フルメタル・パニック! その後の2人   作:Deetwo

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第3話 v.s.(完)から、『16歳の千鳥かなめ』のその後を綴る物語です。前作で1日だけの大冒険を経験し、いろいろと覚悟を決めたかなめが、宗介をリードするお話になります。


番外編1 あたしのやり方

 長く優しいキスが終わると、宗介とかなめは上気した顔を離した。

 かなめが目を開けると、すぐ目の前で宗介が真っ赤な顔でほうけている。

 ……なんて言うのかな? それとも何も言わないのかな?

 かなめは、少し意地の悪い思いで彼の言葉を待った。

 以前のあたしだったら物凄く不安になって、余計なことを言って、せっかくの行為を台無しにしてしまっただろう。

『ぶは~~~! 苦しかった! 最悪! やっぱり最初のキスの相手は選ぶべきよね! 気の迷い! 気の迷い! ノーカン! ノーカン!』

 とかなんとか言っちゃって。

 うん、絶対に言う。

 そして、傷ついた目をした宗介が一人残されるのだ。

 でも、今のあたしは違う。

 なぜなら、コイツが……ソースケがあたしを好きなことを知っているから。

 そしてあたしも……あたしがソースケが好きなことを知っているから。

 長い時間が掛かったが、やがて宗介は、

「……やっとわかった。俺は君に好意を抱いている」

 目をパチクリさせながら、かなめに()()した。

「……あたしもソースケに好意を抱いている」

 かなめも『ソースケ語』で答える。

 宗介の顔が、パッと明るくなった。

「そ、そうか。君もそうだったのか!」

 そうか! そうか! 千鳥もそうか!

 と、口の中で繰り返す宗介。

 おー、おー、喜んじゃって。

 でも……可愛い。すごく。

「……好意を抱いている男の子と女の子が次にすることはなに?」

 またまた意地の悪い質問をする。

 これはもうあれだ。

 小さい子供が自分の好きな異性を困らせて楽しんでしまう、幼稚な愛情表現。

 このまま先に進んでしまってもいい。

 怖いけど……今のあたしなら平気。

 でも、そうでなくてもいい。

 お互いに気持ちを伝え合ったのだ。

 もう焦る必要はない。

 あとは自然の流れにまかせよう。

「こ、婚約する」

 ――ガクッ!

 そ、そうきたか。

 間が数段階すっ飛ばされている。

「千鳥は違うのか!? 君は俺と婚約したくないのか!?」

 ズ、ズーンと落ち込む宗介。

「あたしもソースケと婚約したいよ。ここがイスラム圏だったらきっとそうしたでしょうね。でもここは日本だから、その前にまだ段階を踏まなければならないの」

 かなめが優しく教える。

 ほんと、今日のあたしは気持ちが穏やかだ。

「そ、そうなのか?」

「そうなのよ」

 完璧に困惑してしまっている宗介に、かなめは鼻先をこすりつけるようにして、ククッと笑う。

「よく思い出してみて。宗介がこの街にきて、見てきたことを。好き合っている男の子と女の子がどうしてたかを」

「う、うむ」

 宗介は考える。

 必死に考える。

 思考回路が完全にキャパオーバーを起こして煙を上げていたが、それでも無理やり考える。

 そうだ、稲葉の時はどうだった?

「デ、デートをする?」

「うんうん、近づいてきた」

「これでも正解ではないのか……」

「でもいいよ。あとでデートしよ」

「も、問題ない」

 宗介は記憶を必死にあさる。

 稲葉の時はデートをした。

 しかし、その前に稲葉はあの白井という男に振られていた。

 しかし、『振られる』というのは、男女のうちのどちらかがもう一人を嫌いになることだ。

 俺と千鳥は、今お互いの好意を宣言しあったばかりだ。

 これは現在の状況にはそぐわない選択だろう。

 ん? 待てよ?

