「大丈夫でしょうか?」
「それはどっちに言ってんだ?」
誰も戦いを観戦する事は出来ないと待つ修は心配をするのだが、どちらに言っているのかと米屋は問いかける。
自身と仲の良い近界民がボコボコにされているが心配なのか気持ちの整理をするべく怒りのままに暴れまわる三輪の心配なのかと。
「両方です、空閑も心配ですが三輪先輩も心配です」
「両方ね……」
どちらも心配する心は美しいが、今はそんな美しさは必要ではない。
いざ遊真を近界民だから殺すとなった時、修は躊躇いなく遊真の肩を持つ。出会って間もなく少ししか会話していない米屋は修をお人好し過ぎるメガネボーイだと感じ、貴虎とは少し違うと感じる。
「一回だけの勝負だってんだから決着は直ぐにつく。
ただまぁ、それが本当の意味で決着がつくかどうかはおれにもわからない……あいつがボーダー隊員だったらな」
ただただ見守るだけでなにもすることが出来ない出水達。
諸悪の根元とは言わないが、三輪の不調の大きな要因である貴虎はこの場には居ない。ボーダー隊員ではないからいない。
本当ならば此処にいて一番悩んだりするのは貴虎だと出水は考える。
「なぁ、メガネくん。あのちっこいのが近界民なのをアイツは知ってんだろ?
自力で近界民がどうのこうのを当てたから記憶操作しても無駄なのは分かってるし、上に伝えて良いか?」
この場に居てはいけないが居なければならない。
理論にはダメで感情論ではこの場にいろと思い、貴虎のことを通報してやろうかと修に許可を取ろうとする出水。
「余計な事はするな、出水」
「どもども」
その時、汚れた私服姿の三輪と頭が爆発してパンチパーマになっている遊真が戻ってきた。
一緒に歩きたくないのか、人2個分の距離を開けており修は遊真に、出水と米屋は三輪の側による。
「どうだったんだ?」
「ふむ……」
「秀次、大丈夫か?」
「問題はない……とは言い難い」
「服、汚れてるけどなにがあったんだ?トリガー使ったんじゃねえのか?」
「「……負けた」」
二人の口から語られた結果、それはどちらも同じだった。
「引き分けってことか?」
どちらも負けなれば引き分けだ。
それなのにそう言わない三輪と遊真。米屋が引き分けかと訪ねれば違うと両者、首を横に振った。
「あれは俺の負けだ」
「いや、おれの負けだよ」
自身が負けたと変わった事で譲り合わない二人。
「風刃を使ってもお前を倒すことは出来なかった」
風刃を起動し、奇襲を仕掛けるも完全に倒すことは出来ず遊真の腕を切り落とし、傷を残すのが限界で攻撃に特化しすぎており、その能力を迅以上に使いこなせるものはおらずはじめて使った三輪は使いこなすことは出来なかった。
最後の最後に偶然に閃いた緊急脱出の直前にトリガーを解除しての風刃を起動という初見のみ通用する奇策はもう二度と使えない。これは勝ったことにはならない。
「ボーダーは一人じゃなくてチームで動くんだろ?」
対する遊真は序盤に調子に乗っており、最後の最後に三輪が緊急脱出前にトリガーを解除し風刃を起動させた奇襲で腕を持っていかれた。トリオンが空にはなっていないものの、三輪が遊真につけた傷は大きく米屋や奈良坂が居た場合は負けていた可能性が大きい。
何年も黒トリガーを使っている自分と攻撃に性能が片寄りすぎていて尚且つ今回、風刃を使うのがはじめての三輪。勝つのは言うまでもなく自分だろうが、辛勝でなく快勝でなければならない。
勝負には遊真が勝った。だが、これが試合ならば遊真の負けだ。
勝負に三輪は負けた。だが、これが部隊を率いての戦闘ならば三輪は勝っていた。
勝負に負けて試合に勝つという、試合に負けて勝負に勝つという何とも言えない結果で幕が引いてしまった。
「そこまでにして貰おうか」
どういったことなのか細かな詳細を聞こうとすると城戸司令が止めに入る。
「今回の一件は、特例中の特例だ」
如何なる理由があろうとも私闘は出来ない。しかし、今回は特例中の特例としてやらせた。
もしこの噂が広まればややこしくなったり自分も戦わせろと言う人(太刀川)も出てきそうでこれ以上、この件に関して根掘り葉掘りすれば大事になる。
