v.s.を読んでいなくても理解できますが、読んでいるとよりわかりやすいです。
宗介とかなめが一組の夫婦との出会いを通じて、自分たちが進む道を見定める……そんなお話です。
ご一読いただければ幸いです。
「――『虫の知らせ』って本当にあるのね」
目的地に向かう途中の車内で、かなめが呟いた。
助手席に座り、左肘を窓際に突いて顎を乗せ、外の景色を見ている。
その声は少し重く、緊張しているようだった。
『虫の知らせ』――確か英語で表すなら『シックス・センス』に近いニュアンスだったと思う。
「そうだな」
ハンドルを握りながら、宗介はうなずいた。
彼らは今、ある夫妻と会うために鎌倉の外れにある別荘に向かっている。
二人がその夫妻に行きつくまでの切っ掛けが、『虫の知らせ』と言えた。
宗介は運転を続けながら、今回の訪問の発端となった一連の出来事を思い出していた……。
・
・
・
「――あ、『Ryoko』の新作が発表されたんだ」
夕食後、ダイニングテーブルでパラパラと雑誌をめくっていたかなめが、『おっ』といった感じの声をあげた。
「『Ryoko』とは、なんだ?」
「ファッションのブランドよ。15年ぐらい前からパリを拠点に活動してるんだけど、かなり前から日本でも大人の女性を中心に人気が出てるの。母さん、このブランドの服好きだったなぁ」
「服飾品か」
ソファでニュースを見ている宗介からは、あまり興味を引かれたような返事はなかった。
以前のかなめならその素っ気なさに『ムッ』としたところだが、付き合い始めて1年半の今はもう自然と聞き流せてしまう。
元々宗介は、ファッション関係の話題にはとことん疎いのだ。
彼らがアマルガムの完全壊滅を受けて、世界各地を巡る逃避行から帰国し、思い出深いかなめのマンションで暮らしはじめてから半年ほどがたつ。
しばらくは何事もなく平穏な日常が続いたが、2週間ほど前に予期せぬ少女の突然の来訪を受け、さらには正体不明の集団の襲撃を受けるという事態が発生した。
少女は無事に自分の家に帰り、正体不明の集団は宗介とかなめの元『護衛』であるレイスの活躍によって撃退されたが、再びの緊張を強いられることになった。
もっとも、その辺りのことにはもう慣れっこになってしまっていて、緊張しながらも適度に息を抜くことを覚えてしまっている。
歴戦の傭兵であった宗介はもとより、本質的な部分でもろい少女だったかなめも、今は立派に彼のパートナーになっていた。
(……そろそろ、働かないとなぁ)
日本人女性がオーナーを務める新作コレクションを眺めながら、かなめはボンヤリと考えた。
宗介が傭兵時代に稼いでいた蓄えも、1年に亘る逃亡生活や必要な機材の購入で心細くなってきている。
自分の持っているブラックテクノロジーの知識を使えば、特許を一つ取るだけで一生遊んで暮らせるだけの金が手に入るが、それは禁じ手だったし、宗介が何より嫌がる。
自分と宗介の技能を生かして、なにか商売でも始められればいいのだが、あまりパッとしたものが思い浮かばない。
(……まさか『シティーハンター』をやるわけもいかないしねぇ)
それは宗介よりも、彼の元同僚の『クルツ・ウェーバー』の方が似合いそうだ……と、かなめは思った。
彼はやはり宗介の元同僚の『メリッサ・マオ』と結婚し、今は
(……結局、そういう方向性になっちゃうのよね)
銃とかASとか、そういう物騒な。
(PSの修理工場とか開いちゃおうか)
ASの機能を民間転用した、PS(パワー・スレイブ)という土木機械が開発され、徐々に普及し始めている。
関連する企業に就職するのもいいが、かなめとしては出来れば宗介と一緒に働きたかった。
かなめは視線を上げて、ソファでTVを見ている宗介を見た。
宗介はかなめや現在の生活を守るためなら今も躊躇なく銃を抜くが、それ以外では戦うことを忌避している。
かなめとしても、自衛以外の目的で彼に戦ってほしくはない。
PSの修理工場というのは、案外いけてるアイデアかもしれない。
「ずいぶん熱心ね。なにを見てるの?」
「BBCのニュースだ」
宗介はリモコンを手に取り、TVの音量を上げた。
読書中のかなめに配慮して、ボリュームを絞っていたのだ。
「『アスラン』がまた焦臭くなってきた」
「『アスラン』?」
聞き覚えのない名前だ。
「中近東にある小国だ。周辺の氏族の連合を母体とする王制国家だったが、20年以上前に内乱が勃発し、その結果15年ほど前に民主国家に生まれ変わった。主な産業は石油とウラニウムの輸出。それ以外には観光。国土の大部分が砂漠という、一昔前は中東の火薬庫とよばれていた国だ」
宗介が説明した。
かなめの知識は主に(超)先進科学技術であり、こういった知識に関しては、元々中東で戦っていた宗介の分野だ。
「これまでの首相が死んで、統制のタガが弛んだようだな」
これまでの首相は『ザク』と言い、先進的で温厚。良心的な人物だった。
