ど健全なる世界   作:充椎十四

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 匿名希望、はえーよホセということでホセ(仮)様から頂きました。マーブリックを生んだ彼女の話。


頂き物と番外編
【頂き物】そして変態は動き出す【三次】


 気が付けば、私たちの世界は、エロを書くことすら発禁処分を食らうものだとされていた。微妙なサムシングすら発禁を食らう。性に関するものは十八禁など当然、微妙にスケベな駆け引きすらアウトなど、誰が思うだろうか。

 

 同時に、その歪みに気付けたのはNOスケベ世界をぶち壊さんとする猛者が世に憚ったからである。その人は強かった。まず同人誌を配布することでミームを拡大させた。反応した人たちはわりとカジュアルに年齢層を公開していると分かったのでありがたかったが、どうも大部分は20代にさしかかったあたりから30代まで。受け止めづらいと感じているらしいのは今の私たちの親世代くらいだ。つまり、その上は凝り固まってて変えにくい。反応人数は配布数の2~3倍ほど。しかし、コピーが流れているのだろうか、効果は確実に広がっている。

 そんな彼らを動かした彼女の名前はカラメル半月。なぜカラメルなのか。なぜ満月でなく半月なのか。キャラメルではないのか。あのさくさくしたやつだっけカラメル。それはカルメラか。

 閑話休題。彼女の詳細はわからないが、お茶の間を騒がせそうな内容で報道されているらしいと言うことは分かった。まだ数は少ないが、製本と配布からそこまで時間が経ってないと思えばメディアにしては驚異的な反応スピードである。まだただの同人誌に過ぎない。凄まじいしかしカラメル半月女史について知ることはできた。それだけ色々と手広くやろうとしていたし、実際やってのけているのである。

 とりあえず、もう少しなにかないかとニュースでかじった単語を適当に検索エンジンに放り込めば出るわ出るわ。しかしこれはどうしようもない。あ、本人の公式垢あったわ。他のツイートからの引用で探すよりユーザー検索すれば一発だったのか。プロフを確認すると私はすでにフォローしていた。ナイスだ、記憶のなかったはずの私よ。

 

 ううん、しかしわかったところで何の足しになろうか。私が今後の生活を続けるための解決策を探すのに、恐らく彼女は関係ないのである。突然変異みたいな同人作家だった可能性は否めないし、まずリプかDMしても埋もれるのは想像できる。では、どうすればいいのか。彼女だけでなく、私の知っている有史時代と同じ世界を知っている人間はどう探せば良いのだ。

 と、まあ一人でうんうん唸っていると、部屋に見慣れない本の一段を置いていたのに気付いた。しかも気合いの入った想定の、推定洋書である。私は英語は準2級までしか持ってないぞ。いや、そもそもこんなもの買っていたのだったか記憶が怪しい。

 ちゃんと手にとってタイトルを確認すると、ご丁寧な革張りの本は表にタイトルがなかった。開いて中表紙を確認すれば、こちらにはきちんとタイトルがあった。よかった。しかしよくよく読んで考えてみて、固まった。

 そのタイトルは、 ”The call of cthulhu” 。つまり、『クトゥルフの呼び声』。ラヴクラフト御大の本である。現代では宗教が強くて性的なものを規制されてるってことは、つまり冒涜的なこれは、どうあがいても禁書目録入りしている。

 でも同時に希望でもあった。同じ出身ならこの本、もしかして仲間探しのダシにできないか。ちなみに私はクトゥルフを読んだこともTRPGをやったことも卓動画も馴染みがない。馴染みがないだけに、これを訳して世に出すなら余計に仲間が必要だ。

 

「母さん、私これから英語とドイツ語とフランス語やりたい。翻訳したい。これ仕込むにはどうすればいい?」

「まあ待ちなさい。翻訳なら訓練校かメソッド本を買うのがいいから。図書館にいくのがいいよ」

「流石母よ、すぐ検索してみる」

 すぐにOPACで翻訳に関する本を予約した。ちゃんと翻訳の学校にいくのも良いけど、まず目的がばれたくないのだからそっちの方が安全だった。

 

 できるかはわからないし、できてもこいつは禁書だ。つまり、私は世界のかなりやべー人たちの敵になるということである。

 正直、ここまでする必要はないんだろう。ぼーっと流されててもまあなんとか生きていけるし、私は私で努力すれば良いのかもしれない。

 だが、そんなことよりクトゥルフだ。これが訳されることでどんな影響が起こるか見てみたい。これはもう半分職業病みたいなものだと思う。これまでの経緯をまとめた上でこれからの社会を観察したい。心ゆくまで社会変化を書き留めて、研究して、あわよくば論文にしたい。なぜなら、それが楽しいことだと私は知っているからだ。その変化のうねりが愉快だと、後の人間に大きく反映されて、確実に違うものになるとわかっているから、どうしてもやりたいのだ。悪魔に魂売らなくたって翻訳ならできるんだから、だったらそのくらいの手間を惜しんではいけないだろう。そのための2、3年なんて安いもんだ。

 

 

 

 

 という決意をしたのは振り返るとかなりのバカだったんじゃないかと、今は冷静になれる。しかし論文を諦めてなどいない。あれから苦節1年半、ガタガタなりにやっと翻訳したクトゥルフを片手に二窓でスレを立てる。一種の召喚の儀式である。仲間よ来い、できれば腐敗したお話とかもできて卓に抵抗のない猛者。

 

 そのタイトルはそう、『【何者かの】冒涜的な本を作ろう!【呼び声】』


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