母と二人きりで母に涙をハンカチで拭いて貰うという一種の羞恥プレイを熊谷に見られた。
「三雲くん、その人って……」
プルプルと震えた声で母さんを指差す熊谷。
修は母さん似だからよく姉弟と間違われるが私と母さんは余り似ておらず、どちらかと言えば父方の祖父に似ている。そのせいか色々と勘違いをされる。
「貴虎、知り合いなの?」
「たか、とら?」
「私の名前……一度、名乗ったはずだぞ?」
誰のことと首を傾げる熊谷。
名前で呼ばれることを好かないが覚えてくれないのもそれはそれで傷付き、落ち込む。
「そう……だったわ、ね……御幸せにっ!!」
「待て、熊谷!お前、確実になにか勘違いをしてる!」
急降下、物凄いまでの急降下!!
熊谷は声と自身の感情を圧し殺し、頬に一筋の涙を流すとその場から走り去って行く。
「はぁ、なにをやってるの?」
「本当になにやっているんだろう、私は!」
このまま勘違いをされたままだと困る。
私はメガネを外して遠ざかる熊谷の電磁波を視認し捉え、どうすれば良いのかどの道を歩めば良いのかを割り出して人混みを駆け抜ける。
「っ、追い付けない!」
着物を着て歩きづらい熊谷と普段着の私。
素の足の速さでも私の方が上だが人混みの中を追い掛けるのは如何に最適なルートを出しても難しく、距離が縮まらない。
「熊谷、話を聞いてくれ!」
声をかけて止めるも、むしろ速度を上げる熊谷。
多少のゴリ押し覚悟で突っ走るしかないのかと思っていると、速度を上げたせいか熊谷はバランスを崩してコケてしまう。
「っ!」
「着物は走るのには向いていない、大丈夫か?」
大きな怪我は無いものの、足を挫いている。
立てるかと手を差し伸べるのだがその手を弾かれて拒まれる。
「優しくしないでよっ……」
「泣いているのか?」
「泣きたくもなるわよ……あんな、あんな光景を見れば。
見せられれば分かるわ。親密度、全然違うわよね。私は、ううん、周りの人達も三雲なのに、あの人だけは貴虎って」
諦めようとして、それよりも他の事を見ないといけないと気持ちを切り替えようとしていた。
だが、ついさっきの光景を見て辛い現実を目の当たりにしてしまい、切り替えようとした気持ちが大きく揺らいでしまい、耐えきれずに涙を流す。
目の前にいる男の名前をまともに呼んだことはない。それどころか覚えてすらいない。対してあの人は何事もなく普通に呼んでおり、それどころか滅多に見せないであろう涙を拭いていた。格の差を見せつけられ、心を砕かれそうになる。
「いや、他にも貴虎と呼んでる人はいるからな」
「それって家族でしょ!……違うわね、三雲くんの事だからあの人も家族って言いそうね」
「あの人は母さんだから!!」
「あんな若い人がお母さんなわけないでしょ!
