ど健全なる世界   作:充椎十四

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原作キャラ×オリキャラ描写が入ります。


祝福しろ、エロスにはそれが必要だ

 なかなか増えないスケベ漫画スケベ小説……数年ほど彼らの自然発生を待っていたけど全然現れてくれない。いや、現れないというか、単発で時々現れはするものの続かないというのがより正確かもしれない。

 既存の漫画雑誌でスケベなものを連載することが出来ないなら、新しく場所を作ってしまえば良い。金の力で解決できることならガンガン金を使おうじゃないの。ということで渋りに渋る出版社に金の力でごり押しして月刊誌「ゑろす」の発刊を決め、呟きったーでスケベメインの雑誌を作ることを宣伝した。――原稿は漫画でも良いし、イラストでも良いし、小説でも良い。とりあえず定期的に原稿を上げてくれれば問題ない。ネッ友とネッ友の知り合い連中も含め五十人ほどから連絡が来て、誰もがスケベな創作物への意気込みを熱っぽく語ってくれた。

 スケベで増えた友達ほど信用出来る相手はいない。我ら生まれた日は違えども、と兄弟の杯を交わして私が長女になった。

 

 で、ゑろすの売れ行きはと言えば。出版社の連中が目を擦るほど売れた。需要はあったのだ。

 ここから男性向け女性向け、漫画と小説の文化を進めていけば、自然とスケベが深化ないし進化していくに違いない。わくわくするね。

 

 だがしかし、発刊から一年半が過ぎた頃に久しぶりにゑろすを読んで、首を傾げることになった。ファンタジー系がないのだ。高校生同士の探りながらのセックスとかオフィスで他の人にバレないよう虐めるとかSMクラブで運命の出会いを果たして合体とかはあるのに、触手で天井から吊るしたり不思議なパワーで相手を自分に惚れさせたり笹耳褐色肌エルフ騎士が敵に捕らわれてくっ殺からの即堕ちとかがない。非現実的な設定の話が一つもない。ファンタジーとは少し違うけど男の娘や女装子もない。

 まさかそんな冗談ではない。リアル系ばかりでは食傷するに決まっているじゃないかスーパー系もよこせ! というわけで、久しぶりに創作活動の時間だよ。

 

 ところで、前世において私は二次創作BLの書き手だった。なのでキャラ同士をくんずほぐれつさせるのは得意でもオリジナルでキャラクターを作る能力はない。ないなら仕方ないから借りてくるしかない。

 お借りしますは最高に面白くて沼ったけど原作が未完結のまま私が天に召されてしまった神作品――鬼滅の○。鬼○の何が良いって敵が美人なのが良い。美形な敵、これだけで胸を焦がす熱が抑えきれないのに、主人公が美少年。はいはいカップルリングカップルリング、美人攻めで美少年受け、はい確定。二人が互いに憎み合う敵同士なのも狙い撃ちされた気分だもっとやれ。なにせ対立する二者という萌え設定の素晴らしさはアンパン○ンが証明している。理解しあえない二人が時にぶつかり時に相手を助けつつも永遠に敵なんだよ。尊い。それに加えて頭おかしいブチ切れ系キャラ×正統派主人公キャラなのもテイストグッド。そんな二人を合体させる妄想だけで五合炊きの炊飯器が空になる。

 ああ、炭ジロにくっ殺って言わせたい。

 

 挿絵はネッ友に頼んで私が読みたいエロい小説を書きおろし、ゑろすに載せた。評価は「悪くない手ごたえ」と言ったところか、十人が十人好むものではなかったようだけど、一部の層から熱狂的に受けたのだ。私としては鬼舞さんにヌルヌルのスケベ触手を生やして炭ジロを汁だくに出来たうえ、鬼舞さんに捕らえられた炭ジロに「くっ……殺せ!」と言わせられてもうそれだけで大満足だったから、同士がいてハッピーラッキーと言った感じ。

 そして私がスーパー系スケベをゑろすに載せた三ヶ月後に完全ファンタジーで騎士も出るBL読み切りが載り、その二ヶ月後には魔法少女モノのGLでシリーズが始まった。

 

 ――こうして漫画や小説によるNLGLBLその他を広めていると、呟きったーのDMを通じて国内外からメールが届くようになった。自分の性別に悩んでいます、同性を好きになってしまいます等々。特に国外からのメールは内容が切実で、親や友人に性的指向がバレたら殺される、ときた。それも送信者は愛の国の住民であるはずのフランス人。フランスでいったい何が起きているのだ……。

 というわけでフランス文学専攻だった船迫君に話を聞いてみた。

 

「え? フランスはカトリックですからね、そういうの特に厳しいですよ。カトリック圏内では同性愛者は家の恥、存在することすら許されないので、殺されて事故死ということにされるとか、親族からリンチ受けて同性愛を捨てることを誓わされるとか。プロテスタントも確かに厳しいですけど、家族の縁を切られる程度なんでとりあえず命は無事ですね」

「クリスチャンやべぇ」

「前に聞いた話によるとアメリカには同性愛者とかばかりが集まった町があるそうで……確かセント・ヴァレンタインって名前だったかと。通称の方が有名でソドムって呼ばれてますよ」

「この世界間違ってんな」

 

 性的指向を変えられるなら、性別で悩む人なんていない。誓うまで集団リンチとか草も生えない。二十一世紀は中世だったのかと頭を抱えて悩んで、半月後。呟きったーに二か国語で呟きを投稿した。

