~復活のバルブロ~   作:NEW WINDのN

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題名曲は、コミカルな曲でした。
今までの話も題名曲から影響を受けていますが、今回はいつも以上に影響されています。
それでは、本編最終話です。







Fish fight

「さてバルブロ。私と友になりたいというお前に尋ねよう。お前にとって友とはなんだ? 何をもって友と呼ぶ?」

 あっ〜! おぅ·····。あっ、お·····あお·····あおあおーっ··········俺は言葉に詰まってしまった。口を開こうとしては止まってしまう。やばいぞ、過去最大の難問だな。

 うむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむ~。

 これは真面目な話だが、まったく分からない……なんと答えるのが正解なのだろう。いい子ぶっても賢人ぶってもいけない気がするし、そもそも俺は自分で言うのもなんだが、いい子でもなければ賢人でもない。どちらかと言えば頭よりは力だと思っていたからなぁ。

 クソー、優秀なブレインが居ればなぁ。·····ガゼフに負けた男だったか? ·····って違うなブレーンだ。頭脳だよ頭脳·····ああ、今はサシだから関係ないな。だいたい、俺はただ王子として生を受けただけの存在だし、上等な答えなど出せん! 

 

 ·····ならば答えはこれだ。これしかない。

 

「·····わかりません」

 俺は素直にそう答えた。そう、そんなのわかるわけないだろ! どうだ見事な答えじゃないか? 

 実際俺が分からないのには、別の理由があるんだがな。誰にも言えない秘密だったことが。

 

「わからないだと?」

 威厳に満ちた声。支配者に相応しい素晴らしい声音だ。長くこの場所を支配しているのだろう。ぜひ真似をしたいな……って今はそこじゃない。俺は覚悟を決めた。恥部を晒すことになるが、仕方ない。

 

「ええ、お恥ずかしい話ですが、私はこの年になるまで友を持ったことがありません。だから、ずっと友に憧れておりました。しかし、友とはどんなものかということを考えたことはなかったのです」

 俺には、腰巾着のような奴もいるし所謂取り巻きもいる。だが、友は一人もいない。それが俺バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフの人生だ。考えてみると王子というのは人には囲まれているが孤独だなぁ。人は皆俺を王子と見て擦り寄ってくるんだ。だから、友などいない。はぁ·····なんだか切ない……。

 

「……そうか。それがお前の答えなのだなバルブロ。はは、わかる、わかるぞ」

 意外なことに、うんうんと俺の話に頷くアインズ様。いや、マジで意外……。

「は、はあ」

 俺はどう返せばよいかわからない。仮面のせいで顔色はわからないが、どうやら共感してくれているようだ。もしかしたら……アインズ様も孤独なのかもしれないな。支配者には友人はいないものなのだろうか。

 

「良いだろうバルブロ。友になろうではないか。お前の初めての友に。だから私のことはアインズと呼んで欲しいね。部下がいない時はな。いる時はバルブロの身に危険がおよぶかもしれないから気をつけてくれ。私からも言っておくが、少し私の部下は極端な奴が多くてな」

 確かに、あの女護衛からはそんな感じを受けたな。そして、アインズ様……いやアインズの言葉に俺は涙する。友……なんて甘美な響きなのだろう。生まれて初めての友……。

「私を友と……我慢しても、涙がこぼれてしまいます」

「ではここは水の中。そう、ここは水の中だと思うが良い。ほら、何もわからないぞ」

 確かに水の中ならわからない。アインズの優しさが心に染みる。……俺は我慢できずに号泣した。こんなに泣いたのは……初めてだろう。いや、違う意味で泣き叫び、そしてそのまま死んだことはあるがな。

 

 俺が泣いている間、アインズは優しく見守ってくれていた。表情はわからないが、雰囲気から俺はそう感じたんだ。

 

「では、バルブロよ。我が友に仮面は失礼だな。外すとしよう……」

 いや、別に知りたい……と思ってはいるが、知らなくても友にはなれるのではないか? 

