佐鳥が三途の川を渡りかけたものの女湯を覗くと言ったイベントらしいイベントは特になく、初日が過ぎて二日目のこと。
「第1回、絵的にリア充感満載の男女混合ビーチバレー大会!」
朝食を頂き、二日目の海を楽しむべく一同はビーチバレーのネットを設置した場所付近に集まり、司会の貴虎の元で進行するのだが余り浮かない。
「リーグ形式で勝負し、敗者には罰ゲームを優勝者には商品を与える」
「三雲さん、罰ゲームじゃなくて罰だと思います!」
貴虎の手にあるカクテルグラスとポカリスエットのスクイズボトルに怯える一同。
佐鳥が三途の川を渡りかけたのはこの場に居る全員が知っており、罰ゲームで済ませる物ではない。日浦は飲むのを嫌がるのだが、食べ物を粗末にするんじゃありません!と怒られる。粗末にしているのはお前だろうと米屋はツッコミを入れたかったが、声を抑える。
「まぁまぁ、オレも飲んでみたけど飲めない事は無いよ?バリウム飲むくらいの感覚だ」
「堤さん、大丈夫だよと言ってますけどバリウムってX線を通しにくい鉱石かなにかでしたよね?なんで魚が鉱石の味をするんですか……」
蜂蜜柳葉魚や生ハムメロンくさや汁チャーハンよりは圧倒的なまでにましな鰯水。感覚が麻痺している堤はバリウム感覚で飲み干せると言うのだが、その時点でおかしいと烏丸は呆れてしまう。
「鰯水が怖いのはなんとなくで分かる。
だがな、飲むのはお前達全員じゃないんだ。お前達の中の敗者だけなんだ」
怯える一同に活を入れ、やる気を出させる様に動き出す貴虎。
持ってきたクーラーボックスを開いてビニール袋を取り出し、中に入っている竹皮の封を解く。
「「「おぉ……」」」
中には焼肉用の最高級の松阪牛が入っており、スーパーの肉と品質が一目で分かるほど違う為に声をあげる。
ビーチバレー後のお昼で食べるバーベキュー用の肉だと分かるとテンションも上げる。
「勝者には飴を、敗者には鞭を与える。
敗者になりたくなければ周りを蹴落としてでも生き残れ!頂点を極めれば、飴は……このA5の焼肉は確かに存在するんだ!」
「そうだ……勝てば良いんだよ!」
敗者にならなければ良い。
本家と違いトーナメント形式でなく、リーグ形式で負ければ直ぐに鰯水を飲まされるわけではない。
「そうだね……負けなきゃ良いんだよね!」
「そうですよね!ビリにならなければアレを飲まずに済みます!二回目は嫌です」
「……変わっていってるな」
米屋の勝てば良かろう発言を気にやる気を出していく綾辻と佐鳥。
米屋と二人の言葉は似ている様で大きく異なっている。米屋は勝って肉を手に入れたいのに対し、綾辻と佐鳥は負けたくないと、ビリにはなってたまるかという思い。上を見ているのか下を見ているのかの差が大きく出ている。
カイジでもなんか似たような事があったなと中間管理職の男の顔を思い出していると宿のオーナーのオジイがやって来る。
「もってきたよ…」
「あ、ありがとうございます。
じゃあ、私は行ってくるので楽しんでくれ」
「待てや、こら!」
何処か行こうとする貴虎の腕を掴む出水。
「三雲くん、何処に行くつもりなの?」
この場から離れようとしたので、逃がすまいと詰め寄る熊谷。
「バーベキューの準備。
意外と時間がかかるから、先にやっとかないと……誰かこう言うのをやらないといけないだろ?」
バーベキューセット一式を指差す貴虎。
オジイに持ってきて貰ったと言われると若干本当かと怪しむのだが、バーベキューの機材が今から一人で用意すればお昼には間に合い全員でやればもっと早く終わるのだが遊ぶ時間が大きく削られるほどよい量だった。
「こういう役割は、私が引き受けるから……誰か一人が苦労しないといけないだろう?気にせずにやってくれ」
