~復活のバルブロ~   作:NEW WINDのN

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第10回 副題:バルブロの提案
普通ならこんなサブタイトルになるかなと。







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「もう一度問う。お前はわかりすぎている。いったいお前は何者だ?」

 再びアインズ様の低音ボイスが響く。先程よりもかなりトーンが低いが語気は強い。俺の印象としては魔王が実在するのなら、まさに今目の前にいるって感じだな。神に近い魔王だから、魔神王? ってそれどころじゃない。

 えっ? 何この展開……ヤバくないか? どうしよう。それとも試されているのか? それならいいのだが、なんだか疑われている可能性の方が高い気がする。そう思った瞬間、俺の背中を冷たい汗が大津波のように逆流し始める。汗が登るとかありえないと思うだろう? 

 それがあるんだよ。まあ、俺も今知ったがな。今、俺は凄い圧力を受けて、体が重く感じている。そのせいかもしれないな。それにしても、やべえ息が出来なくなりそうだ。圧力だけで死にそうだ。すげえプレッシャーだ。これが真の支配者のオーラなのか。

 だめだ、まだだ、まだ終われんよ! 頑張れ、俺。踏ん張れ、俺。折れそうになる心を俺は必死に支え、未熟なプライドをかなぐり捨てる。負けるなあっ! 捨て身で行くしかない! 

 

「アインズ様、私はただのバルブロです。王子として生を受け今まで生きて参りましたが、この度アインズ様という真の王者に出会えたことで、自分が水溜まりのアメンボだと……単なる脆弱な人間であることを思い知りました。ぜひ、今後ただの人間バルブロが、人間の王へと成長していくために貴方様を目標にさせていただきたい。もちろん遥か高みに憧れる弱者の戯言と思っていただいても構いません」

 ここは自分を下げて下げておく。どうせ力の差は歴然なのだ。俺などこの御方から見れば価値はないだろうし、事実赤毛のサディスメイドにそう言われている。その時よりはマシだと思っているが、それは俺目線に過ぎない。そうだな、ドワーフの男と女の見分けがつかないと言われているくらいの差かもな。今までにドワーフを見たことないが。

 

「……そうか。自らを知るというのは大事だな。私もそれでかなり苦労したことがある。バルブロよ、気持ちは分かる。だがな、私はただの魔法詠唱者(マジックキャスター)であって王などではないぞ?」

 どこがただの魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。帝国にいるフールーダ・パラダインとかいう魔法爺の力など比較にならないほどのとんでもない実力の持ち主だろうがっ! それに後に魔導王と名乗ることになるのはわかっているのだぞ! いや、タイミングからすれば、もう名乗っている頃だろうよ。それに立ち居振る舞いや言葉の重々しさ、時折見せる支配者のオーラ。全てが王者、いや覇者に相応しい威厳と自信に満ちているではないか。まさにこの地の支配者と言えるな。

 俺が唯一知る我が国の支配者、王である父と比べてはいけないと思うが、アインズ様が最高指導者だとしたら、父などただの耄碌爺だぞ。ド田舎の開拓村のな。比べることが失礼なレベルだ。まあ、俺だって片田舎の力自慢くらいのものだろう。

 

「はは。これほどの素晴らしい場所に住まう御方が、ただの魔法詠唱者(マジックキャスター)であるはずはないと思いますぞ。私は貴方様こそ真なる王であると、皆を導く存在だと思っております、アインズ様」

 世辞ではなく本心からそう思う。俺の中で、魔法使いといえば、人里離れた朽ち果てた廃屋か荒屋のようなものに住んでいると思っていたのだが、アインズ様によって完全に打ち砕かれたな。だが、アインズ様が特別な存在なのだろう。きっと他の奴らは古めかしい家に住んでいるのではないか? 

 

「こそばゆいな。……バルブロ、お前は私に何を望む?」

 この答えは実は決まっている。本心から言えば"生きたい"なのだが、事情を知らないアインズ様相手に口にしても理解は得られまい。だから思い切った手に出ようと思う。ダメでもともとだ。失うものは俺の命くらいのものだろう。いや、死にたくはないんだぞ?

