メレメレ島、ハウオリシティのとある民家。
南国の燦燦とした陽光が、少年を窓越しに照らしている。少年は顔を顰めて窓から背けた。
島めぐりの資格を放棄した少年は、この島での居場所を失っていた。
少年は前世でポケットモンスターと言われるゲームをプレイしていた。
前世でどのゲームよりも夢中になれる戦い。それがポケットモンスターウルトラサン、ウルトラムーンのオンライン対戦だった。
激流ゲッコウガ、アームハンマーメタグロス、アイアンヘッドギャラドス、鉄壁レヒレ。
ゲームでの対戦の舞台がアローラ地方に移ってから強者によって発明された沢山のポケモン達。
テテフーディン、グロスヒトムレヒレ、コケコランドグロス、ブルルドヒド。
新しい守り神達の力によって大きく広がった戦術。そんなものは少年が生まれたこの世界において全く意味がないものだった。
レーティングバトルはチャンピオンになった者同士の戦いだ。今の少年にとっては全てが不要な知識でしかない。
少年は、心の底からこの世界を憎んでいた。前世の記憶なんか要らなかったとすら思った。
この世界では人がポケモンと共生している。無数のポケモン達がのびのびと思うがままに生活している。
少年の脳裏には常に『厳選』の二文字が付き纏うがオハナタウンの育て屋の前をケンタロスで爆走し、孵化したばかりのポケモンを大量放出するなんて暴挙を誰も許す筈がない。愛らしくこちらに微笑んでくるニャースもミミッキュと違って使えないポケモンだなとしか少年は思えなかった。
種族値が低いから雑魚だとどこまでも数値至上主義の少年はそう思い黒い衣装に着替えると、無言で外に出た。
少年の胸に大きく書かれた髑髏―――スカル団の紋章は、益々少年の苛立ちを深めた。
何かをブッ壊せばこの苛立ちは収まるだろうか?そう思って入団したスカル団。
いくら自動車や住宅の壁にスプレーで落書きしても苛立ちは収まらない。
少年がぶっ壊したいもの、それはこの世界そのものなのだから。
今の少年は無力感に支配されていた。両腕のない画家、盲目の指揮者。
そんな言葉が少年の脳裏をよぎる。自分には世界をも支配できる能力があると信じていた頃もあった。前世では自分はチャンピオンになった、否チャンピオンは単なる通過点でしかなかった。カプ・コケコを始めとする伝説のポケモン達に認められ、その力を自在に行使することができた。
だから、同じ世界だから自分にもできるはずだ、ポケモンは対戦のための道具でしかない。
生まれ変わってポケモンと触れ合ってからも少年のその思い込み、根拠のない増長は止まらなかった。
アローラの大人たちが、その少年のドス黒い、邪な考えに気付くまでには時間はかからなかった。野生のポケモンを倒しても中々上がらない『レベル』、そしてレベルを上げれば大したことがない、自分なら楽勝だと思っていた島巡り。前世の記憶全てが少年の足かせとなり。
そして少年は瀕死になっても戦い続けていた手持ちのアシマリが死亡した瞬間全てを失った。
前世の記憶が全て思い込みであるなんて少年には思い込めなかった。
前世の最終順位で十番以内に入った、一度手に入れた栄光と達成感を少年は忘れることができない。だからこそのどこまでも深い闇の中を落ちていくような感覚。
少年の妄執は消えず、後は転落していくばかり。
今日も少年は濁った眼をしながらスカル団として悪事を働き、この世界で全く意味のない数字を呟く。
「俺は最高レート2150超えの男だ」
少年の誇りは、祈りは、叫びは。
一生誰にも届かない。