言ってることはなに一つ間違いじゃない。
キャンプとか行けば確実に誰か一人が苦労をしなければならず、遊びに行くと決まった時点でそういうのを何処かでやらないといけないのは分かっていたので引率してくれる堤さんにしてもらうわけにはいかないと引き受けた。
「待って……三雲が出てくれるならって思ってたのに」
「小佐野……ぶっちゃけ組むなら熊谷と組みたい」
「え?」
「やるからには優勝を目指さないと。肉、欲しい」
ラブコメ的な展開なんて何処にもない。
目をうるうるさせる小佐野なんて効かないと貴虎はバーベキューの準備をしに行った。
「ペアを決めないと」
名指ししてくれたのはなんだかんだで嬉しいが喜べないくまちゃん。
今はあの恐怖の飲み物をどうにか飲まない様に頑張るしかないと残った男を見る。
組むならば、米屋。
貴虎の次に運動神経抜群な米屋。
ビーチバレー勝負を制するには米屋と組むしかないと熊谷は思うのだが待ったが掛かった。
「オレ、審判をやらないといけないんだけど」
日浦、国近、綾辻、熊谷、那須、小佐野の女子6名。烏丸、佐鳥、出水、米屋、時枝の5名。
引率者の堤は審判をしなければならず、試合に出ない。貴虎が逃げた為に人数が一人足りなくなった。
「じゃあ、わしが」
「「「「「無理無理無理無理無理!!!」」」」」
人が一人足りないと分かり、脱ごうとするオジイ。堤以外の男子は一斉に指をさしてオジイが出るのは無理だろうとツッコミを入れる。
このままだと誰か一人がビーチバレーが出来なくなると時枝は多少お昼が遅れても良いので貴虎に参加をして貰おうとするのだが、貴虎は来なかった。
「オジイさんの方が強いらしいので、そっちの方がお得だそうです」
「かもーん」
いつの間にかアロハシャツを脱いでいるオジイ。
こうなったらばと全員が覚悟を決め、ペアを決めるくじを引いた。
「やったぁあああ!!」
「おいおい、喜びすぎだぞ」
米屋・日浦ペア
「先輩となら、優勝出来そうです」
「まぁ、やっぱやるからには勝たないとね」
烏丸・熊谷ペア
「熊谷と米屋が別々のペアでよかったぁあああ」
「あの二人が一緒だったら、絶対に優勝出来ないもんね」
出水・綾辻ペア
「いや~優勝無理っぽいね」
「国近先輩、諦めるの早すぎますよ!」
佐鳥・国近ペア
「ビリだけは、ビリだけは免れないと」
「落ち着いてください、先輩」
小佐野・時枝ペア
「頑張ろうね」
「任せなさいよぉ」
那須・オジイペア。
「う~ん、変えた方がいいのかな?」
最後のペアだけ明らかに浮いていると言うか優勝出来なさそう。もう一度、くじ引きをした方が良いのかと悩む堤。
30分間のウォーミングアップは開始されており、変更するならば今しか無いのだが那須・オジイペアがなに一つ不満を言ってこない。周りも鰯水で死にたくないのかなにも言わない。
「第一試合!出水くん・綾辻ちゃんペアVS烏丸くん・熊谷ちゃんペアの試合!
サーブは一人ずつローテーションで回していくタイブレーク無しの20点1マッチ形式の試合だ!」
「はい、じゃんけんポーーン!」
そんなこんなでウォーミングアップの時間は過ぎ、第一試合がじゃんけんに勝利した熊谷からのサーブで行われる。
「油断せずにいきましょう、先輩」
「三雲くんと同じ事を言うのね……」
何処ぞのメガネと同じく構える烏丸。
熊谷は貴虎と似ていないと思いながらもボールを高く打ち上げて、飛んでサーブをする。
「ジャンプサーブって、本気かよ!綾辻!」
「任せて!」
サーブをレシーブしに動き出す綾辻。
運動神経は低い方だが伊達にボーダーのオペレーターをしているわけではないと、熊谷のサーブに慌てずに反応してレシーブの構えを取るのだが、バレーボールが綾辻の元に向かうよりも先に地面に落ちた。