「分かりました」
「……君の中で、どうすれば良いのか決まったようだな」
根掘り葉掘り聞くなと言われてあっさりと三輪に手を引いた。
三輪は数日前と、いや、今までと比べて落ち着いた雰囲気になっており自分の中の迷いや怒りの矛先の向けかたを整理する事が出来た。
「俺は近界民と仲良くすることなんて一生出来ません」
近界民と仲良くすることなんて、一生出来ない。例えそれが友好的な近界民であろうともだ。
玉狛の考えとは一生相容れない。それが三輪の出した答えで
「俺は姉さんの仇を取るために四年半前に襲ってきたトリオン兵を送って来た国を滅ぼします」
割り切ることは出来た。
三輪は遊真達とは仲良くするつもりは無いとバッサリと一線を敷いた。そしてそこから本当に見ないといなければならないものを見ようとする決意をし、本当に倒さなければならない敵を意識する。
「城戸司令、その近界民は色々な情報を持っています。
ボーダーの持っている情報と合わせれば、四年半前に襲ってきた国を割り出すことが出来る筈です……だから、約束してください。どんな事があろうとも、その国には今回の、こいつの様な特例を一切作らないでください」
その国が和平しようとどれだけの好条件を出そうとも、その国の黒トリガーを献上しようとも滅ぼす。滅ぼすチャンスは貰わず自力で掴むつもりだ。城戸司令はこれから先、大人の判断や決断をする時が沢山やって来る。だが、それをその国にだけはしないでくれと願う。
「近界民は全て排除する。私の考えはただそれだけだ」
「……はい」
ハッキリとした答えを言わなかったものの、それだけはしない意思を城戸司令は背中で見せて去っていった。
「で、どうする?今の内に、何処の国が襲ってきたのか割り出す?」
「今はその時じゃない。お前達も聞いている、いや、お前達が言い出したことだがもうすぐ大規模な侵攻がある。割り出すのはそれら全てが終わってからだ。遠征に行く権利すら無い今のままだと、絵に描いた餅だ」
「絵に描いた餅?……」
「実現することができないことだよ……」
三輪隊は遠征部隊に選ばれていない。何処の国か知って復讐の炎を燃やし続けても、無駄である。その期間、怒るのでなく刃で相手を斬れるように極限までに研ぎ澄ませる。
「陽介、出水、すまなかったな」
これからの目標や生き方が見えたが、それまでに迷惑をかけた二人に謝る三輪。
二人は三輪に未来が見えたことが何よりで大喜びをするのだが、修はあることに疑問を持つ。
「あの、三輪先輩が風刃を使うということはS級になるんですか?」
「あ、そうだった。どうすんだ?オレはお前がS級になるのは反対しねえけど、奈良坂と古寺とオレだけじゃA級はやってけねえから解散するぞ」
このままS級になって戦うかどうか。チームメイトである米屋は反対こそしないが、そうなれば三輪隊を解散しなければならない。B級ならまだしもエリート揃いのA級、三輪の抜けた三輪隊はA級最弱の部隊になってしまう。三人だけで上手く回せないので、それならば今の迅の様にフリーになる道を選ぶ。
「風刃は迅以外に使いこなせる隊員は居ない。こいつと戦ってそれがハッキリと分かった。
後で城戸司令に俺がS級になって使うのは無理だと返すつもりだ……これはムカつくが迅にしか使いこなせない」
遠隔斬撃と斬撃を時間差で放つと色々と頭を使う能力の風刃。
迅は未来視で未来を見て、どうするかどう戦うか展開を組み立てて風刃の能力をフルに使う。三輪も考えて戦うことは出来るのだが、迅の未来視を使った展開の組み立てと比較すれば劣っている。その辺のトリオン兵ならまだしも、これを使ってくれと頼まれた時は大規模な侵攻がある時だ。今までとは段違いな相手がやって来るのは明白だ。
「そうか……よかったぁああああ、隊を解散させなくて」
「お前、フリーになったら何処かに飛ばされそうだもんな」
三輪がS級にならないと分かり安堵する米屋。解散したら確実にフリーな部隊に入れられる。
「そうなった時は、もしこれを返しても使えと言われてS級になるなら俺の代わりを用意する」
「お前の代わりって、迅さん?」
既に万が一も考えている。
