのか聞こうとするのだが、貴虎は答えない。それどころかまたじゃんけんを始めようとしており、修は渋々承諾。

 

「じゃんけん、ホイ!あっち向いてホイ!」

 

 幼稚園児ですら知っているじゃんけんとあっち向いてホイ。

 特に難しいルールでもなんでもなく、思考を張り巡らせるわけでもなく修は貴虎に付き合うのだが、結果は10戦0勝10敗で、一度のあいこもなかった。

 

「じゃんけん」

 

「兄さん、いい加減にしてよ!!」

 

 11戦目に入ろうとした時、修は怒った。

 兄を越えなければならないと気持ちを引き締め、覚悟を決めていたのに気付けば貴虎に振り回されている。

 

「ああ、そうだな。ちゃんと勝負をしないとな」

 

 誰のせいでちゃんと出来なかったと思ってるんだ。

 真面目な顔になった貴虎に文句を言おうとするのだが、その前に貴虎は口を開いた。

 

「61,917,364,224だ」

 

 11桁の数字を言った。

 

「?」

 

「じゃんけんしてあいこなしで一発で勝利し、そのままあっち向いてホイをして勝つ確率が1/12だ。そしてついさっき私はそれを10連続、単純計算で12を10乗した。それが61,917,364,224だ」

 

「なっ!?」

 

 聞いた時はなにを言っているか分からなかったが、意味を知れば驚き冷や汗を流すしかなかった。

 偶然、たまたま、そんな事で片付ける事は出来ない。貴虎の事をよく知っている修は、狙って10連勝をしたのだと直ぐに気付き、10連勝の一番の要因はサイドエフェクトで強化された(修本人は何故か無駄に目が良いぐらいの認識)動体視力で自分の手や首の動きを完全に見切ってから動く一種の後出しの権利を使ったことにあると理解する。

 

「やるぞ」

 

 メガネを外した貴虎は右手で柔らかい素材の剣を持ち 、左手を腰の裏に当てた。

 

「言っとくが、手を抜いているわけじゃないぞ。

メロンもとい盾を左手に持っているのが私の標準的なスタイルだ。無いからこうしている」

 

 右半身を前に、左半身を後ろにする、ちょっと斜めにそらす風に向きを変える貴虎。

 剣道の様に両手で柔らかい素材の剣を持っている自分とは大違いで本気で倒しに来ると感じ、そうなるとついさっき言った、61,917,364,224は自分の凄さを分かりやすく教えるための事で、自分の萎縮を狙っているんじゃないかと考える。

 

「どうした、掛かってこないのか?」

 

「……兄さんこそ、掛かってこないの?僕の紙風船は背中にあるよ」

 

 サイドエフェクトのお陰で強化された視力で相手の動きを完全に見切ってから行動することが出来る貴虎を前に運動能力が低い修は真正面から挑まない。

 貴虎の売りは目で全てを見切ることと常軌を逸した手先の器用さで、弱点は数による暴力や物凄く早い等のシンプルな強さ。

 全てを見切ることが出来る目があったとしても、出水や二宮の様なトリオン量がトップクラスの奴等によるアステロイドやハウンドの集中砲火の様に見切れても避けるのは不可能な物には弱い。まぁ、そう言うのはそう言うので別の方法で防げば良いと言うのは知っているが。

 

「まぁ、そうなるか」

 

 修は自分の事をよく知っているから、真正面から考えなしに挑まない。

 時間制限はあるが無限に近いコンティニューが出来るとはいえ、無闇矢鱈と挑むものでないと受けの体勢を貫く。

 お前がそのつもりならと我慢比べをしようとするが、我慢比べで修に勝てると思うほど慢心をしていない貴虎は自ら攻めにいく。

 

「そう言えば1つだけ確認をし忘れたな。

風船をこの柔らかい素材の剣で割る以外は基本的になんでもありだな!」

 

「なっ!?」

 

 三度流れる修の冷や汗。

 なんとかして背後に回り込む等といった事は一切せずに真正面から突っ込んできて、ルールの確認をする貴虎に驚いたが、それならばと柔らかい素材で出来た剣を振り下ろすのだが、避けられる。

 

「先ずは体格差を理解しろ。

私と修の間にある身長差は約10センチ、そこまでじゃない様に見えて割とある。振り下ろすはともかく、突いたり横に凪ぎ払うには、どうあがいても上向きになる」

 

