きっと世界で一番くそったれな『個性』   作:週刊ヴィラン編集部

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本作品には、コミック的謎物理表現が導入されています。ご注意下さい。

……専門じゃないので適当です。


個性把握テスト・種目コンクリート投げ

 ──平和の象徴を殺す。

 自分たちと同年代の少女が一人紛れ込んだだけ。そう思ってそれまでは幾分か楽観的であった雄英生徒達だったが、黒い霧の中から続々と柄の悪い連中が湧き出てくるのを見て、漸くのっぴきならない事態に自分たちが置かれていることに気がついた。

 生徒の誰かがその異常さを騒ぎ立てる。

 

「敵ンン!? バカだろ!? ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

 

 雄英高校。それは多数のプロヒーローを輩出し、また教員として抱えているヒーロー総本山。一般論から言えば、確かにその叫びは事実だろう。

 しかし、多少知恵の回る上澄みは、その異常性にこそ着目した。

 理知的な少女が宇宙服に問いかける。

 

「先生、侵入者用センサーは!」

 

 マスコミ対策も兼ねた雄英のセキュリティは非常に優秀である。本来ならば例えワープのような空間系の侵入経路であっても警報を鳴らすはずだった。

 ただ今は宇宙服が首を振るように、なんら動作していない。

 紅白模様の少年が自身の考察を口にする。

 

「……校舎と離れた隔離空間。そこに少人数が入る時間割……。その上単騎での威力偵察。

 ──バカだがアホじゃねぇ、これは。なんらかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

 少年の呟きに呼応して、ゴーグル姿の黒髪が全体に指示を出した。

 学生全体には教員の指示に則ったすぐさまの避難指示を──血気盛んな一部を除いて承諾する。

 同僚には本部への連絡の試みを──13号は苦みばしった顔をマスクの下で浮かべる。センサー同様の妨害がなされているらしい。

 電気系統の個性持ちの生徒へも同様に学校への連絡を求める──しかし繋がらない、どうやら同系統の個性による阻害を受けているようだ。

 芳しくない結果にこそ終わったものの、指示をあらかた言い放ち、ベルトのナイフ、ポーチの小物を確かめる相澤。そんな彼を緑髪の少年が呼び止めた。拳をぎりと強く硬く握り締めて。

 

「先生は!? 一人で戦うんですか!? あの数じゃいくら『個性』を消すっていっても!! それに拘束布だって破られちゃったじゃないですか! イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は──」

「──一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

 長く続いた少年の説得。それを教師は一言で打ち切った。それは彼自身のヒーローとしての矜持もあったが、教師としての責任感も多分に含んだ言葉だった。

 13号、任せたぞ。と言い残し、無手勝流で踊り掛かる相澤。その目には、愛用のゴーグルがしっかりと装着されている。

 

「射撃隊、いくぞぉ!」

 

 果たして飛んで火に入る夏の虫とでも思ったのか。抹消ヒーロー・イレイザーヘッドのことを一切伝えられていない射撃部隊、別称捨て駒達は彼に対して己が個性を起動した。……が、当然のように、

 

「あれ? 出ね……」

 

 彼らの暴力装置は『抹消』されて動作しない。一瞬の隙を見計らって相澤はヴィランの脇をすり抜ける。すれ違いざまに鳩尾や喉元といった急所を殴りつけて。

 崩れ落ちる第一陣。彼のことを知らされていた換えの捨て駒は、同胞達に警告を発した。

 見ただけで個性を消す。その危険性が周知されるとともに、一人の男が名乗りをあげる。

 

「消すぅ〜!? へっへっへ。俺らみたいな異形型のも消してくれるのかぁ!?」

 

 相澤の前に進み出てポーズを決める四本腕の覆面男。相澤に比べて随分と大きな男は、自信満々に軽口をたたいている。よってそのよく開く口を思い切り殴りつけることで相澤は返答とした。

 

「いや、無理だ。発動型や変形型に限る」

 

 耳を叩く風切り音。

 それを察知した相澤は後方に背中から倒れ落ちる。

 斬、と先ほどまで首のあった空間に、刃の生えた腕が突然生えてきた。

 

「お前らみたいな奴らの旨みは統計的に、近接戦闘で発揮されることが多い」

 

 目の前を通り抜ける肉体刀。人体をたやすく切り裂くそれを視界の端に捉えながら、相澤は両の手を頭上に回す。手のひらで地面を強く押し、同時に脚部に力を込めて、強く空中に蹴り上げた。

 一連の流れ、ハンドスプリングは、刀ヴィランに対するサルト攻撃と体勢の復帰へと流れるように合理的に移行する。

 腹部への全体重を込めた蹴撃を受けたヴィランは後方へ大きく吹き飛び、控えていた連中を巻き添えにして倒れふす。

 相澤はもう聞こえないことを承知で言葉を零す。

 

「だからその辺の対策はしてる」

 

 ──だからこそ。

 

 敵集団のど真ん中で、相澤はある一点へと目を凝らす。

 ゴーグルで隠された視界の先には、恐らくこの一連の事件の主犯格。そのうちの一人であろう少女が笑みを浮かべていた。

 

 ──あの異形型には見えない奴の『個性』はなんだ?