 

「もし可能であれば、私は貴方様の友になりたいと望んでおりますが、それが難しければ、そうですね微力ながらも何かアインズ様のお役に立ちたいと望んでおります」

 うわー、言っちまったな。何が友だ……ありえない話であろう。力も財力も何もかも隔絶した相手に。失礼な話かもしれないが、俺は本気だ。

 見ることは出来ないが、ガセフもレエブンもきっと同じ顔をしているだろうな。そう、目を大きく見開き口をあんぐりとしているだろうよ。俺が逆の立場なら間違いなくそうなる。だが、この二人なら俺の行動に対して文句を言ったり邪魔をしたりはしないはずだ。王国に人は多くいるが、この二人のような対応が出来る人物はほとんどいない。

 いや、本当にお供として連れてくる人間を間違わなくてよかったと思う。これがアルシェルや知恵ねえ子ことチエネイコだったら、絶対に騒ぎたてているだろうし、アインズ様の逆鱗に触れることになりそうだ。そうなれば、その巻き添えで俺は間違いなく死んでいるだろう。

 アインズ・ウール・ゴウン様の力は、我々の理解が及ぶ領域にないのだと思う。だからこの御方は絶対に怒らせてはいけない存在だ。しかし、残念ながら大抵の王国の貴族は怒らせてしまう態度をとるだろう。貴族としてのプライドや、金目のものに対する執着心が邪魔をするのだ。実際に俺はそうだった。復活前の俺はどうしようもない愚か者だった。きっと同じような愚か者しか我が国の貴族にはいない気がする。数少ない例外がここにいるレエブンだな。

 

 

「そうか。友ときたか……それか役にな。ではひとつ聞こう。バルブロ、お前は何を差し出せる?」

 静かだが響く声。それは威厳に満ち溢れた支配者の声だ。俺は試されているのだろう。ちなみにこれに対する答えはひとつしかないだろう。俺だって漢だ。

「……私の人生を全て。全て差し出します」

 ふー。さらに言っちまったな……。いや、どうせ普通に生きていたら死んでしまう運命なのだ。これくらい大胆な方がいいかもしれん。もちろん、ならば死ね! と言われる可能性だってある。だが、俺は賭けるしかない。全てにおいて上の存在であるアインズ様に対して提示できるもの、賭けられるものはこれしかない。

 

「そうか。お前の強い気持ちを感じるよ。だが、私は昔話に聞いたことがある。王位を継ぐ正統な後継者である運命の王子は正しい心臓(ハート)を持っているが、偽の王子は違うと。バルブロよ、お前は運命の王子か、はたまた偽の王子か?」

 なんだその話は·····聞いたことがないし不穏な匂いがするぞ。マジでヤバい気がする。だが俺が偽王子で、チンチクリン(ザナック)が運命の王子ということはありえない。王位争奪戦は俺が制す! 

「私は王位を継ぐ運命の王子であると思っております」

「そうか。先程お前は全てを差し出すといったな。ならばお前が運命の王子であるか私がチェックしてやろう。私に心臓を差し出せ。当然差し出せるだろう?」

 なんだこれは·····おいおいおい! 心臓をチェックだと·····。どういうことだ。心臓を欲しがるとは思えないし、心臓は見えやしない。まあ、ここは頷いておこう。きっと冗談に違いない。そ、冗談だよな? 

「もちろんです」

「殿下、いったいなにを!」

 ガゼフとレエブンが同時に同じ言葉を発し俺を止めにかかる。

 だが、俺は止まらない。なぜなら俺は胸の奥で待っていたのだ。アインズ様との出会いを。いまさらここで止まるなんてことはできないだろう。

「もちろん差し出せます」

 俺はそう断言した。キリッとした顔で。自分でいうのもあれだが、男前だな。ふふ、惚れるなよ? 

「そうか。覚悟は見事。だが口だけならなんでも言えるよな……」

 おいおい、雲行きが怪しいぞ。俺は選択肢を誤ったのか? ·····やべえ、外したか……。

「では、バルブロよ。貴様の覚悟を試してやろう」

 アインズ様は右手をかざすようなポーズをとった。な、何をするつもりだ。

「私のこの手が真っ赤に染まる。ブラッディレッド〈心臓掌握(グラスプハート)〉」

 アインズ様が魔法の詠唱とともに右手を伸ばし軽く握り始めた。

「ごわっ……」

 な、なんだ……俺の心臓がなにかに掴まれた感じがするぞ……。そんなことありえるのか? 