言い訳なんて、しなくていいから。米屋みたいに周りに言い触らすとかそういうの、しない、からっ!」
必死になって未練を断ち切ろうとすればするほど涙は溢れて止まらなくなる。
目の前にいる男はそれだけ良い男であり、そういう関係になれないと分かった後でも変わりなく接してくれる。私の言葉に耳を傾けない。耳を塞いで話を聞こうとしてくれない。
「分かってる、教えてくれたから知ってるの……スゥ……」
「これ、母さんの写真」
「……え?」
「父さんが現在海外で働いているので、その前にと撮った家族の写真」
受け入れたくない見たくない現実だと震える熊谷を正す。というか、訂正する。
父さんが海外に行く前に家族で撮った写真を見せるとキョトンとして固まる熊谷。携帯を渡すとスライドして母さんと修と一緒に写っている写真やこの前のイルミネーションツアーで撮った写真等を見ていく。
「本当に、本当に母親なの?」
「あれでも……よし、いないな。四十過ぎている」
また財布か棒が飛んでこないか確認した後、母さんについて伝えると段々と顔を真っ赤にする熊谷。
涙はいつのまにか無くなっており、代わりに間違えてしまった恥ずかしいと羞恥心に包まれており顔を手で覆う。
「……貴虎くん、見なかったことにしてくれる?」
「私が見なかったことにしても、母さんはハッキリと覚えているぞ」
後、サラッと名前呼びになったな。
「それでも、お願い」
「別に頼まれなくても忘れるさ……ところで今後は大丈夫なのか?」
「今後?」
「日浦」
日浦について訪ねるとなんとも言えない熊谷。
まだその日が来てはおらず、イレギュラー門の一件では出来る限りの被害は減らしておいた。怪我人は出ただろうが、死人は一人も出しておらず一番とは言わないがそれなりに良い結果になったはずだ。
それでもなんとも言えない熊谷。やっぱりイレギュラー門を出した時点でボーダーはダメだとか、隊員の見た目をプライバシーどうのこうのと言って修擬きにしたのがまずかったのか?
「受験する高校は三門第一にしてるんだけど、怪しいわ……茜、思ったよりも成績が悪くて」
「そっちでか?」
「ボーダーで必死に頑張るのは良いけど、この成績はちょっとって二学期の成績表を見て言われたらしいの。
うちは進学校じゃないからテストが難しいとかはないけど、かといって、防衛任務の穴埋め補習とかは無いしこのままだと学校の方を疎かにして補習組の仲間入りをしそうで……」
熊谷よりもちょっと下ぐらいの成績の日浦。
高校に入れば勉強も更に難しくなり、ボーダーはその辺のフォローは余りしない。そうなるとそれらを理由にちょうど良いからやめさせようとする。
それに関しては自主的に勉強する様にしてほしいのでなにも言わず、この前の電話をガチャ切りにした事について聞いたのだが、俯く。
「ボーダーで、その噂は持ちきりよ。
誰かがそれは違うとか否定したり実際のところはって上書きしたりする様な話をしていないし、大丈夫よね?茜が近界民に拐われるなんて事になったら、私は」
どう責任を取れば良いのかが分からない。
日浦を那須隊に誘ったのは熊谷で、那須隊として活動していたから拐われてしまったとなれば熊谷に掛かる罪悪感はとてつもなく重い。
才能の有無は別として前向きで頑張ろうと努力している熊谷にとってその罪の重さは背負い切れないもので、そうなってしまったら確実に今目の前で必死になっている熊谷とは別人に変わり果てる。
本当ならば色々と厳しい事を言っておかないといけないが今それを言えばさっき勘違いをした時よりも泣いて走り去るのは分かるし、何よりも自分で蒔いた火種だと熊谷の背中を押す。
「そこから先は言うな……なんとかなるし、なんとかする」
「どうしてそう言い切れるの?貴虎くんは、ボーダー隊員でもなんでもないんでしょ?」
「そうだ。だが、ボーダー隊員でなくてもやれることは沢山ある。