 

 

 

「あっ、ラッキ……じゃなくてミスターハンドマン! 今相澤先生私を見ましたよ! さっきも私のこと縛り上げてきましたし、やっぱりそういう趣味なんですかね?」

 

 抹消ヒーローVS有象無象の雑魚ヴィラン達。

 予定調和のやりとり全て一切を、死柄木、黒霧、黒野の敵連合幹部三巨頭は白けた目で見ていた。

 隣の戯言を聞き流し、少年は自身の考えを示す。

 

「例え主要武器が無くとも肉弾戦も強く、その上ゴーグルで目線を隠されていては『誰を消しているのか』わからない。集団戦においてはそのせいで連携が遅れをとるな。

 成る程。嫌だな、プロヒーロー。有象無象じゃ歯が立たない」

 

 死柄木が今の戦闘についての講評を述べる。そのネガティヴな評価に対し、少女が異論を唱えた。

 

「んー。でもあれはあれでいいんじゃないかな? うちからの持ち出しのもの無しで消耗させたと思えば。いくらプロでも無限の体力は持ってないでしょ、オールマイトじゃあるまいし」

 

 少女のフォローは味方の兵隊の損耗を問題としない、極めて悪辣なものである。

 しかし、そんな暴論を、指揮官死柄木は肯定する。

 それは、彼にとっては彼自身こそが主人公であり、名も知らぬ部下などNPC同然の存在だからこそできる所業だ。

 

「ん、ま、そっか。ノーコストの兵士で中ボスキャラのスタミナを削れたと思えば十分か」

 

 死柄木は納得すると、相澤達の戦闘風景を鑑賞を再開し始めた。

 強面の男たちはボーリングのピンのように跳ね飛ばされている。だが死柄木は特段感情を抱くことはない。せいぜいがコスト分の働きをしてくれと願う程度である。

 相澤のスタミナとヴィランたちの自由のトレードオフが続けられる。

 状況が動いたのは、死柄木達の耳に感嘆の声が届いた時だ。

 

「すごい……! 多対一こそ先生の得意分野だったんだ!」

「分析してる場合じゃない! 早く避難を!!」

 

 チラと目を向けると、声の元には未だに逃げおおせていない生徒達がいた。

 彼らは決して今回の主題、メインターゲット、つまりはオールマイトではない。だがある種の警報機、サブターゲット程度にはなるだろう。

 もともと各地に集めた兵隊で生徒も狩り尽くす予定だったのだ。

 それを思い出した少年は首元をぽりぽりと掻くと、黒モヤの男に指示を出した。

 

「あー、そうだな。……黒霧。あいつら()らせるか?」

 

 ボスのオーダーに対し、背後に控えた黒い男は申し訳なさそうに断った。

 

「……死柄木弔。残念ですが今は見られて(・・・・)います」

 

 彼らの目線の先には、以前こちらをチラチラと監視しているゴーグルの男がいる。

 少年は舌打ちをして少女をなじった。

 

「チッ。どうすんだこの馬鹿。あいつ完全に警戒してるじゃないか」

「えっ!? 私のせいですか!? というか言うに事欠いて馬鹿ってなんですか馬鹿って!」

 

 突然のそしりと暴言にきゃんきゃんと喚き立てる少女。

 異議申し立てに対し、死柄木は至極当然であるかのように答えた。

 

「お前が変な名前で呼ぶからだ。お前なんか馬鹿で十分だろう?」

 

 少年は、唾を飲み込んで少女に問いかける。

 

「で、このままだと面倒だ。どうにかしろ(・・・・・・)

 

 少女は腰を折り曲げ、足元に落ちた物を拾い上げて答える。

 それは先程から繰り広げられている戦闘によって、破損し転がってきた、なんの変哲も無い施設の残骸だった。

 

「ええ、もちろん。どうにかします(・・・・・・・)

 

 腕にコンクリート片を握り締めてぐるぐると軽くストレッチをしたのち、黒野は大きく腕を振りかぶる。

 奇しくも数日前、生徒たちが「個性把握テスト」と称して行ったソフトボール投げのようだった。

 

 

 少女のそんな一連の様子を、相澤は逃すことなく目撃していた。

 眼を主体とするヒーローである。ドライアイであるというちょっとした欠点こそあるものの、見逃すことはあり得ない。

 彼は少女が投擲のモーションに入るや否や、彼が刻んでいた戦闘マニューバを切り替えて、彼と少女の間に敵がすっぽりと収まるように位置どりを変えた。

 これにより、少女は相澤に対し投擲を行うことはできない。無論視界からワープの個性持ちが外れることは大問題だ。しかしその間僅か一秒足らず。いかに展開速度が早かろうとも、事故の危険性を鑑みれば個性を発揮するのはいささか博打にすぎるだろう。

