メガネ(兄)   作:アルピ交通事務局

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第35話

「眠い……昨日の疲れが取れてない」

 

 筒型の細長い鞄を肩に掛けて駅に向かって歩く。

 昨日、米屋達とリアルプロゴルファー猿選手権をしたせいか物凄く眠い。

 

「10時に時間設定してて正解だったな」

 

 今日から二泊三日の海への旅行。

 一泊二日ではなく二泊三日なので遅めの集合にしてもなに一つ問題無く、この眠気だと下手をすれば遅刻していたかもしれない。

 

「待ち合わせ場所はこの辺……小佐野?」

 

「なぁ、今から一緒に遊ばね?」

 

「結構でーす」

 

 待ち合わせ場所に辿り着き、他に誰か居ないのか探すと柱にもたれかかる小佐野を見つけるのだがナンパされていた。

 しかし馴れているのかナンパをしてくる男と目を合わせる事なく携帯を触っており、適当にあしらっている。

 

「すまない、待たせたな」

 

 あしらわれたが諦めないナンパ師。

 若干だが苛立っており、なにかする前にと小佐野の前に出る。

 

「あ~……もう、遅いよ。私の方が先についたじゃんか」

 

 私がなにをしに来たのか分かった小佐野は私の側に寄る。

 既に居たのかとナンパをしていた男は舌打ちをし、小佐野をじっくりと観察してそんな男よりもオレの方がと言って来ようとするのでメガネを外し、イケメンビームを浴びせて退散させる。

 

「大丈夫か?私が来るまで似たような事にはならなかったか?」

 

「……本当さ、そういうのダメだと思うよ」

 

 もしかすると今のが第2のナンパかと心配すると重心をずらして肩に持たれかかる小佐野。

 

「こう、忘れかけた頃にそういう対応をされると本当にキツい」

 

「すまない」

 

 何気ない優しさが、小佐野を傷付ける。

 距離感は大事なんだと思い知り、距離を取ろうと一歩引いたのだが小佐野は一歩詰め寄る。

 

「まだ30分前だから一緒に居て」

 

 男避けはまだまだ必要か。

 メガネを外したらイケメン度が下がるとメガネをつけることを許されず、10分ほどこの体勢をキープしていると綾辻がやって来る。

 

「まだ20分前なのに、随分と早いな」

 

「それを言ったら三雲くんも早いよ。何時から小佐野と、そういうのに?」

 

「10分ぐらい前にこうなった。

小佐野を放置してるとナンパされる恐れがあるから……流石、元モデル」

 

「そうなんだ」

 

 チラリと周りを見ると視線を向けている男達が居る。

 物凄くモテる側の住人である綾辻は納得してホッとすると小佐野が持たれ掛かっていない左肩に持たれかかる。

 

「綾辻」

 

「私にも視線が向いてるの……ダメ、かな?」

 

「堤さんが来たからダメだ。ほら、離れろ」

 

「お~い、早いね。まだ15分以上も前だよ!」

 

 甘酸っぱいラブコメの様な雰囲気を醸し出していたが、そういう展開に入ることはなく、引率者の堤さんが手を振ってやって来る。

 

「……つつみん、はや~い」

 

「ええっ!ちょっと寝坊したかもって焦って来たんだけど」

 

「大丈夫ですよ。15分前には来れてますし……なんでしたら、後10分ぐらい遅刻しても問題ありません」

 

 褒めてるんだか貶しているんだかよく分からない事をいう小佐野と綾辻。

 堤さんが来たので私は肩を貸すことをやめてコンビニでメロンオレを買い、戻ってくると時枝と京介がいた。

 

「あ、おはようございます」

 

「お早いんですね」

 

「まぁ、楽しみにしていたからな……中学の時は勉強でノイローゼになりかけてたし、こう言う旅行みたいなのはできなくてな」

 

「すみません、重すぎます」

 

 ブラックジョークだったので京介に引かれてしまった。

 

「私達が最後、かしら?」

 

「いや……佐鳥、米屋、出水、国近先輩がまだだ」

 

 ブラックジョークに引かれて2分もしない内に、那須と熊谷と日浦がやって来た。

 オペ子は男性恐怖症で、男女比が程良いこの旅行を全力で断り、最終的には別の日にガールズのみで遊びに行く事になっている。

 

「遅刻してきたと言われてもおかしくないメンツね」

 

