私たちが少女の姿を模しているのは、昔からのオカルト話やネット上に溢れる怪異譚、そこでは度々女性型の怪異がよく登場するからだ。
私と同じ同型機にも男性型が居たが、裏世界へ向かう際に行ける確率が低いという事から第二世代から製造されなくなった。
まあ少女型といっても、私は頭だけは人間らしいが服を脱げば薄い胸に埋め込まれたリアクターに関節部の色の違いで機械であると容易にわかる。
それが幸いした事が何度かあるのだが、逆に早々に機能停止しなかった事で現状維持をし続けている。
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記憶領域の整理。
人間で言うところの夢を終えてスリープモードから復帰する。
作戦行動の1時間前。
感情が薄いとはいえ、何もしない時間というのは暇だと分かっている。
枕元のスペースを振り返る。
出撃前に水をあげた観葉植物だったが記録より少し大きくなっていた。
機械人形で植物を育てている面子の中には自動水やり装置を開発し盆栽や苔などを育てているものも居るが、私はどうにもその辺の機微に疎いので雑に世話しても元気という観葉植物を貰って育てている。
まず最初のタスクとして、また出撃するので水をあげることにする。
鉢を持って洗面台へ行き、水を掛ける。
土が湿ったら離し、また枕元へ戻した。
私は製造されてからこれまで成長というものは無く、部品の交換だけだ。
その点植物は成長するし、変化する。すごい。
おそらくこの植物の寿命より先に自分の耐久年数が来るだろう。
その時が来たら基地の外に、この植物を植えてもらおうと思った。
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部屋の外を暫く回り、非番の機械人形と会話をしていると時間が来たので準備室へ行く。
作戦室に呼ばれなかったので命令の変更は無しだ。
部屋に着くと先に同室の第四世代の機械人形達が居た。
「今日はよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
第四世代の型番である『D1』の2号機に対して挨拶を行う。
ちなみに私の型番は旧式の『A-7』である。
どの世代も一度の製造で8機体。それが3度繰り返され、一つの世代で24機である。
24機製造終了後半数の稼働停止を以てデータの収集から次世代の調査隊を設計する。
私の世代だけは唯一8機のみ製造された初期のテストヘッドである。
第二世代以降の機械人形は『A-8』をベースとしている。
背丈は私より大きく、反応速度も常人の数倍。
記憶領域も多くその恩恵で私よりも感情が豊かだ。
「よろしくお願いします、隊長!」
「最初にも言いましたけど反応速度や演算速度はそちらが上です。隊長を変えた方がよろしいかと」
「いくら演算速度が上でもあの時的確に対処出来たのは隊長一人だけです」
「あれは経験からの行動です」
これは依存なのだろうか。
頼れる存在として認識されてしまっている。
幼い得たばかりの感情を持っているせいで全員理屈も分からずそう行動している。
おそらく、喪失した一号機の埋め合わせをしようとしているのだろう。
「貴女達も同じ判断情報があるでしょう?」
「同じ経験情報を共有してもそれに対する反復が無いんです」
「知識と経験が融合してる初期個体の貴女が最適であると言ってるのですよ」
「お願いしますシロ先輩!」
随分と感情豊かだなぁと思う。
人間はこれを見て人間らしいと思うのだろうか。それとも気味悪がるだろうか。
「……分かりました。今回は隊長を務めさせて貰います」
「やったー!」
◆
私が彼女たちにした事は単純である。
発狂していた機械人形を撃破し、残りの隊員を帰還させた事だ。
初期機体なので危険な場所の調査して早く壊れて欲しいという魂胆見え見えの作戦で、まあ例によって生き延びてやったのだがその帰還途中にて彼女たちの元隊長が感情の規定値を超えて発狂している状況に遭遇した。
その状況に対する回答は一つ。
感情に引きずられて発狂した隊員の同士討ちが始まる前に壊す事だ。
スペックでは勝てなくても、見えるものが見えず、見えないものが見えている機体が相手ならば、変異する前に倒せる。
と、思っていたのだが。
結局スペック差は如何とし難く私は右半身と引き換えに討ち取ったのだが、捨て置かれると思っていた私を新型達は連れて帰り、私の整備を修理班に要求。
別に要求せずとも帰還した機械人形は基本的に修理を受けれるのだが、その辺りはやはり感情の差だろう。
そして、無事に戻った私は欠けた隊長の代わりに新型達のリーダーとして同じチームにされてしまったのだ。
◆
「千切れた右腕で殴りつけたり」
「折れた右脚フレームで最後止め刺したり…」
「かっこよかったよねぇ…」
準備室から移動していると、後ろで会話している声がする。
「一つ気になっていたのですが、貴女達の姉妹機の一号機を私は壊した訳ですが、その辺に対する感情はどうなっているのですか」
「ふっちゃけますと、私達あの出撃時の数時間前に起動しまして、お互いにそこまで思い入れはありません」
「……?感情の発生に対する対応法などは教わっていない状態だったのですか」
「そうだよー」
それはおかしな話だ。何しろ機械人形だってタダではない。
製造にはそれなりのコストが掛かるし、戦争に利用されてはならないだの、倫理的観点だので製造台数も制限がある。
それをわざわざ知識を持たない状態で出撃させる?
何故、どうして?
っと、あまり思考を加速させてはいけない。
「……まぁそれはおいおい教えていきます」
「よろしくです!」
元気だ。
まるで無垢な少女のように。