「ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ、只今参上いたしました」
気の強そうなところがよいな……。ラナーとは違う美しさを持つ金髪美人だ。まあ、かなりの跳ねっ返りだけどな。貴族である家を飛び出し、冒険者になったと聞いている。今は和解しているとは聞いているが。……たしか、
うーん、こんな美人が乙女とは勿体ない。俺のモノにしてやりたくなるぞ。……だが、今はそんなことを考えている場合ではないな。
「よく来てくれた。アダマンタイト級冒険者ともなれば、色々と多忙であろうに」
冒険者の中でも最高峰がアダマンタイト級だ。王国には三チームあるが、ラキュースは蒼の薔薇のリーダーだったはず。……もう少し冒険者についても把握すべきか。やれやれ、学ぶことばかりだ……。
「いえ。ラナー……第三王女様の頼みでもありますし、ましてや第一王子であるバルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ殿下からの直々なお呼びだしとあれば、喜んで参上いたしますわ」
流石だな。ちゃんと俺様のフルネームを覚えているし、作法も出来ている。どこかの知恵ねえ子とは違うわ……。
「うむ。嬉しく思うぞ。特に美人と話すのはよいことだ」
「まあ、殿下。奥方様はもっと美しいのでは?」
ラキュースはさらりとかわしてきた。やはり、防御レベルが高いのだろう。ま、別に口説くつもりはないのだが。
「話の前に、まず茶を入れよう」
「え、殿下自らが?」
ふふ、ラナー同様に驚いているな。まだ俺もなれていないが、俺がやることに価値があるのだ。
「……意外か? 最近凝っていてな」
「そ、そうなのですね。殿下は武芸がお好きと伺っていましたので、意外でした。ラナー様は以前から紅茶をいれるのはお好きでしたが……」
ラキュースはまだ驚いているようだな。俺が茶を入れるという意外さは使えるか。
「武芸だけでは国を治められんからな。まあ、茶を入れられても国は治められんが、わかることはあるぞ」
「それはどのようなことでしょうか?」
当然の返しだな。そう返ってくるのは予想ずみだ。
「それは、まず茶を飲んでから話そう。待っている間に最近の話を聞かせてくれ」
俺はラキュースのいや、冒険者の近況を聞きながら砂時計の砂が落ちるのを待ち、茶を入れた。
「いただきます」
「これはストレート用だ。ミルクを入れずに飲んでみろ」
最近になって知ったが、茶葉は用途によって大きさや種類が変わるらしい。詳しくはしらないが、適材適所という感じなのだろう。意外と国の運営に通ずるものがある。
「美味しいです」
「それはよかった。だがなあ、ラキュース……最近は茶の味が落ちたとは思わんか?」
「……やはり、気がつかれますか?」
正直、差はあまりわからん。だが、よくなるはずはないのだ。
「ああ。茶葉の品質が落ちているのだろう。国を継ぐものとしては、由々しき事態だと思っているのだ。思うに茶葉だけの問題ではあるまい」
……俺は自分の発言に違和感を否めない。だが、あの拷問の最中に色々と思ったのだ。民を大事にしなかったツケが回ってきたのかもしれないと。
あの時カルネ村を攻めたのも、平民ごときが王族を疑い、たてつくなど生意気だと思ったからだ。俺の驕り高ぶりが、そうさせたのだ。従って当然だと。
今考えて見ればわかるだろう。夜いきなり軍勢を引き連れて行けば、それは不審がられて当然だ。せめて先触れを出せば違ったのではないか。もしかしたら、他国の軍勢かもしれないと思ったのかもしれない。過去に襲われた村なのだから、警戒心が強いのはあたりまえだ。
人は死を経験すれば変わるし、変わらなければいけないと思うだろ? 俺は小さな失敗から大きな過ちまで色々やってきた。
「殿下、農村を中心に労働力が落ちています。これは帝国との戦争が一つの原因かと……」
ラキュースは、ここで自身の考えを述べてくれた。帝国の偽皇帝め……そんな策だったのか。
「なるほどな……」
俺が苦虫を噛み潰したような顔をしていると、ラキュースは続けてこう言ってきた。
「出来れば戦争にならないように手を打ちたいですよね」
まったくもってその通りだな……そうか。まだ布告前か。考慮に値する。戦争を回避するなど、俺にできるのか?
「その通りだな。ところで、魔法について教えて貰いたいのだが……」
俺は本題へ話を切り替える。美人とのおしゃべりというのも悪くはない。悪くはないが、今はそれどころではない。
「そうでしたね。今まで殿下は魔法には興味がなかったと思っていましたが、急にどうされたのでしょう」
ラキュースの笑顔の裏に訝しみといった感情が垣間見える。まあ、仕方ないな。
「……今更なのだが、魔法をよく知らないままではいかんと思ってな。考えをかえたのだよ。魔法を知らずに軽視して痛い目をみるくらいなら、きちんと知っておいてから、どうすべきか対策を考えるべきじゃあないか? 無知は身を滅ぼすだろう?」
いや、本当に滅んだのだがな……。
「おっしゃる通りです。知った上で対策するのは大事です」
ラキュースは納得した顔になった。やはり無知はよくないな……。
「たしか、お前は第五位階を使うのだったな? それはどれくらい凄いことなのだろうか」
「そうですね。第三位階が使えれば一人前と言われていますし、第五位階の使い手はかなり少ないです。王国では、私を含め片手で数えられるくらいではないかと。隣の聖王国で、第四位階が最高という話でした。ただ、国が流す情報ですから鵜呑みにはできませんけど」
ラキュースは心当たりがあり、何人かを思い浮かべているようだ。
「そんなに少ないのか。……なるほどな。使い手は貴重な人材とわかった。冒険者にしておくのは勿体ないな……。で、あのフリーザー・パラダイスとかいう帝国の爺はどのくらいなのだ?」
正直に言おう。魔法じじいの名前はよく覚えていない。会議で聞いたことはあるが、魔法にも爺にも興味はなかった。せめて魔法美女とか、魔法美少女なら興味は持っていたと思うぞ。……魔法じゃないほうになっ!