 簡単で雑な説明をしながら、更に間合いを詰めた貴虎は修の二の腕を掴んで引っ張り、バランスを崩させた隙を突いて、自分よりちょっと後ろにいる修の背中にある紙風船に一撃を入れて割る。

 

「ボーダーでは剣を使って戦闘したりするが、ただ単に素手よりも刃物や重火器なんかが強いだけでこう言うことをしてはいけないや、する必要が無いなんてことはないぞ」

 

「剣を使う以外にも、攻める方法……」

 

 壊すのは剣でないとダメだが、それ以外はなにをしても問題ない。

 視野が狭まりかけていた修は敗北を糧にし、剣を使って攻める以外の攻め方を考え始め、1つ良い案を浮かべたので紙風船を背中に付けてもう一度挑む。

 

「紙風船を割って良いのは、玩具の剣だけならそれを使えなくすれば……」

 

 今度は自分から貴虎に突っ込んでいく修。

 狙いは貴虎の頭にある紙風船ではなく、右手に持っている玩具の剣であり自分の持っている玩具の剣で叩きに行った。

 

「本物じゃなくて、柔らかい素材で出来て━━━」

 

「とった!」

 

 本物の剣ならば唾競り合いになるが柔らかい素材で出来ているから、直ぐにヘニョっと曲がる。

 貴虎の持っている剣も修の剣もヘニョっと曲がったのだが修はそれを狙っており、両手で握っていた柔らかい素材の剣を左手だけで持ち、空いた右手で貴虎の右手の手首を掴んだ。

 

「良い考えだが、地力が違いすぎるぞ!」

 

「うわぁ!?」

 

 修の背中に紙風船はある。それを割るにはどうやっても背後を突かなければならない。

 貴虎は両手でなく片手で持っているので右手を抑えて、動きを少し封じている数秒の隙を突こうとしたのだが貴虎は掴まれた右手を引っ張りあげた。

 

「さっきのよりは悪くはないが、こう言うのは失敗する可能性が高い。次だ」

 

 引っ張られ、バランスを崩した修の背中の風船を割った。

 

「まだやるな?」

 

「まだまだやるよ!」

 

「そうか。足払いとか足に紙風船をつけるとか自分で紙風船を抱え込むとか、やれることは色々とあるぞ」

 

「!」

 

 まだまだ自分でもやれることを教えられた。

 足払いや腕に風船を抱え込む作戦を考えていた修は貴虎にはそれらの対処法が既にあることが分かる。

 

「タイム、兄さんタイム」

 

 このまま挑んでも無駄だと修はタイムを取った。貴虎は10分間だけならと許可する。

 

「どうすれば……」

 

 相手の動きを完全に見切る目、見切った動きを回避する身体能力、180cmを越える日本人基準では恵まれた体格、零式サーブや手塚ゾーンをも可能とする化物染みた手先の器用さ、敵になってはじめて分かる兄の恐ろしさ。

 攻略しようと策を巡らせようにも、貴虎は自分が負ける可能性すらも想定しており、どうすればその未来を回避する事が出来るのかも考えている。故に修が紙風船を抱え込んで、自らの肉体を盾にして突撃するという数少ない貴虎に勝てた作戦も対処法が生まれている。

 

「よぉ、そこのメガネくん」

 

 どうすれば貴虎に勝てるかと悩み、答えが出ないその時、蓮乃辺市に用事で出掛けていた出水が通りかかった。

 

「僕、ですか?」

 

「そうそう、君だよ君。おれは出水、出水公平。あそこの……あれ?今日はメガネ付けてねえな」

 

「兄さんの知り合いですか?」

 

「うっそだろ、メガネくん、アイツの弟なの!?」

 

 貴虎も修も周りをみていないのと気にしていないのだが、中学生と高校生(老け顔)が紙風船を体に付けて柔らかい素材で出来た剣でシバきあってるとなれば、公園もざわつき何事かと野次馬根性を見せてやって来た出水。貴虎と戦っている修が、貴虎の弟だと分かると驚いて何度も遠くにいる貴虎と見比べる。

 

「似てな……いや、似てるのか?」

 

「似てるようで似てない、似てないようで似てる絶妙な距離感だとよく言われます」

 