元国王であり、15年前に終結した内戦では一度は『反政府軍』によって国外に追われたが、その後帰国、以降は首相として国の発展と民主化に力を尽くした。
「アスランの国民の大部分は、他の土地から流れてきた民族だ。土地に対する愛着が少ない。ザク首相は元からアスランに根付いていた部族の出身で、そういった意味で国の中心たり得る人物だったのだが……」
「ずいぶん詳しいのね。そこで戦ってたことがあるの?」
「直接はないが、『アスラン』で商売をしていた武器商人と取引をしたことがある」
食えない老人だった――と宗介はつけ加えた。
「民主化されてまだ15年だ。普通に選挙を行って後継首相が決まればいいが、おそらくは無理だろう。各部族の背後に、アスランでの利権を望む国や企業、組織がすでに根を伸ばしてるはずだからな」
「……嫌な話ね」
「……ああ」
2人は同時に悪い予感に襲われていた。
そういう遠い国での焦臭ささが、巡り巡って『ウィスパード』『ウィスパリング』とよばれ、現代の水準をはるかに超える科学知識を持つかなめの身辺に影響を及ぼしてくることを、宗介とかなめはよく知っていた。
その時、かなめの携帯が鳴った。
ディスプレーを見ると、すぐに出る。
「レイス、どうしたの?」
かなめの声に、宗介が振り返った。
「うん、うん――え? この間だ襲ってきた連中の正体がわかった? それで、やっぱりアマルガムの残党だったの? 違う? ――ちょっと待って」
そういって、かなめは携帯の通話口を押さえ、宗介を見た。
「宗介、『P4』って知ってる?」
「ああ」
宗介はうなずいた。
「20年前にアスランの内乱に介入して大火事にした武器商人たちだ」
かなめはTVで続いているニュースを見た。
大型の液晶画面には、20年前の内戦の凄惨な光景が映されていた。
・
・
・
かなめはレイスからの報告を受けた3日後、ある人物に会う宗介に伴われて、新宿に出た。
『P4』――『プロジェクト4』。
かつてアスランの内戦においてスポンサーとして反政府軍を援助し、後に反政府軍そのものを傀儡として操った先進各国の軍産複合企業の連合体。
その『プロジェクト4』について詳しく知る人物が、偶然日本に商談のために訪れているというのだ。
宗介とかなめは、待ち合わせ場所に指定された雑居ビルに入っているバーに向かう。
(……うわ、このゴミと吐しゃ物の臭い……サイテー)
新宿駅北側に広がる、いわゆる『おやじの飲み屋街』を歩きながら、かなめは顔をしかめた。
飲み屋と風俗店が建ち並ぶ、かなめ個人としては一番近づきたくないスポットである。
(……林水先輩とお蓮さん、元気かな)
かなめは辺りに立ち込める異臭に、ふと2人の友人を思い出した。
彼女と宗介は陣代高校在学中に、当時の生徒会長である林水敦信の過去を巡って、この近辺を訪れたことがある。
この場所に来るのは、その時以来だ。
「どうやら、ここのようだ」
宗介が立ち止まり、目の前のうらぶれた雑居ビルを見上げた。
「準備はいいか?」
「いつでも」
頼もしい表情で、うなずくかなめ。
もう彼女は宗介に守ってもらうだけの少女ではない。
彼のパートナーであり、戦友だ。
今は自分たちの生活に危険が及んだとき、宗介が1人で行動することはない。
必ずかなめに相談し、ともに行動する。
それによって口論することもあるが、以前のようにギクシャクとすれ違うことはない。
段ボール箱だのなんだのが乱雑に置かれた通路を通り、エレベーターに乗り込む。
――これでは火災が起きたら住人は全滅だな。
宗介は、話を聞いたら早々に退散しようと思った。
店に入ると、アルコールとたばこの匂いが目に沁みた。
紫煙がただよい、古いジャズがかかっている。
いかにも『それ系』の関係者が密談に使いそうな店だった。
実際、そういった客によって経営が成り立っているのだろう。
かなめは、ケホケホッとむせている。
宗介はバーテンダーに来店の理由を告げた。
どうやら狭いながらも個室があるらしく、2人は店の奥に通された。
待ち合わせの相手は先に来ていた。
「ほ~う、こりゃまたずいぶんと背が伸びたな。見違えた」
国籍不明の小柄なわし鼻の老人が、宗介を見上げてニヤリとした。
白髪の長髪。
いちおうは柔和な表情を浮かべているが、まったくそうは見えず、修羅場を潜ってきた凄みを漂わせている。
「あんたは変わらないな。まだ生きているとは思わなかった」
「$$$ あたぼうよ。世の中銭でうなってるんだ。そう簡単にくたばるか $$$」
老人がうそぶく。
「そっちのかわいらしいお嬢さんは?」
「恋人だ。今東京で一緒にくらしている。俺の過去も知っている」
「ほう、それはそれは。お前さん、普通の人生を手に入れたか」
驚いた表情を浮かべる老人に、かなめは初めて温かみを感じた。