「嘘……」
タイミングや位置は間違いなく完璧だった。
熊谷が打ったサーブがジャンプフローターサーブでなければ綾辻のレシーブは決まっていた。
「ビーチバレーをするって聞いたから、わざわざ覚えてきたのよ。ビーチバレーでのフローターサーブ」
ニヤリと笑う熊谷。
烏丸はこれで勝てると小さくガッツポーズを取っており、次は出水のサーブなのだが熊谷と烏丸によるクイックのカウンターをくらう。
「やっぱ黒一色とかそう言うのより似合うな」
バーベキューの準備をしている貴虎は常人なら肉眼で見えない距離から試合を見る。
熊谷がのびのびと活躍しており、黒のビキニならば胸が揺れて上手く動くことは出来なかっただろう。ああいう頑張ってる姿を見るのは心地好いと手を動かす。
熊谷達も体を動かし、最終的には20-8という大差で勝利を納めて第二試合、米屋・日浦vs小佐野・時枝。サポートの名手である時枝は目立つ派手なプレイは余りしない堅実なプレイで小佐野をサポートして一時は優勢になるのだが、運動神経抜群の米屋の前には勝つことは出来ず20-14で敗北をする。
「じゃあ、第三試合、オジイ・那須ちゃんペアVS佐鳥・国近ちゃんペアの試合を開始する!」
まだ試合をしていない残った2チーム同士の試合。じゃんけんで勝った佐鳥からのサーブとなるのだが、これでいいのだろうかと悩んでしまう。トリガーを使って病弱な子は治るのかと言う実験に付き合っている那須。見た目からして還暦も過ぎてるであろうオジイ。
負ければビリになれば地獄の鰯水が待ち受けている。この二人に飲ませれば下手すればあの世に行くのではという危機感とアレはもう二度と飲みたくないと言う生への執着。生と死が佐鳥を悩ませる。
「佐鳥くん、気にしなくて良いのよ」
そんな佐鳥に微笑む那須。
これはあくまでも遊びで負けても勝っても最後は仲良く握手。負ければ最後のプロの世界とは大きく異なると佐鳥に戦う勇気を与える。
「じゃあ、いきますよ!そーれぇ!」
とは言え、手を抜いてしまうのが佐鳥の良いところ。
弱めのアンダーサーブを打ってくれる。
「あ、そう言えば」
「どうした?」
「那須先輩、トリガー持ってきてますよ」
素で言い忘れて居たことを思い出す日浦。
マジでと熊谷以外の試合を観戦している面々は思うのだが、時既に遅し。那須の手には防衛任務やランク戦で使うトリガー……でなく、医療研究とかで使っている緊急脱出機能とかは無いトリガーが握られていた。
「トリガー、
アンダーサーブがネットを越えると同時にトリガーを起動し、運動用のトリオン体へと換装する那須。とはいえ、服装は全く変わっていない。
「ええっ!?」
突如としてトリオン体へと換装した事に驚く佐鳥。だが、那須は待ってはくれない。
綺麗な優しいレシーブをしてボールを中に浮かせ、落下地点にはオジイ。那須はなんの合図も迷いもなく走り出して高く飛び
「アターーック!」
「きゃあああ!?」
アタックを決め、国近にビーチバレーを当てる。
幸いというべきか国近はレシーブの構えをしており胸部装甲も凄まじかったので怪我らしい怪我は全くと言って無かったが、結構痛かった。
「1-0……」
「ちょ、先輩……トリガーを持ってきてたんですか!」
完全にオフの日なのでこの場に居る面々は那須以外は誰一人として持ってきていない。那須が点を取る冷静になる時間が取れる状況となり、佐鳥はなんでトリガーを持ってきてるのかを聞いた。
「ビーチバレーをすることが分かった時、どうしようとなって……茜ちゃんが当真さんを経由して冬島さんに」
「ちゃんと許可は頂いてます!」
「あのおっさん……」
狙撃手No.1の男、当真が所属する冬島隊の隊長、冬島。