「あ~確かにそうだな。ところで、さっきからなにやってんだ?」

 

 兄弟だけど見た目がの話はさておいて、なにをやっているのか聞く出水。

 修はボーダーの入隊試験を受ける為に等を濁し、母親からあるサインを貰うための条件として兄と戦っていることを教える。修が若干ボーダーの入隊試験関連を濁しているのでなんのサインなのかは分からないが、大変だなと貴虎を見る。

 

「……よし、メガネくんに力を貸してやるぜ」

 

「え!?」

 

 突然の出水の提案に驚く修。

 

「な~に、ちょっとアイツに恨みがあってな」

 

「恨み?」

 

「あの野郎、新年早々にあったイベントにおれを誘いやがらなかった。

槍バカとか宇佐美とか誘って、マジで勝てるチーム編成にしたかったみたいでな……」

 

 何時ぞやの事を思い出す出水。

 誘われなかった理由が使い物にならないからというシンプルすぎる理由で割と心に傷をつけており、此処等で貴虎に勝ってやると企む。

 

「ま、待ってください!

協力してくれるのは嬉しいんですが、一対一の勝負で出水さんの力を借りるわけには」

 

「おれが直接手をくだすのはズルなぐらいは分かってるよ。

おれがメガネくんに貸すのは(ここ)じゃなくて知恵(ここ)だよ。」

 

 人差し指でこめかみをとんとんと叩く出水。

 修の代わりに戦うことは出来なくとも、修の代わりに考えることは出来、ボーダーで培ってきた経験を生かそうとする。

 

「修、10分たった……それとお前、この辺じゃないのに何故いる?」

 

「用事で蓮乃辺市に行ってたんだよ。それよりも、面白そうな事をしてるじゃねえか」

 

「……手は出すなよ」

 

「ああ、手は出さねえよ……つーことで、許可降りたからいってこい!」

 

「え、降りたんですか!?」

 

「普段のアイツなら口出しもするなって言うだろ?」

 

 知恵を授ける前に時間が切れたものの、貴虎から手は出してはいけないが知恵を授けていいと許可は出た。

 一先ずは、なにかやってこいと出水に背中を押された修は先程貴虎に言われた足払いや足に紙風船を付けたり手で抱え込んだりと色々と試してはみるものの、全て瞬く間に対処されてしまう。

 

「作戦タイム!」

 

「いや、お前が言うのか?」

 

「これ以上やってもメガネくんをいじめるだけだろうが!つーことで、ちょっと来てくれ!」

 

「はい」

 

 戦うのを見て色々と考えてこの手を使えば行けるんじゃないかと見ていた。自分の考えた策と同じことを修がして、勝ったと思えば瞬時に対応していく貴虎を見て、その考えは大きく変わった。

 

「メガネくん、どうだ?」

 

「色々と、やってみましたが……それが来るのを分かってて、普通に対処してきました。

多分ですけど、どうすれば自分が負けるかを兄さんは考えていて、その際に負けの原因を理解してそうならないようにするにはどうすれば良いのかと答えを出してるんだと思います」

 

「嘘だろ、おい」

 

 真逆のどうすれば負けてしまうのか考えている貴虎に出水は驚く。

 ○○をしてくるもしくは得意な相手にどうすれば相手に勝てるのか考えるのが普通なのに、真逆の敗ける方法を考えている。一度でも負ければ終わりの貴虎だから負けない方法を考えているのだが、負けの原因を理解してそうならないようにするのは基本的に負けてからするもので、負ける前にするもんじゃない。

 

「自分の新しい手がちょっと成長した相手にどうなるのか、相手は自分に対してどう対策してきて更にその対策の対策をしてきていると思って、更にその対策の対策の対策をするぐらいのことを」

 

「あいつ、どんだけ慎重なんだよ!?見た感じ、身体能力のゴリ押しで勝てるだろ!?」

 

 一度でも負ければ貴虎はその時点で終わりにしても、慎重過ぎる事に叫ぶしかない出水。

 自分の頭でなんとなくの理論を浮かべてからの、体に叩き込んだりする理論と感覚が4:6ぐらいの綺麗な割合で分けられているタイプで、慎重さあっての強さだと修に言われて一先ずは興奮を収める。

 