「そう言えば、昨日出水先輩達とゴルフに行ってたそうですけど、どうでした?」

 

「あ~……最終的には私の優勝で終わったんだが、三輪が趣旨を間違えてきた」

 

 日浦に昨日の事を聞かれたので携帯を取り出して、昨日のリアルプロゴルファー猿選手権の終わりにとった集合写真を見せる。

 私と出水と米屋は木製のゴルフクラブを持っているのだが、三輪だけ普通のゴルフクラブを持っている。

 

「自分達で作ったゴルフクラブでゴルフするんだが、三輪が趣旨を間違えてプロゴルファー猿に出てくるホールを回るものだと思ってて……凄かったぞ、三輪のやつが旗包みを使って来たんだ。特訓したの無駄にならなくてよかったと言ってた」

 

 前半、木製のゴルフクラブを使いこなせずに普通のゴルフクラブの三輪に圧倒されまくっていたのを思い出す。

 最終的には逆転できたが、旗包みを使ってきた瞬間に私達が作ってきたゴルフクラブの価値が一瞬にして消え去った感じがして背筋が凍った。

 

「ゴルフをするのははじめてだったが、割と楽しかったし思いの外体力を使った。そして予想以上に金が掛かる事がわかった」

 

「なんでそこに行き着くの?」

 

「帰り際にゴルフレッスンの貼り紙をみて普通に万越えてたのが一番記憶に焼き付いてて、黒塗りベンツが駐車場にあった……」

 

 野球とかサッカーとかバスケみたいに簡単に始めることが出来ないスポーツ、それがゴルフだ。

 

「す、すみませーーーん!!」

 

 具体的にどういう感じの試合内容だったか説明をしていると9:59分となり佐鳥と国近先輩が走ってきた。

 

「ギリギリ10時前ですから、ああだこうだ言いませんけども……どうしたんですか?」

 

「昨日、防衛任務の後、全然眠れなくてゲームをしてたら気付いたら寝落ちしてて……本当に、ごめんね!」

 

「佐鳥は?」

 

「携帯の充電すんの忘れて、アラームが鳴らなかったんす!」

 

「ふ~……あの二人はどうだろう」

 

 説明を聞いてる内に10時になった。

 まだ二人が来ていないので携帯を取り出して電話を取り出す。

 

「あ、私が出水くんに電話するね」

 

「お願いします」

 

 米屋のやつ、なにやっているんだ?

 

「もしも」

 

『やらかしたぁあああああ!!』

 

 米屋に電話を掛けると一言目が叫び声だった。

 

「お前、なにをしている?」

 

『わりぃ、普通に寝てた!!』

 

「お前な……わくわくし過ぎたのか?」

 

『いや、普通に寝れた。ゴルフ疲れもバッチリとれてるし、なんでだ?』

 

「私に聞くな。とにかく、早く来い。準備は出来てるだろ?」

 

『おぅ、寝る前に海パンを着たからバッチリだ!』

 

 小学生か!

 出水も同じ感じの理由で寝坊をしており、国近先輩は苦笑いをして早く来てねと電話を切っていた。

 

「……遅刻したら荷物持ちの罰ゲームだと言ったのに」

 

 20分後、出水と米屋は鞄を手にやって来た。

 親に車で送って貰った様で保護者の方にすみませんと謝られていたのはなんとも言えず、事前に言っておいた遅刻した場合の罰として日浦と那須と小佐野と綾辻の荷物を持たせた。国近先輩はやらかしかけたので自分持ちで熊谷は自分で持つと断った。

 

「今回は新幹線じゃないからよかったが、修学旅行では遅刻しないでくれ」

 

「いや、本当に悪かったって。ゴルフでビリで、焼肉食ったら財布の諭吉が数人一気に消えたのが本当に痛くてさ」

 

「出水先輩、ゴルフは夜に話しましょうよ。今から海なんですから、そっちに意識を向けないと」

 

 どちらにせよ遅刻すんなと注意を少しだけすると、話題を変えてきた時枝。

 海の話になると嬉しそうにするのだが、出水はなにかを思い出す。

 

「そういや海に行くってだけで、なにするか聞いてなかったな。堤さん、なにするんだ?」

 

「ええっと……三雲くん」

 

「宿に着いたら昼食で、その後の時間は割と好き勝手にして良い。

普通に海で泳ぐのも良し、近くのコンビニに行って花火を追加しても良し、肝試しの仕掛けをしても良し……2日目からが本番だ。午前中にビーチバレーを、午後には砂で造型。審査員は堤さんと宿のオーナーさん」

