「ふぅ……気持ちが悪いな」
クローズビルドに変身するのはあまりにも予想外の出来事だった。
なんかめんどうな事が巻き起こると思っていたけども、まさか迅と融合してサイドエフェクトも融合するとは思いもしなかった。たまたま近くに居た小南パイセンの未来が複数見えるだけでなく、その未来から複数の電磁波が見えた。
「だいじょうぶか、ジュースならあるぞ」
「ああ、頂こう」
訓練室から出て一息つく。バカ王子もとい陽太郎からジュースをいただき、ゆっくりと飲んで気持ちと呼吸を整える。
迅のサイドエフェクト、中々に厄介な代物だ。オン・オフ利かないタイプのサイドエフェクトで……カゲさんならもっとキツい、いや、そもそもでカゲさんとクローズビルドになれるかどうか怪しい。
「ただいま……あら、貴虎じゃない。もうホームシックになっちゃったの?」
「違うよ、母さん。今は一人暮らしを楽しんでるし、此処には実験でやってきた」
ジュースを飲んで一息ついた後にやってきたのは母さん。
両手にはスーパーのビニール袋がぶら下がっておりつい先程まで買い物に出掛けていたと迅が言っていた事を思い出す。
「その実験で一悶着あって今はちょっと休憩している」
「そう……夕飯は食べてくの?」
「いや、ボーダー本部で食べるよ」
母さんの味が恋しいなんて言うほどに母さんと長い間別れている訳じゃない。
折角の一人暮らしなんだから思う存分に楽しんでおかないと……ただまぁ、あんまり羽目を外しすぎると修に取っての汚点になりかねないからな。
「貴虎……お兄ちゃんはもういいのよ?」
「……は?」
母さんが何かを考えていると思っていると意外な言葉が出てきた。
「貴方は修が生まれたら立派なお兄ちゃんになろうとして中学受験までして、その上で必死になっている。今も修の手本になろうとしているけど、修は貴方が思っているほど子供じゃないわ」
「なにを言い出すかと思えば、それぐらいは知ってる」
修は何時の間にか大きく成長しているんだ。
兄ちゃん、兄ちゃんと呼んで背中を必死になって追いかけて来たあの頃とはもう違う。既に自我と自己の両方を持っていて自分の道を進もうとしている。私や母さんの手からはとっくの昔に離れていっている。
「知っていても分かっていないから言っているのよ。知っていても貴方は無意識に修寄りの人間になってしまう……悪いとは言わないけど、ブラコンも大概にしておいた方がいいわよ。修にお節介焼きし過ぎだって何時か嫌われるわ」
「……そうか」
この先、修がどういう形で強くなればいいのか原作知識等があるので分かっている。
上手い具合に修をそこまで誘導する事が出来たらばと思っていたがそれがお節介な事でありしなくてもいい事だと母さんは釘を刺す。
「修がボーダーに入る為の条件として貴方の力を借りないのが条件の1つに入っているわ。修が頼ろうとしなくても貴方が力を貸そうとしたら本末転倒よ」
「それは分かっている……けど、このままただまっすぐに前に進んでいても意味はない」
修達が進んでいる道を例えるならばゴールが無いマラソンだ。
先頭には小南パイセン達を始めとするA級の面々が走っており、修はビリに近いところを走っている。遊真もビリからスタートだったがあっという間に先頭に向かっていっている。修は歩幅を広げるのか走る速度を上げるのか、それとも遠回りに見える近道を走るのかで状況が大きく変わる。
「それが分かっているなら黙りなさい……今は修が
「……分かったよ」
修にスパイダー戦法があるとか色々と言えばあっさりと理解する事が出来るだろうが修が本当の意味で成長するかどうか、成長する道を勝手に作ってそこを通れば後は自動的にパワーアップをするぞと道を舗装して用意したら修が喜ぶか喜ばないかで言えば……喜ばないだろうな。
「それに問題は修じゃない、いえ、修は放っておいてもなんとか答えに辿り着くわ。問題は」
「千佳ちゃんか」
修の場合はなんだかんだと主人公補正と言う名の幸運で現状を突破する事は出来る。
母さん目線で問題があるとするならばそれは千佳ちゃんだ。千佳ちゃんは人を撃つ事が出来ない。今はまだ露見していないが何れはバレる。
「あの子は守破離で言う破と離の段階に向かおうとしている。千佳ちゃんらしさを見つける事が今後の課題よ」
「……人が撃てない事に関しては責めないのか……」