 警戒心がハードモードに突入するが、悟られてはいけない。

「では……」

 アインズ様が奇妙奇天烈摩訶不思議な仮面を外すと、黒髪でわりとどこにでもいそうな顔立ちの男の顔が現れた。目立つほどではないが、悪くはないと思う。隠す必要などないのでは? すくなくともチンチクリン(ザナック)よりはるかにいい男だぞ。まあ、俺様ほどの美男子でもないがな……ってなんだ、普通じゃないか。俺の警戒しすぎか。

 

「ふふ、次に出る顔が私の本当の顔だ。それを見てまだ友と言えるかな?」

 なんだそれは……俺は意味がわからない。なんだかわからないが、心を強く持たねばいけない気がする。持てよ、俺の心臓よ。

 

「とくとみよ、我が素顔を」

 その言葉とともに空気が変わっていく。空気がビリビリと震え、部屋の温度がグングン下がっていくような……そんな気になっていた。いつの間にか黒い後光がアインズの後ろに現れる。まあ後光だから後ろは当たり前だな。

 そして、人の顔が掻き消え、なんと頭蓋骨があらわになる。落窪んだ目の奥には赤い炎が見える。

 ここで、俺は漆黒の闇に包まれた。

 

 

 

 

「しまった。絶望のオーラLv5にしちゃった!」

 

 そんな声が聞こえたような……。

 

 

 はは、これが望み通りの即死か。わるくない……。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 いや悪いわっ! まさか死ぬとはな……。

 

 

 

「とくとみよ、我が素顔を」

 あれ、また同じ場面だ。チラ見するとなんと水晶が減っている。つまりやはり俺は即死し、この時に戻ったらしい。もしかして、戻る時間を指定しないと直前に戻るのか? って、やばい! 戻るのはいいがこの場面からだと即死ループになりかねん。いったいどうすべきか? 

 

「アインズのオーラは十分に感じているぞ!」

 俺は咄嗟に一言かけてみた。最後に聞いた絶望のオーラという言葉。そしてレベルがどうとか聞いたような気がする。レベルとはよくわからないが、何らかの段階がある気がする。アインズ、頼む! 調整してくれよ! 

 

 先程とは違い、黒き後光はあるが空気はそこまで変化しない。しかし、正体を見せた。アインズはやはり骸骨だった。

 

「こ、これは予想外……まさか、私の友が人を超えた者……つまり超越者(オーバーロード)だったとは……。なるほど、力が違うのは当然か……」

 今回は骸骨だとわかっているし、二回目だからさほど恐怖は感じない。どちらかといえばあの拷問の方が怖かったし、痛かった。

 俺って意外とタフなんだな……。それにしてもアンデッドってもっと醜く臭いもキツいと思っていた。目の前のアインズからは、なんだろう神々しさまで感じるし、匂いはない。……うん、やはり格が違うのだろう。もともと圧倒的な差を感じていたのが、素顔を見たことで理由がハッキリわかった。

「ほう。偶然にしては見事だな。私は超越者(オーバーロード)のアインズ・ウール・ゴウンである。これでも友となることを望むか?」

 は、はじめての友達が人ではないというのもよいだろう。王国の人間で俺を王子とみないやつはいなかった。みんな王子として接してくるばかりで、取り入ろうという奴しかいない。友になろうなどと言うものはいなかった。人と友になれないのなら人以外の者か友でも構わないのではないか? いや、違う種族だからこそ逆に良いのでは? 

 まあ、さすがに内心はビビりまくってるけどな。ここまで来たんだ。もはやお好きにさばいてねって感じだな。

 こういうのをなんて言うんだ? あ、あれだな、洗濯板の上のフナの気持ちだよ。綺麗に洗ってくれ。 あれ? フナ、フナ……鮒? であってたっけ? なんで洗濯板? フナは洗えば食えるのか? 生じゃ食えないはずでは? いや、どうでもいいな。

 

「もちろんだ。アインズさ……いやアインズ。俺の友になってくれ。俺は正直、凄い力もないし、魔法も使えない。頭脳だって並以下だ。たいして役には立てないかもしれないが、俺は全てを友のために差し出そう」

 アインズの力からすれば俺は生簀の魚。なんの役に立てるかはわからない。だが、懐に飛び込まないとダメだろう。

「そうか。それにしてもバルブロ。私の顔を見て怯まないとはたいした胆力だな」

 いや、さっき一度死んだけどな。

「俺は死にかけた経験があるんだ。だからかもしれん」

 いや、都合二度死んだけどな! むしろあの拷問が俺を変えたと言っていいかもしれない。……うん、変えたな間違いなく。

「そうか。王子が死にかけるとは……辛い経験をしたのだな」

 まあ、実際はお前の命令で死んだんだけどな。それともう一回は、アインズのうっかりだよ! 即死させられたぞ! 