 

 具体的な内容が伝わっていなかったので、改めて今回の海でなにをするか説明をする。

 三日目は午前中に好き勝手に遊んで、午後に帰ると言う割と行き当たりばったりな感じの緩い旅行プランだ。砂の造形の審査員についてなにも聞いてなかった堤さんだったが直ぐにOKを出してくれるのだが、時枝と佐鳥は青い顔をする。

 

「国近先輩って、確かスカウト組で北海道出身ですよね?砂の造形とか得意ですか?」

 

「ごめんね、茜ちゃん。雪の造形なら地元でやったことあるけど、砂は無いよ。雪みたいにくっつけにくいし……」

 

「この中で一番そういうの得意なのって、三雲くんじゃないかしら?去年、美術の成績は学年一位の筈よ」

 

「そういうの得意であって、砂の造形はやったことない。そういえば、佐鳥達の美術関係の成績どうなんだ?」

 

「あ、大丈夫です……佐鳥達は、割と普通です」

 

「私も大丈夫だよ」

 

 なに作るとか全く考えずにノープランで計画を進めていたから、よかった。

 日浦達も美術の成績が残念すぎるとかしたくないとかはなかったのだが、佐鳥と時枝はなにかに……具体的に言えば、綾辻に怯えていた。芸術方面の才能は無いらしいが、視ただけで発狂する様な物を作るわけがないだろう。精々、絵心無い芸人レベルの筈だ……そうだよな?

 

「お~、全然居ねえな」

 

 四塚市よりも更に遠い海辺の街へと辿り着き、海岸沿いを歩く私達。

 米屋は此処から見える砂浜に全くといって人がいない事に圧巻される。一昨日ワイドショーとかニュースで海岸で遊んでたりする人達を見たが、居ないとなれば逆に凄いな。

 

「え~っと……あ、あれだね」

 

 海岸沿いを更に歩いていき、如何にも民宿っぽい大きな和風の家が見えてくる。

 先頭を歩いている堤さんは道に迷わなくてよかったとホッとしており、歩き疲れた一同も喜び疲労が一瞬で飛んでいき、少しだけ早足で歩き、あっという間についた。

 

「すみませーーーん、予約してた者ですけど!」

 

「チェックインとか済ませるから、少し下がっててね」

 

 チャイムかなにかあるかと思ったが、無かったので扉(スライド式)を開くと誰も居なかったので声を出す。

 

「洒落た感じのホテルじゃなくて旅館みたいなザ民宿って、なんだか落ち着きますね」

 

「実家の様な安心感があるわね……あ、ここ天然の温泉があるの!?」

 

 こういう場所に来るのがはじめてなのかワクワクが止まらない日浦と熊谷。

 温泉のご利用時間と書かれた立札を見た米屋達が真剣な目をしているが、気にせずに待っていると初老のお爺さんが……六角中のオジイ激似の爺さんが出てきた。

 

「うぇるかむ……」

 

 口調とか声までそっくりなオジイは私達を歓迎してくれた。出水達はオジイによろしくお願いいたしますと挨拶をすると、オジイはチェックインしたと記入する用紙を堤さん……でなく、私に渡した。

 

「ちぇっくいんの名前、書いてね」

 

「あの、私じゃ無いです」

 

「……違うの?」

 

「あ、自分が引率で予約した堤です」

 

 私が受け取った記入票を取り名前を書き込む堤さん。

 そんな堤さんに背を向け、後ろにいる米屋と出水は口とお腹を手で押さえていた。

 

「私って、そんなに老けて見えるか?嵐山さんと比べてどう見える、佐鳥?」

 

「ええっ、嵐山さんとすか!?」

 

 若干目線を合わせ様としない一同。とりあえず佐鳥を当ててみて、ボーダーの顔(19歳イケメン)と比較してどう見えるか聞いてみると慌てふためくが、救いの手は何処にもない。

 

「あの人、今年で19だったな?」

 

「三雲さんは老けているんじゃなくて、大人な顔なだけで」

 

「それを老けていると言うんだ」

 

「若いよりはましだと」

 

「隣に堤さんがいたのに、オジイは渡してきたんだぞ」

 

「……とっきーはどう思う?」

 

「佐鳥と同じかな」

 

「京介は」

 

「佐鳥と同じっすね」

 

「い」

 