エンジニアの一面もあり、ボーダーでもそこそこの地位を持っており結構頼れる男なのだが空しい青春時代を過ごしていたのかJKを前にすればどうしようもない。具体的に言えば小佐野が麻雀に参加すればボロ負けするほどに弱い。
ガールズチームで美女しかいない那須隊の面々が許可をくださいと頼み込めば、それはもう断れなかっただろう。つい最近不祥事があった事も知らないのが良かったのか割とあっさりと許可はとれた。女の子が天敵の二宮隊の辻みたいにタジタジな冬島の姿を佐鳥は思い浮かべる。
「さぁ、油断せずにいくわよ」
トリガーを使うことに関しては誰も文句を言わず、試合は進む。
戦闘で使ってるトリガーと違い、身体能力はぶっ壊れては居なかったが、それでも柿崎さんレベルの運動能力を有しており佐鳥と国近を圧倒していく。
「那須先輩付近にボールダメっす!!」
「じゃあ、オジイちゃんだね!!」
他人の心配をしている余裕なんて何処にもないと、必死になるも10点リードで未得点の佐鳥達。
トリオン体によりスタミナ切れの概念はなくなった那須にボールは渡せないと那須から遠い所にボールをアタックしにいくのだが、一瞬にしてオジイが現れてボールを拾いにいく。
「まだまだだねぇ」
佐鳥達を煽るオジイ。
「おい、あのじいさん何時の間にか現れやがったぞ!!」
点を決めるのが那須で余り目立たないものの、動きの一つ一つが洗練されまくっているオジイ。
一歩の動き出しも早く、ジジイの特殊メイクをしているんじゃないかと思わず疑うほど。
「相手に気配を悟られず接近する方法でぇ、地面を蹴って走るのではなく地球の引力や倒れる力を利用して早く歩く…歩くよりも、跨ぐ感じかなぁ」
ふっふっふと笑うオジイ。
自分の動きの秘密を教え、試合を決めた。21-0。佐鳥国近ペアは1点も点を取ることは出来ず、敗北。
「パワーバランスが、一気にひっくり返ったな」
オジイという想定外の人物の参戦により下馬評は大きく覆る。
那須(トリオン体)だけならばまだなんとでもなるが、オジイが加わる事により一番最強じゃないかと烏丸は冷や汗を足らす。
「三雲さんが、頼む時点で疑えばよかった……」
貴虎がこうなることを分かっていた事に気付く佐鳥。佐鳥達の次の相手は米屋達、勝てなさそうだ。
「罰げぇむ」
試合が終わったので、コートを出ていく面々。すると、オジイが佐鳥の肩に触れて罰ゲームを要求する。
「いやいやいや、オジイさん。ビリの人だけが罰ゲームを受けるだけで、まだ誰も」
「罰げぇむ……あった方がおもしろいよ?」
「あの鰯水を越える罰ゲームなんてありませんって!」
佐鳥に罰ゲームを受けさせたいのか割と必死なオジイ。
なにかを思い付いているのか那須を手招きし耳元でゴニョゴニョと言うと那須は面白そうだと笑い、国近を手招きする。
「な、なにをするの?」
「柚宇さん、生まれたてのウサギみたいに震えてるじゃないですか!」
「出水くん、大丈夫よ。そんな酷いことはしないわ」
微笑む那須は国近をビーチパラソルの下に座らせ、膝を借りる。所謂膝枕だ。
「スポーツドリンクを貰えないかしら?」
「あ、これ?」
どんな罰が待ち構えているのかと思ったが蓋を開ければ罰でもなんでもなかった。
国近はよかったと安心しながら膝にいる那須の命令を聞き、スポドリを渡す。
「こういう罰ゲームの方が、よかった。お前もそう思わねえか、さと……」
鰯水と比べるまでもなく優しい罰ゲームだと後ろにいる同じ罰ゲームを受けているであろう佐鳥に話し掛けようとする出水だが振り向くと同時に声が止まる。
「タスケテ……」
オジイは佐鳥の顔に座っており、文字通り佐鳥はオジイの尻に敷かれていた。
「わしに負けたら、これね」
屈辱!シルバーシートの刑!