 それにしても·····なんだろうな。アインズは妙に人間ぽいな。大昔は人間だったのだろうか。そもそもアンデッドはどう生まれるのかを俺は知らないし、知りたくもない。

 一つ言えるのは、多分一度死なねばならないのだろう! 当たり前か·····。

 

「そうだな。俺を今すぐ殺してくれ……という追い込まれた状況だったさ。まあ、今は生きているけどな」

「そうか。バルブロお前は面白い奴だ。正直噂で聞いた人物と同一人物とは思えないよ」

「噂には尾ヒレがつくだろう……俺はたしかに最近まで愚かな国の愚かな王子だったさ。だが、このままではいかんと、一念発起したのだ。よい国を作りたいからな」

 まあ、きれいごとだよなぁ……。俺は死にたくないからも足掻いて、もがいて、今までの自分を死んだ気になって捨てた。そして反省をしている。

 

「よい国か……」

 微妙な反応をされた。まあそうだろうな……これから帝国と組んで王国に宣戦布告するはずだからな……当然といえば当然か。

「とはいえ、どうすればよいか具体的な案はないんだが」

 俺は、基本的に頭がいいとは言えないし、そもそも王位は受け継ぐものであり、そこから先を考えてはいなかった。おそらく歴代の王もそうだったのではないか? などと先祖を疑ってみる。すくなくともこの数代はよい政治をした記録がない。

「そうか。そうだろうな……。ハッキリ言って王国は詰んでいるからな……」

 ……やはりそう見えるか。俺だって少しはそう思うわ。派閥闘争に、疲弊した民……。蔓延する麻薬……。

 

「そんなに酷いか?」

 わかってはいる。いや、わかってきていた。だからこそ確認の意味で俺は尋ねた。

「ああ。民は疲弊し切っているが、その事を上に立つ貴族共は気にもしていないだろ? 情報を聞く限りでは、ろくでもない奴ばかりだな」

 うむむ……反論できん。事実そうだろう……今の俺はともかく、この前までの俺は王に相応しくなかっただろうな。

「そうかもしれん。ならば大改革しかあるまい。世代交代だ」

 ノープランだ……ハッキリ言ってノープラン。だが、それしか思いつかない。

「世代交代には時間がかかるぞ? だがその時間は王国にはないだろうな。モタモタしていれば、帝国の支配下になるだろう」

 そうか、そこまでか……ショックだ。ん、まてよ? 

「ショック療法……か」

 強烈なインパクトを与えて、ガラリとかえる。それしかないのではないか。例えば上を全部消す……とか……。不穏な発想だが、それくらいしか大改革を成し遂げるのは難しい気がする。

 

「バルブロよ、どうする。王子として何をしてみせる? 猶予はあまりないぞ?」

 ああ、わかっている。宣戦布告まで時間がないことはアインズに言われるまでもないが、念の為一応聞いてみよう。

「アインズ、猶予がないとは?」

「そうだな。そろそろ帝国が宣戦布告でもするかもしれんな……」

 やはりそれか。だが、俺はアインズとは戦いたくない。ハッキリ言って勝てやしないぞ。絶対に無理だ。

 

「まさか、帝国に味方を?」

「勘がよいな。その予定だったことは認めよう。だが、まだ僅かなチャンスはあるだろうな」

 僅かなチャンスか。どうすればよい。ここで俺は何をすれば王国を再建できるだろうか? いや、待てよ待てよ待てよ……王国を再建するよりも、新たに作り直した方が早いのでは? 帝国は宣戦布告してくるし、今回はアインズが絡んでくる。ならば俺はそれに一枚噛む……というのはどうだろうか。友としてアインズを支援し、王国を新たな国に作り替えるべく共に動くんだ。……兵力はないし、俺には求心力もないが、今を不満に思っている者は多いだろう。そういったものを集めて、救国革命軍とか救国軍事会議といったような名前をつけていけばよいのではないかと思ったが、なんとなく失敗しそうな予感がする。やはり名付けるなら、革命軍……もしくはバルブロ血盟軍とかそんな感じの方が良いだろうか。維新軍なども良いかもしれん。