クソジジイの類ではあるが、人間味がまったくないわけではないらしい。
「よろしく、お嬢さん。わしはマッコイだ。ソースケとは古い馴染みでね。コイツらが必要とする品を調達して売りさばくのが仕事だ」
「ようするに『死の商人』ってわけね」
品定めするようなマッコイの言葉に、かなめが動じずに答えた。
一癖も二癖もある連中に囲まれて、1年以上も軟禁生活をおくったかなめである。
これぐらいの『圧迫面接』など屁でもない。
「ん~? はっはっは! コイツは一本取られた。さすがあのカシムを選んだだけはある!」
マッコイは大笑いした。
「気に入ったよ、お嬢さん。よかったらこのジジイに名前を教えてくれんか?」
「千鳥かなめです。失礼なことを言ってごめんなさい」
「ほう、礼儀正しい大和撫子でもある。お前さん、いい女を見つけたな」
まるで孫を見るような目で、マッコイが宗介を見た。
「いつも助けられている」
そこからはお互いの近況報告になった。
「なるほどな。お前さん、しばらく連絡をよこさんと思ったらミスリルにおったのか」
「ああ、西太平洋戦隊だ」
宗介はうなずいた。
「そこでの任務で彼女と知り合った。護衛だ」
「そうか。それじゃ例のアマルガム絡みではキツかっただろう」
「ああ」
「ミスリルもボーダ提督が最高司令官に就いて再建に努めてるが、全盛期の戦力を回復するにはまだまだ時間が掛かるだろうよ。まぁ、そのおかげでわしも儲かってるんだが」
宗介はあきれた。
この爺さん、今はミスリルとまで商売してるのか。
以前のミスリルは機密保持の観点と、なにより設立理念に反するため、外部の武器商人とは取引しなかったはずだが。
背に腹は代えられないといったところか。
「それで、今日わざわざ呼び出したのはなんの用だ? お前さん、もう武器はいらんのだろう? 二人して結婚式の誘いか?」
「そうだったらよかったんだが、そうも言ってられなくなった」
宗介は、2週間前の襲撃と3日前のレイスからの報告について話した。
「プロジェクト4だと!?」
「ああ、それについて一番詳しいのはあんただ。だから話を聞こうと思ってな」
「いや、わしが知っているのは、アスランの内戦までのP4だ。まさか息を吹き返しておったとはな」
「マッコイさんの耳にも入ってなかったんですか?」
P4といえば、マッコイの商売敵ではないか。
「奴らが息を吹き返していたとは初耳だ。わしら武器商人の間でもそんな話は出ておらん。おそらくまだ本格的な始動はしておらんのだろう」
(……なるほど、商売再興の切り札としてブラックテクノロジーを欲しがったわけね。自社の目玉商品として業界に再び殴り込みを掛けると……なんつーか、わかりやすい連中)
「今この業界では、アマルガムの没落以降、『HCLI』という企業が幅を利かせておっての。もっぱらその噂でもちきりなんだよ」
「海運王『フロイド・ヘクマティアル』の企業か」
「そうだ。誰かが没落すれば、誰かが隆盛する。歴史の必然だな」
そう言って、マッコイはグラス注がれたウイスキーをすすった。
「新生P4の話が本当だとして、お前さんたちがつぶしたアマルガムの残党が相当流れ込んでいるだろうな。元々P4自体がアマルガムから枝分かれしたみたいな連中だからの」
それはそうかもしれない――と、かなめは思った。
アマルガムの歴史は、第二次大戦終了直後までさかのぼる。
元々は冷戦構造を固定化して、大国間の戦争をなくすことを目的として発足した組織なのだ。
それが時代とともに変容して、最後はブラックテクノロジーを利用した先端兵器を開発、試験、売買する死の商人にまで成り下がった。
プロジェクト4の母体となった各国の軍産複合体にまで影響を及ぼしていてもおかしくはない。
「ところでカリーニン、あやつは今どうしてる?」
「死んだ」
短く答えた宗介の手に、かなめは自分の手を重ねた。
「そうか」
マッコイはその一言で、すべてを察したようだった。
「わしの方でも何かわかったら連絡しよう。もちろん代金はいただくが」
「変わらないな、爺さんは」
「ふん、情報も立派な商品よ。むしろ昔も今も、もっとも価値のある商品だ。他にも必要な物があったら用立てよう。身を守るにはそれなりの武器が必要だろう」
「ASとかも手に入るの?」
「あたぼうよ。なんだって持ってくるのがこのマッコイの店のポリシーだ。金さえ出せばクレムリン宮殿だって引っ張ってきてやる!」
胸を張るマッコイに、
「トイレットペーパーから核弾頭まで、なんだって手に入る」
宗介がかなめの耳元で囁いた。
「うははは……それは頼りになるわね」
(……この人が信用できるなら『あれ』の部品が手に入るかも……でも問題はやっぱりお金よね)
「そんなわけだ。お前さんたちはゆっくりしていけ。この店、酒はいい物をそろえてあるぞ。払いはわしが持つ」
マッコイにしては珍しく、他人におごる気になったらしい。