「フールーダ・パラダイン翁は、帝国、王国、聖王国の三国で唯一無二の第六位階の使い手ですよ。逸脱者と呼ばれるのは英雄の領域を超えている……という意味も含めピッタリだと思います。なお、法国は情報が少ないので、使い手がいるかはわかりませんが」
さすがに冒険者の中でも最上級だけはあるな。よく知っている。
「なに! そうだったのか……もし、そやつと王国兵が戦えばどうなる?」
「私の主観になりますが、それでもよろしいでしょうか? 」
もちろんだ。アダマンタイト級の意見は貴重だからな。
「それで構わない。率直に申せ」
「かしこまりました。なお、私は信仰系魔法の使い手で、あちらは魔術系魔法の使い手です。使える魔法が違うのであくまでも仮の話になります。
まず魔術系はやはり攻撃魔法などが得意ですね。有名なところでは
それは初耳だ。ものすごく大事なことじゃないか?
「そうなのか……火の玉がデカくなるって考えればよいのかな?」
「概ねそのようにお考えください。なかには数が増えるケースもあります」
なんということだ。魔法を侮るとか愚かすぎないか? この国の貴族は馬鹿ばかりか……。
「ですので、もし、戦場に出てくれば、攻撃の届かない空中から強力な魔法を連打されて、王国軍は手も足も出ずに全滅の可能性すらありますよ。私はそう考えています」
なんということだ。確かに空から魔法を撃ち込まれれば、ありえる。あのゴブリンどもは範囲攻撃? だったか。そんな魔法すら使っていた。
「……なるほどな。考慮にいれる必要はあるか。ところで、ラキュース」
俺は本題に入る。……知りたくもあり、知りたくなくもあり……複雑だ。
「なんでしょうか、殿下」
「信仰系魔法には詳しいと思うが、〈
ラキュースは、目を見開く……ああ、やはり知っているか。だろうなぁ……。しかも、あの感じは……嫌な予感がするな。
「よくご存知ですね。信仰系の第六位階魔法とされています。私が未だ到達できない領域ですし、今わかっている限り三国では使い手がいません。幻の回復魔法です」
「幻か……そうか、そうなのか……」
「殿下?」
……第六位階……第六位階魔法だとぉ?
すると、あのメイドが帝国のフルフルダーとかいう魔法じじいと最低でも同格ということか。なんということだ。それがメイド……アインズ・ウール・ゴウン……いったい何者だ。メイドと同格ということは考えにくいとすれば、二段くらいは上でもおかしくはないな……。 考えれば考えるほど、吐き気を覚える。
「殿下、顔色がお悪うございますが、お体に何か?」
「いや、大丈夫だ」
体はなっ! むしろ問題は心だ……。
「ラキュースよ、魔法は何位階まであるのだ?」
「噂では第十位階……神々の領域と言われており、未だ人では使い手はいないそうです。神話ではさらに上もあるとかないとか……」
……うーん。八どころじゃないとか?
「なるほどな。参考になった。やはり知識は大事だな……なあ、もしもだが七位階より上の魔法を使うやつが複数いたら……敵に回したらどうなるだろうな」
「……死にますね。国が滅びてもおかしくはないかと思います」
だよな……。やはり戦わないように、友好的にいかないといけないな。
俺は幸いなことに、今なら少しだけ真実が見えている。なんとかしてみせる。
陽射しが届かない冬もいずれ終わるのだから、同じように俺が生きる道もあるはずだ。
冬になる前に手を打たねば!
◇◇◇
「まあ、お兄様が魔法の話を?」
「それだけじゃないけど、ずいぶんと国を心配していたわね。あんな人だったかしら?」
「ここ数日様子がおかしいのよ、どうしたのかしら……」
バルブロお兄様はやはりおかしい。何かやらかしそう。今までとは何かが違う気がするわ……。
「紅茶まで入れてくださって……びっくりしたわ」
「まあ? お兄様がお茶を……びっくりよね、クライム」
私は後ろで控えているクライムに声をかける。不意に声をかけるとピクンってするのが可愛い。
「はあ。まあ、確かにバルブロ王子が茶を入れるなど似合いません。ラナー様がいれらるている姿は、か……絵になりますが」
クライムは照れもあって言葉を噛む。入れられていると言いたかったのだろう。
「ふふ。何を言いかけたのか気になるわね。可憐、可愛い、華麗あたりかしら?」
「ラキュース! 何を言い始めるのよ」
「あ、いや、噛んだだけです!」
私の計画にはクライムがいれば、あとはどちらか一人がいればよいのだけど。ねえ? お兄様。