「佐鳥と、同じだっ……っ……」

 

「お前は絶対に違うだろう」

 

 笑いを堪えるのに必死な出水を見ていると佐鳥に聞くのが段々と馬鹿らしくなってきた。

 

「……そういう老けてるのが好きな人も居るからさ」

 

 オジイが人数確認を済ませると中に入っていくのだが、私の足取りは重かった。そんな私に同情したのか、小佐野が背中にポンと手を置いて励ましてくれた。割と嬉しい一言で、ありがとうと涙目でお礼を言うと男子用の部屋に着いたので小佐野達と分かれる。

 

「……修学旅行感があるな」

 

 出水、京介、米屋、佐鳥、堤さん、時枝、私の7人で27畳の和室を使うのだが修学旅行間が凄い。

 押入れには7人分の布団が入っているから尚更だ。

 

「後で写真を撮って良いですか?」

 

「どうしたんだ急に?」

 

 各々が荷ほどきをする中、一番最初に終わった時枝がデジカメ手に取った。

 写真を撮られるのはそんなに好きじゃないが、物凄く嫌がる程でない。この場にいる面々はそういうのを嫌がらないのに改まって聞いてくる。

 

「旅行の写真を撮って、ボーダーに送ろうかなと」

 

「思い出の一枚とかなら良いんだが、そう言うのってなんだかんだで変な事に使われるか?」

 

「多分、根付さんがボーダー隊員はプライベートでも仲良しとかで使うかもしれません」

 

「じゃあ、無しで」

 

 そういう感じの写真は写りたくない。私が断ると時枝は京介と佐鳥の写真を一枚撮った。

 

「もう、いっそのこと三雲さんもボーダーに入れば良いのに。絶対に受かりますって」

 

「なんだったら、色々と教えますよ。

出水(射手)米屋(攻撃手)時枝とオレ(万能手)佐鳥(狙撃手)堤さん(銃手)、全部教えれますよ?」

 

「そんな事を言われても、入らないぞ。なんかパワハラされそうで怖いし、防衛任務を理由に学校を休みたくない」

 

 なんとなくだが分かるんだ。

 もし自分がボーダーに入ったら部隊に入らず部隊を作らず個人ランク戦も一日一試合しかせず色々な人とシフトに入る日々を過ごしていて、なんやかんやで何かがマスタークラスになったりして上層部に目をつけられる未来が。

 何処の部隊にも入ってないけど、連携とか作戦がちゃんと出来ているんだから入りなさいと本部長辺りから言われそうな気がする。

 別にボーダーに入ったら絶対に部隊を作るか入るかしなければならない義務は無いので問題ないですと言い返すと強制的に太刀川隊辺りに入れられて、A級のトリガー開発の権限を使い唯我を爆弾に改造するトラッパー兼狙撃手になる未来が。今です自爆しなさいと風間さんを道連れにする未来が見える。そしてなんだかんだでパワハラを理由に辞表を叩き付ける未来が見える。辞表を叩き付ける決め手は太刀川さんにレポート間に合わないから手伝ってと言われたからだ。

 

「まぁまぁ、今日は仕事を忘れないと」

 

「堤さん、めっちゃ似合うじゃないすか!」

 

「そうかな?」

 

 オフの日なのに仕事の話はNGと止めた堤さんはアロハシャツに着替えていた。

 米屋は堤さんとアロハシャツのフィット感に興奮しているのだが、堤さんが別の人に見える。具体的に言えば、ポケモンのタケシに。糸目で顔の雰囲気が何処となく似ているからか、余計にタケシに見える。

 

「ふぅう……海だぁああああ!!」

 

「いやっふぅうううう!!」

 

「や~やって来ましたね、海!」

 

「京介、日焼け止め使う?」

 

「サンキュ」

 

 昼食(とんかつ、豆腐と大根の味噌汁、ひじきの煮物、刺身、白米)を頂くと海に出る。

 佐鳥と出水と米屋は事前に海パンを履いてきたのか直ぐに着替えが終わり、米屋、出水、佐鳥、時枝、京介の順に宿を飛び出していった。

 

「え~と、ビーチパラソルに折り畳み式のビーチベットにクーラーボックス、ビーチバレー用のボール」

 

「オレも持とうか?」

 

「ああ、大丈夫です。堤さんはゆっくりと、何でしたらビーチベットで遊んでる彼奴等を見て微笑んでてくださいよ」

 