 だがしかし、時間も資金もプランもないとは……いやはや……。

 

「アインズ、俺も協力しよう。王国を滅ぼす戦いではなく革命を起こすんだ。それに帝国とアインズの力を借りるというのはどうだろうか?」

 俺は失敗すれば自国を滅ぼす愚かな王子で終わるだろう。だが、俺はすでに死んでいる。これが二度目……いや三度目の人生か? この挑戦で王国を変えられたら最高じゃないか。中から変えるのが難しければ外から力を借りるのは悪い手ではないはずだ。もちろん父は怒り悲しむかもしれんが、俺は今のままではこの国はダメだと思う。だからあえて困難な道に挑戦してやろう。

「ほう。面白いことを言うな……だが、それでよいのか? 全てを失うぞ?」

「俺は、友であるアインズのためなら人生の全てを差し出せる。だから全てを預けて、俺は体一つで勝負だぜ」

 青い顔で死を望んでいた俺はもういない。俺は男バルブロ。国を救う戦いに挑むのだ。

「お前がそこまで言うならジルクニフと調整しよう。ひと月猶予をやるから、準備しろ!」

「おう。俺はやってみせる」

 こうして、俺は勢いだけで決めた戦いに望むことになる。生きてきた証を刻み込め。俺は復活のバルブロだ。全てを賭けて国を救うのだ! 

 

「やってやる。今回は絶対にやり遂げる!」

 俺はそう誓う。この革命を成し遂げることが生き返った俺に与えられた使命なのだから。

 人にはやるべきことがあると聞いた事がある。きっとこの俺が復活した理由は、これだったはずなのだ。

 

 

 さあ、ここから大変だが楽しくなるぞ! 生き延びる事に足掻いた俺はもういない。

 

 俺はバルブロ第一王子~、みんな集まれ俺の下に。新しい国にしていこう~。

 

「さあ挑戦の始まりだ! 準備しろ!」

 

 俺は未来へと歩み始める。俺はもう死に怯えない。

 

 俺は未来を切り開く。あの太陽のように。

 

 そう俺は太陽の子、バルブロだ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「バルブロお兄様が? ありえない話ですが、まさか……そんなことを?」

 私は本気で驚いている。ここ最近は驚かされてばかりだったけど、まさかそこまでやるとは。

 あまりにも今までと違うから、あちらの手の者とすり変わったのかと疑ってもみたけど、どうもそうじゃないみたいね。

 だいたい、もしそうならアルベド様から連絡が入るはずだし。それに最後に会った時に感じた本物であるという印象は変わらない。私の血がそう感じている。

 正直私と、あのお兄様が血が繋がっているとは思いたくないけど、そう感じさせられた。

 周囲は、バルブロ殿下が目覚めたとか、成長されたとか言っているけど、私の結論は違う。

 バルブロお兄様は、生まれ変わった……というべきだと思うの。なにがあったかは知らないけど、何かのきっかけで新しいバルブロお兄様になった。私はそう思う。

 

 前のままなら、私のために人柱……いえ捨て石にしたけれど、今のお兄様なら、ザナック(あっち)がいらないかもしれないわね。

 王国をなくすつもりなら、バルブロお兄様の計画……を支援した方が面白い気もするわね。

 私の計画とは違うけど……上手くやれば目標は達成できるかもしれない。

 

「クライム、旅支度を内緒でお願いね」

「は、はいっ!」

 

 目指すはエ・ランテル。お兄様が何かしでかすならそこだと思う。

 

 王国の解体……そして新国家の誕生を狙うつもりね、お兄様。

 

 私の邪魔になるなら消えてもらうつもりだけど、役に立つなら手伝ってもらおうかしら。

 

 頑張ってね、生まれ変わったバルブロお兄様。

 

 

 






本来は今回で最終回の予定でしたが、エピローグとして一話追加します。

もうシングル曲が残ってないので、アルバムタイトルとかになるかもしれない。

週一更新で全12話なので、ちょうどワンクール分ですかね。

次回最終話 撤収(仮)は、例によって日曜日8時に更新します。

ちなみに、アインズ様の 「準備しろ!」 は、ドラマARROWの主役オリバー・クイーン(グリーン・アロー)の出撃前のセリフ。声はアインズ様と一緒です。

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