ど健全なる世界   作:充椎十四

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スケベだよ


帰って来たスケベ

研究所からの帰りの車中、風見君経由で公安に久保の監視を頼んだが、明確な理由がないと人員を出せないと言うので「重大犯罪の危険性がある。むろん私の勘だ文句あるのか」で押し通した。「知っている」というのはなんともままならないものだ――無駄にイライラする。

 無駄にイライラするから、AV撮影の予定を次の日に繰り上げた。何度も顔を合わせている男優二人やその他スタッフに「色付けるから!」と謝り倒して撮影現場……都心から離れた人気のない公園の公衆便所に集合し、楽しいAV撮影の始まりだよ。

 

 作業服姿の竿役がベンチに腰掛けうほっいい男――某アベさんネタである。いつかしたい、いつかしたいと思いつつ時が過ぎ、ようやっと最適な男優二人を見つけたのだ。このネタをするのはこの二人しかいない。

 流石にマジモンの公衆便所でファックするのは衛生面で不安が大きいので、公衆便所シーン以外をここで撮る。男優二人のエロティックな雰囲気に溢れる涎をハンカチに吸わせ、スケベシーンに興奮し、ナマだから無修正なあれそれに喜びの舞を踊る。やっぱりスケベは最高だぜ!

 

「スケベって最高だと思わない? あるがままな……獣じみた本能を刺激して、ヒトというものの魅力をより高めるんだ。性欲に従うことはなんら恥ずかしいことじゃないんだよ」

「確かに、先生と仕事するようになってから差別ってか、偏見はなくなりましたねぇ。ヒトも動物の一種なんですよね」

 

 撮影スタッフと語りながらリアル便所での撮影を終え、また車で移動してちょっと古いビルの便所に移る。経年劣化とかで見た目はアレだが(清掃業者さんが)苦労して除菌し磨き上げたトイレだ、ここでファックしても衛生面の問題はない。

 スケベって良いな。ストレスが昇天していくんだ。なんていうか――セックスという生命力の発露に晒されて元気が補充されるというか、炎に当たって冷えた体を温めるような心地なんだよ。立川流に目覚めそうだ。

 

 昼の休憩時間、何かしら自分で選んで食べたいと思いビルの一階にあるコンビニまで下りた。そして横面を殴られたような衝撃……玩具コーナーに遊☆○☆王OCGvol.1、アテムとブルーアイズのプリントされたパックがそこにあった。

 

「えっ、なっ……ちょっ」

 

 どういうことよコレ、と指させば、一緒にコンビニに来ていたカメラさんが「ああ、それですか」と笑った。

 

「うちの坊主がなんか欲しい欲しいって言ってるヤツですね。子供向けのトレカでしょ? でもトレカなんて際限ないじゃないですか……買わない、うちじゃ禁止って言ってるんですよ。コンビニにあるの見たら子供だって欲しくなっちゃうだろうし、置かないでいてほしいんですけどね」

「店員さん在庫あるだけ全部」

「先生!?」

 

 カメラさんは信じられない物を見る目を向けてきたが、リアルのデュエルは大人買い出来る者が勝利を掴むと決まっている。秘書室に電話して原作の既刊全部とОCGのボックスを四箱買っておいてくれるよう頼み、休憩時間の残りを開封式(ツ○キャス)に当てた。放送中に「これからはデュエルの時代が来る」「ハハハ! 俺は勝利を掴んだぞ!」「見ろ、私の旦那だ……格好良いだろ、ブラマジって言うんだぜ」とか言ってたら、半月後、キングから会社経由でサイン色紙が来た。やっべ家宝家宝。

 後日ウィキを見たらブラマジのページに半月の旦那(非公式)って書いてあった。そして、それに照れて怪しい笑い声を上げている私のスマホ画面を見た諸伏君に浮気者と詰られた。違うんだこれは別次元の話なんだ。融合じゃなくてユーゴなんだ!

 

 ちなみにコンマイがブルーアイズ召喚に生贄を必要とするルール改定を行った時に「やめろ、社長の嫁が……社長の嫁が!」と呟いたらpixivに社長×ブルーアイズのイラストや漫画が大量に投下されてケモナー大満足。日本は未来を走ってる。

 

 ――話は戻って撮影だ。撮影を終えた時は賢者タイムに似た解放感に満たされ、清々しく爽やかな気持ちで世界を見ることができる。煩悩の塊であるはずの私もうっかり解脱しそうだ。

 しかし。便所前の階段で悟りを開きそうになっていた私の耳に、五階のサウナへ汗と汁を流しに行く男優二人の足音と会話が響いた。

 

「山田○郎物語知ってる?」

「いや知らん」

「前にドラマやっててさぁ……先日原作者さんが……」

 

 ドラマ。そうだドラマだ。ビデオばかりやってきたがドラマって良くないか。私がメガホン取らなくて良い、いやむしろ私がメガホンを取ったらいつまでも撮影が終わらない。誰か良さげな監督にメガホン渡してドラマを撮ろう。何故今の今まで思いつかなかったんだ――全国放送のドラマとか最高に洗脳にピッタリじゃないか。テレビの前を占領している奥様をこっちに引きずり込むにはドラマが最適だし、もちろんドラマが好きな男も多い。老若男女を染めるため……月9、この枠を獲る。金に糸目は付けねえぜ!