 よって、相澤は依然変わりなく少女たち親玉を封殺できていた。

 

 ──それはこの上なくヒーローらしい考え方だった。だがしかし、悲しいことに少女、黒野はヴィランである。ヴィランとは時に、ヒーローが決してとることのない、思いもよらないことをするものだ。

 

 ゾクリ。

 大柄のヴィランの陰に隠れた相澤だったが、突如として頭蓋の奥から足のつま先に渡るまで。全身全てにかけてを悪寒が駆けずり回る。

 合理性を重視する相澤だったが、この時ばかりは脊椎から伝達された生物的直感に従って後方に大きく跳躍した。

 

 この行為により、相澤は九死に一生を得る。

 

 晴天の空の下、地面直上を雷鳴が轟く。可視化された稲光が一条の柱を描いて走った。

 否。それは電気の個性ではない。少女の個性は発動型の個性ではない。

 それはただ単に、少女がコンクリートを放り投げただけだ。

 

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 もうもうとまきあがる土煙が彼らの様子を隠してしまったのは、生徒たちにとっては紛れもなく幸運なことだったろう。さもなくば、突如としてもたらされた惨殺死体は正義の卵を潰してしまったかもしれない。大柄な男の身体は、質量×速度の二乗という破滅的なエネルギーにより、弾着点の付近でペシャリと潰れていた。

 濃密に漂う血の匂いの中で、相澤は戦慄した。らしくもない動揺だった。

 

 ──あの女、()()()()やがるッ! オールマイトさん級の馬鹿力で味方ごと殺しにくるなんてッ!

 

 うっすらとゴーグルに掛かった血飛沫を相澤は拭って思う。

 自分が目に届く範囲は全て「抹消」できるように、最早あの女の見える範囲も全てキルゾーンだ、と。

 先ほどまで確かに生きていた誰かの命を拭った後にも、ゴーグルには僅かばかりの傷が残っていた。たぶん恐ろしい速度で撃ち出された水分によるものだろう。それが、名もなきヴィランが相澤に残すことのできた、唯一の生命の痕跡だった。

 辺りのヴィランたちの数人は衝撃によって吹き飛ばされ地面に転がっていて、そうでない多数も突然の凶行に困惑し、浮き足立っている。相澤は手早く彼らを無力化しながら、思考を巡らせる。

 未だ土煙は晴れていない。

 

 自身の個性では? ──否。敵は推定異形型の遠距離攻撃。対応は不可能に近い。

 13号の『ブラックホール』ならどうだ? ──否。吸収そのものは可能だろうが、13号自身が戦闘向きではない。間隙の差で殺されかねない。

 生徒たちに特効の個性は? ──否。生徒をヴィランとの実践にいきなり駆り出すという愚行が成立してなお壁は高い。『爆破』、『半冷半燃』、『創造』、『無重力』、『酸』、『硬化』、『エンジン』、『帯電』、そして未熟な『超パワー』! 可能性のあるどれを持ってしてもただの石投げ、人類史における原初の武器が、この超能の時代のハイエンドを持ってしても止められない!

 となると最早これまで──

 

「オールマイトさんが来るまで出来るだけ注意を引きつけて待つしかない、か」

 

 相澤は独りごちる。

 それは不退転の覚悟だった。

 それは生徒のために命を捨てる覚悟だった。

 視界を遮る煙幕が薄れゆく。

 煙の外から煙の中を見るのにはまだ煙の厚みが大きいが、中から外を覗くには十分薄い。そんな程度にまで薄れてきた。

 相澤は意を決して土煙の外を窺い知る。

 彼は悲観的な予想をあれこれと脳裏に浮かべていたがゆえに、

 

「──散らして、嬲り、殺す」

 

 黒モヤのヴィランが生徒達をいずこかへと飛ばすという純然たる()()()()()を犯したことに感謝した。

 その行為によって、生徒達が危険な状況下に置かれると考えついたものの、それでも相澤にとっては幾分かマシだった。

 ここは絶死の空間だ。ここの生存率は、どこまで走って逃げようとも、目に見える範囲の全てが0パーセント、死亡宣告区域だ。だか、ここでないどこかならば少なくとも小数点以上の生存率が期待できる。

 

 相澤消太は信じている。自分が見込んだ生徒達が、更に向こうへ(Plus Ultra)飛んでくれると。

 

 

 




ヴィランネーム:ネガ・フェアレディ
本名:黒野??
個性:相澤氏曰く、推定異形型。
   殺人的な投石。
備考:生徒達を皆殺しにすることはできそうでできない。
   ヴィラン達を皆殺しにすることもできそうでできない。

凄くチート臭くなってる……。世界一ゴミ個性という触れ込みなのに。
……エンディングにはきっと納得していただけるはず!
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