 普通に海に遊びにいったのは良いが、海の家とかはこの辺には無いのでビーチパラソルとか色々と持ってかないとならない。見た目に反して割と軽い物ばかりなので、堤さんの手を煩わせるわけにはいかないと全部持ってゆっくりと出水達を追い掛けて、手頃な場所にビーチパラソルを設置していく。

 

「あ、手伝いますよ」

 

「大丈夫、オレ一人でどうにでもなる。それよりも日焼け止めで遊んでる馬鹿達を止めてくれ」

 

 機材を設置していく私に気付いた京介は手伝おうとするが、手伝うならば米屋と出水の日焼け止めを塗るのを手伝ってくれ。悪ふざけしているのか胸辺りにだけ日焼け止めを塗っておらず、変にテンションを上げている。

 

「何時もこの辺で三輪とかが止めるが、歯止めが聞かなくなってる。

もうすぐ水着が見れると言ったら、真面目に塗り出すと思うから言ってきてくれ」

 

「なんか慣れてる感じですね」

 

「弟と一緒の時は率先してこういうことしてるから。ほら、今回は年下や同年代が多いだろ?」

 

「弟が居るんすか?」

 

「私と違って、立派すぎる弟で……メガネだ」

 

「メガネですか」

 

「ああ、THEメガネ」

 

「宇佐美先輩が喜びそうですね」

 

「本人もメガネ扱いされるの当然だと思ってる節がある……止めてきてくれ」

 

 京介に米屋達を止めに行かせるとビーチパラソルを設置していく。

 サイドエフェクトがあるから那須の体調不良は一瞬で感知できる。サイドエフェクトで数日間は何事も無いと出ているが、万が一が恐ろしい。私の占いは外すときは外す。この前、1億ぐらいに稼ぐことが出来たから調子に乗ってたら7000万になって身に染みた。

 

「やって来たぞ」

 

「何処すか!?」

 

「ほら、彼処に居るだろ?」

 

 自分達の日焼け止めを塗り終えた頃、女性陣がやって来た。

 佐鳥は待ってましたと言わんばかりに興奮をするので居場所を教えるのだが眉間にシワを寄せるだけだった。

 

「佐鳥、本気を出すんだ。

海外のエロい視力検査表を使えば男性の視力は上がるとされている。お前の煩悩の力を見せつけるんだ。いや、この場合だと見るんだが正しいか。あ、熊谷は黒いぞ」

 

「マジすか!!」

 

 熊谷が着ている水着の色について教えるとパワーアップする佐鳥は瞳孔が開くんじゃないかと言う勢いで見開く。遠くにいる熊谷達が普通に見える私は美人はなにを着ても似合うなと感心するのだが時枝が驚いた顔をしている。

 

「三雲さん、見えるんですか?」

 

「ハッキリと姿が見えるぞ。全員が日焼け止めを塗っているから、室内で先に塗っていたみたいだ」

 

 キャッキャフッフの塗りあいっこが見れると思ったが残念だ。

 

「三雲さん、視力幾つなんですか?」

 

「10は越えている……お、横一列にならんだぞ」

 

「10……」

 

 私のサイドエフェクトについて余り知らなかったのか時枝は驚くが、驚いている暇は無い。

 国近先輩を筆頭に、熊谷、小佐野、那須、日浦、綾辻と水着姿の絶世の美少女達が目の前にやって来た。

 

「どうかな、男子諸君?」

 

 ニヤリと笑みを浮かべる国近先輩は白色の鼓月を描く線が3本入った黒色のビキニを着ている。これは良いものを見れたなと出水に声を掛けようとするのだがやめた。

 

「に、似合ってますよ。なぁ、槍バカ」

 

「そうっすね。国近先輩、綺麗です」

 

 国近先輩の胸囲的な戦闘力を前に、二人はタジタジだった。

 時折チラッと国近先輩の先パイを見てしまう哀れなおっぱい星人へと成ってしまった。

 

「三雲さん、三雲さん、どうですか?」

 

「似合ってるぞ、日浦」

 

 ワンピースタイプの水着を着てきた日浦。本人の可愛さを引き立てるのにはちょうどいい感じの水着で、とてもさまになる。

 

「時枝、とりあえず写真を撮ったらどうだ?」

 

 何枚かの写真を撮っておけばボーダー隊員達はプライベートでも仲良しアピールの写真に使える。

 小佐野達の水着にも色々と語りたいことがあるが、その前にやれる面倒ごとは今の内に済ませておくのが一番だ。

 

