メガネ(兄)   作:アルピ交通事務局

93 / 143
第93話

 

「なるほど、マニュアルを作っているのか」

 

 荒船先輩と一戦やった後に意見を交換し合う。

 私がなんでトリガーをコロコロと変えているのか、自分にピッタシのトリガー構成を探している……わけではなく、戦闘経験が無い素人に具体的にはどういう感じに使うのかという説明、つまりはマニュアルを作っている事を教える

 

「【ボーダー内でのトリガーに関する認識の誤差等を統一する事で全体的なレベルアップを狙っています】」

 

「確かにトリガーに関する認識が人によってはまちまちだ。C級からB級に上がった際に講習を受けるのを提案しておくか」

 

「【それ有りですね。スラスターや旋空なんかのオプショントリガーとかの講習をしておけばやれる事が広がります】」

 

 荒船先輩とは意外と意見が噛み合う。

 完璧万能手を目指している荒船先輩とどんなポジションでも熟せる様にマニュアルを作っている私とは何処かで道が違えてしまうが、だからこそ意見を交流させて新しい可能性を探す。完璧万能手なら出来ないが万能手や1つのポジション特化のスタイルなら噛み合うものがあるだろう。

 

「【今のところ米屋との30本勝負の動画の記録(ログ)がありますので、それをベースにゆっくり実況風に解説していく形です】」

 

「ゆっくり実況?」

 

「【音声合成ソフトで実況と解説を行うんです。米屋との30本勝負の記録を見ますか?】」

 

「ああ、見せてくれ」

 

 まだなにも編集する事が出来ていない米屋との30本勝負を見せる。すると荒船先輩は固まった。

 

「お前、全部で10本、しかも1本も落とさなかったのか?」

 

「【ええ……1本でも負けたらその時点で自分は使い物になりません。自分は東さん程の指揮能力は持っていない、現場で戦わないと役立たない】」

 

 だから1本でも落としたらその時点で使い物にならなくなるクズだ。

 三輪に復讐の共犯者になると約束したし、ヌルい事をやっていたら三輪に失礼だ。

 

「そういう考えもあるか……」

 

「【まぁ、他人にまで強要するつもりは無いです……けど、出来る限り1人1本に拘っていきたいです】」

 

 私の考えに一理あると荒船先輩は納得をする。

 あくまでも私の考えなので他人にまで1日1人1本にしろは言わない……まぁ、私は1本しかやらないと言うけども。

 

「【っと、言っている側から来ましたか】」

 

 今日の分を回収しに影先輩がやってきた。

 クイッと親指でランク戦を行える個室を指差した。

 

「おい、今日もやるぞ」

 

「【1本だけですよ】」

 

「カゲ……お前、コイツを知っているのか?」

 

 馴れた様に私に勝負を挑んでくる影先輩。

 私に対して一切ツッコミもなにも言ってこないので影先輩は私の正体云々を知っているのかと少しだけ意外そうにしている。

 

「コイツが何処の誰だろうが関係ねえ……面白い奴かそうじゃねえかだ。チマチマとめんどくせえルールを掲げやがってるから、テメエの首を奪ってもう1本って言わせてやるよ」

 

「【おぉ、怖い……じゃ、何時も通り1本で】」

 

 影先輩、口ではなんだかんだ言いつつも私とのソロランク戦を楽しんでいる。

 まぁ、他人にまでeスポーツ感覚で楽しむんじゃねえぞと強要するつもりは無いのでそこはなにも言わないでおく。それよりも如何にして影先輩を倒すか、迅と比べれば倒しやすい相手だが、それでもこの人マジで強い。

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

「いやぁ、大勝利だったね」

 

 貴虎が影浦と真剣な1本勝負をしている一方その頃。

 ボーダーの玉狛支部では昨日のランク戦の健闘を称えていた。宇佐美は大勝利だったとウンウンと頷いている。

 

「当たり前じゃない!私達の弟子よ!コレぐらいは出来て当然よ」

 

 我が事の様に小南は胸を張る。

 

「えぇ、そうね。この結果は当然の結果ね……問題はこれからよ、これから」

 

 紅茶をゆっくりと飲みながら母こと香澄は冷静に状況を判断する。

 B級ランク戦下位で快勝を見せた遊真達玉狛第二だが、見るべき者が見れば当然の結果だと判断される。なにせマスタークラス(8000点以上)の実力者である遊真と規格外のトリオンを有している千佳がいるのだから。

 

「修、ここからが貴方の仕事よ」

 

