叫び
「俺はバルブロー! 第一王子~ みんな集まれ、俺のもとに~!」
まあ、勝手に集まってくるけどな。何しろ、貴様らもよく知っているように次の王は俺様だからな。はやくから利権を得ようと次期国王に取り入る奴は多いのだ。
「なんです、王子その歌は」
「何!? 貴様、この歌を知らないのか? これは、この間ラナーが紹介してくれた吟遊詩人が作ってくれたのだ。俺のテーマソング? ってやつらしいぞ。これがなかなかいい女でな……ラナーも俺様が次と理解しておるのだな。なかなか愛い奴だ。有力貴族とくっつけるか……」
俺はついこの間まで、そんなことを考えていたはずなのだが。何をどう間違えたのだろう。
だが、まずは俺様の話を聞かせてやる前に、一つ貴様らに聞いておこう。
「俺が誰かは知っているだろうな?」
おい! そこは即答すべきだろうが。
「なぜ、黙っているのだ? まさか俺様を知らないのか?」
おい、本当に知らないのか?
「そうか。俺様を知らないだと? どいつもこいつもっ! 貴様ら打首にするぞ!」
だが、今回だけは許してやろう。俺は優しい王子様だからな。お前らにもう一度機会をくれてやろう。
一度しか言わないから、よーく覚えるのだぞ?
「俺様はバルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ。リ・エスティーゼ王国の第一王子にして、王国の次期支配者である」
さて、覚えたな? では、俺様の名をフルネームで呼んでみよ。
「 何? 無理だと? 使えないな。チエネイコ並だな。知恵ねえ子じゃ使えないな……だめだな。お前は打首!」
やれやれだな。まあ、平民などキノコのようににょきにょき増えるから、一人や二人は数のうちに入らん。
「なに? そんなこと言わないでくださいませ、"超絶かっこいいバルブロ王子様"だと? ほう。わかっているじゃねえか。打首は取り消してやろうか」
ありがとうございます。精一杯お仕えしますか。うむ、その気持ちは買うぞ。だが、罪は罪だ。
「……鞭打ちな」
王族に対する無礼は許されないのだ。何しろ俺様はリ・エスティーゼ王国第一王子にして、次の王になる男と決められている男だ。そう誕生した瞬間からな。
「余は生まれながらにして国王である! 」
というやつさ。
なに? 弟のザナックと王位継承について争ってるだろうって? 馬鹿言うな。あいつはダメだ。次男だし、ブ男すぎるし、チビでデブ。武のかけらも無いし、威厳もない。ないない尽くしだぞ?
やはり、王というのはなぁ……力強くなければならないのだ。それに見た目も重要だぞ? 俺様のような威厳とカッコ良さが同居していないといかんのだ。
父王を見てみろ。まったくもって武もなく、威厳もないから、馬鹿貴族連中にいいようにされているだろう? 俺はあんなふうにはならんぞ。
「俺様はこの力で、貴族どもをまとめあげ、忌々しい帝国を併呑するのだ。そして我が前にあの金髪の小僧の首をおき、蹴り飛ばしてくれるわっ! いや、酒の肴にしてもよいな」
……などと考えていたのだが……現実の俺は今……。
「こんな草原で逃げ切れると思っているなんて! あー、楽しい! 最高! 大好き!」
こう言ってたのは、あの赤毛の美女メイド。たしか名前はルプスレギナとか言った……生涯の最期にいい女を見たが、中身はひでえ奴だった。やつが連れてきたのは、赤い帽子のゴブリンだ。とてもゴブリンとは思えない威圧感。俺は多少剣の腕が立つからある程度強さは分かるつもりだが、このゴブリン·····強い。たぶん王国最強と言われているあの平民の戦士長ガゼフよりも遥かに強い。それが見た限りで30体だぞ。絶対に勝てない。絶望的だ。かすかな希望すらないだろうな、まさに絶望だ。逃げても逃げ切れるわけないし、戦っても勝てない。さっき俺は戦えと命じたがどちらにせよ結果は同じだろうな。
「皆殺しっす。みんな殺すから、皆殺しっす」
赤毛メイドの言葉通りに俺様の兵はあっさりと皆殺しにされた。今生きているのは、俺だけだ。といっても正確には俺は……生きているのではない。生かされているだけだ……。
「ぐあああああああああああっ!」
激痛が走る。俺の腕が腕が腕があああああっ!