一先ずは前に進むことだけを考えろ……此処を乗り越えたとしてもA級に上がれないままだと、なに言われるかわからないぞ」
前に向かって頑張ろうとしている人の邪魔とか障害とかになるものならば神であろうとも滅ぼす。まだまだどうすれば良いのか作戦が浮かんでいないアフトクラトルの対処法。死ぬ気で頑張らなければと気を引き締め直すと勇気を貰ったのか熊谷は立ち上がった。
「ありがとう、貴虎くん」
「礼を言うのは早すぎる……なんも考えていないからな」
「それでも、その言葉が力になったわ。じゃあね」
熊谷は勇気を得たのか元気になり人混みの中へと消えていく。
「さて、戻るか」
誤解を解いて、正すという当初の目的は終えたので帰る。
来た道を戻り母さんが何処に居るのかと電磁波を逆算して探していると三輪の電磁波が視界に入った。
「三輪!」
「っ!」
「あけまして、おめで……逃げられたか」
ここで会えたのもなんだと新年の挨拶をしようと声をかけると逃げ出す三輪。
追いかけようと一瞬だけ考えるのだが三輪から私と会いたくないという感情とどうすれば良いのかが分からないという迷いがぶつかり合っているのを見て、それに私が直接触れる事はいけないとサイドエフェクトが言っているので諦める。
「よ!」
「三雲、あけおめ、ことよろ~!」
三輪を追い掛けるのを諦め、母さんを探そうとすると背後から出水と米屋が首に腕をかける。
「あけましておめでとう!今年もよろしくお願いします……と、三輪にも伝えておいてくれ」
「ん?秀次に会ったのか?」
「会ったけど逃げられた」
「あ~……」
出水、言いづらそうならばなにも言わなくて良いぞ。
「なぁ、三雲……お前の弟のメガネボーイの友達が近界民なの知ってるだろう?」
「知ってるぞ」
三輪に会った事を教えるどうすべきかと悩んでいた出水だったが米屋が爆弾を落とした。
米屋はなんの前触れも前振りも心理戦もせずにストレートに聞いてきたので私もストレートに答え、出水は慌ててさっきまで熊谷と一緒に居た場所に連れてくる。
「なんだ?ボーダーに連れていって記憶抹消するのか?それなら出るところは出るぞ」
「ちげえよ!!……そうじゃなくて、だな……」
三輪についてなにかを言いたそうだが言えない出水。米屋の方にチラッと視線を向けると代わりに教えてくれた。
「秀次の奴、ワケわからなくなってんだよ。
ボーダー嫌いのお前は近界民が嫌いだと思ってたし、上層部は近界民を入れるし、一部を除いてもその事について抗議とかそういうのしないしさ」
私はボーダーが嫌いである。理由は千佳を見つけれなかったり、別役の様に補習常連組を生み出したりしているのが主な理由でボーダーの本部付近が色々と遊んでる場所だったとかボーダーが本部を建てたり、誘導装置を使うからと警戒区域を作ったりして街の一部を閉鎖したり土地開発を中断したので急遽仕事を無くし一家離散したりしたのを見たので余り好きになれない。けど、ボーダーが頑張ってるのは知っている。そんな私のボーダー嫌いも大元を辿れば近界民がこちらの世界を襲って来なければよかったと三輪は思っている。確かに近界民が襲って来なければ本部を建てる必要も無いし、警戒区域も出来なかった。
「あん時、秀次はそんな筈がないってメガネボーイを白だと思ってた。
けど、蓋を開けてみればメガネボーイは真っ黒で近界民と一緒にいる。それどころか近界民はボーダーに入った。
近界民が憎い奴等も多く所属していて一番偉い人も排除する考えなのに、近界民を入れてその上、お前は知ってるんじゃないかとなってて、最近じゃ防衛任務でもまともに動けてないんだよ」
「割と大変な事になっているのか」
「他人事じゃねえよ、バカ」
「まぁ、そうだな……正直に近界民だと知っていると言った方がいいのか?」
この場合の対応がどうすれば良いのかが分からない。
三輪に正直に近界民だという事を知っていると伝えても睨まれるだけで終わる。大嫌いな玉狛の面々と同じ感じの扱いになるぐらいで終わるのがオチだ。