「とりあえず、真正面からじゃ絶対に勝てないのは確かだな。あいつ、体育の成績学年1位だし」

 

「かといって、小手先の技術も効果は0」

 

「そうなると、フィールドを生かすぐらいだな」

 

「フィールドを生かす?」

 

 単純な実力差とそれを埋める技術は貴虎の圧勝。

 出水は残された手段は1つだけだとフィールドを、公園を見る。貴虎と修が戦っていた場所は公園のなにもない砂の上で、公園には砂場、ブランコ、滑り台、水道、よく分からないパンダやライオンの像、シーソーと色々な遊具がある。

 

「滑り台に登って高低差を生かす、砂場の様に柔らかく凸凹した場所で歩きにくくする、水道の水を利用して目眩まし、ブランコを漕いで勢いを付けて飛んで力押し、公園ならそう言うことが出来る。幸い、今は人が居ないから色々と出来る。あいつの足元を見てみろ」

 

「足元?」

 

 貴虎の足元には綺麗な円線が浮かび上がっていた。

 

「メガネくんが攻める時は激しく動かずに左足を軸にして右足が動かせる範囲でしか動いていない。

無駄な動きを、特に移動したりして避けたりせずに最小限の回避をしているのを見るところ、フィールドを生かした戦法を恐れてる可能性がある」

 

「それがなくても勝てるので、しないだけじゃ……」

 

「その可能性も大きいが、やらないよりはましだろ。とにかく、やり直しの機会は何度でもあるんだから、やってみな」

 

「はい」

 

 時間こそ限られてはいるものの、何度でも挑戦することが出来る。

 出水の言うフィールドを生かす戦法を試してみようと風船を背中につけて貴虎に挑む。

 

「出水から色々と教わったみたいだが、アイツは自分で考えることも出来るのであって自分で考えて指示する側じゃないぞ!」

 

「来たぞ、メガネくん!!」

 

 攻めてきた貴虎に対して、対処するのでなく完全に身を引いた修。

 引いた先にあるのは足場の悪い砂場で、修が入ると貴虎は眉をピクッと動かした。

 

「……」

 

「……悪くはないが、そこからどうするつもりだ?」

 

「え?」

 

 貴虎も足場の悪い砂場に入った。

 足場が悪く凸凹している場所で歩きづらいのだが、貴虎は余り気にした素振りを見せない。

 

「足場の悪い場所で戦うなら、足場の悪さを十二分に理解する。

自分はその足場に馴れているので自由自在に動け、尚且つ足場の良さそうなところに罠を仕掛けたりするのが定石……だと思うぞ」

 

 足場の不安定な場所は付け焼き刃でどうこうなるものじゃない。

 走らず歩いて近づこうとする貴虎に対応しようとするが、修も砂場に馴れておらず、力強く地面を踏めば崩れる為に踏ん張りが効かず、あっさりと背後を取られてしまい風船を破壊される。

 

「一旦、出るぞ」

 

「うん」

 

「悪い、メガネくん、おれが余計な事を言ったせいで時間を無駄にさせて」

 

 砂場を出て体に付着した砂を落としていると出水が近付いてきて、修が気付かない腰の辺りに付着した砂を落とし、フィールドを生かす戦法はそのフィールドの特徴を理解し、自分が対応できるかどうかが大前提であり、それらの過程を無視させる要因を作り上げたのは自分だと謝る。

 

「いえ、僕が気付かなかっただけで出水さんはなにも悪くありません。

それよりも、フィールドを利用した戦いには効果がありましたからそれを主体に戦ってみようかと」

 

 修は出水に非はないと許し、得たものがあったと喜びを見せる。

 フィールドを生かす戦法をちゃんと理解していない自分に呆れてはいたものの、砂場に入った際にピクリと眉を動かしており、上手く動くことが出来ていなかった。

 

「確かに効果があったけど、砂場じゃ勝てないって証明したぞ?」

 

 馴れない不安定な足場では戦えない。貴虎に負けたことにより、これから先、修は砂場で貴虎に勝つことは出来ない。

 どうするべきかと服のポケットにまで入っている砂を捨て、他になにか無いのかを考える。

 

「滑り台……上るのは良いけど、待たれたらダメだ。水道……で、目眩ましは効かなそう。ブランコの勢いは漕ぐまでに時間が掛かるし……」

 