 下位を突破する事が出来るのは当然だ。

 だが、中位には個人(ソロ)ランク上位だったりするボーダー隊員が居たり、上位に至っては全員がマスタークラスの実力を持ったチームもいる。使える駒は有している。故にここからが修の隊長としての腕の見せどころだ。

 

「次の対戦相手は荒船隊と諏訪隊だね」

 

「荒船隊は」

 

「待て、京介。アドバイスはするな」

 

 宇佐美が次の対戦相手を告げると烏丸がチームの特色を教えようとする。

 しかしそれでは修達が育たない。調べてどういうチームなのか考える事もまたランク戦の重要な経験値になる。レイジはそれ以上は言うなと烏丸に口止めをする。烏丸もそれが修達の為になる事だからとそれ以上は深く言わなかった。

 

「まぁ、大丈夫よ。諏訪隊も荒船隊もそこそこだから」

 

「ほうほう……じゃあB級上位は?」

 

「……まぁまぁね」

 

「A級は?」

 

「……まぁ、ちょっとはやるんじゃないかしら」

 

 何処までも負けず嫌いな戦闘民族BORDERな小南は遊真の質問を個人的見解で答える。

 小南センパイがそういうのならばそれはもう強いのだろうと小南の負けず嫌いを知っている遊真はB級も侮れないと認識を改める。

 

「諏訪隊と荒船隊の記録(ログ)を見て作戦を考えます」

 

 ランク戦はその対戦カードの中で最もランクが低いチームにマップ選択権が得られる。

 今回、ランクが最も低いのは玉狛第二、修達のチームだ。修は地の利を得ようとするべくこれから諏訪隊と荒船隊のデータを纏めに入る。

 

「修」

 

「なに?」

 

「分かってるとは思うけれど、貴虎に頼ったらダメよ。あの子、貴方には物凄く甘いから答えを直ぐに教えようとするから」

 

「分かってるよ」

 

「あいつ、ランク戦のアドバイスなんか出来るの?戦闘経験も殆ど皆無な素人でしょう」

 

 貴虎の力は借りるなと釘を刺す母であるが、小南は貴虎の力を疑う。

 戦闘経験は不足していて大規模侵攻では黒トリガーを撃退したりしているものの戦術等に関しては素人に近い。なにか具体的なアドバイスを送ることが出来るとはとても思えない。

 

「あの子は多分、答えを知っているわ。この先、どうすればいいのかを。修がどういう具合に成長していけばいいのかを……あの子からアドバイスを受けるなって言っている手前、こんな事を言うのは矛盾してるけど……目を閉じて想像してみなさい」

 

「?」

 

「貴方達は走り出した時も歩幅も走る速度も皆バラバラのゴールの無いマラソンをしているわ。先頭付近を小南ちゃん達玉狛第一が走っているとして空閑くんが物凄い勢いで先に走っていた人達をごぼう抜きしていってるわ」

 

「ふむふむ……それで?」

 

「修と千佳ちゃんはどうやって先頭を走っている人達に追いつくのかを考えなさい。歩幅を広げるか走る速度を上げるのか……先頭を取らないと遠征部隊に入る事なんて夢のまた夢でしょ……私から言うことが出来るアドバイスはコレぐらいね」

 

「アドバイス、なの?」

 

 具体的に何処をどうしろとは母は言っていないので小南は首を傾げる。

 ゴールの無いマラソンで先に走っている人達をどうやって抜くのか、歩幅を広げるのか、それとも走る速度を上げるのか…

 

「アドバイスよ。ゴールが無い道のりで自分にだけしか通る事が出来ない近道なんかも存在している。その道を見つけて走ることで先頭を走っている人に追いつくこともくらいつくことも出来るわ……これ以上は流石に言えないわよ……ただ、空閑くんだけで勝ち抜けるほどB級のランク戦が甘くないならば、正道じゃない近道、裏道、回り道を見つけてその道を無事に走ることが出来ればB級のランク戦を勝ち抜く事が出来るわ……少し言い過ぎたわね。とにかく皆走っているから自分のペースでチンタラ走っていたら追いつくことが出来ないわよ」

 

 具体的に何をしろとは母は言わないが大きなヒントは与えている。

 なんだかんだと貴虎に言っているがやっぱり我が子というのは可愛いもの、ついついアドバイスをしてしまう。ランク戦をしている息子の晴れ舞台についつい口出ししたくなってしまう。

 

「皆、走っていて、自分のペースじゃ追いつかない……ふむ……」

 