いそいそと立ち上がったのは、おそらく今し方入手した『ネタ』の裏を取り、商売に利用する腹づもりなのだろう。今ごろ老人の頭ではすごい勢いでソロバンがはじかれているはずだ。
「――そうだ」
店の入り口までいったマッコイが戻ってきた。
手帳を開いて何やらメモをし、それを破る。
「プロジェクト4についてもっと知りたければ、この住所を訪ねるといい」
「津雲涼子……誰なんだ?」
(津雲涼子……どっかで聞いたことある名前ね)
「アスランの内戦のおり、ヨーロッパを中心に婦人連盟を作ってプロジェクト4を敗滅においこんだ女傑だよ。いつもはパリにおるんだが、今ちょうど日本に戻ってきてる」
「あ、そうか。この人『Ryoko』のオーナーの!」
「『Ryoko』? 君が数日前に言っていた服飾品のメーカーのことか」
「はは、まさか嬢ちゃんは女だな。そうだ。その『Ryoko』の経営者だよ。他にもメンズ系の『Sin(原罪)』というブランドも持ってる」
「わかった。状況を鑑みて必要なら会ってみる」
その日、マッコイとはそれで別れた。
・
・
・
『軍曹、500m先を右折です』
物思いに耽っていたかなめを、カーナビ役を務めるアルの声が引き戻した。
結局、宗介とかなめは相談のうえ、津雲涼子にアポイントメントを取った。
『「プロジェクト4」について至急知る必要があり、失礼は承知の上で会ってお話を聞きたい』
と単刀直入に申し込んだのだ。
最初は断られると思ったが、案外簡単に了承してくれた。
「了解した」
宗介が答えて、車の速度を徐々に落とす。
「津雲涼子。37歳。既婚。元大和航空社長令嬢。現津雲グループ会長。世界的平和団体の代表でもあり、ヨーロッパを中心に活動中。夫との間に一女あり……か」
かなめが昨日までに調べた涼子のデータをそらんじる。
「大和航空といえば武蔵航空と並ぶ、日本の民間航空会社の双璧だ」
「そうね、そのせいか『Ryoko』は最初、航空会社の客室乗務員の制服の大量受注に成功して名前をあげていったのよ」
「ノウハウがあったのだろう。スチュワーデスが何を必要としているか、一番わかっていただろうからな」
(……どんな人なのかな? 写真で見た限りではすごく奇麗な人だったけど。リーダーシップのある女性なのは確かだろうけど、グループが急成長したのは片腕として頼んでいる女性が敏腕だったせいもあるみたいだし)
やがて目的地の近くの有料駐車場到着した。
ここにアルを止めて、あとは歩きだ。
鎌倉という土地柄は、とにかく車が通行しにくい。
「いいドライブ日和だったな」
「うん」
宗介とかなめは歩きながら、手をつないだ。
10月に入り高かった気温も落ち着いてきた。
特に今日は快晴なうえに湿度も低く、乾いた風が心地良かった。
「あの娘、うまくやっているかな?」
つい先日、突然自分たちの前に現れた少女の姿が、かなめの脳裏に浮かんでいた。
あの娘は大好きな彼と、こうして手をつなげているだろうか。
「彼女なら大丈夫だ」
「やけに自信たっぷりね」
「俺は彼女の専門家だからな」
「またそれか」
ぷぷっと、かなめは噴き出した。
最近の宗介は、それが殺し文句なのだ。
2人は高台にある津雲家の別荘を目指して、階段をのぼっていく。
「どうやら着いたみたいね」
「そうみたいだな」
「まってまって――うん、よし。いい男」
呼び鈴を鳴らす前に、かなめが宗介の身だしなみを整えてやる。
自分は車の中で、散々手鏡をのぞいてきたので大丈夫。
「い、いいわよ。宗介」
さすがに緊張した面もちのかなめ。
宗介は相変わらずの落ち着きぶりで、呼び鈴を押した。
二回ほど押すと、インターホンでうかがいを立てられた。
自分たちの名と来訪の目的を伝える。
すぐに玄関のドアが開かれた。
豊かな髪の美しい女性が、笑顔で出迎えた。
「相良宗介さんと千鳥かなめさんね?」
「は、はい」
「津雲涼子です。さあ、お上がりになって」
(37歳っていったけど、30歳でも通じるじゃない。さすがファッションブランドのオーナーだわぁ~)
かなめは、涼子の大人の女性の魅力に感嘆した。
かなめもファッションのセンスにはいささか自信はあったが、さすがに本職の前だと井の中の蛙(かわず)感を痛感させられる。
宗介が津雲涼子に最初に抱いた印象は、その容姿の美しさよりもその声だった。
(……かなめに似てるな)
声の質が年相応に落ち着いて女らしくもあったが、かなめによく似ていた。
宗介とかなめは、涼子に案内されて別荘のリビングに通された。
調度品はどれも涼子の人柄を思わせる落ち着きのあるものばかりで、かなめには『本物の金持ち』の気配が感じられた。
リビングテーブルには、車いすの男が先に着いていた。
「夫の真です」
涼子が車いすの男の背中に周り、両肩に手を置いた。
「津雲真です。よくお越しくださいました」
線の細い、中性的――いや女性的とも言える男性だった。