 も、もしかしたら……。

「はい、相良くん。お互いに好きだと告白した男の子と女の子が次にすることはなんですか? キスはもうしました。デートの約束もしました。婚約はまだです」

「こ、交際をする?」

「よくできました」

 ニッコリと笑ったかなめに、宗介は心底ホッとした。

 脈拍、呼吸、血圧、体温――すべて()()

 まったく、今の俺のバイタルはどうなっているだろうか。

 これが『アーバレスト』のコックピットだったら、アルが警報を出しまくりだろう。

「ソースケは、あたしと『交際』したいの?」

「こ、肯定だ。俺は君と『交際』したい」

 コクコクッ! とうなずく宗介。

「ち、千鳥はどうなのだ? 君は俺と『交際』したいのか?」

「う~ん、どうしよっかなー?」

 うわ! あたしってば意地悪~!

 内心では、天にも昇る気持ちだったが、未来を知っているという余裕があるため、つい悪戯心を起こしてしまう。

「ち、千鳥!」

 宗介の顔が信号機のように、赤から青に変わる。

「ごめん、うそ。ソースケ可愛かったから、ちょっとからかっただけ」

「お、俺が可愛い……?」

 今日の千鳥は、いったいどうしたというんだ?

 や、やはり、何かの有害物質や薬物を過剰摂取したのではないか?

 い、いや、それにしても彼女のこの魅力はなんなのだ?

「そ、すっごく可愛い」

 宗介の困惑をよそに、かなめはおかしそうにもう一度喉の奥でククッと笑った。

 そして、

「あたしもね、ソースケと『交際』したい」

 と宗介を見つめて言った。

「ソースケ、あたしたち『交際』しよ」

 その表情は、もう笑っていなかった。

 真剣な、真摯な表情。

 かなめは、本気で宗介に交際を申し込んだ。

「も、問題ない。俺は君に『好意』を抱いている。問題な……」

 宗介の唇を、かなめの唇が再びふさいだ。

 こうして千鳥かなめと相良宗介は、晴れて恋人同士となった。

 後にかなめが『あっちの世界の自分たち』とよぶことになる、本来の自分たちに先んずること約1年半であった。

 

 

