ほんとは、一話で終わらせたかったけど、分けた。
カオス…。
一言で言うならそんな感じだ。
イエロー・テンパランス(※名乗ってすらいない)を退けたジョースター一行は、列車でインドに入国した。
駅から降りてそうそう彼らが見たのは、上記の言葉通りのものすごい場所だった。
そこら辺を闊歩する牛、物売り、乞食、混雑した車と舞い上がる埃と排気ガス……etc。
言ってたらキリが無いとはこのことだろう。
インド入国で食らったこのインパクトのことは、たぶん忘れない…だろう。
『いや~、イメージ通りでいっそ清々しいね。ここまでだと。』
『俺も~。』
『…だりぃ。』
『入国しただけで疲れたな。』
現在は、スタンド体であるため、もむくちゃにされることはなかったが、煉を通して息苦しさや、自分達の目で見たインパクトの影響を感じたらしい獄卒達はそれぞれぐったりしていた。
「……美味しい。」
「美味いか? 煉。」
『煉はのんびり屋だよね。』
神経が図太いのか、単に鈍いだけなのかは不明だが、インド式ミルクティー・チャイを飲んで和んでいる煉であった。なお、隣に座っている承太郎はというと、そんな煉を見て密かに和んでいた。もう、ブラコン確定なので誰もツッコまない。
「んぎゃあああああああああああ!」
『ポル~? どしたの?』
トイレの方からポルナレフの悲鳴が聞こえたので平腹が行くと、チャックとベルトを外したズボンを掴んでるポルナレフがちょっと涙目でトイレを指差す。
『ほっ? ブタだ~。ブタ洗浄トイレ?』
「ほ、ホテルまで我慢するわ、俺。」
『煉が行かなくてよかったぜ。じゃないと、店の店長承太郎にぶっ殺された?』
「…あり得るな……。」
ポルナレフがあり得そうな事態を想像してしまい青ざめながら手洗い場の鏡を見た。
「ん?」
『どったの?』
「今…、気のせいか?」
『ん~~~?』
平腹が鏡をのぞき込む。
すると、そこに窓から入り込む…包帯男のような姿が…。
「み、見えたか!?」
慌てて振り返るが、鏡に映る窓には誰もいない。しかし、鏡の方を見ると、手首から伸ばした刃をポルナレフに…。
『うりゃあ!』
平腹が鏡を拳でたたき割った。
「平腹! 今の奴は…、まさか…!?」
『ウガー! 手応え無かったーー!』
「どこだ!? 見てねぇのかよ!?」
『んぁ? なんだっけ?』
「お前が見たことがあるって言ったんだろうが! 吊るされた男…、俺の妹を殺したクソッタレの顔をよ!」
『あっ! そっか、今の奴が鏡使うって言ってた『吊るされた男(ハングドマン)』かぁ! じゃあ、煉連れて行こうぜー!』
「なんで煉なんだよ!?」
『俺、煉のスタンドー。』
「あっ、…そうか。」
つまり、J・ガイルを目撃したことがある平腹を連れて行くには、煉の同行が不可欠なのだ。
なのだが…、まずは……。
「ダメだ。」
速攻で却下するのは、承太郎。
「承太郎…、お前の気持ちはよ~~く分かる。煉が大事なのがよ~~く分かる。」
ジョセフが言う。
「ポルナレフが、この旅に同行してくれたのは、そもそも妹さんの仇討ちのためじゃった。それは分かったうえじゃったはずじゃ。そこに、偶然にも平腹が仇の顔を見たという情報があったんじゃからのぅ。」
「承太郎……、平気。」
「煉。」
「やるのは…、ポルナレフ。俺じゃない。」
「誓って良いぜ、承太郎。煉には絶対に手は出させねぇ。これは、俺の戦いなんだからな。」
「敵は、こちらを分断させて各個撃破を狙っている可能性がある。賛成はできん。」
アヴドゥルが待ったをかけた。
「説教なんかいらねぇぜ、むしろ向こうから現れてくれたんだ、こりゃミイラ取りがミイラになる、だぜ。」
「おまえな! DIOは、最初からJ・ガイルを仲間に入れていたうえで、お前を騙して肉の芽を植えた可能性があるのだぞ! すべての元凶はDIOだ!」
「例えそうだったとしてもだ!」
「ポルナレフ!」
「落ち着いてください、アヴドゥルさん。」
「……もう勝手にしろ。だが、煉になにかあった場合は……。」
「ああ。煮るなり焼くなりしな。」
「言ったな。しっかりと覚えたぞ。」
ポルナレフとアヴドゥルが睨み合う。
承太郎は、ジッと煉を見ている。恐らくついていこうとでも言いたげだ。
「承太郎。だいじょうぶ。俺……は、戦わない。」
「……ヤバかったらすぐに逃げろ。いいな?」
「うん…。」
煉は頷いた。
***
市場の間の路上を歩いていると……。
『んあ?』
「どうした? いたのか?」
『あれ? あれれ?』
ポルナレフの隣を歩いていた平腹が、目を擦った。
『今…、両手とも右手がいたような気がしたんだけどよ~。』
「なに!? どこだ!?」
『いなくなっちまった。人混みに逃げたっぽい。』
「どっち行った!?」
『落ち着けよ~。さっき攻撃してきたってことは、向こうは絶対こっちのこと殺す満々ってことだって。だから、また絶対来るな!』
「笑い事じゃねぇんだよ! 真面目に探せ!」
『だいじょうぶだって、向こうから来るってば。ほら。』
「あ?」
「ふふふ…。そっちの古くさい軍服の兄ちゃんの方が案外冷静じゃねぇか。」