那須の方はキャッキャウッフフしているのに対し、オジイの方は罰ゲームや罰の要素を超越していた。最早、優勝商品の肉なんてどうでもいい。シルバーシートを受けたくないという生存本能が男達を強くしていく。
しかし、那須オジイペアは圧倒的な強さを誇っており、死にたくない生への欲求でパワーアップした男達を悉く倒していき、優勝を決める最終戦。烏丸・熊谷ペアとの死闘を繰り広げ、19-19という状況へと持ち込む。
「くまちゃん……泣いても笑っても、これで最後よ!」
奥の手とは最後まで使わないから奥の手だ。
サーブ権を有する那須は高く跳ぶ、ジャンプサーブを打つ。
「ここに来てのジャンプサーブ!玲ったら、いじわるね!」
最初のトリガーやオジイでのインパクトが強すぎて、ジャンプサーブ程度では驚かなくなった熊谷。
ボールの落下点を見極めてレシーブの構えをするのだが、自身の前に烏丸が立つ。
「なにを」
「先輩、これフローターです!」
急に前に出て来て何事かと聞こうとすると、ボールは急降下。
熊谷の一歩手前で落ちそうになり、一歩手前にいた烏丸がボールを高く打ち上げる。
「サンキュー、烏丸くん!」
自分のジャンプフローターサーブの特訓に付き合ったのは那須で、やり方は何度も何度も見ている。
ただのジャンプサーブだと油断していた熊谷はお礼を言い、ゆっくりと落ちてくるボールをトスして打ち上げる。
「アターーック!」
「!」
「と、思いますよね」
「おい、それオレの十八番!」
そのまま綺麗にスパイクと思えば一旦停止する烏丸。
スパイクをすると予測し、ボールが来る方向へと那須は移動したのだがボールは来ない。
シンプルながらも上手い一人時間差攻撃。烏丸は貰ったと那須が移動するまえにいた場所へとボールを叩き込んだ。
「勝った、オレと熊谷先輩の優勝だ!」
「それ、負けフラグだって!!」
「そんな要素、何処にもない!」
高級和牛が目前と迫り興奮してフラグを建てる烏丸。
ボールは間もなく地面へ着きそうになり、那須は反応する事が出来ずにいる。
「オジイもいない、あいつだけシルバーシート回避か!?」
出水、佐鳥、米屋、時枝はオジイのシルバーシートの刑を受けており、屈辱を味わっている。
イケメンに芸人みたいな事はさせるな。そんな天からの声が聞こえた気がする出水は勝ちを確信する。
「はぃいいいい!!」
「なぁにぃいいいい!?」
しかしそれは、天からの声は気のせいだった。
ボールが地面についたと思った瞬間、オジイは砂の中から飛び出す超人的なプレイでボールを打ち上げてそのままネットへと入った。
「と、とんでもないミラクルプレイだ」
ビーチバレーで砂に潜るなんて誰が予測したものか。
20-19で試合は終わり、那須と熊谷は握手を交わすのだが熊谷がちょっと嫌そうな顔をしている。
「どうしてもやらないとダメ?」
「ダーメ」
国近、小佐野、綾辻、日浦と膝枕をしてもらった那須だが熊谷だけ別の罰ゲームだった。
具体的に言えば胡座している熊谷の前に那須が座って背もたれにする百合好きならば興奮する馬鹿っプル座りで、熊谷は恥ずかしいのだが敗者には断る権利は無いと罰ゲームを受ける。
「まさかの大穴が優勝するとはな」
「三雲さんが居たら、結果が……いや、どうだろう」
「結果的に那須先輩と組みますから、優勝で終わるんじゃないんですか?」
1位は那須・オジイ 2位は熊谷・烏丸 3位は日浦・米屋 4位は時枝・小佐野と4位までの順位は決まった。
最終戦は綾辻・出水ペアVS国近・佐鳥ペアの試合。その試合で負けた方がビリとなり罰ゲームを受けなければならない。
「佐鳥、お前もう一回飲めよ」
「いやいやいや、もう一回なんて嫌ですよ」
「二回目も大して変わらねえだろ!」
「じゃあ、一回目も変わらないじゃないですか!」
「馬鹿野郎、0と1とじゃ大きく変わるんだよ!!先輩の言うことが聞けねえのか!」
「ボーダーに長い間居る的な意味ではオレが先輩です!」
「年功序列ではおれが上だ!」
「それなら国近先輩が一番上です!」
「出水くん、飲んでくれないかな?」
「柚宇さん、それパワハラです!」
「出水くん、それブーメランだよ」
1位はもう望めない両ペア。