「いやぁ、本当に今回の旅行は最高っすよ三雲さん!!」

 

「なんだ今さら?」

 

「嵐山さんと隣を歩く地獄を味遭わなくても良いですし、柿崎さんのリア充オーラを浴びなくても済みますし、小学生にも呼び捨てにされない!今までで一番の旅行です!」

 

「お前、意外と闇が深いな」

 

 事情を説明すると写真撮影の許可をくれたので、写真(見映えをよくする為に男子NG)撮影を開始する。それを間近で見ている佐鳥は涙を流してよかったと喜んでくれるのだが、闇が深い。

 柿崎さんのリア充オーラはスゴいし嵐山さんの隣を歩くのは地獄なのは分からないでもないが、闇が思ったよりも深いぞ。

 

「なによりも水着美女を間近でこんなにも見れる!

熊谷先輩が白と青のボーダーラインの水着じゃなくてスポーツ水着なのが残念ですけど、アレはアレで最高です!」

 

「ああいう感じの素の方が絵になる……どうした?」

 

 急に笑顔を止める熊谷達。

 写真撮影はもう終わりかと時枝を見ると、私達に視線を向けてくる。

 

「……佐鳥くん」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「どうしてくまちゃんがボーダーラインの水着を持ってることを知ってるの?アレってこの前、水着を買いに行った時に買ったもので私達以外は誰も知らない筈よ?」

 

「なぁっ!しまった!どうしよう、三雲さん!」

 

「どうしようもなにも……お前なんで購入した水着について知ってるんだ?」

 

 気付かぬ内に言ってははならない事を言ってしまった佐鳥。和気藹々とした空気は吹き飛び、段々と冷たい視線が飛び交う空気へと変貌していく。救いの手を求めてくるが、私はボーダーラインの水着を購入したかどうかなんて一切知らない。勧められたが、最終的に今着ている水着に決まったぐらいしか知らない。

 

「そういえば、先輩達が水着を買いに行った日に居なかったよね?」

 

「佐鳥くん、ちょっと……」

 

 時枝の発言により怖い笑顔になる国近先輩。

 

「はい」

 

 国近先輩に呼び出され、前に進む佐鳥。

 美女に円形に囲まれて姿が見えなくなりストーキングしていた事がバレてしまい、ごめんなさいと三回ぐらい謝り、悲鳴をあげていたのだが途中から声がしなくなりまさかの暴力かと思っていると解散する美女達。

 

「タスケテ……」

 

「あの一瞬で、どうやったんだ……」

 

 美女達が居なくなったそこには佐鳥は砂浜に埋められていた。

 寝転ぶ形でなく縦に埋められていて頭だけ出ており、あのほんの一瞬で佐鳥を埋めたことに驚きを隠せない。

 

「とりあえず、これを佐鳥の1枚にするか」

 

 時枝からカメラを借りて、一枚撮る。

 

「三雲さん、助けてくださいっ。さっきから、蚊が近寄ってきて刺しそうで怖いっす!」

 

「安心しろ……ちゃんと蚊は退治してやる」

 

「虫除けスプレー、取ってきますね」

 

「とっきー、助けてよ!」

 

 縦に埋められている佐鳥は中々にシュールな姿だ。

 元を正せば水着を買いに行く那須達をコッソリとつけた佐鳥が悪いのだが、砂の中は思ったよりも硬くて一人で必死にもがいても微動だにしない。

 

「安心しろ、ちゃんと助けてやる」

 

「三雲さん……」

 

「時枝、宿のオジイを呼んできてくれ。

その間に私はお婆さんとその孫とリリエンタールとうちゅうねこを呼んでくる……ネズミは無理っぽいが」

 

「大きなかぶ!?」

 

「冗談だ」

 

 リリエンタールとうちゅうねこを見つけるのには物凄く時間がかかるからしない。

 持ってきたスコップを手に佐鳥が自力で抜け出せるように砂を掘り進めていった。

 

「お~い、こっちも頼む!」

 

「お前達もか」

 

 佐鳥が自力で抜け出すと、直ぐ近くから同じく縦に埋められている米屋と出水からSOSを求められる。

 二人が埋められている事が分かると佐鳥は猛ダッシュで出水の周りの砂をスコップで掘って救出し、私も米屋の周りをスコップで掘って救出した。

 

