花京院じゃなく、煉に化けてます。
その結果……。
『煉。煉。朝だ、起きろ!』
「…ん?」
煉は、谷裂に起こされ目を覚ました。
『まったく、だらしない! 時差ボケもあるだろうが、情けないぞ貴様!』
『まあまあ、谷裂。そんなに怒らないように。』
ブツブツ説教する谷裂を、木舌がなだめた。
煉は、キョロキョロと周りを見回した。
同室の承太郎がいない。
『承太郎なら、先に起きて行っちゃったよ。さ、煉も支度して追いかけよう。』
今日は、インドに向かうための列車のチケットを買う予定になっている。
それで、承太郎、花京院、煉が行くことになっていたのだが……。
『承太郎って、煉に甘いから無理に起こしたくなかったなんだろうね。』
『ブラコンだー、ブラコン!』
『っるせぇな。』
『ところで、田噛。お前は、ひとりで外に出ていたが、何か見つけたのか?』
『……煉を見ていた奴がいた。そいつを追ってたが、途中で射程距離外になって、諦めた。』
『特徴は?』
『さあな。男だったってことだけぐらいか?』
『お前を見たのか?』
『……追ってる途中で、人混みに紛れ込もうとしやがったからな…。恐らくはな。』
『新たな刺客か。』
『つい昨日、襲ってきて、もうかよ!』
『どんだけ警戒してんだか…。』
「…準備…できた。」
斬島達が話し合っている間に準備を整えた煉。
「…急ぐ……。」
『よっしゃ、行こうぜ!』
『…無事なら、いいが。』
『確か、ケーブルカーで、行くって言ってなかったっけ?』
『待ちくたびれて先に行ってる可能性もある。……まあその可能性は、低いだろうが。』
『承太郎が煉を置いて先に先にってありえねーよな?』
煉は、斬島達を身体へ戻し、ケーブルカー乗り場へ急いだ。
そこで見たのは……。
「……俺?」
「チッ! 本物のご登場か。」
煉に顔と格好は似ているが、似ても似つかない口調と表情をした何者かが承太郎と花京院と対峙していた。
承太郎は、煉と偽の煉を見比べ、偽の方を見た。
「それじゃ、本物も来たことだし、ハンサム顔をお見せするかな~。」
そう言ってブワッと肉が割れ、別人の顔がその下から現れた。
「オラァ!」
「ゲブッ!」
その瞬間のスピードは、音速超えたんじゃね?ってレベルのスタープラチナのパンチであったと…、花京院、そして煉達は語り継ぐ。
「じょ、承太郎…。もしかして最初から…?」
「ああ…。」
「もしかして、煉の顔をしてたから殴れなかったとか?」
「……。」
花京院からの言葉に、承太郎はだんまりだ。答えないということは、肯定だ。
「そ…それなら…、そうと言えよ~。」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
そこからは、もう相手が防御する暇も無く、超スピードのラッシュ。
呆気にとられる花京院と、煉達。
「……よっぽど…、ご立腹だったんだね。大事な煉に化けられたことが…。」
『ブラコンだー、ブラコン!』
そう茶化す平腹に、誰も承太郎をフォローできなかった……。
そして、ピクピクと痙攣しているDIOの刺客に、煉が血を垂らす。
瞬く間に傷が癒え、ガバッと起き上がったが、承太郎達に囲まれビクッとしていた。
「教えて貰おうか。あと何人のスタンド使いがいる?」
「そ、それは、言えねぇ…。プライドがあるからな…。」
「ほう? なら…。」
「お、思い出したーーー! 『女帝』、『死神』、『皇帝』、『吊られた男』がいるぜ!」
『なるほど。で、その能力は?』
「し、知らねぇ…、それは本当に知らねぇ! スタンドを見せるってことは弱点を晒すって事だ! だ、だが…、DIOにスタンドを教えた魔女がいる。そいつの息子が、『吊られた男』だ。鏡だ。鏡を使うらしい……。ポルナレフの仇なんだろ? 負けるぜ?」
『『吊られた男』……ハングドマンか。』
『ポルナレフに教えてやるか。』
「………今だ!」
座り込んでいたDIOの刺客の足下から、ニュルルルっと、スタンドが現れ、煉の足に絡みつき、そして首に巻き付いた。
「煉!」
「ハハハハ! 大事な弟くんを助けたかったらよぉ! 承太郎くんよー、そっちの花京院をぶっ殺しな!」
「なっ!?」
「そいで、最後に自分で自殺したら放してやるよ!」
「……。」
すると煉は、斬島からカナキリを奪い取り、刃を首に当てた。
「お、おい!? てめ、なにを…。まさか!?」
「……首ぐらいじゃ…死なない。」
「んな!? そんなわけ…。」
「エメラルド・スプラッシュ!」
「ゲブゥ!?」
煉がマジなことに焦ったDIOの刺客の隙を突いて、花京院がハイエロファントグリーンからエメラルド・スプラッシュを発射し吹っ飛ばした。
「あひー、あひー、死ぬぅ…、死にたくなぃい…お、俺はただ、金で雇われたんだよ~~。」
「……未遂とは言え…、煉を自殺させるほど追い詰めたんだ…。てめぇも俺らに挑むんなら……。相応の覚悟があるのか?」
「ひっ!」
「やれやれだぜ…。」
そこからは、もう……言葉に出来ない状況に。
「……煉には、絶対に手を出すべからず…か。」
花京院が、そう呟いたのだった。
こうして、節制のカードの暗示を持つ、イエロー・テンパランスの使い手は、名乗る前に再起不能にされたのだった……。
承太郎、ブラコン決定。
大事な煉に化けられたあげく、人質にしたため、承太郎の地雷踏みまくった結果、名乗る暇もなく、敗北。