そこへやってきたのは、カウボーイのような格好をした男だった。
「なんだ、てめぇ?」
『アイツの横に、両手右手の奴いた~。』
「なんだと!?」
「ほー、情報じゃ、J・ガイルの旦那の顔を知ってる奴がジョースター一向にいるとは聞いたが、兄ちゃんか。」
『そだよー。俺、だよ。俺! 地獄で見たもんね!』
「……地獄から直々にDIO様をとっ捕まえに来た連中がいるとは聞いてたが…、マジな話だったのか…?」
『そだよー! 俺、絶対DIOぶっ潰してバラバラのグシャグシャにしてやって! そんで地獄に引きずって行くぜ!』
「そいつは…、無理な話だぜ。なぜなら…。」
男が右手をかざし、その手に拳銃型のスタンドを出した。
「この、皇帝の暗示! エンペラーの使い手、ホル・ホースが、お前らをぶっ殺すからな!」
「おい、てめー! J・ガイルはどこだ!?」
『だいじょーぶだって、ポルポル!』
「止めるな、コラ!」
『だって、ここでビビって逃げたりなんてしてみろって、ぜ~~~ったい、お仕置きで殺されるって! だから絶対近くにいるに決まってるって!』
「あ、兄ちゃん…。」
ホル・ホースが口元をひくつかせた。どうやら図星だったらしい。
「なるほどな…、なら遠慮無く……。」
「あっ! J・ガイルの旦那!」
「なにぃ!?」
ホル・ホースがポルナレフの後ろを指差したため、反射的に反応してしまったポルナレフ。
「アホぉ! 油断大敵ってな!」
直後に、ホル・ホースが拳銃型のスタンド・エンペラーを撃った。
「しまっ…。」
「馬鹿か、ポルナレフ!」
直後、ポルナレフを突き飛ばして銃撃から庇った人影がいた。
アヴドゥルだった。
「大口叩いておいて、なんだその様は! 心配で追って来てみれば…、まったく!」
「アヴドゥルてめぇ! こんな時に説教垂れるな! 誰が助けてくれって言った!?」
「いいか! そんな様だから、お前は…。」
ガーガー怒っていたアヴドゥルだったが、突然ビクンッとのけぞった。
「えっ?」
アヴドゥルの異変に気づいた直後、方向転換してきたホル・ホースの弾丸がアヴドゥルの額に命中した。
「あ…アヴドゥル!?」
「へへーんだ。スタンドが銃なら、弾丸もスタンドなんだぜ?」
『ククク…、コイツは良い。運が良いなぁ。背中を取れたぜ。お前らの中じゃ、一番の天敵だったからよぉ、アヴドゥルはよぉ。』
近くに置かれていた鏡に、包帯男のような姿が映った。その手首から伸びている刃に血がついていた。
「煉! 早くアヴドゥルを!」
「ん…。」
倒れてしまったアヴドゥルに、煉が駆け寄り、身体に触れた。
「おい…? なにやってんだ? 早く…血で……。」
「……ダメ…。」
「はっ?」
「……もう…、無理…。」
そう言って、煉は首を横に振った。
「ほっほ~。なるほど、治癒力のある血でも、死んじまったもんはどうにもならないか? こいつは、よかった!」
「……ばか…やろう…。これだから、俺の回りで動かれちゃイヤだったんだ…。偉そうに説教垂れて…、そんな様になってるのはどっちだよ…。」
ポルナレフは、ギリギリと拳を握りしめ血を垂らしながら、ホル・ホースの方の振り返る。その目からは大粒の涙が流れていた。
「カモ~~~ン、ポルナレフく~~ん!」
『ふーーーん? 弾丸もスタンドか…。』
すると佐疫が出てきた。
「おう? 今度は女みてぇなのが出てきたな? ま、俺らのコンビネーションの前じゃ…。」
『じゃあ、俺も銃(?)で、応戦するのが筋だよね?』
そう言って佐疫がマントから出したのは。
対戦車用、大型機関銃。
「……………へっ?」
ホル・ホースが、間抜けなお顔をして声を漏らした直後、佐疫が笑顔で機関銃の引き金を引いた。
「ぎゃあああああああああああああああああ!?」
あっという間に横へ転がり銃撃を避け、そのまま逃げ出すホル・ホース。他の銃火器を手に追いかける佐疫。
『ポルナレフさん。平腹と煉と一緒にJ・ガイルを。平腹、頼むね。』
『おう!』
横を通り過ぎる間際に、佐疫がそう言い、ホル・ホースを追って行った。
「…おっかねー……。」
さすがのポルナレフも、佐疫の容赦のなさに戦慄した。
『いたいたいたいたーーーー!』
「いてぇよ! 平腹!」
背中をバシバシ叩かれ顔を歪めるポルナレフ。平腹は、ある方角を指差していた。
『J・ガイル、いたーーー!』
「間違いないのか!?」
『グチャグチャじゃないけど、アイツだーーー! 分かったもんね!』
「追いかけるぞ! 煉!」
「…うん。」
煉は立ち上がり、二人と共に走り出した。
煉は、先を行く二人を追いかけながら1回だけ後ろを振り返る。
倒れているアヴドゥルに、承太郎達が駆け寄っているのを見てから、二人を追った。
J・ガイルの顔を知っている平腹がいるため、オリジナル展開です。
ホル・ホースとJ・ガイルの言えること……。
それは、佐疫の武装の火力をなめてたこと。
なお、ある程度距離を取ったら力が出せないので、佐疫はあくまでもホル・ホースを追い払うために出てきました。なので、ホル・ホースは、佐疫が消えた後、だいぶ経ってから慌ててJ・ガイルの所へ戻りますが……?