「は、初めまして。千鳥かなめです。こっちはえーと、こ、恋人の相良宗介です」
どうも初めての人に宗介を紹介するとき、『恋人』と告げるのがこそばゆい気持ちが抜けない。
「相良です」
宗介は男の足が、戦傷によるものだと一目で見抜いた。
「どうぞ、お座りください。涼子、お茶を」
「はい、すぐに」
涼子がテキパキとお茶の準備をする。
高級茶葉の蠱惑的な香りが、宗介とかなめの鼻腔をくすぐった。
「千鳥かなめさんと言いましたわね?」
「は、はい」
「もしかして、国連の『千鳥環境高等弁務官』のお嬢さま?」
「そうですけど、父を御存じなのですか!?」
「ええ、以前なんどかお会いしたことがあります。目元がお父さまにそっくりですね」
「そ、そうですか……」
これにはかなめも驚いた。まさか、父と涼子に面識があったとは。
(うわ……なんか、あたし圧倒されちゃってる)
と、かなめは思い、
宗介は、
(なるほど、アポイントがわりと簡単にとれたのはそういう理由もあるのか……)
と思った。
香り高い紅茶で唇をしめらせたあと、真が本題に触れた。
「今日はプロジェクト4について、話を聞きたいそうだね」
「はい」
宗介はうなずくと、これまでの経緯を機密度の高い部分をぼやかして、真と涼子に説明した。
かなめが特定の組織にとって重要な存在であること。
そのせいで、高校二年の三学期にある組織にさらわれ、1年間以上にわたり軟禁されていたこと。
1年半前にようやく救出されたが、1ヶ月前に再び謎の組織に誘拐されかけたこと。
その組織がプロジェクト4という組織らしいこと。
涼子が、15年前にヨーロッパで婦人連盟を結成して、プロジェクト4の活動に圧力をくわえて敗滅に追い込んだことを知って、お話をうかがえればとぶしつけながら連絡させてもらったことなどを話した。
真と涼子はしばらく沈黙していたが、やがて涼子が、
「かなめさん」
「はい」
「つらい経験をしたわね」
「ありがとうございます。でももう乗り越えましたから。全部宗介のおかげです」
慰めを見せる涼子に、かなめは明るい笑顔で答えた。
涼子はそのかなめの笑顔に、自分が救われたような微笑みを浮かべた。
「まさか……プロジェクト4が再生していたとはな」
「ええ、わたしも初めて聞きました」
真の言葉に涼子がうなずく。
「わたし達も、もう何年もその名前を忘れていましたから」
涼子はそう言いながらも、自分が嘘を吐いていることを自覚していた。
自分はあれから1日足りとも忘れたことはない。
「……そうですか」
宗介もかなめも別に落胆はしなかった。
「自分たちが先に話を聞いた人物は、まだ組織として再生したばかりなのではないかという意見でした」
「たぶん、そうなのだろう。かなめさんの持つ情報がどんなものなのか僕たちには想像もつかないが、組織再興の『かなめ』として彼女の情報が必要になったのだと思う」
いくらボカしてみたところで、死の商人のプロジェクト4が求める以上、かなめの握っている情報が軍事転用可能なものであることは、誰にでもわかることだった。
どちらにせよ、P4についての新しい情報は得られそうもなかった。
茶を飲んだら、ここは早々に退散するべきだろう――。
「――かなめさん」
「は、はい」
「少し、相良くんと2人だけで話をさせてもらってもいいだろうか」
突然の真の申し出に、かなめはうろたえてしまった。
「え、ええ、もちろんです」
「相良くん、テラスに出よう」
「はい」
「それじゃ、お茶を淹れ直してテラスに持っていくわね」
「ありがとう」
真は慣れた手つきでハンドリムを回して、テラスに出た。
宗介もその後に続く。
高台からは、穏やかな初秋の相模湾が一望できた。
まったく色合いは違ったが、宗介にはその景色が自分とかなめが初めて釣りをしたメリダ島の岬を思い起こさせた。
「奇麗だろう」
「はい」
「でも僕の目には、この海は何度も死線を越えた地中海の青に見える」
そう言って真は車いすを回し、青い海を背に宗介を見た。
「君は、兵士だね」
「はい」
「元アスラン王国外人部隊エリア88所属、シン・カザマ大尉だ」
「元ミスリル西太平洋戦隊トゥアハー・デ・ダナン所属、相良宗介軍曹であります」
・
・
・
「相良さんは、兵士なのね」
「はい」
涼子の問いに、かなめがうなずく。
「真さんもですか?」
「ええ」
かなめの問いに、涼子が答える。
「悲しいものね。男のまとう火薬の臭いがわかってしまうなんて」
「そうですね……」
「元アスラン王国外人部隊エリア88所属、戦闘機パイロット。最終階級は大尉。総撃墜機数120機。対地目標物撃破約258車輌、指定目標攻撃率88%、出撃率95%、事故損失率13% 親友に裏切られ、外人部隊に入隊させられ、運命を呪い、故郷を想い、恋人を想って、来る日も来る日も地獄の戦場で戦い続けたのが、真よ」