それはそれこれはこれと割り切っている事を伝えたとしてもお前は近界民の恐ろしさを知らないから、なにも失っていないからそんな事が言えるとキレられるだけだ。
「おれに言われてもな……それこそ、四年半前に家族を失くしても前に進もうとしてる人を紹介するぐらいしないと。そんな人、多分探しても居ないだろうけど」
すみません、その人物に物凄く心当たりがあります。
良かれと思って一つの未来を回避させたのだが、それが悪手だったと今頃になって気付いてしまう。
「三輪をどうにかしないと割と大変な事になる。修羅の道を歩みそうだ」
「修羅の道?」
もし三輪の意識を今のままにしておいたら、近界民だから悪とかそういう感じの考えを持ったままだとまずい。
今度の大規模な侵攻、それとガロプラの強襲。他にもこれから先あるであろうトリガーを使う近界民の襲来と色々とやって来るのだが、その考えを持ったままだと先ず間違いなく殺す。トリオン体をぶった切った後の生身の肉体をバッサリと斬る。
「三輪、と言うよりはボーダーにいる近界民を恨んでる奴等全員に言えることだが怒りの矛先が見えないままだと大変な事になる。
普段、この世界を襲ってくる奴等も悪いが最も悪いのが何処かと聞かれれば、先ず間違いなく四年半前に襲って来た近界民だ。そいつを斬らずに、そいつとは別の奴を斬れば今以上に三輪の憎悪は増えるだけでなにも変わらない」
もしなにかの拍子で四年半前とは別の近界民の親玉的なのをぶった斬って殺せば最後、復讐に成功したと少しだけ思って、まだまだ殺さないといけないと修羅の道を歩む。
その道が間違いかと言われれば間違いとは言えない。少なくとも普段から襲ってきている奴等は排除しなければならない考えは間違いないのだから。話し合いの場を設けることをすっ飛ばしていきなりの武力行使をしてくる奴等を善とは言えない。そういう奴等が争って争って争った末に出した結果がこの世界の今なんだから更になにも言えない。結局のところ生存の為の争いなのでなにが悪いかなにが正しいかなんて分からない。
三輪にかける言葉を考えてみるものの今の私にはそんなものはないと頭を悩ませる。
「あいつは、三雲は……」
一方、私から逃げた三輪は私のことを色々と考えており、頭を悩ませている。
私の口からは近界民は嫌いだと消さなければならないとは聞いたことはない。だが、ボーダーは嫌いだとハッキリと聞いている。それならボーダーが出来る原因となった近界民は憎いはず、そう思っていたが違った。
何時の間にか入隊していた弟が近界民との繋がりがあった。それは違うと友人の弟を守ろうとしたが上からの命令で渋々と動いた。友人からいい加減にしろとキレられた。回りくどい事をせずにハッキリとすれば良いとハッキリとした結果、黒だった。
「よぉ、秀次!あけましておめでとう!ぼんち揚げ、食うかい?」
「……なんの用だ?」
何故、なんでそんな事をと頭を悩ませていると迅が声をかける。
頭を悩ませているタイミングで近界民と仲良くしようぜと考える玉狛支部の人間と出会ったために苛立つ三輪。
「そう嫌そうな顔をするな。今日はお前にお年玉を持って来たんだ」
「いらん!!」
嫌悪感剥き出しの三輪に笑顔で接する迅はお年玉を入れたポチ袋を握らせる。。
修達に渡したぼんち揚げでなくポチ袋。お金を入れているのだろうと捨てようとするのだが手を止める。中に入っているのがお金でない事に気付く。
折り畳んだお金ではない。分厚く固く細長い金属の棒の様な物、三輪はそれに心当たりがあり中身を取り出すと目を見開く。
「風刃、だと……」
中に入っていたのはボーダーに2つしかない黒トリガーの一つで、迅の師匠である最上宗一の命で出来た風刃だった。
「なんのつもりだ!」
風刃は弧月と似た見た目のブレードで斬撃を伝播させる能力を持っており、弧月以上の切れ味とスコーピオン以上の軽さを持っているボーダーの誇る黒トリガー。
