敵には、まだ煉のことが知られていないということにしています。
煉は、ボーッと船の甲板から海を眺めていた。
潮風が気持ちいいなぁ…っと、ぼんやり考えていた。
「おーい、煉。海眺めるのもいいが、泳がねぇ?」
ポルナレフに声をかけられたが、煉は、そちらを見ただけで、何も言わずまた海を眺め始めた。
「おーい、聞いてる? …なんか俺嫌われてるか?」
「煉は、喋れるようなったのは最近じゃからのう。それにああ見えて海を眺めるのが好きみたいじゃから。海や川行っても、景色を眺めてばかりじゃなからの。」
「なんだ? 泳げねぇの、実は?」
「…そういえば、泳いどるところ、見たことがないのう。」
言われて見れば、煉が泳いでいる姿を見たことがないとジョセフは、気づいた。
「煉。お前…、まさかと思うが、カナヅチか?」
「……悪い?」
「そうじゃったの!? 知らんかったぞ、わしゃあ。」
「別に…言うことでもないと思ったから…。」
煉はそう言い、プイッとそっぽを向いた。
ようは言いたくなかったし、聞かれたくもなかったらしい。
「じゃあ、俺が教えてやるよ。」
「煉は、泳ぐのが嫌いなんだぜ。」
「イデェ!」
ポルナレフの後ろから、承太郎がどついた。
「嫌なことは他人するなって、親に教わらなかったかよ?」
「不良のお前の台詞じゃねぇ! なんだかんだで、承太郎おまえブラコンだよな? 可愛い弟なのは分かるけどよぉ。」
「やかましい。」
フンッと承太郎は、そっぽを向いてタバコを吸い始めた。
やっぱり、ブラコンだ…っとポルナレフや、聞いてたアヴドゥルも花京院も思った。
その時。
「はなしやがれ~~!!」
子供の声が聞こえた。
「おいおい、何の騒ぎじゃ?」
「密航ですよ。船倉に隠れてやがりまして。」
「密航?」
子供を連れて来た船員の横には、木舌がいた。
船に乗ってから6人の鬼達が姿を見せないと思ったら、船内にいたらしい。
船員が警察に突き出すと言うと、騒いでいた子供は、慌てたように勘弁して欲しい、お父さんに会いに行くためだったんだと泣き言を言い出す。
しかし、ダーメっと言われ、船員の腕に噛みつき、その手から逃げ出して、海に飛び込んだ。
「おお~、やるな~?」
「ま、マズいっすよ! この海域はサメの巣窟で!」
「なにーーー!?」
「あ、煉!」
すると煉が浮き輪を手に海へ飛び込み、子供に迫ったサメの鼻先を殴って撃退した。
「煉!」
「おーい、誰かハシゴを出してくれ!」
「泳げねぇのに、助けるために飛び込むなんて…、勇敢っつーか、無謀っつーか…。」
「あれ? あの子供…、女の子か…。」
煉が飛び込んだ際にあがった海水で、子供が被っていた帽子が取れ、長い髪の毛が出ていた。
「これ…。」
煉が浮き輪を子供…少女に渡すようにした。
「あ、わりぃな…。」
「おい! 煉! 早く上がれ!」
その時、先ほど撃退したサメが何かに真っ二つにされ、ソレが煉の下へ迫ってきていた。
「この距離なら…、ハイエロファントグリーン!」
花京院がハイエロファントグリーンで、二人を引っ張り上げた。
引っ張り上げられた、煉の左足が思いっきり切れていて、千切れかけているような状態だった。
「煉! サメにやられたのか!?」
「いや、これはサメのものじゃない。おそらく先ほどの…。」
「お、おい、だいじょうぶかよ? …? なんだよ?」
煉以外の面々が少女を見たので、少女はビクッとなった。
「まさか、この子が?」
「いや、そうと決まったわけじゃないが…、我々以外に敵が紛れ込んだとしたら…。」
「な、何言ってんだよ!? それより、ソイツ、そいつの怪我の方が大事だろ!」
「ううむ…。演技とは思えんが…。」
「……くっついた。」
「はっ? もう!?」
「えっ、えっ?」
「さすがに治りが早いな。」
さっきまで千切れかけていた足が、いつの間にかくっついていて、出血も止まっていて少女はびっくりした。
少女は、煉のことを知らないようだ。だが、それが演技である可能性もある。
それをモンモンと悩んでいると、船長のテニールがやってきた。
「この子かね、密航者とは。」
「ひゃっ!」
テニールが少女を捕まえた。
「私は密航者には厳しい質でね、下の船室で軟禁させてもらうよ。」
「ひいい…。」
『あまり乱暴はしないでやってくださいよ。女の子ですよ?』
「そういうわけにはいかんよ。」
「あっ!」
煉と木舌以外の一行が一斉に声を揃えた。
「て、テニール船長…あんた…。」
「? どうしたのです?」
『まさか、こんな簡単なことに引っかかるなんてね。』
「なにを……、ハッ!?」
苦笑している木舌が、煉に重なるように消えるのを見て、テニールは、気づいた。
木舌が、外見こそ人間のソレだが、スタンドであったことに。
「し、しまったーーー!」
「フン…、間抜けが見つかったぜ。よくやったな、煉。」