「うん。いい声っすね。まあまあかなぁ……もういっちょ!」
「うぎゃああああああああああっ!」
俺様のもう一つの腕が腕が腕があああああっ! 俺の両腕は付け根から斬り落とされた。袖はもういらないな·····ってアホかっ! 痛い痛い痛い痛い····。
「さっきよりもいいっすよー。〈
俺の腕が何事もなかったかのように元通りに復活する。いや、再生というか回復? さっきからこのような繰り返しだった。最初は指、次は手首、そして腕だ。もはや地獄だ。誰かここから助けてくれ……いや、俺を今すぐ殺してくれ……。
「腕も飽きたっすね。そろそろ男にとって大事なトコロでもやってみるすかね」
鬼っ! 悪魔! いや、もう勘弁してくれっ!
「お、お願いいたします。わ、私が愚かでございました。いと高き御方、あ、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下が、まさか庇護なされているとはおもわず、愚かにもカルネ村を攻めてしまったこと、この命をもってつぐなわせてくださいませ。ど、どうか……私を殺してくださいませ。偉大なるアインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下の名のもとに」
俺は芋虫のように伏して顔だけをあげて、涙を垂れ流し懇願した。もうこれ以上は耐えられない。限界だ。頼む俺を殺してくれ!
「だそうですよ、どういたしましょうか?」
メイドがコメカミに指を当て、誰かと会話している。いや、相手は間違いなくアインズ・ウール・ゴウンだろう。そして、今使っているのはおそらく
「慈悲深きアインズ様から、死を許すとお許しがでました。そこでバルバロ王子に質問でっす。……あ、バルブロでしたっけ? ま、どっちでもいいっすね。せっかくだから死に方を選ばせてあげるっすよ! 大サービスっす! 八つ裂きか、串刺し、火あぶり、切腹どれにする? ……なんなら竹のノコギリで首をじっくり切り落とすのもいいっすね!」
何が大サービスだ。ふざけるなっ! と言える立場でもない。それにしてもなんて酷い選択肢なのだ。人生最悪の選択肢だよ。最後は絶対に嫌だ。
「……切腹は介錯してもらえるのだろうか……」
「ないに決まってるっす! きししっ……」
ですよね……。期待した俺が馬鹿だった。楽には死なせては貰えないか。
「せめて心臓を一突きにしてくれ。偉大なアインズ・ウール・ゴウン魔導王に逆らってしまった愚かな人間の最後の願いだ」
少しでも楽な選択肢を提案してみる。
「うーん、イマイチっけどまあいいっす」
もはや、これまでか。やり直したい……。俺は、俺は……王になるはずだったのだぞ……。
「何か言い残すことはあるっすか?」
「魔導王陛下に王国をよろしくお願いしますとお伝えいただきたい。もし出来るのであれば、陛下のお役に立てるように生きてお仕えしたいのですが……」
まあ、無理だろう。俺は彼の逆鱗に触れた。大事にしているものを破壊しようとしたんだ。それくらいはわかる。
「意外っすね。最初からそういう態度だったら違ったのに。残念すね! でも安心して欲しいっす! 死んでも役には立てるっすから」
意味がわからないが、もう俺は死ぬのだ。
こんな時代に生まれた俺は神を知らない。
だが、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下は神のごとき力を持つのだろう。
やり直したい。やり直したら、魔導王陛下には逆らわないぞ。役に立てば生かしてもらえるだろうか。
「アインズ様の慈悲です。なかなか楽しめたっすよー、王子」
この声を最期に俺は死んだ。
·····はずだった。
「ここは、俺の部屋か……」
なぜか俺は自分の部屋で目が覚めた。まず、腕を確かめるがちゃんと両方ともついている。足も目も大丈夫だ。異変があるとすれば、何度も叫んだかのように枯れた声と、尋常ではない汗でびしょびしょになったベッドだろうか。
「夢でなく、あれは現実だったはず。どういうことだ……」
ふと庭に目をやる。色とりどりの花が咲いている。ラナーのやつがよく手入れをしているからな……。
「ん? なぜ秋の花が咲いている?」
俺が死んだのは冬だったはず。それに今ラナーとクライムが見えたが、ラナーのやつ……クライムに対して……そういうことか。
「ん? 首飾りの水晶が一つ減っている……」
俺が首から下げていた首飾りには五つの水晶がついていたはずだが、四つに減っていた。
「たしか……護りの首飾りと聞いていたが……」
これは、俺様のテーマソングを作った吟遊詩人の女からもらったものだ。俺はもしかすると護られたのかもしれん。それより確認しないといけないことがある。
「誰かあるかっ!」
そして俺は知った。今は俺が死ぬ三ヶ月ほど前だということを。
何があったかはわからないが、一度死んだ俺は、死ぬ前に戻ったらしい。直前とかでなくてよかった……。
「まだ間に合うかもしれん。俺は二度とごめんだ。やり直せるかはわからないが、俺は新たな人生を生きる!」
俺は復活のバルブロ。生きるために生き返ったはずの男だ。
別作品を書いてるうちに浮かんできたものを形にしてみました。
バルブロメインとか誰が好むのか……。