落第騎士の英雄譚・竜帝は七星の頂を目指す   作:皐月の王

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遅れて申し訳ございません。


第9話 《深海の魔女》vs《七剣の竜帝》決着

『す、………すっばらしぃいぃいいいい!!!な、なんというハイレベルな攻防なのでしょう!わたくし、実況を仰せつかっておきながら、何一つ言葉を挟めませんでした!』

 

二人の戦いに見入っていた実況が、思い出したかのように声を張り上げる。それに呼応して、観客たちも緊張から解かれ驚きの声を上げる。

 

『な、なんだよこいつら!本当に同じ人間なのか!」

 

『すげえ、すげえよ!皇樹は!』

 

『いやいや、皇樹君が凄いのは知ってるよ!ベスト8だもん!でも!その皇樹君とやり合って互角な一年はなんなのよ!?』

 

『あの一瞬の間に防御、反撃、ブラフ、切り札……どれだけの手数を重ねた!?』

 

『だけどその全てに対応してるぞ!皇樹の奴!』

 

『これが、BランクとAランクの戦い……!』

 

『二人の戦いに会場中どよめいています!それもそのはず!力も、技も、駆け引きも……その全てが校内戦レベルではありません!どちらもが七星剣王になっていてもおかしくない実力の持ち主です!これだけやりあって被弾はゼロ!掠りもしていません!この戦いはどちらに勝利の女神が微笑むのでしょうか!!』

 

(……正直、ここまでだとは思わなかった……!)

 

竜司は認識を改める。想像と現実の誤差を修正し構える。自分の今の固有霊装は第三の姿、《神炎之蛇竜》つまり日本刀の型……。攻撃力が高い型の一つで、現状、属性相性は良くない型でもある。それらを考えながら、珠雫を見据える。

 

観客席では

 

「シズク、やるじゃないの……!」

 

「……強いのは知ってたけど、ここまでやるなんてあたしもびっくりよ」

 

この戦いを見守っていたステラと有栖院もまた珠雫の善戦に簡単の声を漏らす。相手は序列一位のAランク騎士で、七星剣武祭でベスト8になった少年。その相手と互角に渡り合っている。それは、珠雫が七星の高みに住まう怪物たちと互角であることを示しているのだ。

 

「このまま行けば……本当に勝てるかも……」

 

期待に胸膨らむ二人の隣で、黒鉄一輝と東堂刀華の二人は険しい表情でリングを見下ろしていた。

 

(確かに互角に見えます。ですが……)

 

(竜司はスロースターター。立ち上がりは何時もゆっくりだ。竜司が調子を上げてきたら……)

 

そう、スロースターターの竜司相手に互角。勝つのであれば最悪でも六:四で押し、なおかつダメージを与えなければならなかった。極めてロングレンジの攻防。竜司が得意なのは近距離戦、つまりクロスレンジだ。珠雫が勝つにはそこで勝機を見出す他ない。

 

その頃、リングでは異変が起こった。

竜司の足下。《凍土平原》により生み出されたアイスバーンが湯気を噴いて溶け始めていた。竜司が今手に持つ形態《神炎之蛇竜》が放つ熱で《凍土平原》を無力化し始めていた。そして《七天竜王》の切っ先を珠雫に向ける。

 

灼けるような真紅に染まったその切っ先から、身を焼くような、一点を射抜くようなプレッシャーを珠雫は感じ取り、表情をこわばらせた。

 

この時、珠雫は睨み合いながらも、疑問に囚われていた。その一瞬、考察を巡らそうとしたその瞬間

 

「集中しろよ、《深海の魔女》」

 

珠雫の眼前に《七天竜王》を振りかぶる竜司の姿を見た。

 

「っ!?!?」

 

思わず目を見開き、悲鳴をあげそうになった。何十メートルも離れていたはずの敵が、手を伸ばせば届く距離にいて、至近から剣を振るったのだから

 

「くぅーーーッ!!!」

 

だが、驚きはしても硬直はしなかった。珠雫は受け身も考えず、体を後ろに投げ、横薙ぎの一閃を回避する。そのまま身体を宙で回し、左手を地面につき、高圧の水を爆発させ、竜司との距離を置く。

 

ただ避けるだけに留まらない冷静な判断。しかし、理性を総動員させてなんとか敢行したものだった。一瞬の出来事、それは彼女を半ばパニックに陥らせた。

 

(意味が分からない……!目線は一瞬も外してないのに、考察も一瞬。あの距離をつめられるのを気づかないはずがない……!)

 

『おーっと黒鉄選手!今のはきわどい回避でした!皇樹選手の動きに対応出来ていたはずなのに、一体どうしたのでしょう!何やらぼぅっとしていたように見えましたが!』

 

(私が呆けていた?)

 

実況の声に眉を顰める。珠雫が試合中に呆けることなんてありえない。だがそれ以外の人物にはそう見えたのだ。

 

(攻略してみろ、じゃねぇと……七星剣武祭には行けねぇぞ!)