A級のフリーで部隊を率いて即戦力になりそうな人物、つい最近A級になった迅。
彼ならば太刀川や風間とも渡り合えて戦術も考えることも出来るし判断能力やらなんやらとあり、三輪の代わりをが務まる。
「あいつの力は借りん」
だが、三輪は借りない。
それはそれこれはこれと割りきることはなんとか出来たが迅が嫌いなのには変わりはない。じゃあ、誰が居るんだと考える出水。
ボーダーにA級隊員並の実力を持つB級は何処かの部隊に所属している。支部に所属している学業優先でランク戦をしない奴の知り合いはいないし、フリーで強いのは迅ぐらい。
他に誰か居たかと色々と強い自身と親交が深い隊員を浮かべるのだが、何処かに所属している。
「いい加減に、決着をつける」
三輪は携帯を取り出し
『はい、もしもし』
貴虎に電話を掛けた。
「三雲」
『……自分の中での落とし処を見つけたのか?』
「謝るつもりはないのか?」
『お前を苦しめた事については罪悪感はある。
だが、やったことに関してはなんの後悔もしていない……俺はお前と同じ憎しみを抱いたりしていない』
「そうか」
騒動を起こさない為にやったことが結果的には裏目に出た。
その事についての罪悪感はある。だが、遊真を通報しなかった事などは一切の罪悪感を抱いていない。
『出せたのか、お前なりの答えを』
「ああ、出すことは出来た……三雲」
『なんだ?』
「俺に対して、本当に申し訳ないと思っているのか?」
『ああ、思っている』
「そうか……だったら、俺に力を貸せ」
『?』
「ボーダーに入れ、三雲」
三輪がもしS級になった時、その代わりとなる人物、それは貴虎だった。
「今までの事も考慮して言おう、ボーダーに入って俺に力を貸せ」
『力をね、エンジニアになって凄いトリガーでも開発すれば良いのか?』
「違う。隊員になって、戦え。
お前はボーダーに入る条件をとうの昔に満たしている。理由は知らないがお前がボーダーが嫌いなのは知っている。お前の弟がボーダーにいるのも知っている。なら、お前も戦え。師匠が必要ならば、幾らでも用意する。射手になるなら出水が、攻撃手になるなら陽介がいる」
自分は憎しみと向き合う事をした。ならば次はお前の番だ。
今まで色々と見逃したりしたものの、今回は違うと全力でスカウトをする。
サイドエフェクトが発現しており、視力を強化するもので遠くのものを見れたり動体視力に優れたりと、どのポジションでも生かすことの出来る優れたサイドエフェクトだ。感覚と理論、両方を両立する非常に珍しいタイプで自主的に勉強するタイプだ。生身のスペックは目の前にいる米屋よりも上で隊員となれば直ぐに頭角を現す。そして生身のスペックが高くても何れは限界が来る。だが、17歳組最古参の三輪には沢山の人脈がある。もし射手になるならば目の前にいる出水や二宮を紹介できる。攻撃手ならば風間や米屋を紹介できる。狙撃手になるならば奈良坂や古寺を紹介できる。戦術を覚えたいのならば東を紹介できる。なんならば貴虎が今まで作ってきた人脈を使えばもっともっと指導してくれる人の幅が広がる。
一流から教われば直ぐに自分の代わりを務まる。いや、トリオン能力やサイドエフェクトを考慮すれば自分以上になる。
『隊員になって戦えか……少し待ってくれ』
「ダメだ。今ここで待てば、次は5月になる。5月だと遅すぎる。今ここで無理矢理捩じ込ませる。俺ならばそれが出来る」
新入隊員に捩じ込む。
遊真が近界民なのを知っていることや裏で色々といらんことをしていることを城戸司令に言えば、捩じ込める。一週間後に入隊式があるのだから、今ここで捩じ込まなければならない。
『悪いが、1ヶ月後じゃないとお前の力になることは出来ない』
通常の方法でボーダーの入隊をするならば貴虎は5月入隊になる。
貴虎のスペックならばちょっと叩けば、いや、叩かなくても化ける。来年は高校三年生、進路の年。そんな時期に入隊になると学業を疎かにしてボーダーに尽くしてくれとは言えない。ボーダーと学業の両立や、ボーダー隊員としての生活を馴れさせる為にも入れるには今しかない。
「っ……まさか、お前!?」