「当たり前じゃない、死なないとはいえ人に銃を向けて撃てる方が頭がおかしいのよ。千佳ちゃんみたいな反応が普通……多分だけどランク戦を一種のeスポーツ感覚で楽しんでいる子も居るわよ。ハッキリ言って狂ってるわ」
緑川とか米屋とか太刀川さんがその一例……強さは本物なので文句を言う事は出来ない。
千佳ちゃんが自分だけの道を見つける事が出来るかどうか、そこが玉狛第二の今後の課題である。千佳ちゃんは……なんでもありだからな。
「さて……帰るか」
ロックシードの隠された機能は分かった。ガイアメモリも無闇に使うとハイドープ化する可能性があるので使うに使えない。というか多分ハイドープに片足突っ込んでるだろうな。肋とか折れた骨が数日で元に戻っているのはハイドープに片足突っ込んだ影響だろう。
ロックシードとガイアメモリをアタッシュケースに仕舞って玉狛支部を後にし、ボーダー本部に帰る。今日は元から無理だとランク戦をする意思は無いと示していたので米屋達に絡まれる事は無く、1日を無事に平穏に過ごす事が出来た。
2月5日(水曜日)
「おーっし、今日はランク戦を受けてもらうぞ!」
「いや、それよりも来週テストだぞ?」
何時もの日常が終わると非日常がやって来る。
米屋は待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべるのだが遊んでいる暇はあるのだろうか?来週からテスト期間に入るし、更には今月からレポート形式の課題が残っている。
「細かい事は気にすんじゃねえよ!」
「槍バカ、お前はホントに洒落にならない」
学年末テストなんて知ったことじゃねえと主張する米屋。
出水は今回の期末で赤点を取ったら洒落にならないのを知っているので意識を現実に戻す。
「レポートの方はどうなんだ?」
「そっちに関しては問題ねえよ……太刀川さんのを何回か手伝ってるからやり方がわかる」
悲しい悲鳴だな。
レポート形式の課題は大丈夫なのかと聞くと出水は大丈夫らしいが米屋は視線を合わせようとしない。
「お前、進級が懸かってるんだからそれは洒落にならない……留年はまずい」
「ぬぅおお……お知恵をお貸しください三雲様」
「まぁ……今回も貸してやるが今回が最後になる可能性が高いぞ。私もコレからボーダーの一員になって防衛任務を理由に学校を休むから……」
成績が酷く下がるとは言うつもりは無い。コレでも自主的に勉強が出来る方だと自覚している。成績が下がらないように自主的に勉強はしておくつもりだ。だが、万が一とかがある。修もボーダー云々で成績が下がったら母さんに強制的にボーダーを辞めさせられる……中学3年でボーダー推薦とかいう謎の枠を使って三門第一高校に進学するから暫くはテストとは無関係な世界の住人になるだろうが。
「ランク戦は見ていいよな?」
「そこは好きにしろ……私は勉強しておくから終わったら来い」
「おいおい、いいのか?弟が頑張ってるんだぞ」
ボーダーの本部に足を運ぶと米屋はウズウズとしている。
米屋は今日行われるB級ランク戦を見に行きたいと言ってくるので後で勉強をするならば見てもいいと許可を出して見に行かせる。
「玉狛第二は雑にやったらB級中位で安定する実力を持っている」
米屋は修の事を気にしてくれるがそれこそ大きなお世話だ。
玉狛第二は雑にやっても中位に安定して残ることが出来る部隊だ。原作知識もあるので下手な介入はせずに見守るのが吉と私のサイドエフェクトが言っている。
「雑にやったら、ね……じゃあ、真面目にやったらどうなんだ?」
「B級の上位と中位の間をエレベーターの様に行き来する……今の玉狛第二はシンプルに強いカードが遊真だけだ。遊真が落ちればその時点で詰む……遊真もその辺のところは自覚しているから絶対に落ちない絶対的なエースになろうと頑張っている」
本人的にはランク戦をeスポーツ感覚で楽しんでいるのだが、まぁ、なんだかんだで勝利という結果を残しているから文句は言えない。
遊真の場合は伸び伸びとやってたら勝手に成長するから心配は要らない。
「お前、弟相手に結構辛口なんだな」
「逆だ、むしろ正当な評価を下しているんだ。下手に過剰に持ち上げれば痛い目を見る……見るなら見てこい」
「あ、おれは防衛任務あっから今日はここまでな」
米屋はランク戦を見に、出水は防衛任務があるので別れた。
私はランク戦には興味は無いので部屋に引きこもって勉強……と行きたいところだが、部屋に引きこもって勉強するよりもボーダーの飲食が出来る休憩のスペースを使って勉強をしていたら良いことが起きるとサイドエフェクトが言ってくるので休憩のスペースで勉強をする。