 『日本には性別による愛の壁は存在しないと私は信じてる。だけど、いまだ壁が高くそびえる国に住む友がいることを知ってるし、彼らに手を差し伸べたいと思ってる』。

 一般的じゃないことがなんだ、それが悪だなんて誰が決めた。他人に迷惑かけてないんだから、本人の好きにさせてやれば良いのに。

 

 ゑろすで同性愛も扱っている私が彼らを見て見ぬふりなどできるはずがない。性的マイノリティを支援する団体としてレインボー○ボンジャパンを組織し、国内外の皆さんのための相談窓口を開設した。――その窓口から上がってくる報告に頭痛が痛い。日本への移住希望や日本での就職あっせんを求める方々の名簿が日々より厚く更新されているのだ。

 この全員が日本に移住してきてみろ、日本は虹の国になってしまう。いや、虹の国になっても良いんだけど日本国内の混乱必至では? 困った、まことに困った。というわけで諸伏君経由で警察に名簿をぶん投げた。

 

「来年四月から、毎月五十名ずつ受け入れましょう」

 

 諸伏君が胸元のバッジが重そうな初老の男性を連れてきたのは、名簿を投げてから一週間後のことだ。

 

「本気ですか?」

「本気ですとも」

「何故そんな思い切ったことを」

 

 男性は目じりに皺を寄せた。

 

「答えられませんが、先生の損になるようなことにはなりません」

「そうですか……。では質問を変えますけど、どこからそれのための予算を?」

「人道支援目的のものとして、来年度から予算に組み込みます」

 

 まさか警察がオッケーサインを出すとは思ってもいなかったから、ハァそうですか、としか返せなかった。

 

 年度が変わり迎えた海外の皆さんは半年のあいだ寮で暮らしながら日本語学校に通い、彼らが学校を卒業する頃にようやく初めて会いに行った私に――癖のある、でも意味がちゃんと通じる日本語で言った。

 

「日本のブックストアは、他のマンガマガジンと一緒にゑろすを置いてる。私の国はできない。本当にありがとう」

 

 彼らは、ネットなどを通じて日本の情報を集めてきたんだろう。日本の本屋ではゑろすが他の漫画雑誌と並んで平積みされていることを知って、ここなら自分らしく生きられるのではないかと希望を持ったのかもしれない。

 ――正直なところ、エロで世界を変えられるなんて思ってなかった。自己満足から始まった私の我儘が案外受けた、そのくらいの認識だった。

 

 人道支援、なるほど、あのおじさんの言うとおりだ。私がただ知らなかっただけで、無自覚だっただけで、エロは人を救っていたのだ。

 

「つまり、一神教討つべし!」

「どうしてそうなった」

 

 外出時にボディーガードをしてくれている諸伏君に、私は胸を張って答えた。

 

「ソドムだなんだと言って人を傷つける教えなんてクソッタレだ。そんな前時代的な石頭なんて私がかち割ってくれる。私は私の思う正義のため動くのだ、今までの倍返しだ! 世界を救うんだ!」

「待ってやめてまだ早いから、落ち着いて!」

「待たぬ! 引かぬ!……ん?」

 

 諸伏君の今の言葉、どっかおかしくないか。一瞬考えて気付いた。

 

「諸伏君、まだ早いってどういうこと?」

 

 世界を救うにはまだ色々と足りないんだと言う。なら、揃うのを待とう。私は待てができる賢い女の子なのだ。

 

「開戦する時は声をかけてね」

「先生は安全な場所で守られててくれよ……先生だって『守られるべき国民の一人』なんだぜ」

「仲間外れ良くないと思います」

「我儘言わないで」

「私は日本一の駄々っ子だぞ。言うことを聞いてくれなきゃ長野のお兄さんに『貴方の弟に泣かされました!』って連絡するからね」

「別に良いけど」

 

 諸伏君にばっと振り返った。

 

「先生、俺とじゃ嫌か?」

 

 授業の一環とはいえ、私と諸伏君は尻を掘削し尻を掘削された仲だ。まさか諸伏君がおねショタ好みで女教師攻めモノが好きだったとは……。

 甘えた声音でセンセーと呼んでくる同い年の男の目は笑んでいて、さっきの言葉が本気とも冗談とも分からない。――だけど諸伏君はイケメンで、公安で、日本の治安を裏側から守る立場の人で、私のボディーガード(派遣)だ。

 まあロミトラだろうが本気だろうが業務上の都合だろうが私はどうでも良いし、諸伏君の顔はイケメンだ。イケメン無罪。いやイケメン有罪。罪状は私をときめかせたこと。一生かけて償ってください以後よろしく。

 

「結婚を前提とするお付き合いなら良いよ」

 

 ――というわけで結婚が決まった。「一般人男性と結婚を前提にお付き合いしてます」と朝のバラエティで話したら、呟きったーで「どんな恋人性活送ってるんですか」と質問が来た。ごまかす必要性を感じず、正直に書く。

 

 主に私が掘ってます。

 

 そのせいでと言おうかそのお陰でと言うべきか、呟きったーに私×男の創作が大量に投稿され、ゑろすにも女攻めの話が増えた。

 衣装さんのお勧めで女教師風の恰好でテレビに出たその日の呟きったートレンド1位は「女教師半月・溶けてカラみ合う性指導」。

 

 ああ……日本は平和だ。




次は掲示板回になる可能性。

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