きっと世界で一番くそったれな『個性』   作:週刊ヴィラン編集部

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「私が来た!」

「もうついたのか!」「はやい!」「きた!ヒーローきた!」「メインヒーローきた!」「これで勝つる!」

なおタイトル。


ヒーローは遅れてやってくる

 

「嫌な予感がしてね……。校長のお話を振り切りやってきたよ」

 

 男は静かな声で訥々と語った。

 それは誰かに聞かせるつもりではなく、単なる独り言に過ぎないものだった。

 しかし、今USJにいる存在は一言一句余すことなく、彼の慟哭を聞き届ける。

 施設内からの脱出を試みていた子供たちは、その筋骨隆々な姿を見ただけで心からの安心を覚えた。丸顔の少女が、褐色の少女が、思わず涙ぐむ。

 先程までのように悲嘆をこぼすのではなく、嬉しさの発露だった。

 

「来る途中で飯田少年とすれ違って……。何が起きているかあらまし聞いた」

 

 ヒーローの陣地に跳梁跋扈していた有象無象のヴィランたちは、その静謐な気配に思わず手を止めてしまう。そして声の主を仰ぎ見て、皆一様に後悔した。

 彼らヴィランは、暴力を振るって一般人の上に立つ肉食獣たちだ。無法を持って狩り、奪い、犯してきた。

 だからこそ、自分たちの階級に彼らは敏感である。そんな彼らは今この瞬間に、「ヴィランの階級」が最下層まで突き落とされたことを肌で感じる。秩序の化け物、頂点捕食者がそこにはいた。

 男ははち切れんばかりのスーツ姿から、ネクタイを引きちぎって首元を緩める。臨戦態勢。その豪腕で平和を牽引してきた一匹のナチュラル・ボーン・ヒーローが解き放たれた。

 彼の登場を見て、ヴィランたちの総大将は思わず言葉を漏らす。生徒もなく、同胞もなく、最早彼の目には怨敵の英雄しかいない。

 

「待ったよ、ヒーロー。社会のゴミめ」

 

 そんな少年の蔑みを知ってか知らずか、男は威風堂々と歩みを進める。教師という軛から解き放たれた男を阻むものはすでに何もなく。天頂に向けて高く聳える二柱の金髪はさながら鬼神の角のようで。

 オールマイトはいつものように、善には救けを、悪には罰を与えにやってきた。

 

「──もう大丈夫。私が来た!」

 

 数多のヒーローとヴィランが入り混じる中で、彼の顔が笑っていないことに気がついたのはたったの二人。

 緑髪のヒーローの少年と、黒髪のヴィランの少女だけだった。

 

 

「あれが……! 生で見るのはじめてだぜ……! 迫力すげぇ……」

 

 あらかじめ言い含められていたとはいえ、実際に見て思い知ったのか。ヒーロー見参に雑兵の多くは浮き足立った。

 ただ、それで彼らを責めるのは酷だろう。彼らは所詮雑兵。普段はせいぜいが街で恐喝を行うくらいがせいぜいの、チンピラ同然の連中だった。「オールマイトを殺す」というスローガンのもとに集まってこそいたものの、心の底から実際にそれをできると思えるほど彼らは自信家ではなかった。

 雄英生徒なんてお高く止まったエリートをぶん殴りたくて。

 でっかいことをやろうとする人間について行っただけのお祭り気分で。

 あるいはただ何となくで。

 連合などと気取ってはいたものの、彼らの殆どは大層な志などなく、流れのままに集まっただけの正しく「モブ」だった。

 しかし、彼らの中にも気骨のある恐れ知らずが潜んでいる。モヒカン姿の男は、怯える仲間たちを叱咤激励した。

 

「バカヤロウ、尻ごみすんなよ。アレを殺って俺たちが……」

 

 もし彼がヒーローだったら、それは勇気ある一言と賞賛されるべき言葉だろう。

 だが彼は敵役の一戦闘員。

 そんな男が声を荒げても、ただの無謀。

 街中で暴れる将軍に斬りかかる狼藉者のように、それは一つの予定調和、ある種のお約束である。

 案の定、彼があげた声は仲間の悪党のみならず、ヒーローの耳にも入ってしまう。

 オールマイトはヴィランの群れの方に目を向けた。

 そして、地面をトンと蹴りつけ──

 