「やぁ、勉強熱心だね……弟の晴れ舞台を見に行かないのかい?」
勉強をしていると唐沢さんがやって来た。
案の定と言うべきか弟の晴れ舞台を見に行かない事を気にしているので弟ならば上手い具合になんとかやるのを信じているので見に行かない事を伝える。
「そういえばなんですけど、ボーダーの学力向上に関してはどうなっていますか?」
「ああ、その事なんだが学習塾との契約が上手く行った。来年辺りから本格的に始動する事が出来る」
防衛任務を理由に学校を休むボーダー隊員、学校側も補習などで上手く誤魔化しているが限界と限度と言うものがある。
米屋とか別役みたいに学業が残念にも程がある隊員とかにボーダー推薦の枠を使われたら真面目に勉強をしている人に対して色々と失礼だ。
「学校の授業が遅れる代わりに学習塾が課題を出す形式に変わる。高校生までのボーダー隊員は学力テストの結果次第で課題を出すか出さないかを決める」
「そうですか……因みにですがその課題の結果が酷いけどボーダー隊員としては優秀な人だったらボーダー推薦の枠を使うとかはやりませんよね?」
「それは……ボーダーを理由に学業が疎かになる事は少しだけ致し方ない事だと私は思う。誰も彼もが君や嵐山くんの様に文武両道を貫く事が出来るとは限らない」
何事にも例外があると唐沢さんは馬鹿に推薦枠を使う事に関して言ってくる。
太刀川さんと言う悲劇を生み出し、今後は遊真で色々と悲鳴を上げる未来はサイドエフェクトを使わなくても見える。
「何時かはボーダーが過去に拉致された人を救うと私は思っている。そうなったら受け皿を準備しておかないといけない……ボーダー隊員の学力向上のため学習塾と提携させるだけじゃない。連れ去られた子達が帰ることが出来た際に元の道に戻りたいのならば戻らせる事が出来る様にしておかなければ」
「耳の痛い話だな、ボーダーは過去に何度も遠征している。その度に色々と成果を出してはいるものの過去に連れ去られた人を取り戻した一例は無い。今度の遠征は攫われたC級隊員を助けに行くのであって過去に襲撃してきた国を調べる事ではない」
「ええ、全く残念な事ですよ……だから受け皿が無い。仮にあったとしても貴方達にとって都合のいい存在になる。それだけはあってはならない事だ……ボーダーに一般教養を指導する人にある人を推薦しておきますのでなにとぞよろしくお願いします」
布石は打てる内に打っておく。
千佳ちゃんが友達を連れ戻した際に、麟児さんが帰ってきた際に果たさなければならない役割を用意しておく。帰ってきてボーダーにとって都合のいい存在になるのは困る。
「報酬は既に充分過ぎるほど頂いている。少なくともこの数千万円はボーダーにとって破格の出資額だ」
「ある人から貰った種火を元に売買ゲームで倍増させた……元々この為に使うと決めていた事なのでお礼を言われる事じゃありませんよ」
ボーダー側からすれば数千万円は破格の出資だろうが、全ては帰ってきた子達や麟児さんの為だ。お礼を言われる筋合いは無い。
唐沢さんに帰ってきた人達が元のレールに戻れる様になればそれでいいと意思を示すと唐沢さんは去っていった。
「三雲か?」
「三輪か……テスト前の勉強中だ。ボーダー云々は一旦置いといてくれ」
唐沢さんが去って数分後に三輪がやって来た。米屋が今頃ランク戦を観戦しているのでランク戦に興味は無いのか見に行っていない。
私が素の状態で此処に居るのを意外そうな顔をしているのでテスト前の勉強をしている事を教える。
「陽介は?」
「B級ランク戦を観戦している……終わり次第、こっちに来るようには言ってある」
米屋がこの場に居ないのでランク戦を観戦している事を教えると「はぁ」とため息を吐いた。
赤点ギリギリどころか赤点も普通にある米屋は呑気にランク戦を観戦している場合じゃない、来週のテストに備えて勉強をしないといけない。一応はこっちに来いと言っているので後で来るだろう。
「ランク戦はしないのか?」
「テスト前だ……まぁ、米屋が息抜きに一発やろうと言ってくるからそこぐらいで後は普通にテスト前の勉強をしておく……ソロランク戦をしたいのか?」
「いや……俺も一緒に勉強をする。学年末テストの課題は何処からだったか?」
「国語はここからで、数学は……」