「カナちゃん! カナちゃん! カナちゃん! カナちゃーーーーーーん!」

 翌日かなめが少し遅めに登校すると、教室に入るなり親友の常盤恭子が文字通りすっ飛んできた。

「ああ、恭子。おはよう」

「あいさつなんていいから! ど、どうなったの!? あのあと! 相良くんと!」

「ああ、付き合ってるわよ」

 サラッと口にする。

 その瞬間、教室中が異様などよめきに包まれた。

 どうやら先に来ていた恭子が、我慢しきれずにクラスメートに話してしまったようだ。

「ほんと!? ほんとに!? ほんとにカナちゃん、相良くんと付き合ってるの!?」

「うん、昨日あれから恭子と別れたあとにね」

「カナちゃん……!」

 ブワッと、とんぼ眼鏡の奥のつぶらな瞳から涙を噴き零す恭子。

「よく……よく……! あたし……このままカナちゃんと相良くん、ずっと付き合えないんじゃないかと……!」

「恭子、心配かけてごめんね」

「……うん……うん!」

 その時、周辺に危険物がないか確認をしていた宗介が教室に入ってきた。

「ああ、きたきた」

 ソースケ、と手招きする。

「……?」

 そして宗介が隣にくると、

「紹介するわ。あたしの『彼』の相良宗介くん――ほら、ソースケ。あいさつ、あいさつ」

「あ――ち、千鳥の『彼』の相良宗介だ。昨夜から彼女と『交際』している! 今後ともよろしく頼む!」

 どこまでもリラックスしているかなめとは正反対に、カチコチに緊張して背筋を伸ばす宗介。

 その『告知』に、教室のボルテージは一気に最高潮に。

「相良、てめーーーーっ!!!」

 真っ先に宗介の胸ぐらをつかみ祝福の意(?)を示したのは、級友の小野寺孝太郎だった。

「お前……お前だけは、俺たちの仲間だと……友だちだと思っていたのに! 運命共同体だと……!」

「小野D、それは無理だよ。千鳥さんを見ても、テッサを見ても、相良くんは最初から『向こう側』の人だって」

 はぁ……とため息を吐く、同じく級友の風間信二。

「でも、すごいよ、相良くん! ついにやったんだね! 千鳥さんを撃墜したんだね!?」

「撃墜? いや、俺は……」

 撃墜とはなんのことだ? 何かの暗号、合言葉? あるいは隠語か?

 もし隠語ならば、撃墜されたのはむしろ自分の方ではなかろうか?

「今までモヤモヤ感がすごかったから、憲法が改正されて自衛隊がちゃんとした軍隊になったみたいにスッキリしたよ!」

 小野寺と違い、風間は本気で祝福しているようだった。

 他の男子も、

「まぁ、見え見えだったしな」

「見え見えすぎて、うっとうしかったよ」

「ありゃ、恋愛公害だよな。独り者の気持ちを考えろ、この幸せもんが」

「やっと便秘が解消されたぜ」

「ふもっふ!」

 などと、それぞれに冷やかしたり、祝福したり、怨念を込めたりした。

 かなめもかなめで女子クラスメートに囲まれていて、

「カナちゃん! 詳しく教えて! どうやって相良くんと付き合ったの!? あの相良くんと!」

「髪を切ってあげたってほんと!?」

「かなめ、だいたーん!」

「もしかして、最後まで行っちゃった?」

 恭子にくわえて、向井麻弥や工藤詩織などの友人たちに質問攻めにあう。

「まー、まー、ちょっと落ち着いて。ちゃんと話すから」

 もみくちゃ状態にされながらも、かなめは悪い気分ではなかった。

 むしろ、とても心地よく幸せだった。

(……こんなことなら、もっと早く勇気を出しておけばよかった)

 もちろん、あの1日だけの大冒険があったからこそ、昨夜自分から前に踏み出せたことはわかってる。

 でも、きっと自分のような臆病者には、ああいった奇跡が必要だったのだ。

 今は、すべてがよい方に向かっている。

 それでいいじゃない。

「はいはい、HR始めるわよ。みんな、席に着く、着く」

 担任の神楽坂恵里が教室に入ってくるなり、いつも以上に騒めいている教え子たちをにらむ。

「先生! カナちゃんと相良くんが付き合い始めたんですよ!」

「ええええええっっっっっ!!!!!?????」

 恭子の言葉に、恵理はガタン! と黒板に背中をつけてしまった。

「きょ、恭子」

 かなめが顔を赤らめて、恭子を制止する。

 もう、何もそんなに言い触らさなくてもいいよ。

「ち、千鳥さん! あなたそれ本当なの!?」

「ええ、まぁ。雨降って地固まっちゃったというか、固めちゃったというか」

「千鳥さん、教師のわたしがこんなこと言ったらいけないのは重々わかっているけど、あなたなら他にいくらでも選択肢があるのよ!」

 恵理に追随して、風間をのぞく男子生徒全員と、女子の半数以上が『うんうん!』とうなずいた。

「心配してくださってありがとうございます、神楽坂先生。でも――」

 かなめは穏やかに切り返した。

「ないです。あたしの選択肢はソースケだけです」

 どよどよどよーーーっ!!! と、最大級にどよめく2年4組。

 言うか!? そこまで言うか!?