「────!」

 

 ──ヴィランたちは一人余さず地面に倒れ伏していた。

 倒れた男たちは、自らの口の中にジャリジャリとした砂の感触を味わって、そこで漸く自分たちが地面を舐めていることに気がついた。

 

「相澤くん、すまない」

 

 男は地面に膝をつけて、先に戦っていた仲間を優しく労わる。

 十余名のヴィランたちを一撃で無力化昏倒させたことなどわざわざ記載するまでもない余力も余力。彼は戦いに来たのではない。あくまで救けにきたのだ。

 まるでコマ送り。時間が消しとばされたかのような尋常ならざる高速機動。

 ナンバーワンの本気に、その場の誰も口を挟めない。先ほどまで混沌とした戦場は、たった一人のヒーローによって纏め上げられていた。

 

 オールマイトは相澤を両の手で支え、スッと地面から立ち上がる。彼の顔には相澤への謝罪と感謝が深く刻み込まれていた。

 続けざまに、男は辺りを一瞥する。

 水辺で三人の倒すべきヴィランと、三人の守るべき生徒を捉えた時。

 六人は男の眼が飛び込んできて、噛み付いてきたかのように錯覚した。

 視界に捕らえられた全ての存在が、男の気迫に萎縮する──思考能力の無い脳無もあるいは!

 コンマ数秒、意識の間隙が強制的に作り上げられる。それは平和の象徴にとっては、衰えたと言えどもお釣りがくるほどに十分すぎる時間だった。

 オールマイトは相澤を抱えたまま生徒たちに向かって走り出す。

 道中に立ちふさがる脳みそ剥き出しのヴィランの腹部を強打し、全身に手をつけたヴィランの顔を殴りつける。取り付けられた手が叩き落とされるが、文字通り眼中にない。

 そして最後の一人、リボンの少女を昏倒させようとして──彼は自身に向けて飛来した人間を保護することに専念した。

 計測不能で吹き飛んでくる蛙吹少女をオールマイトは空いた片手だけで器用に受け止める。おびただしい相対速度によって発生する衝撃は、彼のインナーマッスル、鍛え上げられた筋肉が一身に引き受けた。

 蛙吹が投げつけられた地点で、すれ違いざまに少女は男に向かって口ずさむ。

 

「梅雨ちゃんを救けてくれるって信じてましたよ、オールマイト」

 

 超速の世界の中で、地面に倒れ伏していた蛙少女を盾にするために掬い上げて投げつけたとは思えないほどに。危うく人間一人の命が消滅したとは思えないほどに、なんら悪びれることのない文言だった。

 オールマイトはそのヴィランに、得体の知れない感覚を覚える。それはどこか、彼の生涯を通した宿敵に近しい、腐臭漂う澱んだ気配だった。

 そんな漠然とした気持ち悪さを振り切って、男は志を遂行する。生徒たちの元へ駆けつけたオールマイトは彼の手の中、相澤とはもう片方の手にすっぽりと収まった少女を見据える。男はニッと口角を上げて声をかけた。

 

「大丈夫だ。蛙吹少女」

 

 彼は知らないことだが、数秒前まで彼女は三途の川のほとりに立たされていた。そこから急転直下で救いあげられたのだから、少女が驚いて目を白黒されるのもやむないことだろう。

 何よりも信頼できる文言を聞いて、漸く安心したのか蛙吹はこくこくと何度も首を縦に振る。彼女の体は冷たく凍えて震えていた。それは先ほどまで水に濡れていたからでも、ましてや変温動物だからでもない。

 オールマイトは相澤を地面に横たえ、蛙吹の意識を確認した後自分の足で立ち上がらせる。その後二人の少年に指示を出した。

 

「緑谷少年、峰田少年、入口へ。二人を頼んだ。特に相澤くんは意識がない、早く!」

「ああああ……。だめだ……。ごめんなさい……。お父さん……」

 

 すぐ近くでは、手だらけヴィランが錯乱している。脳みそ男はじっと立ち尽くすばかりでリボン少女はニコニコ微笑むだけ。

 今を除いて撤退のチャンスはなかった。

 しかし、

 