「空閑くんは難しい事は考えなくていいわ。のびのびとランク戦を楽しみなさい……考えないといけないのは修、それと千佳ちゃんだから」

 

 既にマスタークラスの実力を持っている遊真はのびのびとランク戦をしておけばそれでいい。

 今のところそれで上に上がる事が出来るので問題は他の2人、修と千佳。この二人が如何にして動くかどうか。そこで直面する問題が1つだけ出てくる。その問題は今のところは浮き彫りになっていないがコレから上位を、A級になる為にB級2位以上を目指していく上では無視して通る事が出来ない問題が浮上していく。

 

「……千佳は人が撃てない……」

 

 膨大なまでのトリオンと狙撃手向きの性格をしている千佳だが、唯一の弱点とも言うべきか人を撃つことが出来ないと言う致命的な弱点がある。

 修も遊真も宇佐美もその事に関しては深く責めたりはしない。何処にでもいる女子中学生に死なないとはいえ狙撃銃で人を撃ち殺せというのが無茶な話。一応トリオン兵や的当て等では着実と腕を高めているのだが人を撃つことが出来ないので宝の持ち腐れ状態だ。

 修もその事を理解しているのか思わずボソリと呟くと千佳はビクリと反応する。

 

「修、貴方がリーダーなのよ。リーダーとしてしっかりとしたところを見せてやりなさい。千佳ちゃんは……どうにかしなさい」

 

 下手なアドバイスは送れないので適当に誤魔化す。

 人を撃つことが出来ないのならば最初から撃たない戦術を会得するのもまた1つの手ではあるが、それを言うのはフェアではないと言葉を飲み込んだ。

 

「……僕がしっかりとしないと」

 

 修は自覚している。

 規格外のトリオンを有する千佳や近界で多くの戦闘経験を積み上げている遊真と違って自分が何段階も劣っていることを。千佳が人を撃てるようになれば化ける、そうなると自身が完全にお荷物になってしまう。既に遊真におんぶにだっこ状態なのも薄々自覚している……母である香澄からの言葉でより責任を、プレッシャーを感じてしまう。

 

「オサム」

 

「ダメよ」

 

 プレッシャーを感じている修に大丈夫だと言おうとする遊真を香澄は止める。

 ヤバかったら自分がどうにかすると言おうとするが実際にどうにかする事は出来ない、ボーダー隊員達の層も中々に分厚いものだ。おんぶにだっこで上に上がったとしてもそれではいざ近界に遠征に行ってもロクな結果にはならない。

 

「オサムのお母さん、手厳しいな」

 

「修の事をホントに思っているのなら……それ相応にプレッシャーを与えておかないと。知ってるかしら?トマトを美味しく育てるには贅沢させるんじゃなくて程よくストレスを与えるのが大事な事を」

 

「ほうほう……オサム、隊長としての務めはお前に任せた。おれはおれのするべきことをやってくるよ」

 

 修には修のやるべきことがあると修に託した遊真はボーダー本部を目指す。

 兎にも角にも遊真はボーダーのトリガーに馴れて使いこなせる様にならなければならない。その為には実戦あるのみ、何度でも繰り返して戦うことが出来るランク戦は遊真にとって最高の遊び場所だ。

 

「僕のするべきこと……フィールドの時点で地の利を得ないと。宇佐美先輩、訓練室をマップと同じ様に出来ますか?」

 

「勿論出来るよ!荒野だろうが砂嵐だろうが台風だろうがなんでも出来るからドンドン注文してね!!」

 

「ありがとうございます」

 

「ううん、これぐらいオペレーターなら皆やってる事だよ」

 

 修も宇佐美と共に作戦を練りにいく。

 流石は私の弟子達ねと小南は誇らしげになっている中で千佳は冷や汗をかいていた。

 

「…………」

 

 遊真はボーダーのトリガーに馴れる為に実戦経験を積みにボーダー本部に向かった。修は次の対戦相手を調べ、対策を練りに行った。

 千佳はどうすればいいのかわからなかった。訓練をしないといけないのは分かっているけれど、人を撃つことが出来ない自分が狙撃手の訓練をずっと行っても意味は無いんじゃないのかと自分の努力に疑いを持ち始める。

 

「頑張らないと……」

 

 フラフラと歩き、トリガーを起動してトリオン体に換装した千佳は訓練室に向かった。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫なの?レイジさん、なにかアドバイスとか無いの!?」

 