以前までは迅が使っていたが遊真の入隊にと城戸司令に差し出したもので、今は誰かの物でもなんでもない。勿論、三輪のものでもなく、三輪は風刃の適合者であるだけだ。
数多くいる風刃の適合者、中には銃手の弓場や射手の加古の様に剣を握って戦わない人もいるがそれでも剣を握って戦闘する物は多くいる。
例えばボーダー随一の旋空使い生駒さん。三輪と一対一で剣で勝負すれば三輪は一矢報いる事ぐらいは可能だが十中八九負ける剣の達人だ。だが、生駒は風刃と合わない。生駒の売りはボーダー随一の旋空であり旋空が出来ない風刃とはある意味相性が悪い。
例えばボーダーで唯一レイガストで10000ポイントを越える一条雪丸。彼もまた風刃とは相性が悪い。使っている武器が形状の似ている弧月でなくレイガストでありレイガストのオプションであるスラスターを改造していて風刃を使った戦闘とは大きく異なる戦闘をしている。
単純に風刃の性能と相性が悪い人間は居るものの、それ以外にも三輪よりも強くて風刃を使いこなせそうな適合者はいる。
例えば風間さん。目の前にいる迅を除けば風刃の適合者で最も強い隊員で、戦闘経験も遠征経験も豊富。使っている武器がスコーピオンから弧月に近い形状の風刃になっても使いこなせる技量を持つ。
例えば村上さん。弧月で10000ポイントを越える攻撃手4位の確かな実力を持つ。その上、強化睡眠記憶というサイドエフェクトを有しており、風刃の使い方を適合者の中でも最も早く覚えて生かすことが出来る。
三輪は強い。嘗てA級1位の部隊に所属していたこともあるほどで、その実力は確かだ。しかし上には上がいる。風刃の適合者ではあるが、自身よりも風刃を使いこなせる人や向いている人が要るのを知っている。
「くだらない同情か!俺はお前の施しは受けない!!」
姉を殺され、同じ思想を持っている上層部は近界民の入隊を認め、友人には裏切られた。
最近色々と動揺していて不調していることについては自覚しており、それを見かねての風刃かと迅に風刃を投げつける。
「違う違う。風刃の次の使用者はお前になりそうだから渡しに来たんだ」
「どういうことだ!?」
実力的にも派閥的にも風間さんが持つのが相応しい。
「最初は風間さんが次の風刃の使用者にってなったけど、風間さんは断った。
今の部隊でやった方が良いし自分の身に余るものだからって。んで、メディアの仕事があるからと嵐山と木虎は無し。雪丸、片桐、佐伯は県外のスカウトに行ってて此処には居ない。加古さんは剣を使えなくはないけど本職は弾だから後回し。弓場も同じで後回し。んで、お前に回ってきた」
「……村上さんや生駒さんがいるだろう」
使用を辞退、適合しても向いていないので後回しに現在本人が三門市不在と色々な理由でたらい回しされる風刃。
自分よりも強い適合者を上げるのだが、その二人は首を縦に振ることはない。来馬の元から離れるのは絶対に嫌だ、隊長をやめたくないと辞退する。
「あの二人は即座に断る、オレのサイドエフェクトがそう言っている。今いる人だと残りはお前になるからオレが届けに来たわけだ」
消去法で三輪が選ばれた。そこには迅の暗躍や裏工作は一切ない。
三門市には居ない雪丸達、風間さんが辞退、加古さん達攻撃手以外のポジは後回し。どれもこれも一応の納得は行く話で突き返された風刃を渋々と三輪は受け取る。
「……なにを企んでいる?」
だが、それで終わるほど三輪は迅という男を信じていない。
今の話は納得が行く。自分に風刃が回ってもおかしくはないのだが、わざわざそれを届けに来る必要は何処にもない。もうすぐ大規模な侵攻があるとされていて時間が無いとはいえ、迅がそれを届けに来るのはおかしい。司令が適合者一同を呼び出せば良いだけの話である。
「ん~……ぶっちゃけると企めなくなってるんだよな」
「なに?」
「その内起きる大規模な侵攻の被害を出来るだけ最小限で食い止めないといけない。