 色々と手を考えるものの、一人で出来そうなフィールドを生かした戦法は無い。

 複数人で戦う場合だと使えそうなものはあるが、一対一の勝負。誰もサポートをしてくれない。他の遊具を見て、色々と考えるもどれもこれも上手くいかず、最後にジャングルジムを見るのだが、170間近の修には生かせない物で、フィールドで生かせそうな物はなかった。

 

「一か八かで、水道の水で目眩ましを……」

 

「メガネくん、集中してるところ悪いけど、靴下にも砂がついてるから靴の方にも砂が入ってる。靴を脱いだ方が」

 

「あ、本当だ」

 

 気を利かした出水は自分だけじゃ落とせない砂を指摘すると、修は靴を脱いで中の砂を捨てる。

 思ったよりも砂が入っているなと靴を逆さまにしながら思っていると、靴の先端部分に砂がそこそこ入っている事に気付き、砂を落とそうと靴を傾けて何度も何度も振った。

 

「あ」

 

 奥の方の砂粒が中々に落ちないと強く振ると靴を飛ばしてしまった。

 

「メガネくん、焦りすぎだって。

ゴールデンウィークが終わるまでにあいつから一本取れば良いんだろ?まだ、3日」

 

「これだ……」

 

「ん?」

 

「これしか、無い!」

 

「ちょっ、メガネくん!」

 

 飛んでいった靴を見て、策が浮かんだ修。

 直ぐに靴を履いて風船を膨らませ、足に……靴につけた。

 

「ルール違反……いや、どっちだ?」

 

「靴は足に履く物だからセーフだと思うよ」

 

「そうか」

 

 修は体の何処でもくっつけて良いルール。

 しかし靴の上は体の一部なのだろうかとなるのだが、足の甲だと思えば良いと修が言うので貴虎は首を縦に振った。

 

「言っておくが、蹴りを入れたらアウトだからな。

あくまでも、この柔らかい玩具の剣で割らないと勝ったことにはならない」

 

「うん」

 

「じゃあ、いくぞ」

 

 何度目か分からない試合がはじまった。

 

「いきなりそれか!」

 

 はじまると同時に修は貴虎に背を向けて走り出す。

 ヒット&アウェイで上手い具合に自分のフィールドに運び込むのでなく、最初からそこに向かって走り出す。多対多の試合ならば、他の人に修を任せるのだが、一対一での試合ならばそれが出来ない。

 背を向けた修を追い掛けるのだが、修はジャングルジムについており登りはじめている。

 

「6段5マス……サイズからして、中は無理か」

 

 修が登ったのを見て、足を止める貴虎。

 公園のジャングルジムの形や大きさを見て、次に出る手を考えるのだがジャングルジムの中には入れない事もないが、素早く動けないと中に入ってから登ることをせずに外側から登る。

 

「メガネくん、あのままじゃ負ける。どうすんだ?」

 

 外からシュールな光景を見ている出水は次の策が気になる。

 ジャングルジムは6段5マスなのだが真ん中の部分のみが凸っており、修はそこにいる。下から一歩ずつ着実に近付いてくる貴虎の頭上は取っているが、修の紙風船は足にある。ジャングルジムの鉄パイプに足があり、それに手を伸ばそうとする貴虎の方が攻撃しやすい。

 

「来た……」

 

 凸っていない五段目のジャングルジムに付くと匍匐前進の様に体を倒して近付く貴虎。

 まだ、まだギリギリ剣は届かない。まだ届かない、後少し、もう少し━━

 

「今だっ!」

 

「!」

 

「靴を捨てた!?」

 

 チャンスがやって来た。

 修は逃げることをせずに、紙風船がついている右の靴を脱いで真下に落としていった。

 

「これで、どうだ!!」

 

 攻撃しなければならない場所を無くしほんの一瞬だけ動揺させた、靴が飛んでいくのを、飛んでいった靴を出水が拾ってくれるのを見て思い付いた作戦。これで通用しなければ万策は尽きたと修は貴虎の紙風船を突きにいき

 

「よっしゃあ!!」

 

 ジャングルジムの狭さと身動きの取れなさを生かし、割られてはいけない紙風船を捨てる大胆な行動をとった修はやっとの思いで紙風船を割ることが出来た。

 出水は修が貴虎に勝ったことを自分の事の様に喜んでガッツポーズを取った。

 