やるならば即座にやらないといけない。
貴虎はそんな事が分からない馬鹿じゃない。自身に対して罪の意識があるのに、1ヶ月待てと言う。
今から1ヶ月以内にある出来事、三輪が知る限りは新隊員の入隊ぐらいだが、一つだけ時期は不確かだかそれが起きると言う事が確かに分かっていることがあった。
『三輪……何故、修が近界民を見つけられたのか?』
遊真が見つけたと大半は思っている
『何故、修がトリオン兵を持ってきたのか?』
その時、遊真が近界民だと知られれば確実にややこしくなるから修が持っていったと思っていた
『何故、修がラッドは此方の世界に偵察に来たとボーダーに言ったのか?』
遊真がラッドについて知っており、通常とは異なる改造をしているのをみて考察したと思っている
「兄さん、それは!」
『三輪、その答えは、ただ1つ……全て私が裏で手引きしたからだ!!』
三輪は貴虎が遊真について知っている、知識とほんの少しの知恵があるとの認識だった。
だが、実際は違う。ここ最近、起きた大きな出来事全てに貴虎が大きく関与している。トリオン兵を見つけたのも、壊したのも、偵察に来たという考えに辿り着いたのも全て貴虎だ。
「マジかよ……今までの、メガネボーイの手柄じゃねえのか!?」
この場にいる米屋や出水にも話が聞こえ、修に視線が向く。
「はい……今までのは、全部兄さんがしたことです。
あの日、ラッドを見つけたのも破壊したのもボーダーの偵察をしに来たと考察したのも全て兄さんです」
今まで言うなと言われたが、本人が言った。
修は隠す必要は無いとラッドの一件は自分でなく、全て兄と遊真の手柄で届けただけだと告白をする。
「僕は、兄さんに手柄を渡されただけで、本当なら」
「見つけた功績がお前に行ったことはそこまで重要じゃない」
衝撃の事実を知るも、ラッドの一件については既に終わっている。
今更それをどうのこうの言ったとしても、修が届けて根付達に偵察に来たかもしれないと伝えた事実は変わりない。
「もう、オレ、本部長とか司令とかに言ってくる!」
「おれも付き合う」
今までの出来事の裏に貴虎が居た。
ボーダーの真実について知っているだけならばまだ良かったが、裏で色々と手引きしたことは米屋や出水は見過ごせず、本部にいる忍田本部長や城戸司令にその事について報告して引っ張り出そうとする。
「待ってください」
そんな二人を止めに入る修
「メガネボーイ、どうしてかって細かな理由は知らねえけど、あいつがボーダーが嫌いなのは知ってる。
ボーダーが色々と隠してたりダメだったりする部分も知ってる。あいつが嫌いだから好きになってくれなんてオレは言わねえ。けど、これとそれは別だ」
「裏で色々と手引きしていた事に関しては、まぁ、色々と言われるけどおれ達もその辺のフォローをするし、今の時点で悪い事はしていない。メガネくん、退いてくれ」
「……分かっています。
兄さんがどれだけボーダーに迷惑を掛けているのかを、三輪先輩を追い詰めたのも……それでも、1ヶ月待ってください!兄さんの言う1ヶ月だけ待ってください!」
修は頭を下げ、通報するのを1ヶ月だけ待ってほしいと頼み込む。
既に兄が、兄と自分がしでかしたことがどれだけの事かを知っている。だが、それでも1ヶ月が欲しい。
「1ヶ月……1ヶ月あれば良いのか?」
「おい、秀次見逃すのか!?」
「少し黙ってろ。もう一度聞く、1ヶ月の期間があれば良いのか?」
『1ヶ月あれば、なんとか……まぁ、その時まで生きてたらなんだが』
修と三輪はどうして貴虎が1ヶ月待ってほしいと言うのか分かった。
この1ヶ月の間に大規模な侵攻が起きる。修は貴虎が大規模な侵攻の際に戦うことを知っている。今もしボーダーに見つかるとややこしくなる。
「そうか……そういうことだったのか……」
三輪はついさっきあった事を思い出す。
風刃を託そうとする迅、何時もの様に暗躍かと思ったがそれが出来なくなっていると何時もの様にヘラヘラしていたが本気で困っていた。
迅の暗躍は未来視のサイドエフェクトで成り立っている。視た未来の中でも良い未来に辿り着くようにしたり辿り着かないようにしたり色々としている。迅が未来を視るにはまず顔を見なければならない。