「え!? あれ!? 速ぇ……!」

 

 少年たちはただ事態の推移に狼狽えて呆然とするばかり。

 さもあらん、彼らは未だ見習いだ。即断即決、プロレベルを求めるのはいささか理不尽である。

 常に第一線級で最高峰の仲間と協力するオールマイト。反面、教師初心者であった彼が故のミステイクだった。

 彼らが貴重な数秒を失ったのをいいことに、その隙に手だらけヴィランは地面から落ちた手を拾い上げると、再び地面に装着する。

 彼はボソボソと独り言を話し始めた。

 

「救けるついでに殴られた……。ははは、国家公認の暴力だ。さすがに速いや、目で追えない。

 ──けれど思ったほどじゃない。やはり本当だったのかな?」

 

 少年はそこで言葉を一度切ると、手のひらの隙間から、隠された眼球をギロリとヒーローたちに向けた。

 そして皆に聞かせるかのように一言告げる。少年は歯を剥き出しにして、醜く嗤っていた。

 

「弱ってるって話…………」

 

 その真実は、この場で本人以外唯一それを知っている少年を寒からしめる。

 善意と恐怖を混ぜこぜにした感情を込めて、緑谷は先代に対して叫びをあげた。

 

「オールマイト! 駄目です! あの脳みそヴィラン! あいつ相澤先生をオールマイトみたいな力で痛めつけて……。

 それにあの眼鏡の女の子も! 僕がワン……っ、本気の力を込めたスマッシュでも、傷一つつかなかった! きっとあいつら──」

「──緑谷少年」

 

 オールマイトは少年の慟哭を遮り、顔の横でピースサインを掲げて笑う。

 

「大丈夫!」

 

 オールマイトの笑顔、そして平和の象徴(ピースサイン)

 それはヒーロー社会における絶対安全保障である。自他共に認めるヒーローフリークである緑谷は、そのことをよく知っていた。

 その上でなお、腹の底にこびりついた不安は消えなかった。

 

 

 脳筋と揶揄されることもあるオールマイトであったが、彼は決して愚かではない。彼はこの状況の不味さについて十分に理解していた。

 オールマイトは笑顔の仮面に不安を隠して、三人のヴィランに朗らかに語りかける。

 

「──おい! ヴィラン達!」

 

 彼の呼びかけに、いの一番にリボンの少女が、瞬間遅れて手だらけ少年が顔を向ける。友好的な表情と憎しみに満ちた表情がオールマイトに向けられた。オールマイトは、どこか彼ら二人に見覚えがあるような気がした。

 一方脳みそ男は何ら反応を示さない。先ほど殴られた姿勢のままで、ただ立っている。

 オールマイトは三人のうち二人──とりわけ要注意の一人を釣り上げられたことに、内心ホッとした。オールマイトには彼ら三人の注意を引く必要があったのだ。

 戦略の基本は数である。無論オールマイトほどの超人にとっては、どんなに塵を積もらせても無意味ではあるが、それでも数は力だ。

 ましてや自身と同程度の速度で動ける敵が最低一人、緑谷の証言が正しければ二人いるとなればさしもの彼でも注意せざるを得ない。たとえ彼ら全員を逮捕できても、背後に庇う四人の一人でも傷つけられたら何の意味もないのだから。

 オールマイトは彼らの意識と敵意を引きつけるために、返事がないとわかってなお陽気に話しかける。

 

「君ら初犯でこれは……っ、覚悟しろよ!」

 

 何も期待しない、無意味なトラッシュトーク。

 それ故に返答があったことにオールマイトは驚く。

 

「いや、すみません、オールマイト。他のみんなは知らないですけど、私は初犯じゃないんですよね〜」

 

 リボンの少女が笑みを浮かべて答えを返した。平和の象徴を前にして何ら気負うことのない語りようだった。

 ヒーローはヴィランとの会話を続ける。後ろ手で皆の避難を求めながら。

 

「ならなおさら許せないな! ……参考までに、君たちは何のためにここに来たんだ?」

「ふっふっふ〜。連合としての目的はあなたを殺すことなんですけど〜、私個人としてはそこも違うんですよね〜」

 