「カナちゃん、かっこよすぎ!」

 常盤恭子は、今この時ほど親友の千鳥かなめが格好良く、頼もしく、美しく、そして好ましく思えたことはなかった。

「『割れ鍋に綴じ蓋』って言いますよね? それですよたぶん」

 あははは、と笑いながら何気にひどいことを言うかなめに、もう何を言っても無駄だと悟ったのか、恵理は物凄い形相で宗介に向き直った。

「相良くん!」

「はっ!」

「あなた、女の子にここまで言わせた意味、わかってる?」

「はっ! 肯定であります!」

 全身を緊張させ、直立不動の姿勢で答える宗介。

 全身に脂汗が噴き出す。

 まさか、神楽坂先生からこれほどのプレッシャーを受けるとは思わなかった。

 これではまるで、『マデューカス中佐』ではないか。

「現在自分は千鳥と『交際関係』にありますが、幸いにして自分には次の段階に進むだけの経済力があります! 必要とあれば100頭までならすぐに羊も用意でき、千鳥のお父さんの了承もとれます! 問題ありません! Ma’am!」

「つ、次の段階って……必要……あ、あなた達、まさかもう、そこまで……」

 クラ~ッとふらつくと、恵理はそのまま昏倒してしまった。

 女子生徒が、一斉に失神した恵理に駆け寄る。

「はぁ~~~~っ」

 と額に手をあててため息を吐く、かなめ。

 状況がわからず、周囲を振り返って無言で助けを求める宗介。

 そしてなにより、かなめがハリセン殴打しなかったことに、驚愕のまなざしを向ける残りのクラスメート。

『人は変わっていくものでしょ?』

 風間信二の脳裏で、白鳥が優しくささやいていた。

 

 

 キ~ンコ~ン~カ~ンコ~ン♪

 没個性極まりないチャイムが鳴って、四時限目の授業が終わった。

 宗介が今朝ほどかなめに渡された弁当を持って立ち上がる。

 弁当の日はどういうわけか『一人で屋上で食べるように』と、かねがねキツく申し渡されている。

 かなめにとって自分の作った弁当を教室で食べられるのは、なぜか都合の悪いことらしい。

 宗介はどうせなら教室で食べて、自分が喜んでいるところをかなめに見せたかったのだが、『言うこと聞かないと二度と作ってあげないわよ!』と言われては、それ以上何も言えない。

 かなめにしてみれば、クラスメートたちに自分が宗介に弁当を作ってることを知られたくなかったわけだが、級友たちはそんなことはとっくのとっくにお見通しであり、普段は教室で干し肉だのカロリーメイトだのをかじっている宗介が、ナフキンで包まれた弁当箱を手にいそいそと教室を出ていく姿を見れば、『ああ、今日は弁当の日ね』と生ぬるく見守るのが常だった。

「ソースケ、ご飯食べよ」

 立ち上がった瞬間、かなめが後を振り向いた。

「……え?」

 呆気にとられて硬直する宗介。

「なに、固まってるのよ。ほら、早く机をくっつける、くっつける」

(し、しかし、千鳥。今日は『弁当の日』だぞ?)

 宗介は、かなめを配慮して思わず小声で確認してしまう。

「今日からは一緒に食べても大丈夫なの。むしろ、一緒に食べないとなに言われるか」

「そ、そういうものなのか?」

「そういうものなのよ」

 そういうものだ……と言われてしまえば、そういうものだ……と思うしかない。

 何もかもが昨日までとは正反対になってしまった。

『交際』というものは戦況を一変させる力を持った、一種の最終兵器なのかもしれない。

「どうしたの? 食欲ないの?」

「い、いや、あるぞ。食欲は大いにある」

 慌てて席に着くと机をひっつけて、かなめと対面に座る。

『おお~っ!』と、教室にどよめきが広がる。

 かなめが立ち上がって、両手で『はい、はい』と抑える。

「まったく、みんな子供なんだから」

「……」

「ん? どうしたの、ソースケ?」

「君はすごい落ち着きようだな……」

「まあね、『喉元過ぎればなんとやら』ってやつよ」

 そう言ってからかなめは、

「ソースケは、あたしと二人でお昼ご飯たべるの……嫌?」

 ちょっと上目づかいで恥ずかしげに訊ねた。

「……!」

 ドキン!