「……」

 

 頭につけている紙風船を手に取る貴虎。

 ルール通り、紙風船を柔らかい素材で出来ている剣で壊すことは成功している……が、問題がある。

 

「修、体の一部に付けて戦うのがルールだ」

 

 靴も体の一部と認めたから、今更ああだこうだ言わない。

 偶然に靴が足から抜けたのならば、その偶然を引き起こした修の勝ちだと修を褒めるのだが修はワザと靴を捨てた。それはルール上、ありなのか無しなのか?細かなルールは決まっていないからセーフと言えばセーフで、そんなもの考えなくても分かるだろうと言えばアウトになる。

 

「体の一部に付けて戦うのがルール……外しちゃいけないルールは無いよ」

 

「……此処は第3者目線から聞いてみるか。出水、お前の目から見て今のやり方は○か?それとも×か?」

 

 言い合いになっても平行線を辿るだけであり、母を挟むのも面倒なので出水に聞く。

 出水は自分の答え次第で修が勝利すると修有利に言おうとするのだが、曲がりなりにも異世界からやって来る侵略者達をぶっ倒す仕事をしている。下手な事は言えないと、今の戦いを冷静に分析する。

 

「正直に言えば、○よりの×だな」

 

「!」

 

「その理由は?」

 

「肉を切らせて骨を断つ。

今のはそんな感じの作戦で、時間制限はあるけど時間内ならやり直しが無限にあるならやって良い作戦だ。

ボーダーのランク戦……隊員同士の模擬戦でも腕一本くれてやる代わりにぶっ倒す奴を見たことあるし、ありっちゃありだな。けど、靴を捨てるのは一回しか出来ない戦法で次は出来なさそうだし、ルール上アウトに近いから×だ」

 

 腕の一本で自分よりも格上の大物を喰えれば充分すぎる。

 何度でもやり直しの権利が手に入るボーダーの個人ランク戦なら、足一本を失った修はそこまでの問題はない。対して貴虎は頭がやられており、確実に敗北扱いになる。

 一度しか使えない、次にやれば貴虎は確実に対処するのを見越した上での×を出した。

 

「これがボーダーの個人ランク戦なら、ありっちゃあり。

部隊でのランク戦でも同等の相手なら勝たないと失格だけど、自分よりも格上の相手なら相討ちでも充分すぎるぐらい……おれ目線だとこんな感じだ」

 

「そうか……」

 

 目の前にいる高スペックな男から取れただけでも充分で出水基準では○をやりたいが、×に近いことをしている。

 ルールの裏をかいたや細かいルールの設定をしていないと言い争うのは此処では違うと厳しめの判定をくだすと貴虎は納得し、修はダメだったかと俯いた。

 

「修」

 

 ×だと分かれば、次をやるしかないと言わんばかりに紙風船を膨らませて渡してくる貴虎。

 フィールドを生かしてルール違反ギリギリの奇策を取ったがダメだったのがショックだったのか、修は紙風船を手に持ったままで何処にも付けようとしなかった。

 

「これで、お前の勝ちだ」

 

「なっ!?」

 

 修に風船を渡したあと、頭に紙風船をつけた貴虎は修の手を取り柔らかい素材で出来た剣で紙風船を割った。

 

「な、なにを」

 

「これでお前が勝ったことになる」

 

「……兄さん、そういったのはいらないよ!!」

 

 打つ手なしの姿を見て、哀れんだのか破壊したと思い怒る修。

 そんな修を見て貴虎は微笑んで、肩に手を置いた。

 

「この勝負で私は負けたことになっているが、本当ならさっきの勝負で負けだ」

 

「でも」

 

「修……ボーダー基準では勝ちになる

 

 勝利を認めない修の耳元で貴虎が語りかける。

 

「!」

 

 ボーダーの試験を受ける為に母からサインを貰うために勝負していた貴虎と修。

 この勝負基準ではさっきの勝負は貴虎が勝ったのだが、ボーダー基準では修が勝ったことになる。ボーダーに入ろうとする修が、ボーダー基準で勝つことが出来たことを貴虎は素直に喜んでいた。

 

「この勝負ではお前の反則負けだ。それだけは覆すことの出来ない事実だ。

そして、ボーダー基準では修が勝っていた。これも覆すことの出来ない事実だ……なんの為に戦っていたのかを忘れるな」

 