 表面上は和やかに会話しながら、ヒーローはヴィランにゆったりと歩み寄る。敵三人の一挙手一投足に注目するのも忘れずに。

 彼の背後では、未だ避難は始まっていなかった。

 オールマイトは更なる情報を求めて、この口の軽いヴィランから聞き出そうとする。

 

「HAHAHA! それは物騒だ! だが私は死んであげるわけにはいかないな!」

「えぇえぇ、そうですともそうですとも。応援してますオールマイト、これからも頑張ってくださいね!」

「おいおい、ヴィランの君が応援していいのかよ? でも応援サンキューな!」

 

 一般大衆のファンから向けられるのと同じような、あるいはそれ以上の熱量でもって声援を投げかけられたことに若干面食らいながらも、オールマイトは様子を伺うことをやめない。

 残り二人のうち、脳みそ男は一切動くことなく、手だらけ少年もわずかながら見える表情を歪めるばかりで手を出そうとはしていない。

 いける、そう思ってオールマイトは話を引き延ばした。

 

「ところで少女! 君の目的って何だい? わざわざヒーロー学校の制服を着てさ!」

「ええっとですね……」

 

 それまで軽快に話していた少女が言い淀む。男は警戒して先を促した。

 

「なに、思うだけ、口に出すだけなら罪じゃない」

「……わかりました。オールマイト、あのですね。私、あなたのサインが欲しいんです!」

 

 ずるり、足を踏み外してオールマイトの体勢が崩れる。コメディリリーフの面目躍如だった。

 予想外の一手であったが男は一瞬で立ち直り、ヴィラン達を一瞥する。

 彼に見えたのは、目をキラキラと輝かせるリボンと、はぁと呆れる手だらけと、微動だにしない脳みそ達。どうやら何らかの戦術ではないようだ。

 オールマイトを気を取り直して問いかける。

 

「……ぇ、サイン? それってあの紙に書く?」

「ええ、そうですそうです! 私あなたの大ファンなんです!」

 

 向けられる純真な瞳。

 それはどこか、彼の後継者に似通った眼差しで。オールマイトは思わず彼女に声を投げかける。

 

「サインくらい幾らでも構わないよ! というか何故君は直接貰いに来なかったんだ?」

 

 オールマイトのサインを貰いに、雄英高校を襲撃する。誰が聞いても意味不明な、まるで道理の通らない思考回路である。

 少女はその問いかけに対し、僅かに笑顔を影らせて答える。

 

「……ええっと、ですね。まず私逮捕されたくないですし、それに保護者のジジイ──『教授』が五月蝿いんですよね〜」

 

 ヒーローに憧れるような言動。

 毒気のない話し方と仕草。

 なによりも明らかに背後を示唆する表現。

 少女は黒幕である『教授』と呼ばれる老人に犯罪を強要されている可能性もある。

 オールマイトはそのように()()した。ヒーローはジリジリと亀の如く歩み寄りながら、少女に対してカマを掛ける。

 

「フム! ……ところで少女、サインを書くのは構わないが、君の名前を知らないといくら私でも書けないぞ?」

 

 少女の身元さえ判明すれば、芋づる式に黒幕まで引っ張り上げられる。そう思っての問いかけだった。

 果たしてうまくいったのか、リボンの少女はワタワタと慌てて返事をする。

 

「……あっ! そうでしたそうでした! 自己紹介まだでしたね!」

 

 少女は畏まってぺこりとお辞儀すると、自らの名を名乗った。

 

「──改めまして、私、黒野真央って言います! ()()()()()()()、オールマイト!」

 

 オールマイトの足が止まった。

 五年前の古傷、脇腹がチクリと痛んだ。

 

 

 




ヴィランネーム:ネガ・フェアレディ
本名:黒野真央
個性:オールマイトの「世界」に入門できる超スピード。
備考:自称親友を盾にして投げつける系ウーマン。
   オールマイトのサインめっちゃ欲しい系ウーマン。
   五年前の関係者系ウーマン。


これいつまでUSJ編やってんの? 平均文字数に拘りすぎじゃない?
二話連続名前名乗りとかアニメ版DB並みの引き伸ばしかな?
誤字脱字報告本当にありがとうございます! 査読無しだと酷い誤字率。
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