承太郎がタバコを携帯灰皿で消し、立ち上がった煉の頭を撫でた。
大汗をかき、焦った偽の船長は、スタンドを出した。
半漁人のスタンドが、少女を捕えた。
「きゃああああああ!」
「水とトラブル! 嘘と裏切り! 未知の世界への恐怖を暗示する、月のカード、ダーク・ブルー・ムーン(暗青の月)! てめーらと、6対1じゃ、さすがの俺も骨が折れるから、正体を隠し、ひとりひとり始末してやろーと思ったが……、まさか完全な人間型のスタンド使いがいたとはなぁ!」
「……谷裂。」
煉の身から、谷裂が飛び出し、偽の船長に襲いかかろうとする。
「待て! 谷裂! 人質が!」
『知っている!』
「ほう? 複数のスタンドの姿を持つのか、だが海に飛び込んでこの俺に…。」
『その必要はない!』
谷裂は、手にしている金棒を振るフリをして、拳ひとつで偽の船長にアッパーカットをして吹っ飛ばした。
「オラオラオラオラオラ!」
さらにダメ押しで、承太郎がスタープラチナを出し、ダーク・ブルー・ムーンを殴りまくって少女を奪い返した。
スタンドが吹っ飛ばされ、ダメージのフィードバックで、偽の船長も吹っ飛んでいき、海に落ちた。
「隙だらけ…。」
「たいしたことねぇな。」
「アイツ沈んじまたったな…。」
「結局スタンドの能力も分からないままか…。…谷裂?」
『……くっ…!』
「うわわわ! 見ろ! 谷裂の右手にフジツボが!」
「ち、畜生…、俺もだ…。あの偽の船長…、まだ戦う気だ…!」
「煉! 谷裂を! 承太郎もスタンドを引っ込めろ!」
「……無理。」
「それができねぇから…嫌な汗をかいてんだ…。」
『水中戦だと…、佐疫! お前も来い!』
『分かった。』
「ぐっ、くうう!」
「承太郎!」
谷裂と承太郎が海に引っ張り込まれ、佐疫がそれを追って海に飛び込んだ。
「なんで、佐疫なんだよ!? あの一番ヒョロッちい感じの!」
「……外見で、判断しちゃダメ。」
「煉?」
***
『よ~こそ、よ~こそ、海の中へ。』
スタンドを使ったテレパシーで、水中で待ち構えていた偽の船長が笑って言う。
『てめぇらは、こう考えている? 自分の限界は2分てとこだが、自分より長く潜っていられるだろうか? クククク…! 答えてやるよ、俺の肺活量は、常人の3倍! そして訓練されている。自己ベストは6分と12秒よ! この数字を聞いただけで、意識が遠くなるだろう?』
『俺は、問題ないが…。』
谷裂が承太郎を見る。
フジツボの攻撃でスタンドパワーを奪われ、身動きがほとんど取れないのだ。
『そっちの兄ちゃんは、金棒なんて水中じゃ不利すぎる武器なんざ持ってる! 俺のダーク・ブルー・ムーンの水かきは、スクリューよりシャープに動き、切り裂く! そして! てめぇらに付けたフジツボは、てめぇらのスタンドパワーを吸ってどんどん増える!』
『さてと…。』
『フンッ、馬鹿な奴がもう一人来たぜ! ヒョロッちいうえに、そんなガバガバな格好じゃ…。』
『フフフフ…。』
『なにがおかしい?』
『外見で人を判断しちゃいけないよ? それは、戦いにおいてもっとも注意すべき事だと思うけど?』
コートの下から、水中銃を出した佐疫。
偽の船長は、ギョッとした。
佐疫は、笑顔で水中銃を発射した。
偽の船長は、ダーク・ブルー・ムーンの水かきで防ぐ。
『なるほど…、そういう奴もいるのか…。複数のスタンド持ちとはな…。だが…、甘く見てもらっちゃ困るぜ!』
するとダーク・ブルー・ムーンが、水かきを使い、水中をかき回して渦を作り出した。
承太郎、谷裂、佐疫が渦に飲まれ、かき回される。
けれど、承太郎は、佐疫を見る。
佐疫は、ニッコリと笑うことで返事をした。
『フフ…、そうやって何かに集中して動かなくなるのを待ってたんだ。』
『なにぃ!?』
『気がついてないの? 水中銃は、ただの囮だよ。』
『自分の横を見な。』
『えっ…? ハッ!! これは…!!』
横を見て偽の船長は、絶望の顔をした。
そこには、爆雷が三つ。偽の船長を囲むように沈んできていた。
『飛び込んだときに一緒に落としたんだ。さて…この起爆スイッチを押せば…。』
『まっ…。』
『待たないよ。本物の船長を殺したことを、地獄で裁いてもらえばいい。』
そして佐疫は、爆雷の起爆スイッチを押した。
そして爆雷が爆発した。
「……佐疫って…、実は、一番おっかないのかい?」
『アイツは、優等生タイプなだけだ。』
「優等生が…、武器庫ってありかよ…。」
船の上で、佐疫が銃火器を使う獄卒だと説明を受けて、人(※鬼)は見かけによらない…っと、ジョースター一行はゾッとしたのだった。
漫画版だと、表紙裏で、対戦車用機関銃を出してるので、爆雷ぐらい持ってそう…っという勝手な想像です。
あのコートの下は、ドラ●モン顔負けの四次元ぶりという捏造設定。
次回は、力の暗示、ストレングス。