 い、いかん、今日の彼女は魅力的すぎる! い、いや昨夜からだが――とにかく落ち着け!

「も、問題ない! お、俺も常々、君と一緒に弁当を食べたいと思っていたところだ!」

「そ、よかった。それじゃ、いただきまーす」

 かなめはカパっと弁当箱をあけると、両手を合わせて食べ始めた。

「うん、美味しい、美味しい」

「こ、『交際』とはすごいものだな。昨日までとは状況が激変してしまった」

「あたしもね、本当は宗介とお弁当食べたかったんだ。でも、付き合ってもいない男の子にお弁当作ってあげるなんて変でしょ」

「変なのか?」

 宗介には、よく分からない。

「変なのよ。この国の常識だとね。今思うと、そういう常識の方が変なような気もするけど」

 モクモクと玉子焼きを食べながら、かなめが言う。

「でも付き合っちゃえばもう大義名分ができたから、誰はばかることなく食べられちゃうってわけ。ほんと、面倒くさいわよね」

 宗介には、もはや理解できない。

「……だから、今までごめんね」

 かなめが謝った。

「い、いや、謝るのは俺の方だ。こんなことならもっと早く『交際』しておくべきだった」

 なるほど! 『交際』とは男と女がより近しい関係を構築するための大義名分のことなのか!

 確かに大義名分のない戦いなど、戦争犯罪でしかない!

 付き合っていない者同士がキスをするとレイプになるというのもうなずける!

 ピコーン!

 宗介わかった!

 犬宗介の頭の上に浮かぶ、明るい電球!

「ふ~ん、もっと早くっていつぐらいから?」

 ちょっと意地悪い表情で、かなめが訊ねる。

「そ、そうだな」

 生真面目に考え込む、宗介。

「言うてみ、言うてみ」

「出会ったときから『交際』……というのはおかしいだろうか。うむ、おかしいはずだ」

「ふんふん、それでそれで」

「メリダ島で一緒に釣りをした時からか……?」

「ほうほう、その手があったか」

「いや、しかしそれでは遅すぎる……そうか」

 やがて宗介は、恐る恐るかなめを見た。

「君と初めて、あの駅の桜の樹の下のベンチに座ったときから……というのはどうだろう?」

「……うん」

 かなめが、穏やかな優しい笑顔でうなづいてくれた時、宗介は自分の答えが正解だったことを知った。

「相良ーーーーーーっっっっ!!!! 貴様ーーーーーーーっっっっ!!!! なぜ俺の挑戦状を無視したーーーーーーっっっっ!!!!」

 その怒声が教室に鳴り渡ったとき、常盤恭子、向井麻弥、工藤詩織の3人は、

(((ムキーーーッ!!! せっかくいい雰囲気だったのにーーーっ!!!)))

 と頭を掻きむしった。

「椿か、どうした?」

「椿くん、どうしたの?」

 対面で楽しげに弁当を食べている宗介とかなめに、椿一成はまず大ショックを受けた。

「見てのとおり俺たちは『交際中』で弁当を食べている。昼休みは短い。邪魔はしないでくれ」

 宗介のその言葉に、椿一成は大大ショックを受ける。

 しかし、まだ希望はある。まだ相良宗介の勘違い、思い込みということもある。

「ち、千鳥、相良が今言ったことは本当か?」

「え? 『交際中』ってこと? ええと、うははは! まぁ、なんというか、うん、『交際中』なのかな、やっぱり」

 ガァーーーーーーーーーーーーンンンンッッッッ!!!