その為にお前以外にもこれから裏で色々とするけど、一番重要なところがおかしくて見えない」
「?」
言っていることがよく分からない三輪。
迅のことは嫌いだが、迅の強さや恐ろしさはハッキリと分かっており、未来視のサイドエフェクトの凄まじさも知っている。それなのに迅は少しだけ焦っている素振りを見せている。
「メガネくんと今度入る玉狛の新人の二人、その三人が侵攻の鍵を握る筈なんだけど、どうもオレのサイドエフェクトがここ最近ハズレまくってて読み逃しが多い。
ついさっきも加古さんに会ったんだけど年末に会った時と未来が大きく変わってさ……幸い、って言うのもなんだけどメガネくん達が相手に狙われたりして危険な目に遭うのだけは確かなのが分かってるから、今の時点で手が開いたフリーなお前に助けてって頼みに来たんだ」
「ふざけるな!お前が引き入れたのなら、お前が守れ!何故玉狛の、それも近界民に手を貸す必要がある!」
「オレもそうしたいんだけど、結構な確率でその時に居ないんだ。
未来は決まっていないし無限にあるのは分かっているけど、その侵攻だけはどうも不安定過ぎる」
言うまでもないが、原因は私である。
迅は私の顔を知らない。名前を知ってるぐらいのレベルであり交友もなにもない。そのせいか私がサイドエフェクトで見える未来に入っておらずにおかしなことになってしまっている。
「お前はメガネくん達に力を貸す未来がやって来るよ……多分」
余りにも不安定な未来で、迅はそれを確信することが出来なかった。
分かっているのは修達が危険な目に遭い、大怪我どころか死んだり拐われたりする未来が存在していることぐらい。
「そんな未来は、こなっ……!?」
三輪は利用されるのは御免だと再び風刃を突き返そうとするのだが迅の手は震えていた。
大事な後輩達が危険な目に遭うことだけは分かっている。ならば、最初から遭わない様にすれば良いだけだ。
目の前にいる男ならばそれは容易い事だがそれを一切しようとしない。ボーダーの隊員になったからには尽くせ!という軍隊の鬼教官の様な考えを持っているからではない。それしかないからだ。
その気になれば修達が危険な目に遭わないようにすることぐらいは迅にとっては朝飯前だ。手っ取り早い方法として侵攻があるかもしれない期間、三門市から追い出せば良い。それだけで危険な目に遭わないようになる。
だが、そういったことを一切していない。裏でこそこそと暗躍をしようとしている迅。
そうしなければ、修達が犠牲にならなければより一層大きな被害が生まれる未来を視ている事に三輪は気付く。
10の内の1を切り捨て9を選ぶ、9を切り捨て1を選ぶ。
迅にはどちらの様々な結果が見えている。
「頼んだぞ、秀次」
迅はそう言うと消えていった。
「くそ……くそぉ!」
居なくなった迅を思い出し、三輪は叫ぶ。
大切な者を失った苦しみを三輪は知っている。だが、これから先、大切な者が苦しみ死んでしまうのを視ることしか出来ない苦しみを知らない。迅はそれを今現在味わっている。
手を伸ばせば救うことが出来る。だが、救えば最後大勢の誰かが犠牲になる。それを迅はハッキリと見えており、大切な後輩と大勢の誰かを天秤に架けて、大勢の誰かを選んだ。
朝、テレビをつけて名前は知ってるし聞いたこともあるが行ったことのない遠い土地で事件や事故が起きて、誰かが死んだとニュースが報じられれば被害者可哀想だなと加害者馬鹿野郎だなと大抵の視聴者は他人事である。視聴者にとっては他人事、それは仕方ないと言えば仕方ない。自分が行ったこともない土地で馬鹿が馬鹿をやらかしたので全く無関係なのだから。だが、当事者達にとっては被害者や加害者と親しい関係の人達ほど他人事ではならなくなる。
被害者と親しい人達は悲しみの涙を流し、加害者を憎む。加害者に親しい人達は加害者に失望し、加害者を怒る。全く無関係で極々一部の情報だけを知った視聴者は他人事である。