鰯水は恐ろしいと押し付け合いながらも、試合は進んでいき出水達が少しだけリードする。
「京介、大丈夫か?」
「大丈夫じゃ、ないです」
バーベキューの準備がある程度出来た貴虎が水分補給に戻ってきた。
オジイに文字通り尻に敷かれている京介を見て心の方が無事か心配するが、割と無事そうだったので写真を一枚撮った。
「おかえりなさい」
「なんか凄い事になってるな」
「撮らないで……」
百合ってる熊谷と那須をみてこれは良いものだとカメラに納める貴虎。
どういう感じの結果に終わったのか那須に聞き、今がビリを決める最終戦だと教えてもらう。
「三雲さぁん!鰯水を飲まないってのは無しですか!」
「……そうだな」
貴虎の存在に気付いた佐鳥は罰ゲームの廃止を要求する。
土下座しそうな勢いで叫んでおり、このままだと駄々を捏ねるだけなので色々と考える。廃止することは一切考えないが。
「じゃあ、アレだ。国近先輩が佐鳥の分も飲むで手を打とう」
「絶対にやぁ!!むしろ佐鳥くんが私の分も飲むで!」
「見ろ、日浦。アレが人間の本性だ」
「なにを教えてるのよ!?」
生き残りたいが為に押し付け合いと魂の叫びをあげる国近と佐鳥。
「このままだと、このままだと……」
試合に勝つことは出来ない。
心の何処かで勝つことを諦めてしまい、どうにかして飲まない方法は無いかと佐鳥は探す。
「どぉらっしゃぁあああ!!」
「ひゃぁん!!」
探している間にもどんどんと点差は開く。
出水は全力のスパイクを叩き込み、レシーブしようとした国近はスパイクに耐えきれずに尻餅をついてしまう。
「は!」
そんな国近の姿を見てこれだと天命を授かる佐鳥。
マッチポイントなのもちょうどいいと直ぐに実行に移る。
「出水くん、頼んだよ!」
「長かった、本当に長かった……」
綾辻がトスで打ち上げたボールに向かって跳ぶ出水は今日の試合を走馬灯の如く思い出す。
すぐ近くで尻に敷かれている京介同様に出水はオジイの尻に敷かれ、シルバーシートにされている。アレほどまでの屈辱は自分の人生で無かったと一粒の涙を流す。
「貰ったぁ!」
スパイクを待ちわびていたと言わんばかりに跳び上がる佐鳥。
手を伸ばしてスパイクを防ぐ事は一切せず、かといって出水の動きを全く見ようともしていない。
「佐鳥、もしかして……」
「顔面にボールを当ててもらうつもりだな」
鰯水の本来の製作者である乾と全く同じ事をしようとする佐鳥。
この時点で貴虎は佐鳥に国近の分も飲ませてやろうと決め、周りもそこまでして飲みたくないのかと冷たい目を向ける。
「させないよ!!」
自分だけ鰯水を逃れようとするのを許せない国近。
佐鳥の海パンを掴んで一気に引っ張った。
「あ……」
「お前は見るな」
「なにがあったんですか!?」
その結果、海パンが脱げた佐鳥。
こうなることが分かっていた貴虎は佐鳥の汚物を見せるわけにはいかないと日浦の目を隠した。
「お前、そりゃあねえだろう!!」
バシィン!と綺麗な音を鳴り響かせスパイクを決める出水。
ボールは急降下していき佐鳥の顔面でなく、佐鳥の金的へと命中。
「ぬぅおおおおおおおおおん!!」
狼の如く吠える佐鳥はもがき苦しむ。
国近はどうしようかと佐鳥の海パンを見るのだが、なんだかバッチいと感じもがく佐鳥の上へと置いた。
「アレって、そんなに痛いの?」
「玲は知らなくて良いのよ!!」
3分ほどブレイクダンスの如く震える佐鳥。ついていない那須はどれほどのものかと貴虎に聞くのだが、熊谷に止められる。
「熊谷、お前もだ……無様だな、佐鳥」
「三雲、さん……ぎぃ!?」
痛みが収まり、苦しみから解放された佐鳥を見下ろす貴虎の手にはポカリスエットのスクイズボトルと鰯が握られていた。
それを見た佐鳥は今から自分がなにをされるのか気付き震える。
「あ、あのぉ……佐鳥はもう充分に罰を受けたかなって。三雲さんも男なら」
「ああ、分かっている……お前はもう充分な迄に罰を受けた」
必死になって鰯水を回避しようとする佐鳥。
貴虎の言葉を聞いて救われたとホッとする。そう、佐鳥は充分過ぎるまでの罰を受けた。だから、罰は与えない。
「と言うことで今から罰ゲームだ」
「え?━━むごぉ!?」