涼子の声には、深い愛情とそれ以上の悲しみがあった。
「宗介も同じです……あいつは飛行機事故にあって5歳でソビエトの暗殺者養成所に入れられて、8歳でアフガニスタンのゲリラとなって、それ以降もずっと戦場で生きてきました。3年半前にあたしの護衛になったあとも、連れ去られたあたしを助けるために、たった一人で戦い続けて……ボロボロになって……何度も死にかけて……それでもあたしを助け出してくれました」
「愛しているのね、彼を」
「はい。心の底から誰よりも」
キッパリと言い切るかなめに、涼子は再び救われた思いがした。
「わたしたち、お友達になれそう」
「え? そ、そんな、あたしと涼子さんなんて全然つりあいませんよ」
「あら、わたしと友だちになるのは嫌?」
「い、いえ、そういわけじゃないんです! とっても光栄です!」
突然、少女っぽいいたずらな笑顔を向けられ、かなめは混乱した。
そっか、これが本来の涼子さんなんだ。
「あの、ぶしつけなことを聞いてもいいですか?」
「なに?」
「涼子さんが、15年前にヨーロッパでプロジェクト4に圧力をくわえる運動をしたのは、真さんのためですよね?」
わかりきったことだった。
自明のことだった。
それでもかなめは、涼子の口からその答えを聞かずにはいられなかった。
・
・
・
「そうか、マッコイから紹介されたのか……」
「はっ」
「あの爺さんの守銭奴ぶりは、死ぬまで治らないな」
「同感であります」
「僕はあの戦いで、多くの戦友を亡くした」
真の瞳は、遠くを見つめているようだった。
「マッコイは……僕に残された数少ない戦友と呼べる人間だ。クソジジイだが信用はできる」
「肯定であります」
「君の戦友は生きているのか?」
「はっ、多くを失いましたが、一番大切な者は健在です」
「そうか……それは何よりだ。本当に何よりだ」
宗介は、その真の姿に強い寂寞感を見て取った。
あんなにも妻に愛されていながら、目の前の元傭兵は今もなお過去の感傷を引きずっている。
「僕はアスランでの最終決戦のあと、一時記憶を無くしてたんだ。身体中に20mm砲弾の破片を浴びてね。意識を失って。足も自由もその時失った。目覚めたときには、旅客機の飛行訓練中に事故を起こしたのだと思い込んでいた。医者の話では、あまりにもつらい体験だったために、自ら記憶を閉ざしたのだろうと」
「……」
「でも、あるとき不意戻ったんだ。なにもかも、すべてを思い出した。涼子はその時、とても悲しそうだった」
宗介は、黙って真の話に耳を傾ける。
「でも、過去に戻って、もう一度歩けるようになるのと、記憶を取り戻すことのどちらかを選べと言われれば、僕は迷うことなく、彼らの記憶を選ぶ」
「……それが戦場の記憶ででもありますか?」
「戦場の記憶だからって、すべてが思い出したくないものばかりではない。君にも平和の中では手に入れることのできない強い絆が確かにあったはずだ」
真の言葉に、宗介の脳裏にある男の姿浮かんだ。
銀髪の強靱な精神と鋼の肉体を持つ男。
常に冷静沈着で、何よりも妻の元に帰りたがった男。
「彼らを忘れることなど出来るはずがない……彼らの戦いを覚えておくことは僕の義務だ」
宗介は、真を女々しい男だとは思わなかった。
ただ、もう戦うことは出来ず、戦う必要もない男なのだと。
そしてなにより、本来は戦う必要などなかった男なのだと。
たとえ強い寂寞感に囚われていようと、愛する妻に寄り添われ、強い絆で結ばれた戦友たちの思い出を抱き、この男は今確かに幸せなのだ……と、そう思った。
「大尉殿。自分は幸せになる資格があるのでしょうか……」
宗介は今まで胸の奥に閉じ込め、誰にも明かしたことのない悩みを吐露した。
この男も初めて妻を抱いたとき、その思いにさいなまれたはずだ。
「それは今の君の生活がすでに証明しているのではないのかな。資格がある者にも、なかなか幸せは訪れない。だが、幸せになる資格のない者には、絶対に幸せは訪れない……僕はそう思う」
真の言葉は穏やかで静かですらあったが、宗介の心深くに届く気がした。
「これを君にあげよう」
真はそう言うと、宗介に1枚のカードを差し出した。
「……これは?」
「僕が、以前アフリカでの作戦に参加したときに手に入れた物だ」
黒地に金の文字で、スイス……ローゼンマイヤー銀行……といった文字が見て取れた。
「いつか、君たちのような若者が現れたときに託そうと思っていた。君たちのこれからの戦いに役立ててほしい」
「ありがとうございます」
宗介は頭を下げ、素直にそのカードを受け取った。
そして暇乞いを告げて、真と涼子の別荘を辞した。
・
・
・
「彼らは帰ったのかい?」
再び海を眺めていた真は、背中に妻の気配を感じて訪ねた。
「はい」
「そうか」
「感じのいい、若者でしたね」
「そうだね。とても感じのいい若者たちだ」
「風が冷たくなってきたわ。中に入りましょう、真」