つまるところ、なにがいいたいかといえば迅にとって見知らぬ一般の誰かよりも修や千佳、遊真の方が大事な存在だ。
三人が大成功を納めれば見知らぬ誰かが大成功をした時よりも喜ぶし、三人が傷つけば見知らぬ誰かが傷ついた時よりも悲しみ怒る。
迅にとって修達が大事な存在だと少しの会話や風刃を城戸派に差し出したのを見れば分かる。
それでも、
「ふざけるな……ふざけるな、迅……」
大切な人を失う(かもしれない)道を選んだ迅に今にでも朽ち果てそうな声を出す。回避できるのに手を伸ばせば届くのに選んではいけないと迅は我慢をしている。
姉の命を奪った近界民を憎んでいる。自身と似たような境遇の人が居て近界民を憎んでいる人達は多く居る。近界民と仲良くしようとする玉狛は愚かだと思っている。
持っている憎悪は本物なのに、誰だって憎んでいるのに、迅が我慢をしているのをみて、迅が自分よりも辛い道を自らの意思で選んでいるのを見て、比較をしてしまう。まるで自分が癇癪を起こしている子供だと思ってしまう。どうして風刃を返すことが出来なかったのだと手が震えていき段々と弱っていく。
「あの、大丈夫ですか?」
そんな三輪に声をかける修。
「三雲、修っ!!」
近界民と親しくしている玉狛派の人間!と修に声をかけられた事により弱っていく自分を制御する。
胸の中がモヤモヤしてどうすれば良いのかが分からないがこいつには頼るつもりは無いと意識をしっかりと保つ。
「え……貴方は、確か」
「オサム、どうかしたか?」
「っ、ねい、ばぁ……」
「む……」
そんな修とセットでやって来た遊真。
三輪は城戸司令から事前に話を聞いており、遊真も私から顔写真を見ており互いに顔だけは知っている関係で三輪はボーダーのトップが認めた事だからと今にでもぶつけそうな様々な感情を抑える。
「あのさ、おれのことを知ってるんだろ?だったらさ、手伝おうか?」
「手伝、う?」
「この街の人達が憎んでる近界民。
おれの持ってる情報とかレプリカの能力があれば、何処の国が何時襲ってきたとか何時ならば襲えたとかがある程度は割り出すことが出来ると思うよ」
「……ぁ……」
「っ、大丈夫ですか!!」
城戸派の多くは近界民を憎んでいる人達で構成されており、その怒りや憎しみは当然だと思っている遊真。
四年半前に襲ってきた近界民は何処なのか割り当てようかと聞いたのだが、それを聞いた為に三輪の糸は切れて意識を失った
三雲貴虎
DANGER TRIGGER
????
トリオン 25
攻撃 60
防御・支援 84
機動 30
技術 8
射程 10
指揮 0
特殊戦術 99
TOTAL 317
貴虎の持つトリガーの中でも最も強く最も危険で現時点で変身したら人体に影響を及ぼすので変身するつもりは無い。
「意識を失った三輪は目を覚ますとボーダーの本部に居た。
遊真の一言が頭から消えず、どうすれば良いか分からず思い悩む三輪は一つの決断をする。次回、ワールドトリガー【風刃起動】に、トリガー、オン!!」
ギャグ短編(時系列は気にしちゃいけない)
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てれびくん、ハイパーバトルDVD
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予算振り分け大運動会
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切り抜けろ、学期末テストと特別課題
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劇団ボーダー
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特に意味のなかった性転換
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黄金の果実争奪杯