 

竜司は再び珠雫に切りかかる。珠雫からしたら先ほど同様に反応が遅れ、避ける暇のなく袈裟を深々と斬り裂かれた。

 

『あーーーっと!黒鉄珠雫選手、ここで皇樹選手の太刀をもろに浴びてしまったァァ!それもかなり深い!これは致命傷でしょうか!!』

 

勝負は決したと思った瞬間。珠雫の身体はただの水となりリングにぶちまけられた。

 

『な、なんと水の分身です!黒鉄選手《七剣の竜帝》の太刀を見事に回避……、いや!』

 

「分身で回避するとはな……さすが珠雫だな。でも、完全には避けきれなかった見たいだな」

 

竜司の固有霊装の切っ先から、朱色の液体が滴る。そして珠雫の左を伝うように同じ朱色の色を見た。

 

『左手から血が滴ってます!完全な回避は出来ていませんでした!この試合初めてのダメージヒットは《七剣の竜帝》皇樹竜司選手です!』

 

竜司は刀を振り、血を弾き落とし再び構え直し

 

「さぁ、行くぞ……!ここからは竜の試練だ……!」

 

「く……!」

 

一度拮抗が破れたら、そのあとの形勢はあっという間に竜司に傾いた。珠雫は防戦一方となり、逃げるのに精一杯。しかし《七剣の竜帝》の追撃は易々と避けることは出来ない。回避にも体力を奪われ続け、消耗し続ける。

 

他の観客たちからも見てもこの試合の勝者は誰なのか明白になった。

 

会場の雰囲気は冷め、熱気は消え失せていた。善戦こそすれど、一年生。そんな相手はAランク騎士であり、破軍最強の騎士だ。その騎士が敗れる道理がないと。他の観客は思った。

 

「……ねぇイッキ。珠雫、どうしちゃったの?」

 

「どう、とは?」

 

「どうって、明らかに相手の動きへの反応が悪くなってるわ」

 

「ステラちゃんの言う通りね。竜司は普通に動いているだけなのに、それがまるで見えていないみたい」

 

珠雫の動きに疑問を感じていたステラと有栖院。そして一輝も。さらにそれより答えを得ているのが刀華。

 

東堂刀華と皇樹竜司は師事している年数は違えど、同じ師を持つ者同士である。だから、竜司が今行っているものが何なのかも理解している。

 

(リュウ君の抜き足、前より上達してる)

 

と言ってもまだ粗がある。それ故に一輝にも見破られているのだろう。

 

「シズクーーーーーッ!頑張ってーーーーーッッ!!!」

 

ステラの高く綺麗な声は、熱を失った会場によく響いた。それは彼女の踏ん切りをつかせた。

 

自分を真っ直ぐに睨みつけてくる相手に一度も気を緩めない竜司。相手が諦めていない限り、倒れる瞬間その時まで油断なんて出来るはずがない。

 

(ああ、その目。諦めが悪いというか、執念深いというか。兄妹揃って本当に油断ならないよな……!)

 

(攻略してやる!竜司さんが得意のクロスレンジをッ!)

 

竜司は再び抜き足で珠雫の意識の狭間に入り込み攻撃をしようとした。瞬間珠雫が動いた。

 

《宵時雨》を凍りついた足場に刺し、唱える。

 

「《白夜結界》!!!!」

 

そのまじないの言葉と共に《凍土平原》の結界は固体から気体へ変化させ、まるでスモークのように濃く白い霧となり、リング全体を飲み込んだ。

 

(視界が奪われた……!これじゃあ珠雫の場所が視認出来ない!)

 

これほどの濃霧ともなれば、竜司は珠雫を視界におさめることは出来ない。しかし術者本人が自分の位置が知られているだろう。無闇に動くのは得策では無い。

 

(珠雫の覚悟……受けて立ってやる!)

 

竜司も息を少し吸い、大きく吐き。静かに待つ。

 

「《緋水刃》」

 

(勝負――――ッ!!!)

 

珠雫は竜司に向かい駆け出す。無謀な特攻ではなく、勝利を確信したものがある。《七天竜王》で《緋水刃》に対応しようとしても不可能。液体を固体である《七天竜王》を受け止めることは出来ない。《緋水刃》は受けに来た《七天竜王》の刃を素通し、竜司の身体を切り伏せる。珠雫にはそのビジョンが見えている。だからこそ珠雫は確信を胸に《七剣の竜帝》の間合いに踏み込んで……

 

「え………」

 

その時、珠雫は見た。濃霧の中、堂々と技の体制に入っている竜司の姿を。刀の凍土に突き立てる。その動作一つでこの伐刀絶技は放たれた。

 

「《煉獄陽炎》!!!」

 

リングの至る所から赤い光が表れ、天をも焦がす勢いで火柱が登る。その火柱は珠雫も突き上げ天高く巻いあげる。

 

そして火柱が消え、珠雫は天から落ちてくる。意識は無く試合続行不可能だ。

 

珠雫の思いを、親友の妹を斬り下した。

 

 

落第騎士ヒロイン第2回

  • 雷切・東堂刀華
  • 深海の魔女・黒鉄珠雫
  • 比翼・エーデルワイス
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