「人間やっぱエロい事をするとバチが当たるもんだな」

 

「後でちゃんと謝っておけよ」

 

 砂に埋めてある程度はスッキリとしてるっぽいが、一応は遺恨は残っている。謝れば許してくれるけど謝らないと一生許さないレベルでだ。

 

「誠心誠意謝りますけど、その前に喉が乾いたから飲み物を飲んで良いですか?」

 

「ちょっと待ってくれ。明日に使ういわしみずとかあるから」

 

「え、いわしみずとかあるんですか!?」

 

 謝る前に喉を潤したい佐鳥を連れて堤さんが休んでいるビーチパラソルへ歩く。

 堤さんの直ぐ隣にはクーラーボックスが入っており、中を開くとキンキンに冷えたスポドリやジュース等が入っており、一つしか無いポカリスエットのスクイズボトルが浮いていた。

 

「三雲くん、ずっと気にはなっていたんだけどそれになにが入ってるんだい?」

 

「明日の罰ゲーム用のいわしみずです。

ビーチバレーで優勝した奴等は昼のバーベキューで最高級の肉を、負けた人にはこのいわしみずを飲んで貰おうかなと」

 

「いわしみず……岩清水?……いや、違う」

 

「三雲さん、スポドリとかだと口の中、甘ったるくなるんで貰って良いですか?」

 

「飲みたいなら飲めばいいが……それ罰ゲーム用のドリンクだぞ?」

 

「待つんだ、佐鳥くん!!」

 

 堤さんの制止を聞かず、ポカリスエットのスクイズボトルを手にする佐鳥。

 唇につけず少しだけ距離を開いた位置で傾け、強く握ると中身の液体が噴出され佐鳥の口の中へと入った。

 

「いぎぃやぁ、ゆぅうううん!?」

 

 いわしみずの味を知った佐鳥は一瞬だけ劇画チックな二枚目フェイスになり、地面をのたうち回る。

 

「すみませんでした」

 

「も~そういうのダメだからね。

私達だからこういう感じで済んだけど、もしののさんとかだったら」

 

「あっひぃいいいいい!!」

 

「……ああいう感じに、なったのかな?」

 

「言ってる場合じゃないですよ!!佐鳥、おい、しっかりしろ、佐鳥!」

 

「出水、ダメだ。こいつアへってるぞ」

 

 苦しみもがきたうち回った末に、海辺にいた国近先輩に謝っていた出水と米屋の元に辿り着く佐鳥。いわしみずの味が抜け、苦しみから解放されたその顔はとても健やかな表情などというものからは遠い遠いアへ顔だった。

 

「いわしみずは罰ゲーム用のドリンクだと、忠告したのに……まさかここまでとは」

 

 佐鳥はアへってるだけで命に別状は無いのを確認し、いわしみずの効力に驚く。

 ビーチバレーをするならばこれが一番だと作ってきたのだが、佐鳥を一撃で倒すとは凄まじいものだ。

 

「お、おい!なんだよ、そのドリンク!」

 

「明日の罰ゲームに使う用のいわしみずだ」

 

「岩清水がなんで罰ゲームに……つーか、最早罰ゲームじゃなくて罰だろ!」

 

 ゲーム性は何処にもないと主張する出水だが、明日のビーチバレーに負けた奴が飲むからゲーム性はある。

 二人がまだ勘違いをしている様なので紙コップを取り出し、中に入っている鰯水を注ぐ。

 

いわしみず(岩清水)とは岩から涌き出る冷たく清らかな水の事だが、これはその岩清水じゃない。清らかな清水でなく鰯の豊富なDHAが入っている絞り汁から作られた飲み物、いわしみず(鰯水)だ」

 

「ちょ、ちょっと近付けないで!」

 

「柚宇さん、怖いのは分かるけどおれを盾にしないでください!おれも怖いんです!」

 

「つーか、明日飲まされるのかよ……」

 

「ビーチバレーで優勝すれば免れて、最高級の松阪牛を優勝ペアのみ食べることが出来る」

 

「プラスとマイナスの比率がおかしいよ……」

 

 ボーダー隊員との旅行初日。

 誰一人怪我することなく溺れることなく海を満喫することは出来たものの、代わりに恐怖に溺れさせる事になってしまった。

 

「……あ、加古ちゃんのチャーハンよりはましだ」

 