 ボーダーの入隊試験を受けるための戦い。それをしていて、ボーダー基準で修は貴虎に勝つことが出来た。

 だからこそ、貴虎は負けを認めて修が試験を受ける事が出来るようにした。

 

「私は紙風船のゴミが無いのかを確認してから帰るから、先に帰るんだ」

 

「うん、わかった……それと、ありがとう」

 

「私の負けだから、礼は言うな」

 

「それでもだよ」

 

 修は勝利した事を報告するために、急いで家へと帰っていった。

 貴虎は修が曲がり角を完全に曲がるのを見てから、出水の方を振り向いた。

 

「お前、なんでこんな所にいるんだ?後、もう少しぐらい歩いたら蓮乃辺市辺りだぞ」

 

「用事だよ、用事」

 

 突如として現れた出水。

 修が発想の転換のきっかけを掴むことが出来たことは良いのだが、決して貴虎が呼んだわけでもなんでもない。本当に偶然やって来ただけである。

 

「……此処で見たことは誰にも言うなよ。特に修の事は何一つだ」

 

「……メガネくん、ボーダーの試験を受けるのか?」

 

 聞いた当初は言葉を濁されなにをするために頑張っているのか分からなかったものの、ついさっきの会話を聞いて出水は修がボーダーの入隊試験を受けようとしていると気付く。

 貴虎は首を縦に振って、人差し指を口に近付けて黙っていろとジェスチャーする。

 

「お前は入らないんだな」

 

「一年ぐらい前に言っただろう、ボーダーは嫌いだと」

 

「嫌い、なのに弟を行かせるんだな」

 

「そうだ……結局、答えは出たのか?」

 

 一年前の昭和の日、ボーダーが嫌いな理由を解消する第4の手段を見つけろと貴虎は言った。

 ボーダー関係の話を余りせず、貴虎自身もそんなにああだこうだ言わずに友人として接していたので、答えについて話さなかったが何だかんだで一年経過しているのを思い出した。

 

「……出ねえよ。

あれから1年、物凄い迄にやべえ近界民が来たわけでも、誰かが死んだわけでも、太刀川さんが真面目にレポートしてるわけでもない。一昨年と大して変わらねえ日々が続いている。刺激が欲しいっちゃ欲しいけど、何だかんだで平和が一番だ」

 

「そうか……」

 

「にしても、お前の弟、真面目がメガネ掛けてるのかってぐらいメガネだったな」

 

「色々と言葉がおかしいだろう。お前には兄弟は居ないのか?」

 

「うちは姉だけだよ」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「なんでもない、気にするな」

 

 第4の答えは直ぐ側にある……かもしれない。

 貴虎は出水は修がボーダーに受かったとしても、C級の時はなにもするなと釘を刺してから帰路についた。




実力派エリート「当小説が二乗ほど面白くなるおまけコーナーと言う名の設定とか裏話!!」

メガネ(兄)「本日は、弟の修についての紹介だ」

実力派エリート「お、メガネくんについてか。メガネくんは色々と語ること多いぞ~」

メガネ(兄)「そんなことはお前よりも知っている。
三雲修、15歳。市立三門第三中学校に通う何処にでもいる真面メガネ。ワールドトリガーの主人公の一人で持たざるメガネ。
学業成績は良い方で、本人は絵に描いたような御人好しで困っている人を見過ごさない……のだが、運動能力がゴミ過ぎているので高確率で怪我する」