「うげくわては」

 アインズ様が握りをジワジワ進めると俺の心臓がジワジワと締め付けられていく。く、苦しい……。いや、まじで掴まれてるし。

「ほう。これを耐えるとは……興味深い」

 さらにグイッと力を込めたように見えた。やばい握り潰されてしまう。ブラッディレッド……やはり赤は俺にとって縁起の悪い色のようだ。

「ぬんっ!」

「ひげぷ」

 …… 俺の意識は、ここで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

「私と友になりたいか。ハハハハハッ、なかなか面白いことをいうではないか」

 アインズ様の笑い声で意識を取り戻す。あれ? 俺死んだのでは? と水晶をチラ見するが数は減っていない。つまり、先程のは俺の想像の産物ということか。いかんな、どうも最近死の妄想が激しいな。これをトラマナとかいうんだよな。ふーまだ心臓がドキドキしているぞ……。しかし物理的に掴まれるとか普通なら有り得ないが、アインズ様ならありえそうな話だ。

 しかしハートを掴まれてドキドキするって話なら性格のよい美人とがよいなぁ。ちなみに物理的に掴まれるって話じゃないぞ。精神的にな。

 

「よし、ガゼフともう一人の連れは別室にて待機してもらうとしよう。バルブロ、君とは少し二人で話したい」

「レエブン、ガゼフ。聞いた通りだ」

「よろしいので? 」

 ここまでの発言が少ないレエブンが聞いてきたが、これは答えるまでもないだろう。まあ、レエブンの立場上聞かざるをえないのはわかっているのだが。何しろ俺は王子であり、レエブンは一貴族だからな。我々の間には身分という物差しがありこれには力がある。だが、それはアインズ様には通じない。そう、王国の人間ではないからだ。

 そのアインズ様の意向だぞ。ここがどこに位置する場所かはわからないが、アインズ様の居城であるのは間違いない。我々に拒否権など最初からないのだ。まあ、拒否する必要もないけどな。あえていうなら一人だと心細いくらいだろうか。

 

「……従え」

 感情を抑えた低い響く声で俺は告げた。なあ、気づいたか? ちょっとだけアインズ様の真似をしてみたのだが、どうかな? イケてるとよいな。俺としては自信があるがなぁ。

「かしこまりました」

 レエブンとガゼフの声が重なる。なかなか息があってきたな。

「決まったな。では二人を別室へ案内せよ。ああ、お前も扉の外にて待機せよ」

「かしこまりました。御意のままに」

 兜越しだが、改めて聞くと天使のような美しい声だ。素顔もやはり美しいのだろうか。

 護衛は二人を連れて扉へと向かい、そこからは例のユリ・アルファという春巻き頭の美人メイドが二人を案内して別室へ向かった。ガゼフが私を心配しつつユリに見とれているのはなんだが微笑ましい。ふふ、やつの好みは掴んだぞ。

「それでは、失礼いたします」

 護衛が一礼して扉を閉じる。これで、この素晴らしい謁見の間にはアインズ様と俺だけとなる。

 ついに、この時が来たか。アインズ・ウール・ゴウン様、計り知れない力を持つこの地の支配者と、何も持たない王子であるというだけの俺。こんなアンバランスな会談があるのか。

 しかし、この一騎打ちで、いよいよ俺の運命がきまるのだ。俺の心が武者震いする。ああ、やるしかない。

 この話し合いの先に待つものはいったいなんであろうな。そこには光明(ライト)があるのか……確かな未来はあるのだろうか。

 

 そして、俺は生き延びることができるのか。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ねえ、クライム。ずっと私と一緒にいてくれる?」

 私はこの言葉にどう答えるべきか一瞬迷った。答えは決まっているのだけど、はたしてラナー様の真意はどこにあるのだろうか? と考えてしまったのだ。姫の護衛としてという意味なのだろうか?

 だけど、違う意味である事を望む自分がいる。男として、もしラナー様に万が一、万万が一求められているなら──そんなことはありえないけど──答えは一緒だ。私が呟く願いは「ずっとそばにいたい」しかありえないのだから。

「もちろんです。ラナー様」

 呆れるほどつまらない答えだった。これが今の精一杯。本当の気持ちなど伝えることは出来ないのです。

 ああ、ラナー様。貴女をお慕いしております。身分違いも甚だしいのですが……。

「約束よ、クライム」

 どのような形でも貴女の傍におります。ラナー様。

 

 






ついにフールーダの名をちゃんと言えました。

ちなみに心臓掌握のシーンは、あくまでもバルブロの想像です。
魔法詠唱ってこんな感じかなぁという。使う魔法をずばり当てたのはたんなる偶然です。
バルブロの考えた内容は魔法詠唱というよりは必殺技ですけどね·····。

なお、トラマナは誤字じゃないです。バルブロの言葉チョイスミスです。正解はもちろんトラウマ。

次回は第11回 Fish fight

ラストシングル曲のタイトルですね。
というわけで、いよいよ、バルブロの運命が決まるファイルステージ。
超レアなバルブロ対アインズ様のシングルマッチにて、全てが決まるはず。


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