 尚、堤さんは舌がバグっていたのか鰯水をすんなりと飲み干した。




メガネ(兄)「当小説が二乗ほど面白くなるおまけコーナーと言う名の設定とか裏話!!」

実力派エリート「今回は加古チャーハンよりも恐ろしい汁についての説明を……なぁ、これする必要があるか?」

メガネ(兄)「あるかないかで言われれば微妙なラインだけど、忘れた頃に出てくるから」

実力派エリート「待って!これ、今回だけじゃないの!?」

メガネ(兄)「忘れた頃に出てくる。アフトクラトル防衛の打ち上げの焼肉とかで」

実力派エリート「てことは、緑川とか太刀川さんとか嵐山も飲んだり……」

メガネ(兄)「時枝達に騙されて飲む未来は確定している。安心しろ、死にはしない」

実力派エリート「死ぬよりもキツい目に遭うのか……あ、でも何名かは簡単に飲んでる未来が見える。堤さんと双葉は平気な顔をして飲んでる。木虎もレイジさんも一部の飲み物だけ普通に飲んでる!」

メガネ(兄)「ニノさんは?」

実力派エリート「粉悪胃悪(コーヒー)を飲んで死にかけるけどなんとか耐えてからのシンジャエールで死んだ」

メガネ(兄)「そうか……ドリンクの紹介をしても、やっぱ尺が余るな」

実力派エリート「だろうな……とりあえず、ボツネタでも話すか?」

メガネ(兄)「ボツネタ……忍田本部長にパワハラされる話か?
佐鳥と同期の17歳組で万年B級のMくんが遂にレイガストのマスタークラスになったと思ったら、忍田本部長が部隊に入らないか作らないのかとしつこく言ってきて、最終的には本部長の権限的なのを使おうとするやつ。チンパンジー原作者がバイきんぐの寿司屋のコントを見て思い付いたネタを?」

実力派エリート「もう少し言い方を選んだ方がいいぞ。けどまぁ、そんな感じだ。確かそのボツネタのタイトルは三雲(兄)、ボーダーやめるってよ。だったな」

メガネ(兄)「本部長権限をパワハラと捉えて最終的には辞表を叩き付けボーダーをやめ、口が固そうだからと記憶は消されなかったけどもうボーダーに関わるのは止めようと記憶封印されたフリをする。記憶封印を良いことにあれやこれやと嘘をついてくるボーダー隊員達。一番最初にボーダー辞めたことについて色々と言ってくるのは小南で、「なんでやめたのよ!」と詰め寄ってくるけど、素知らぬ顔で「すみません、どちら様ですか?」と記憶封印をされたと演じ、ガチ泣きさせるシーンは見物だが、ネタが続かないのでボツにした」

実力派エリート「で、そこから派生したのが唯我自爆しなさいだったっけ?」

メガネ(兄)「パワハラを受けた末に太刀川隊に強制的に入れられて、ドヤる唯我が万年B級とか言ってくるからムカついたので自爆させる話。最終的には唯我を自爆させるのはコンプライアンス的にダメで、スポンサーにバレるとややこしくなるから部隊から外されて色々な隊にたらい回しにされる。これもネタが浮かばず続かないのでボツにした」

実力派エリート「だから、パワハラって言うなよ」

メガネ(兄)「いや、パワハラだろう。
別にボーダー隊員になったら部隊を作らないといけない義務があるわけでもないんだ。弓手町支部辺りに飛ばしてくださいと移動願いを月1のペースで出してるのに受理されない。それどころか、隊に入れとかの強制を強いてくる」

実力派エリート「忍田さんはパワハラの意識は無いと思うぞ」

メガネ(兄)「そういうお前はセクハラしてる意識はあるのか?サイドエフェクトで、尻を触っても最悪殴られるだけで済む人を選んでないか?」

実力派エリート「ごめん、この話は無かった事にしよう。忍田さんは無意識の内にパワハラをしてしまった。そうだな」

メガネ(兄)「目線を合わせていえ。
旅行二日目、意気消沈の中ではじまる命懸けのビーチバレー勝負。鰯水を味わうのは誰か!次回、ワールドトリガー!【屈辱のシルバーシート】に、トリガー、オン!」

ギャグ短編(時系列は気にしちゃいけない)

  • てれびくん、ハイパーバトルDVD
  • 予算振り分け大運動会
  • 切り抜けろ、学期末テストと特別課題
  • 劇団ボーダー
  • 特に意味のなかった性転換
  • 黄金の果実争奪杯

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