実力派エリート「ハッキリと言うんだな」

メガネ(兄)「ハッキリと言わないと、誰も止めない。アイツは何処かぶっ壊れているから、釘を徹底的に差さないと……」

実力派エリート「まぁ、ボーダーの試験落ちたから上層部に直談判しようとペンチ持ってくる子だからね」

メガネ(兄)「落ちた理由も能力低いからで……裏で不正に入隊させたあんたは修を放置」

実力派エリート「や、オレもなにかと忙しいんだ。
メガネくんが色々とスゴいのは分かっていたし、メガネくんなら諦めないと思って……」

メガネ(兄)「ッチ」

実力派エリート「め、メガネくんのステータスはこんな感じだ」

三雲修

ポジション シューター

トリオン 2
攻撃 3
防御・支援 4
機動 4
技術 5
射程 4
指揮 6
特殊戦術 4

TOTAL 32


MAIN TRIGGER

レイガスト
スラスター
FREE TRIGGER
スパイダー

SUB TRIGGER

アステロイド
FREE TRIGGER
シールド
バックワーム

実力派エリート「ボーダーでも数少ないレイガスト使いで、攻撃手と射手両方で戦える……戦えるんだけど」

メガネ(兄)「本人のスペックが引くほど低いせいで、弱くて戦闘に向いていない。
向上思考はあるから、一歩ずつ成長しているが直ぐに上限に辿り着く可能性が高い……才能無いな」

実力派エリート「幾らなんでも、言い過ぎじゃないか?」

メガネ(兄)「ボーダー従来のやり方の場合で言っている。
修はあんたが不正に入隊させた、本当は入隊基準を満たしていないボーダー隊員だ。トリオンが絶望的で、使っているのも人気の無いレイガストとトリオンがものを言うアステロイドを使っているのならばハッキリを言うが、考え様によってはこれはこれでありかもしれない」

実力派エリート「どういうことだ?」

メガネ(兄)「分かりやすく言えば、黒子のバスケで言う黒子だ。
一般的なバスケットボールプレイヤーとしての能力値は底を見せてはいるものの、パス回しには特化している。普通の選手と比べても異質な選手で、バスケの教科書に書いてある事を真似て成長したとかでなく、一から自分のスタイルを作り上げた」

実力派エリート「つまり、メガネくんはトリオン量が低い子でも戦える方法を作るかもってことか?」

メガネ(兄)「充分に有り得る……まぁ、その辺は修の頑張り次第だ」

実力派エリート「手を貸すつもりは無いんだな」

メガネ(兄)「修が出来れば、大抵の人は出来るからそっちの方がいい。
それよりも修よりも千佳だ。あのトリオン量で人が撃てないならば、もう自爆するしか道はない!」

実力派エリート「メロンくんの自爆への愛がよく分かんないし、今日は千佳ちゃんじゃなくてメガネくんだからダメだって。てか、唯我自爆スイッチの千佳ちゃんバージョンなんてマップ兵器どころの騒ぎじゃないだろう。天羽初登場の更地の数倍の更地は出来るから絶対に使えない!」

メガネ(兄)「なにを言い出すんだ、この尻派は。
唯我自爆スイッチは唯我がクソゴミ過ぎるのと太刀川さんと出水が強すぎるのが前提でないと使えない。
鉛弾狙撃が出来る千佳ちゃんはそれだけで有用で、更に言えばB級だからトリガーを作れない。威力に極振りしたメテオラを爆破させるんだ。安心しろ、千佳の固定シールドなら防げる」

実力派エリート「それ、絶対に教えるなよ……」

メガネ(兄)「……まぁ、うん。
修はボーダーでもトップレベルの雑魚だが、本人は割とその辺を理解している。弱いからこそ強くなろうと同時に弱いからこそ優先して出来ることがあると、意外にも妨害とかやらしい戦法が得意だ」

実力派エリート「けど、そういう戦法が出来るのは色々と片寄った編成の玉駒第二だから出来るもので他は出来ない」

メガネ(兄)「千佳が圧倒的な迄の要因だな。
修は個としては弱いものの、優しい真面目を掛けたメガネで優れた人格者で割とA級の人達に気に入られている。いや、本当に……人間として優れすぎてて、時折兄として問題ないかと胃が痛くなる」

実力派エリート「そこは、誇りとか胸を晴れるんじゃないんだ」

メガネ(兄)「いや、修の汚点になってないか心配で、あ~思い出すだけでも胃が痛い……不正はあったものの、ボーダーに入ることが出来た修を見守る貴虎。極々ありふれた日常を過ごし、夏休みの準備に入る。次回、ワールドトリガー【ただし別役、テメーはダメだ】に、トリガー、オン!」

実力派エリート「え、なにそのタイトル!?」

ギャグ短編(時系列は気にしちゃいけない)

  • てれびくん、ハイパーバトルDVD
  • 予算振り分け大運動会
  • 切り抜けろ、学期末テストと特別課題
  • 劇団ボーダー
  • 特に意味のなかった性転換
  • 黄金の果実争奪杯
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。