ポカリスエットのスクイズボトルを口に入れられる佐鳥。
「わざと顔面にぶつかって気絶したフリをしようとした事についての罰は与えない。だが、本来の罰ゲームは飲んでもらう……鰯水だけに」
貴虎は上手いことを言おうとしているのだが、全くと言って上手くない。鰯水と同様に美味くない。
ムギュウっと強くスクイズボトルを握ると鰯水は流れ出ていき佐鳥の口に入ると再びもがき苦しみ逃げようとするのだが貴虎に押さえ付けられて逃げることは出来ない。
「安心しろ、お前が居なくなったら頑張って私がツインスナイプを会得する。
なんだったら全ポジションを使いこなして新人育成とかも頑張る。指導する人、少ないらしいじゃないか」
「おい、あいつ死ぬの前提で話してねえか?」
「でも三雲が入るなら……根付さんがちょっと痛いだけで、弓場さんレベルの銃手が佐鳥と入れ換えなら大分好条件じゃねえの?狙撃手出来るなら太刀川さんに相談して入れて貰おうかな……」
余計な一言を言えば此方にまで被害が被る
米屋と出水は佐鳥が逝ってしまった場合の話を真剣にするのだが、佐鳥を犠牲に貴虎を入れるのは良い買い物だという事に気付く。
「三雲先輩は嵐山隊に入るので、スカウト厳禁です」
「とっ…ぉぉ……」
ベストフレンドにも見捨てられる佐鳥の意識はノックアウト。
白目を向いてビクビクと痙攣を起こしており、鰯水をどれだけ入れても溢れるだけだった。
「もう無理か」
「三雲くん……」
「空ですから国近先輩の分はありません」
佐鳥が終わったから次は自分がと怯えていた国近。鰯水が無いと分かればホッとするのだが、もしかすると自分もああなっていたのかという危機感を感じる。
佐鳥はorzの体制を取っており、尻を太陽に向けている。三枚目の佐鳥だから許される事だと尻に鰯が刺さっている佐鳥に合掌をする。
「さて、全員砂を落としてこい。今からバーベキューだぞ」
「お、待ってました!」
ビーチバレー大会。佐鳥が体を張ってくれた為に割と盛り上がりを見せた。
実力派エリート「はいどうも~皆の迅さんです!本日は急遽予定を変更し時空をねじ曲げてメガネくんと一緒にメロンくん達が遊んだ砂浜にやって来ました~」
メガネ(弟)「迅さん、アロハシャツが凄く似合ってますね」
実力派エリート「でしょお?これ、結構良いとこのアロハシャツなんだ。やっぱ海と言えばアロハだよね~」
メガネ(弟)「迅さん、僕は呼び出されて来たんですがいったいなにを……」
実力派エリート「次で原作に入るから砂の造形がボツになったんだ。
まぁ、造形大会なんて絵じゃないと面白味を感じれないしブルドック作者には限界があるからおまけコーナーで上手い具合に処理してって」
メガネ(弟)「ええっ!?」
実力派エリート「因みに次回のタイトルは【物語のはじまり ビギンズナイト】だ」
メガネ(弟)「良いんですか……そんな感じで」
実力派エリート「原作の方に追い付きそうになったら、サザエさん方式と言う名の謎時空が発生するだけだから気にしなくて良いよ。性転換ネタとか割と使えそうなネタはある」
メガネ(弟)「性転換……いとこ同士だと見た目が」
実力派エリート「メガネくん、そういうの言っちゃダメ!嵐山が小南の完全上位互換になるとか絶対に知られたらダメだから」
メガネ(弟)「分かりました。それで、先ずは誰の作品から見ます?あいうえお順で綾辻先輩から」
実力派エリート「メガネくん、死にに急ぐんじゃない!!ここは無難に茜ちゃんのにしよう」
メガネ(弟)「日浦のは……猫ですね。何体も並んでる」
実力派エリート「どうやら時枝と協力して作ったみたいだな」
メガネ(弟)「猫派同士の繋がりですか……細部まで細かく再現されてますね。この腹巻きを巻いた妖怪っぽい猫も」
実力派エリート「メガネくん、それ以上は言っちゃダメ!うちのスポンサー東映だから!」
メガネ(弟)「すみません……次は国近先輩は……ゲームの本体ですね」
実力派エリート「ファミコン、スーパーファミコン、メガドライブ、セガサターン、ドリームキャスト、PCエンジン、64、プレステ、GC、PS2、Wii……有名どころのハードは全て作ってるな」
メガネ(弟)「メガドライブのコントローラーのボタン3つ、忠実に再現してる……」