その内襲撃してくる近界民達の顔を迅は当然知らない。だが、その近界民達と戦うボーダー隊員の顔は知り尽くしている。近界民達と戦う隊員を経由し逆説して未来を視て暗躍……しようとしていたようだが、肝心な部分が不安定だと言っていた。ここ最近、自身のサイドエフェクトがハズレていると読み逃しが多いと言っていた。
「お前だったのか」
迅が未来がうまく見えないのは、サイドエフェクトがハズレているのは貴虎が原因だ。
三輪はその事に気付いた。
貴虎は現在三門第一(普通校)に通っている多くのボーダー隊員と顔見知りだが、迅と面識は無い。迅のサイドエフェクトは顔を見なければならないのだが、迅は貴虎の顔を一度も見たことがない。見る機会がないし、わざわざ見る理由も無い。
だから、貴虎が深く関与する未来がよく見えない。
「……1つだけ聞かせてくれ」
『なんだ?』
「お前の名前だ」
『お前一年の時、私の後ろの席だった筈だが』
「……全員が三雲と呼んでて、忘れた。多分、殆どの人が忘れている」
『そうか……私は、下の名前で呼ばれるの好きじゃないから名字呼びのままでいい』
「……」
『貴虎、三雲貴虎だ……』
貴虎は名前を告げると電話を切った。
三輪は数秒間無言で携帯を見つめたが電話を掛け直す事はせずにポケットにしまう。
「三雲、アイツは俺達にまだなにかを隠しているな?」
「……はい」
「そうか……いくぞ、陽介、出水」
まだなにかを隠し事があるのを確認した後、三輪は修達に背を向けて出水と米屋は追い掛ける。
「報告しねえの?」
貴虎の事を報告するならば、今歩く道とは真逆の道を歩かないといけない。
だが、三輪は報告する道を歩かない。
「陽介、アイツは1ヶ月待てと言った。1ヶ月を過ぎれば、問答無用で城戸司令や根付さん達に伝えて鎖で縛ってでも本部へと連行をする」
「おいおい、物騒だな」
貴虎の言うとおり、1ヶ月待つ。だが、それを過ぎれば強行手段を取る。
「……お前達こそ、通報しないのか?」
三輪はそう選んだが、それを選べとは強要をしていない。
さっきまで通報する気満々な出水と米屋は自身を追い掛けており、司令の元にも本部長の元にも行こうとしない。
「通報しなきゃならねえのは分かってるよ。けど、今通報しても大して意味もねえって気付いたんだよ」
此処で米屋が司令に言えば、連れてこいと指示が来る。そして1ヶ月待てと言っただろうと貴虎はキレて、絶対に来ない。
「強行手段を取って連れてきても、城戸司令が直接会っても大して変わらねえ」
遊真が近界民だと言うことはボーダーの重要機密の1つであり、それを知られるのはボーダーの威厳とかに関わる。
貴虎がボーダーに入れば済む話となるが、貴虎は1ヶ月の猶予が欲しいと言っていたのでそこで断る。そうなれば記憶を操作するのだが、遊真が近界民以外は記憶を操作しても無駄なことだ。
まぁ、実際のところは記憶を操作しても私の記憶が操作されているという事実に気付き、なにかやらかしたんだなとメモとか記録を見たりして補填して無駄になる。
「1ヶ月待てば協力してくれるんだし、今ここで無理矢理動けばメガネボーイも知る隠している事が分かんねえ……それに」
「なんだ?」
「秀次が我慢してんだ、オレ達も我慢しねえと」
米屋は城戸派の人間だが近界民に対して恨みはない。
出水も米屋も命令だから従っているところがあり、ちゃんと話し合いをすれば通じる相手ならば話し合いをしたりするし、良いやつならば友好的な関係になろうとする。
今、通報しなければならないのは分かっている。そして誰よりも通報しなければならないのが三輪なのも分かっている。その三輪が通報をせずに待とうとしているのだから自分達も待たなければならない。
「お前が言わないならおれ達も言わない。
あ、でもコレが原因で降格処分をくらったらそん時は三雲に責任を取って貰おうぜ。おれ達四人で部隊を組んでよ」
「……ありがとう、陽介、出水」
そんな二人の気持ちに三輪は感謝をする。
「え、え?なんて?秀次、今なんて言ったんだ!?蟻が十?」