三輪もテスト前だから一緒に勉強をしてくれる。
「そういえば三雲、お前はどうやって上を目指すつもりなんだ?」
「上か……その辺りはまだ未定だな」
一緒になり勉強をしているのだが黙々とやっていると行き詰まってしまう。
三輪が行き詰まらない様にと話題として出したのは私が今後どうやって上を目指すのか、算段がついているのかどうか聞いてきた。
「あの時の国は何処の国なのかまだ判明していない。だがコレから人型の近界民は沢山やってくる……あの時の国が何処の国なのか判明するのは時間の問題だ。俺は復讐を果たす……お前は俺の復讐の共犯者になるんだろう。だったらちんたらやってないで上を目指せ。少なくともお前は色々と恵まれているんだ」
「……私が隊長?……ガラじゃないな」
上を目指さないと遠征に行くことは出来ない。
三輪の復讐の共犯者になる事が出来ないのは非常にマズいこと……と言えどもまだまだ時間はある。オペレーターを見つけたりしないといけない。
「それを言うなら太刀川さん達もだ。俺だって隊長に相応しい顔じゃない。嵐山隊の様に外受けがいいわけでも東さんの様に優れた指揮能力を持っているわけでもない」
「第一、オペレーターがな……彼女にオペレーターになってと言うわけにはいかない」
特に迅には見られたくない。
アイツはボーダーがこの街にやって来たせいで色々と悲惨な目に遇っている。迅が要らぬお節介を焼いてしまえばそれこそ激怒する……いや、そもそもで私がボーダーに入った事自体怒っている。
「私が1から
数km先は余裕で遠視出来るし、サイドエフェクトで電磁波等が見えるのでレーダーに映らないとかもほぼ無意味だ。
オペレーターは飾りだけのオペレーターになる……まぁ、私一人で勝てるほど流石に部隊でのランク戦は甘くない筈だ。
「となると太刀川隊か……二宮隊」
「あぁ、二宮隊は無理だ。私が色々とやらかして二宮隊は向こうからNGをくらう」
遠征に行くことが出来る僅かな可能性を持っていて尚且つ城戸派な部隊を上げるのだが二宮隊は無理だ。
上にスカル云々が私だとバレたが二宮隊にその話が通じているかどうか……仮に知らなくても私は言ってしまうのだろう。となると……太刀川隊がベストだろうが太刀川隊にはお荷物が居るので無理とか言われそうな雰囲気を醸し出しているんだな。
「お前、二宮さんになにをしたんだ……」
「私も色々と裏で暗躍している、聞いてもはいそうですかと答える事は出来ない」
スカル云々は言ってはいけない事なので言わない。
三輪は察してくれてそれ以上は深くは追求してこない。
「三雲、ランク戦しよ……げぇ!?秀次!?」
「陽介、テスト前に随分と呑気なものだな……」
「トリガー起動」
自分のポジションやスタイルを見つける事は出来たのかと色々と話し合っているとランク戦が終わったのか人が流れ込む。
米屋は私を見つけると早速ランク戦を挑んでくるのだが三輪が隣に居るのでシェーのポーズを取る。古臭いが今の米屋にはピッタシのポーズだな。とりあえず今から人が多く増えるのでトリガーを起動して謎のマスクマンになっておく。
「みく──っ、マスクマン、ランク戦をやろうぜ!さっきのランク戦を見たらオレもバトりたくなっちまった」
「【私は1日1本主義だ……今日の1本を今ここで消費していいのか?】」
「……細かいことは気にすんなよ」
「【いや、細かくはない。私の流儀みたいなものだから、コレばかりは譲れない】」
1日1本にすることで技のキレや即座の判断能力を高めている。
何度も繰り返す事が出来るのは良いかもしれないが実戦では失敗が許されない。実戦を想定して1度のミスも許される事は無い……油断するとランク戦をeスポーツ感覚に走る自分が居るのを自覚しているから制限しておかないと。
「次のランク戦は遠距離、中距離、近距離の三拍子が全員揃った三つ巴な混戦で……村上先輩が出てくる。白チビは悪くはないが村上先輩にはサイドエフェクトがあるからな、どう化けるのか見ものだぜ」
「那須隊と玉狛第二と鈴鳴第一か……玉狛第二にステージ選択権は無い。此処からは自分の素の実力が物を言う」
そして確立された個の力を玉狛第二で持っているのは現状遊真だけか。
私が余計な事をしなくても雑にやっても玉狛第二は中位を安定して狙う事が出来る……さて、どうしたものか。
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