獄都事変の獄卒達は、割と自分が傷つくことに躊躇が無いのかな?
目が抉られてても冷静だし。
結局、海路での旅は失敗に終わった。
シンガポールを目指していた船は、あのダーク・ブルー・ムーンを操るスタンド使いが爆弾を仕掛けていたため、船が爆破し、救助用のボートに全員が避難する羽目になったのだ。
「なにがなんだが分かんないけど…、あんた達…何者?」
「君と同じに、旅を急ぐ者じゃよ。もっとも君はお父さんに会いに…、わしは娘のためじゃがの。」
「ふーん…。ねえ、煉って言ったっけ? あんた。」
「ん…?」
「ホントに足…、だいじょうぶなの?」
「見る?」
そう言って煉は、ダーク・ブルー・ムーンにやられた方の足を見せた。
うっすらと傷跡らしき赤い部分は残っているが、完治している。
「ええー、どうなってんの? あんな…千切れそうな状態だったのに?」
「治りが…速い…。」
「おまえ、もしかして不死身とか? まさかね~?」
少女が冗談めかして言う。
だが、場がシーンとなり、あれっ?と少女は首を傾げた。
『子供って、やっぱり勘がいいな。亡者の捕獲や討伐の時も、よく見つかることがあるんだよね。』
木舌がそう言った。
『おい…。あれ…。』
田噛が指差した。
霧がかかった先に、その霧をかき分けるように大型タンカーが現れた。
「おお! タンカーか! いつの間に!」
「タラップが降りてるぞ! 救助信号を受けてくれたのか!」
「……怪しい。」
「お前もそう思うか? 煉。」
「どうしたんじゃ?」
「タラップが降りてきているのに、誰も顔を出してねぇ。」
「!」
「ここまで救助に来たんだ、誰も乗ってないわけねぇだろ!」
「食料も水も少ない。怪しいのは確かだが、行くしかないのでは?」
「……分かった。」
「ほら、煉。」
タラップに上がる際、承太郎が煉に手を差し伸べ、その手を煉が掴んでボートから引っ張り上げられた。
「なーなー、仲良いな? どういう関係?」
「…兄弟。」
「弟だ。」
「えー、全然似てない。」
「似てない兄弟もいるものじゃよ。」
ジョセフがそう言った。
煉の事情を話しても仕方が無いので、そういうことにした。(※承太郎は、煉をちゃんと弟だと思ってます)
***
タンカーに全員があがったはいいが、どこにも人はいなかった。
だが、甲板にある、個室の一室に、不気味なオラウータンが檻の中にいただけだった。
花京院がハイエロファントグリーンを隙間に潜らせ、船内を調べだす。
「なあ、煉。来てくれよ。」
「ん?」
「シャワー浴びたいんだ。見張りしてくれね?」
「……分かった。」
「ホント? なんなら背中洗ってやろうか?」
「……。」
「ジョーダンだって。マジにした?」
『けっ…、しょんべ臭いガキに手ぇ出すかよ。』
『聞こえてないよ。』
煉は、少女に手を引かれ、船内に入った。
そして、他の船員達が色々と会議などをしている傍ら、少女がシャワールームに入り、その出入り口のところに煉は座り込んだ。
『なー、煉、れーん?』
「…ん。」
『なあ、なあ、絶対、あの女の子、煉のこと好きなんじゃね?』
『それは早合点じゃないのかい? 平腹。』
『え~? マジだと思うけどさ?』
『たぶん、見た目の年齢が近いから、それで気安くしてるだけじゃないかな?』
「……それどころじゃない。」
『あ?』
『……そうみたいだね。』
ふと気がつけば、船員達が消えていた。
濃厚な血の匂いがし、そして、強烈な獣臭が近づいてくる。
煉が座り込んだまま、そちらを見ると、檻の中にいたはずのオラウータンがやってきた。
「…どうした、煉?」
「…出てくるな。」
「えっ?」
シャワールームの向こうにいる少女にそう言い、開かないよう扉に手を置きながら煉は立ち上がった。
オラウータンが、飛びかかってきた。
『どうやら、俺達はコイツの術中にまんまと入り込んだみたいだね。』
「!」
オラウータンの背後から、木舌のハイキックが頭部に決まり、オラウータンが横へ転がった。
『これだけのパワー…、つまり、力(ストレングス)の暗示と言ったところか…。俺が相手だよ。お猿さん。』
「ギャオオオオオオオオオ!!」
力の暗示のスタンド使いであるオラウータンが、近くにあるテーブルを掴んで木舌に投げてきた。
それを木舌は、大斧で真っ二つに叩き切る。