「そういうわけで、俺と千鳥は今『交際中』なので弁当を食べているのだ。部外者は遠慮してくれ」

「もう、ソースケ。そんな『交際中』、『交際中』って言わないでよ。そういうのは言わなくてもわかるもんなんだから」

「ふむ、それもそうだな。こうして一緒に弁当を食べていれば、わざわざ『交際中』と言わなくてもわかるか」

「そうそう」

「というわけだ、椿。『交際』はいいものだぞ。お前も早く稲葉と『交際』するといい」

「そうだよ、椿くん。瑞樹、きっと待ってるよ」

「……」←メンドーサ戦後の矢吹丈な椿一成。

(……相良くん、エゲツな……カナちゃんも無意識に傷口に粗塩すりこんでるし……)

 恭子は鈍感なふたりがラブラブになるとはこういうことなのかと、薄ら寒い思いに囚われた……。

 

 

 学校からの帰り道。

 恭子や麻弥たちは、さすがに今日は遠慮してくれ。

 宗介とかなめは二人だけで、いつもの『おはいお屋』で買い食い。

「美味い」

 かなめから手渡されたトライデント焼きを一口かじり、宗介はうなった。

 なんだ、このトライデント焼きは?

 いつも食べてる物よりもずっと美味いぞ?

 コックが腕を上げたのか?

「ん? そんなに? どれどれ――」

 パクッ、

「――!」

「ん~、そうかな? いつもと同じヨーグルト味だと思うけど……そうね、うん、やっぱりいつもより美味しく感じる」

「ち、千鳥、いま君は……」

「ふっふ~ん、『交際中』ってのいうのはね、こういうことも出来るのよ――はい、あたしのクリーム味」

「こ、これを俺が食べてもいいのか……?」

「シェアよ、シェア」

「あ、新しいのを買った方がいいのではないか?」

「あんた、仮にも自分の彼女をバイ菌みたいに言わないで。いらないならあたしが全部食べちゃうわよ。クリーム味美味しいのにもったいない。あ~、もったいない」

「……むっ」

 パクッ!

「ふむ、確かにこれはもなかなか……美味い」

「奇襲したわね、あんた!」

「最初に奇襲をしたのは、君だ。君は報復を受けたにすぎない。よってこれは国際法に違反しない」

「はいはい」

 今や『時をかけるなんとやら』になったかなめの受け流しスキルは、そんな屁理屈ものともしない。

「いいんじゃない、そういうのも。迷彩色の恋心なんてある意味あたし達らしいし……」

「……」

 不意に宗介が立ち止まり、その視線は夕日が照らす歩道に落ちていた。

「? どうしたの、ソースケ」

「……」

「ソースケ?」

「……俺は、昨日から一睡もしていない」

「……え?」

「……睡眠を取って、覚醒したらすべてが夢だったのが怖くて」

 かなめは言葉を失った。

(こいつ……本当に怖がってる。瞳が、怖かったって言ってる……)

「だから、俺は今朝眠らずに君と会えて……」

 くそっ! なにを言ってるんだ、俺は!

 宗介が、思いを言葉に出来ないもどかしさに、小さく毒づく。

(いいんだよ、ソースケ。少しずつ、少しずつ進んでいこう)

「ソースケ」

 かなめが、毒づく宗介に微笑む。

「あたしは……あんたのお腹に傷はつけさせない」

「……え?」

「それが、こっちのあたしのやり方」

「千鳥、それはどういう意味……」

「なんでもない、帰ろ」

 再び歩き出す、かなめ。

「千鳥、待て」

「ダメ、待たない」

「いや、そうじゃなくて……」

「いや、そうなの」

「違うんだ、千鳥!」

「もう、なによ?」

 かなめが振り返ると、真っ赤な顔で左頬の十字傷を掻く宗介がいた。

「あ……いや、その……」

「ん?」

「……手をつないでも……よいだろうか」

 聞き取れないような小さな声だったが、かなめの耳にはハッキリと響いた。

「………………うん」

 宗介は手を伸ばし、かなめの手を取った。

 ソースケの手、温かい……。

「ねぇ、ソースケ」

「な、なんだ、千鳥?」

「今日は……ちゃんと寝ていいからね」

 そして二人は、穏やかな時間の中で初めて手をつなぎ、歩いて行く。

 

 

End of Episode

 

 




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