「大声で頼む!!もう一回、あ、出来れば保存用と観賞用と布教用と生で聞きたいから4回頼むわ!!」
滅多な事じゃ聞けない三輪の心からの感謝の言葉。
出水と米屋は興奮をし、携帯を取り出して馬鹿騒ぎをしたのでさっき言ったことを撤回してやろうかと、二度と礼は言わないと自らで墓穴を掘る三輪だった。
「オサム」
「どうした?」
そんな三輪達の割と直ぐ後ろにいる修と遊真。同じく帰ろうとしているのだから、同じ道を通るのは当然である。
「オサムのおにいさんはなにを隠しているんだ?」
近界民や自身の事から何時の間にやら貴虎の話題になり、取りあえずと無言で聞いていた。
その結果、自分も知らない隠し事があると判明した。
「1ヶ月待ってくれないか?」
「むぅ、オサムもそれか」
「隠している事はとんでもない事なので口止めされてるし、ボーダーが今、それを知ったら揉める」
ボーダーに入り、自分の目で色々と見たり確かめたりしてハッキリと分かった。貴虎の持つトリガーはボーダーの物とは明らかに違う。
転生特典だから仕方ないといえば仕方ないのだが、それが今から色々とややこしくなろうとする時期に知られれば、大変な事になる。だから、待ってほしい。
新年早々に重たい事があったものの、その後は楽しく三ヶ日を過ごしていく修達。4日からは通常運転と正月ボケや正月太りなんて事にはならず、玉狛支部へと足を運び続け1月8日、入隊式を迎えた。
当小説が二乗ほど面白くなるおまけコーナーと言う名の設定とか裏話!!
Q メガネ(兄)が壊したラッドってなんでトリオンが残留してなかったの?
A メガネ(兄)が近所迷惑覚悟の上で生身の全力で電柱とかに何十回も叩き続け着実と凹ませ、破片が出来たらその破片で叩いてぶっ壊したから
Q スカルとかについてどういう感じに伝わってたりするの?
A 最重要機密の1つで二宮隊、風間隊、レイジ、東は鳩原の一件で邪魔してきたやつと知っており、太刀川とかには人型の近界民を逃したとだけ伝わってる。
Q 貴虎の懐事情について
A 母名義1つ本人名義の銀行口座を2つ、計3つ持っており、一つは個人用、もう一つは将来の為の預金でありどちらにも結構な額が入っており、それを遥かに上回る額がボーダーへの出資用の母名義の通帳に入っている。サイドエフェクトをとことん利用し、株やFXで儲けており株主優待券等は名義を貸している使用料として母が所有し、本当に必要な物以外は全て質屋で売り払い、売られたお金は貴虎すら存在の知らない第4の通帳に入れられている。
Q 作者はガチャで爆死しましたか?
A 福袋とは別に、ピックアップでギルガメッシュ来るなんて聞いてないよ。ギルガメッシュ、そっちで引けるならそっちで引きたい。
Q 頭の中でピロロロロロ…アイガッタビリィーと流れたりするんですが?
A 気のせいです。
次回予告
入隊日、早速頭角を現す遊真と圧倒的なトリオンを見せつける千佳。
そんな中、修はA級3位の風間に勝負を挑まれるも到底、敵わない。その時、風間の言った一言により修は立ち上がる。次回、ワールドトリガー!【メロンの兄/メガネの弟】に、トリガー、オン!
ギャグ短編(時系列は気にしちゃいけない)
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てれびくん、ハイパーバトルDVD
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予算振り分け大運動会
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切り抜けろ、学期末テストと特別課題
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劇団ボーダー
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特に意味のなかった性転換
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黄金の果実争奪杯