実力派エリート「小佐野は堤さんと協力してって、なんだこれ!?」
メガネ(弟)「ベッドで一緒に寝る夫婦の、奥さんが起きる瞬間を忠実に再現してますね」
実力派エリート「クオリティが半端ないなぁ」
メガネ(弟)「次は那須先輩と熊谷先輩のは……棺?」
実力派エリート「ドラキュラとかが入ってそうな十字架の棺じゃなくて、白雪姫とかでよく見る棺だな。御丁寧に花まで入ってるから那須ちゃんが入れば一瞬にして毒リンゴで眠らされた白雪姫を再現できる。」
メガネ(弟)「そうなると王子様役が熊谷先輩で……7人の小人が兄さん達で、お妃は……」
実力派エリート「ん~、あえての国近ちゃんで!狩人は茜ちゃんね!あ~でも、どうせならシンデレラの方がおっと、脱線しかけた」
メガネ(弟)「佐鳥先輩と烏丸先輩は……カーネルサ■ダース?なんでカーネルサンダー■を?」
実力派エリート「メガネく~ん、隠しきれてないよ。
ん~……どうも二人とも名前が鳥だからか鳥を作ろうとしたけど、思ったよりも難しかったからカーネルになったみたいだぞ」
メガネ(弟)「生き物から調理している人に変わりますか……」
実力派エリート「いやでも、カーネルの再現度高いよ。訴えられてもおかしくないレベルで」
メガネ(弟)「訴えられたら駄目じゃないすか!」
実力派エリート「砂だから全力で蹴飛ばせば問題ないよ。次は米屋と出水……」
メガネ(弟)「棒に二つの玉……!?」
実力派エリート「ボーダー最新鋭のトリガー、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃないか。完成度高いなぁ」
メガネ(弟)「迅さん、これって」
実力派エリート「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲、ボーダー最新鋭の禁じられたトリガーだ」
メガネ(弟)「二つある玉に金と玉って書かれてますけど」
実力派エリート「ヒロイン詐欺をしたゲームのラスボスを倒す為の必殺技みたいに自らが弾となって発車される自爆特効兵器。当初の予定では中村さんが金の玉に触れる予定だったんだけど、中村さんがちょっと……悠一さんなら居るんだけど」
メガネ(弟)「迅さん、上手いことを言おうとしてもダメですよ」
実力派エリート「やっぱダメ?」
メガネ(弟)「ダメですよ。アステロイド」
実力派エリート「メガネくん、壊すなとは言わないけど目の前で堂々と壊さないで!ヒュンとするから」
メガネ(弟)「すみません……流石に放送コードギリギリだと思ったので」
実力派エリート「それは間違いないよ。さて、お待ちかねの最後にとっておいたメロンくんは……わかめ大使?」
メガネ(弟)「まごうことなきわかめ大使ですね」
実力派エリート「メロンくんも声の人ネタをするの!?」
メガネ(弟)「見たいで━━待ってください、迅さん。あそこに!!」
実力派エリート「あれは……仮面ライダージオウの形態の一つ、仮面ライダージオウ ディケイドアーマーファイズフォーム?」
メガネ(弟)「違います、迅さん!ベルトがネオディケイドライバーです!」
実力派エリート「てことは、仮面ライダーディケイドジオウ ディケイドアーマーファイズフォーム……って長いな!」
メガネ(弟)「あっちには仮面ライダー斬月 極アームズが」
実力派エリート「よく斬月バージョンを作ることが出来たね……これはメロンくんのぶっちぎりで優勝かな?」
メガネ(弟)「迅さん、綾辻先輩のが」
実力派エリート「いやぁ、面白いのが見れてよかったよかった」
メガネ(弟)「まだ綾辻先輩のを見ていない」
実力派エリート「メガネくん、世の中には見てはいけないものと見てはならないものがあるんだ!!」
メガネ(弟)「それは分かりますけど、それとこれとは……」
実力派エリート「まずい、メガネくんが見てし……」
実力派エリート メガネ(弟)「ふんぐるいむぐるうなふくとぅぐあふぉまるはうとんがあ・ぐあなふるたぐんいあ!くとぅぐあ!」
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