直後、木舌の背後から消火用のホースが伸びてきたが、それを斬島が刀で切断した。
『油断するな。』
『じゃあ、後ろは任せた。』
木舌が斬島にそう言い、斧を構え直した。
オラウータンは、二人の出現に驚いた顔をしつつ、後ろの壁に逃れていく。
『逃がさないよ。』
木舌が大斧を手に、オラウータンを追う。
そしてオラウータンが、壁に吸い込まれるように入り込み消えた。
『おや? 敵前逃亡…ってわけじゃ…なさそうだね。』
木舌が煉の方を見ると、煉の足下からオラウータンが出てきて、煉の足を掴み宙づりにした。
「…気にするな。」
『……気が引けるんだけど…。それに承太郎にも怒られるだろうし。』
煉は、自分ごと切れと目で訴えているので、木舌が躊躇すると、オラウータンは、雄叫びを上げ、煉を振り回し、床にたたきつけた。
掴まれている足があらぬ方向に曲がり、骨が露出。そしてオラウータン自身の怪力で、煉の身体のあちこちが傷ついたり、折れるなどした。
「キャアアアア! 煉!」
煉がいなくなったことで扉が開き、その隙間から煉がやられたのを見て少女が悲鳴を上げた。
まだ息がある煉を、もう一度持ち上げ、オラウータンは、再び叩き付けようと腕を上げようとした。
その直後、オラウータンの頭に、檻の錠前が投げつけられた。
「…承太郎…。」
「助けがいるなら声ぐらい上げろ。」
「ごめん…。」
眉間にしわを寄せている承太郎に、煉は血だらけで謝罪した。
オラウータンは、ギッと承太郎を睨み、だが煉を放さない。
「人質のつもりか?」
承太郎が、人を殺しそうなほどの睨みを利かせた。
「お前……、バカ。」
煉は、下からオラウータンを見上げ、そう言った。
「俺のスタンド…消えてるのに気づいてない。」
「!」
次の瞬間、煉の身から飛び出してきた斬島の刀が、煉の足を掴んでいるオラウータンの腕を切断した。
オラウータンが、悲痛な悲鳴を上げ、血を撒き散らしながら転がる。
『もう壁の中には、もう逃がさないよ。』
壁際まで転がっていくオラウータンを、木舌が踏みつけて止めた。
ヒイイイイイ!っと、オラウータンが悲鳴を上げ、腹を見せた。
「降伏した動物は、腹を見せるか? ……だが、お前は、動物としての範疇を超えちまった。」
承太郎は、チラリッと船員達の死体を見た。
「ダメだね。」
直後、スタープラチナが飛び出し、凄まじい拳のラッシュをオラウータンに決めた。
「煉…、煉! だいじょうぶ!?」
少女が裸の身体をタオルで巻いた状態で飛び出してきて、倒れている煉を助け起こした。
「…だいじょうぶ。俺…死なないから。」
「やっぱり不死身なのか?」
「おい、船が崩れ始めた。着替えを持ってさっさと逃げるぞ。」
船のスタンドを使っていたオラウータンが死んだことで、船が形状を失い始めた。
生き残った一行は、急いでボートに飛び乗り、脱出した。
巨大なタンカーは、やがて、ボロくて小さな船になり、沈んでいった。
「信じられない…! あんな小さくて、ボロい船がさっきまでいたタンカーだったなんて…。」
「あの猿は、自身のスタンドで海を渡ってきたのか! 我々は完全に圧倒されていた…。煉と承太郎が勝たなければ、全滅していた。」
「この先も、あれほどのスタンド使いが刺客としてくるのか…。」
「…ヤレヤレ、また漂流か。」
「……。」
「あっ、もう治ったのかい?」
「うん…。」
「ハー、マジで不死身なんだな? 鬼ってすげー。」
「おに? 煉って…、鬼? でも角ないよ?」
「角の無い鬼もいる…。」
「じゃあ…そっちの…。」
「血の…繋がりはない。」
「そ…そう…。」
兄である承太郎も鬼かと疑いかけた少女に、煉がそう言い少女は納得した。
少女は、ジッと煉を見る。
「なに…?」
「えっと…、血…ついてるよ? 拭くから動かないで。」
「ん…。」
『やっぱ好きなんじゃね?』
『吊り橋効果かな?』
煉の血で汚れてしまった煉の頬や手などを、少女が塗らしたハンカチで拭いている様子を見て、平腹と木舌がそう言っていた。
すぐ再生するため、傷つくことに恐れが無く、そのため煉も自分がどれだけ傷ついても怒らないし、気にしてない。むしろ自分ごと攻撃しろと言わんばかり。
周りがどう思おうと気にしてない……。
家出少女、煉に気がある様子。