 

「帰りに本屋に寄るから、手配お願い」

「畏まりました!」

 

 私の決意に溢れた目をどう思ったのだろう、髙野さんは力強く頷いてくれた。

 そして帰り道に立ち寄った本屋で、私は思い出深いタイトルと再会した。マリア○がみてる。奥付は先月の十五日。パラ読みして頷き、髙野さんに指示を飛ばす。

 

「今すぐコバル○に連絡DA☆ 全速前進!」

「アイアイマム!」

 

 帰宅してから本日の戦利品(1冊)の写真と共に「運命の出会い」って呟いたら、「見つからないはずがなかった」「そのサーチ能力なんなん?」「ほーん読むわ」「やめろマリ○てにスケベシーンはない穿った目で見るな」等々のレスで通知が埋まった。分かっているとも、マリみては女の子同士の精神の繋がりが醍醐味なんだ。つまり奥様方が取っつきやすく沼にはまりやすいというわけだ。

 

 資金力こそパワーで撮影を進めたマリみ○は百合界の住人を数多く生み出し、この道がまり○りに繋がっていくんだなって思いました、まる。

 私、超偉くないか……数十年後には神に祀り上げられるんじゃないのかこれは。流石だな私。

 

 ――そういえば、この世界に腐女子という呼び名はない。思考回路が腐っているのはみんな一緒、ただ薔薇に偏っているか百合に偏っているか全部まとめて美味しく頂けるかの違いでしかないからだ。その中でそれぞれケモナーとか下克上スキーとかといった分岐をしていくだけで、根っこは皆、花が好き。BL好きは薔薇派、GL好きは百合派、全部好きなのは花束派と呼び分けられる幸せな世界である。ちなみに私がこの呼び方で定着させた。

 その花束派筆頭と見られている私の下には、望まずとも周囲から恋愛相談が飛び込んでくる。自然と他人の恋愛事情に詳しくなるし目も鍛えられ、秘書室で百合の花が咲いていることや――美馬坂教授と柚木陽子さんの間に禁断の愛が存在していることにも気が付いてしまう。

 

 十五年前に近親相姦、それも父と娘でやることやってる二人に頭痛が酷い。当時の世間では想像すらされたことがなかった禁断の恋愛である。私のような前世持ちでもなければ、パパへの愛やら娘への愛を拗らせてベッドにゴーとか普通は思いつかない。爛れ過ぎだろうこの父娘。やばいよ。

 だから本当に、美馬坂教授に死なれては困る。捕まってもらっても困る。司法解剖や精神鑑定されては大変困るのだ。

 

「事件起きるなよ、絶対に起きるなよ。エミューじゃないぞ」

 

 神様仏様、と手を擦り合わせて空に向かって祈ったのに、私の切なる願いは叶わなかった。女子中学生二人死亡、久保は逃走。

 

「公安なにしてんの!?」

 

 私の悲鳴に諸伏君はペコペコ頭を下げたけど、私に謝ることじゃない。いや、謝ってほしいけども、今ではないのだ。

 

***

 

 男は電話相手に叫び声をあげる。

 

「む、無茶なことを言うんじゃない! 僕は○春の小物で、あっちは新○の役員でもある大人物だぞ! 繋ぎなんて無理だ……そう、それに君はつい先日東都へ来たばかりだろう! 店は良いのか!」

 

 通話相手はとぼけているのか元からそういう口調なのか、淡々と言葉を返す。

 

『君、ポアロの常連だと言っていただろう。なら彼女に名前を知られていないにしても、顔を覚えられている可能性は高い。君があのとき彼女と顔見知り程度であることを教えてくれていたら、僕は無駄に青森と東京を往復せずに済んだのだ』

「暴論だろう! 僕は、先生に声をかける勇気なんてないんだ……同じポアロで同じ空気を吸う、ちょっと顔に覚えがある常連同士という程度に認識してもらえればそれで良いんだ! それが……声をかけるだなんてできない!」

『君は厚かましいのか恥ずかしがりなのか分からないね。ストーカーとは君のようなどこに出しても恥ずかしい者のことを言うんだ。君がみっともない男であることは既に誰もが知る事実なのだから、今更じたばた暴れたりなどせずに落ち着きを覚えたまえ』

「君が東都に来なければ何ら問題はないんだぞ!」

『君は姑獲鳥の夏を完結まで読みたくないのか?』

「そりゃあ、いや、読みたいとも。だけどそれとこれとは別だろう。作者と先生が必ずつながっているかなんて分からないんだぞ!」

 

 男の激高したような怒鳴り声に、通話相手はため息を吐いた。

 

『作者は半月本人か、身近な人間だよ。でなければ説明がつかないことはたくさんあるんだ――君もそれには頷いていたと思うんだけどね』

 

 男は言葉に詰まった。何度となく掲示板やグループチャットで議論してきたことだからだ。

 

『三日後、またそちらへ伺うよ。むろんまた君の家に泊めろなんて言うつもりはないさ。適当にホテルでもなんでも取ろうじゃないか。すこしばかり教えるのが遅かったとはいえ情報源は君だし、僕たちは君に筋を通さないことをしたくないから事前にこうして伝えているだけなんだよ』

「僕たち、ってどういうことだい?」

『大岡……いや、榎木津と僕だ』

「悪夢的な組み合わせじゃないか! 木場はどうしたんだ」

『木場は仕事だよ。盆休みはもう終わったからね』

 

 男はうわああと悲鳴を上げ、しゃがみこんだ。

 

「分かった、僕の負けだ」

 

 そして叫ぶように宣言した。

 

「僕も一緒に行動する!」




魍魎の匣のざっくりした説明を19.9.23の活動報告に載せております。

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