涼子は真の車いすを押すと、テラスをから室内に戻った。
(……サキ、ミッキー、セラ、グレッグ、ケン、ウォーレン……………………サトル……)
・
・
・
宗介とかなめは来た時と同じように、手をつなぎながら長い階段を下りていた。
かなめの胸に、先ほど涼子と交わした会話が思い起こされている。
『涼子さんが、15年前にヨーロッパでプロジェクト4に圧力をくわえる運動をしたのは、真さんのためですよね?』
『夫が身体を張って中東でP4と戦うなら、妻のすることはひとつでしょ?』
『もう一つ聞かせてください。涼子さんは今、幸せなんですよね?』
涼子は微笑して答えなかったが、かなめにはその表情ですべてがわかった。
「ソースケ、今あたしたち幸せだよね」
「ああ、俺たちは今幸せだ」
つなぐ手に力がこもる。
((……だから、この幸せは必ず守ってみせる……))
エピローグ
――半年後。
紅海洋上。
エンタープライズ級原子力航空母艦2番艦『
3機とも緊急展開ブースターを装着し、カタパルト射出までの最終チェックに入っている。
アスラン共和国のリシャール新首相の要請により、共和国海軍と新生ミスリルによる初の合同作戦が実施されようとしているのだ。
「――しかし」
『ラウンデル』のブリッジから、武器商人のマッコイがあきれ気味に甲板上の白と赤の派手なカラーリングのASを眺めていた。
「わずか3ヶ月でよくもまぁ、あれだけの機体を建造したもんだ」
「基礎設計自体は、1年前からチョボチョボとやってて終わってたから。建造費用と資材さえあれば、すぐに出来ても当然よ」
マッコイの隣で、アスラン共和国海軍のフライトジャケットに身を包んだかなめが笑ってみせた。
「そんで、結局あの機体の名前はなんになったんだ?」
「『レーバテインII』」
「なんだ、一番当たり障りのないのにしよったのか」
「暫定的にですよ。だってアイツら自分の案を絶対にゆずらないんだもの」
思い出したくもないと、ウンザリ顔のかなめ。
新しい機体が完成したとき、宗介は単純に『スーパー・レーバテイン』でいいだろうと言い、アルはなぜか『
アルはアルで、この機体は自分の『新しい身体』なのだから、自分に命名権があると断固として主張。子供にはDQNネーム・キラキラネームを拒否・改名する権利があるのだと自説を曲げない。
苦り切ったかなめが『リファインド・レーバテイン』略して『リーヴァ』でどう? と言ったところ、一瞬の沈黙のあと、それは格好悪いだの、弱そうだの、そこはかとない情けなさ臭がするだの、散々な言われようだったので頭にきてしまい、母親権限で一番無難な『レーバテインII』に強行採決してしまった。
『レーバテインII』は、名前こそ前機種のものを継承しているが、設計自体は見直しの域を超えてほとんど新設計ともいうべきものだった。
なにせ『ウィスパード』の頂点に立つ『ウィスパリング』として世界最高の科学的頭脳を持つかなめが、一切の妥協なく最強最速最安全の宗介専用の究極のワンオフ機として設計した機体である。
AIがアルなので当然『ラムダ・ドライバ』を単独で使用可能。『妖精の目』『妖精の羽』といった対『ラムダ・ドライバ』兵装も標準実装。
『レーバテイン』の弱点だった電子戦兵装は徹底的に強化され、無論ECS機能も完備。
ネックだった30時間という稼働時間の短さも、新型パラジウム・リアクターの完成によって連続150時間まで延長。
前機種が『M9ガーンズバック』を母体としていたため強度不足で連続しての作戦の遂行が困難だった反省から、量産性0の強みをフルに生かして最高の素材・部品をふんだんに使い、これを解消した。
その結果として、建造費がタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦とほぼ同額と桁が二つほど多くなってしまった。
設計者いわく、『現時点で世界最強。10年後でも世界最強』の機体である。
機体の建造に立ち合ったクルツ・ウェーバーが、
『カナメ、こういうのを「あたしがかんがえた、さいきょーのえーえす」て言うんだぜ』
と、半ばあきれて言ったものだった。
「スポンサーの相良さんが太っ腹でしたし、なによりマッコイさんが必要な資材をすべて集めてくれましたから。そのおかげです」
『レーバテインII』の専属メカニックである久壇未良が、かなめの横で微笑む。
やはりかなめと同じように、空母『ラウンデル』のフライト・ジャケットを着込んでいた。
かなめの設計をアルと共にさらに煮詰め、かなめの片腕となって建造に携わった『ウィスパード』の少女である。
「まぁ、わしにしてみればこの程度のこと簡単な仕事さ」
鼻を高めるマッコイ爺さん。
マッコイも美少女のミラに褒められて、嬉しくなかろうはずがない。
「まぁ、世界一の大富豪がスポンサーなんだ。少なくとも金に困る戦争はしなくていいだろうよ」