 明らかに悪い状態の千佳を心配する小南。なにか言いたいがなにを言えばいいのか分からない。

 レイジに助けを求めるがレイジもどうアドバイスを送ろうか悩んでいた。千佳だけ置いてけぼりのこの状態、打破するには人が撃てるようになれば良いのだが、それが出来ないのが現時点での問題だ。

 

「ダメよ」

 

 なにかいいアドバイスがないかとレイジは考えていると香澄から待ったの手が掛かった。

 チラリと遊真達がこの場に居ない事を確認すると紅茶を飲んで目を細める。香澄からプレッシャーが放たれており、レイジ達は今度はなにを言ってくるんだと身構えている。

 

「今の千佳ちゃんに必要な事は守破離よ」

 

「守破離、ですか?」

 

 香澄の言っている事をイマイチ理解する事が出来ていない烏丸、そもそも守破離とはなんだと頭に?を浮かび上がる。

 

「茶道や剣道の用語よ。【守】は師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。【破】は他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。【離】は一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階……千佳ちゃんは真面目で辛抱強い子だからレイジくんの教えである【守】を忠実に守っているわ……でも、それだとその辺の狙撃手となんにも変わりは無いもの。そろそろ何処かで【破】の段階に……千佳ちゃんだから出来る戦い方を模索しておかないと」

 

「千佳だから出来る戦い方って、なにがあるの?」

 

「さぁ、知らないわよ?」

 

 あくまでも千佳はレイジの教え以外のナニかを見つけ出さないといけない。

 それがなんなのかは香澄は分からない。けれどそれは確かに存在しているのを知っている。

 

「そんなまた無責任な」

 

「そうかしら?少なくとも千佳ちゃんは誰にも負ける事は無いオンリーワンの武器を持っているわ。守破離の破と離をする為の土台はしっかりと出来ているし……後はキッカケが必要なだけよ」

 

 千佳が具体的にどういう風に伸びていくのかは香澄は知らない。ただ少なくとも何かしらの他の人には真似が出来ないオンリーワンな成長をする事が出来ると読んでいる。

 

「香澄さん……貴方、何者なんですか」

 

 千佳達が今後ぶつかっていく壁について的確に当てている香澄に対して驚くしかない。

 ボーダーの人間ではないのに既にベテランの隊員以上の風格を醸し出している。

 

「ただの主婦よ。お騒がせな2人の息子を抱えたね……」

 

 お前の様な主婦が何処にいる。

 レイジ達はツッコミを入れたくなったが言葉を飲み込んだ。それだけ修と貴虎の親である香澄から放たれる謎の威圧感からツッコミを入れるに入れれない。

 

「大丈夫よ、あの子達ならきっと強くなるわ。自分達が何をすればいいのか、正しいレールに乗ることさえすれば愚直に前に進む事が出来る。3人ともなんだかんだ言って勤勉なんだから」

 

 私達の息子はなんだかんだと言っても強くて優しくて頼もしいと母は信じている。

 紅茶を飲み干した香澄は次の紅茶を入れる。

 

「ホントに危ないと思ったらきっと貴虎が上手い具合にフォローしてくれるわ……あの子はあの子で忙しそうで意図的に修達に会わない様にしているみたいだけれど」

 

 最終的には貴虎がなんとか上手くやってくれると丸投げする。

 まぁ、原作知識などもある貴虎にまかせておけばバッチリなのだが、貴虎も貴虎で色々とややこしくする。千佳達が本当の意味で成長する為には程よくストレスを与えないといけない。特に千佳は限界ギリギリになれば撃つことが出来ると千佳を精神的に追い詰める可能性が高い。それが確実に強くなる方法だと知っているから。

 

「まぁ、それでもアドバイスを送りたいのならば送ればいいわ。ただ修も千佳ちゃんも色々な意味で尖った性能をしているから普通のアドバイスじゃ凡百の隊員達と同じ事になってしまうわ」

 

 他の人には真似できない、真似しないオンリーワンな武器を見つけるしかない

 確立された個の力があってこそ連携は生きる。修達が確立された個の力を手に入れれば……玉狛第二は化ける可能性が高い。

 それを既に理解している香澄が何者かと聞かれれば二児の母親で、大凡の事情を知った上で息子達を応援する母親なのである。




  

ギャグ短編(時系列は気にしちゃいけない)

  • てれびくん、ハイパーバトルDVD
  • 予算振り分け大運動会
  • 切り抜けろ、学期末テストと特別課題
  • 劇団ボーダー
  • 特に意味のなかった性転換
  • 黄金の果実争奪杯
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。