そう、今の宗介は文字どおりの世界一の大富豪なのであった。
宗介が真から譲り受けたカードは、俗にスイス銀行の名で知られるスイス銀行組合の中でも最も格式が高いとされる『ローゼンマイヤー銀行』のもので、預けられている資産の正統な持ち主であることの証明だった。
その額USドルで、598億ドル
日本円にして約7兆2600億円。
ビル・ゲイツの587億ドルを抜き、宗介は今や世界一の兆万長者なのだ。
(しかも、かなめが片手間に(それこそ気分転換に)組んだ、金融予想アルゴリズムによって、この資産は今後、年率8%を超える勢いで増え続けていくことになる)
これだけの資産があれば、わざわざASを建造して身を守る必要などないのだが、律義な宗介はこれはプロジェクト4など戦争で利益を得る国家・組織・人間と戦うための資金だとして、『レーバテインII』の建造に踏み切ったのだった。
「それよりもマッコイさん。この空母、前の内戦のときに本当にマッコイさんが見つけてきたの? 普通の武器商人に出来ることじゃないわよ、それって」
「なに、真の隠し資産――今では宗介のもんだが――あれがあれば難しいことじゃなかったさ。納品伝票ちょちょいと書き換えて、ノーフォークの海軍ドッグからスクラップとして引き取ってきただけだからの」
「……ちょちょい」
(……金さえ出せばクレムリン宮殿でも引っ張ってくるって、本当だったんだ)
かなめは自分の頭脳よりも、この老人の商才の方が世界にとっては危険なのでは……と思った。
『お~い、そろそろ撃ち出してくれよ。このままじゃ戦う前に尻が腐っちまうぜ』
『「ウルズ6」。無駄口はやめておきなさい。田舎者に見えるわよ』
『へっ、言ってくれるね、奥さん。こちとら雑誌Tagの表紙を飾ったこともあるイケメンだぜ』
『いつまでも過去の栄光に浸ってるんじゃないわよ。みっともない』
『なんだと、このアマ!』
『メリッサ! ウェーバーさん! 作戦行動中ですよ! 私語は慎んでください!』
宗介の僚機を組む2機の『ガーンズバック改』のオペレーター、クルツ・ウェーバー&メリッサ・マオ夫妻のレクリエーションを、AS戦に不慣れなアスラン海軍の戦術アドバイザーとして
元ミスリルの上官として、恥ずかしいったらありゃしない。
CDCの他の士官や兵員が、ニヤニヤとこちらを見ている。
わ、わたしはこれでも、元大佐なんですよ! 偉いんですよ!
と声を大にして言いたかった。
「やれやれ、この2人もまったく変わらんな」
『レーバテインII』のコクピットで、宗介が独りごちる。
結婚して子持ちになった2人に配慮して今回の作戦には声を掛けなかったのだが、優秀で信頼の置けるASオペレーターを2人とマッコイに注文したところ、真っ先に引っ掛かり、かつ即決で契約してきたのがこの2人だった。
夫婦で立ち上げた民間軍事会社
『しかし、現状では最高の僚機と言えるでしょう。彼らになら安心して背中を任せられます』
「お前も新しい身体の初陣だ。気を抜くなよ」
『もちろんです、軍曹。プロジェクト4を称する田舎者たちに、AS戦のなんたるかを教えてやりましょう』
「大言壮語もほどほどにしておけ。今のお前は「チート野郎」だってことを忘れるな。そういう奴は最後には負けるぞ」
『ラージャ。肝に銘じておきます』
『宗介、準備はいい?』
通信機に、かなめの声が響く。
「いつでも。――かなめ、AIはともかく、君の作ったこの機体は最高だ」
『あんたが身体を張って未来と戦うなら、あたしのすることはひとつよ。最高の機体を造って、あんたがかすり傷ひとつ負わずに帰ってこられるようにすること』
すがすがしいほどの気っぷの良さ。
学級委員だったころの千鳥かなめが、何年かぶりにようやく戻ってきたようだ。
「――よし、『ウルズ7』発艦準備完了! 『レーバテインII』いつでも出られるぞ!」
目標は、アスラン共和国『旧エリア88基地跡』。
そこを拠点に首都侵攻を企図する反政府軍の出鼻をくじき、背後で糸を引く新生プロジェクト4の野望の第一歩を打ち砕くのだ。
「出せ、千鳥!」
宗介の指示を受け、かなめが背後の士官に親指を立てる。
発艦OKの命令を受け、甲板上の黄色いジャケットを着た
Cー13蒸気カタパルトが、緊急展開ブースターに点火した『レーバテインII』を瞬間的に発艦速度まで加速、大空に向かって射出する。
そしてかなめは、飛び立っていく新たな炎の魔剣に向かって叫ぶのだった。
「宗介、
と。
End of Episode.
今後の展開を考えて、宗介とかなめには個人でASを建造・保有できるぐらいの資産が必要になり、傭兵繋がりでエリア88の風間真さんに出演してもらいました。
アフリカでの作戦で真が一夜にして大富豪になるのは、原作にもあるエピソードです。
お読みいただき、ありがとうございました。