落第騎士の英雄譚・竜帝は七星の頂を目指す   作:皐月の王

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投票についてですが…………九月二十日までとさせていただきます。




第5話 《解放軍》制圧戦

荒い足音を立てて黒の戦闘服とガスマスクに身を包んだ二人の男が、一輝と竜司と有栖院がいるトイレに駆け込んでくる。

 

『よし、残ったのはこの男子トイレだけだ。個室は俺が調べてくるからお前は待っていろ』

 

『一々調べるなんてまどろっこしいことやる必要はねぇよ』

 

二人の内の一人がアサルトライフルの弾をトイレ全体に水平射撃をした。小さな部屋にけたたましく鳴り響く発砲音が止むころには、個室のトイレの扉は穴だらけになる。もし誰かがいれば無事では済まないだろう。しかし個室からは血が流れてくることは無かった

 

『よし、誰もいないな』

 

『何勝手なことしてんだっ!客は人質にするって言ってただろうが!』

 

『ぶっ放したい気分だったんだよ。いいじゃねぇか。血は出てこねぇってことは、中には誰もいなかったことだからよぉ』

 

『ビショウさんに殺されても知らねぇぞ』

 

下劣な笑い声をあげながら、男達はトイレを後にする。トイレに残る硝煙の匂いと破壊の跡。天井の蛍光灯が作り出す『影』から、水から顔を出すように現れた一輝と竜司と有栖院だけだった。

 

「ふぅ。どうやら行ったようね」

 

敵が遠くに行ったことを確認し、有栖院が『影』という黒い水から出る。その手には鈍色に光るダガーナイフが握られていた。

 

「なかなか素敵な能力でしょう。あたしの《黒き隠者(ダークネスハーミット)》の力は」

 

「影を操る能力か。確かに便利な力だね」

 

「身を潜めたり、索敵や移動にも使えるな……だけど、選抜戦では少し厳しい能力じゃねぇのか?」

 

「そうね、照明で照らされっぱなしで、影を作る障害物も無い試合だとあまり役に立つ能力ではないのが難点なのだけど」

 

「まぁ、今の状況ではその能力が一番適しているけどな。にしても彼奴らただの強盗にしてはてばやすぎねぇか?占拠されるまで気が付かなかったなんてな」

 

「一体彼らは何者なんだろう?」

 

「《解放軍(リベリオン)》」

 

「!?」

 

「やっぱりか」

 

有栖院が告げた迷いなく即答した名称に、一輝は目を見開き、竜司はやっぱりかと大きく息を吐いた。

 

「世界各国で話題のテロリストとこんなご近所で出くわすなんてね。だけどどうして、彼らが《解放軍(リベリオン)》だとわかるんだい?二人とも」

 

「あたしは、昔住んでいたところで、今日みたいな事件に巻き込まれたの。そのとき見た奴らと装備が一緒だったから」

 

「俺は二年前に海外でたまたま《解放軍(リベリオン)》が襲撃しているところに出くわして、そこの制圧に加勢してな。(まぁ、そのあとヤバイやつに完膚なきまでに叩きのめされたけどな)」

 

二人が過去の経験と今の状況を照らし合わせ今回の襲撃は《解放軍(リベリオン)》だと結論付けたのだ。

 

「別行動している二人が心配だな……一輝、理事長に連絡頼めるか?」

 

「固有霊装の使用許可だね?分かった」

 

一輝は電子生徒手帳を取り出し、はじめからアドレス帳に登録されている『緊急連絡用』の電話番号へ連絡を取った。電話はすぐ理事長の新宮寺黒乃に繋がった

 

『事態は把握している』

 

黒乃の第一声で全ての説明は省かれた。

 

「話が早くて助かります。では『黒鉄一輝』『皇樹竜司』『ステラ・ヴァーミリオン』『黒鉄珠雫』『有栖院凪』の五名の敷地外での能力使用を許可してください」

 

『了解した。五名に能力の敷地外使用を許可する』

 

「これで必要な手続きは終わりね」

 

「理事長そっちで掴んでいる状況を聞かせてもらえますか?」

 

『犯人は解放軍(リベリオン)。規模は二十人から三十人ほど。全員が銃火器で武装している。目的は身代金とモールの金品だ』

 

解放軍(リベリオン)の襲撃での死傷者は出てるのか?」

 

『襲撃時の騒ぎで慌てて逃げようとして転んだ軽傷者が数名だな。死者や重傷者は今のところは出ていない。監視映像をモニターしている警備会社によれば、買い物客五十名程度が人質としてフードコートに集められているとのことだ』

 

「フードコートって言えば、あたしたちがクレープを食べたところよね?」

 

「うん。あの吹き抜けになっている広場だ」

 

「あそこの近くで隠れて陣取れば制圧も行けるか?」

 

「とりあえず、状況を確認してからね。あそこなら《日陰道(シャドウウォーク)》の範囲内よここから一気に移動出来るわ」

 

『分かっていると思うが、一般人の安全、人命優先だ。くれぐれも無茶はするなよ』

 

頷き、一輝と竜司はスニーキング中に着信がならないように電源を落とす

 

「よし、行こう」

 

「頼んだぜ、アリス」

 

「お任せあれ」

 

一輝は有栖院の手を握り、竜司は一輝を握り有栖院が二人を牽引するように影の中に入る。

日陰道(シャドウウォーク)》の構造を知りえるのは《黒き隠者(ダークネスハーミット)》を持つ有栖院だけであり、この空間を支配しているのも有栖院だけである

 

「着いたわ、二人とも」

 

しばらくの間、闇の中を泳いで三人はフードコートの近くにワープする。場所はフードコート全体を見渡せる、吹き抜けの際にある三階の柱の陰。三人は日陰道から出てフードコートの様子をうかがう。情報通りにフードコートに人質が集められていた。その人質を囲むように武装した男達が円を描いている

 

「珠雫は人質に紛れているわね、ステラちゃんはいないわね」

 

「……いや、ステラもいるよ。珠雫の横に居る。鍔の広い帽子の子だよ。ステラは騎士として顔が知られているからね、隠しているんだよ」

 

「それはいいんだよ、状況あんまりよくないな。人質との距離が近すぎる」

 

竜司はフードコート全体を見ながら、芳しくない状況に嫌な表情を浮か

「下手に突入を仕掛けたら間違いなく死人が出てしまうよ。それに解放軍の頭数が情報より少ない」

 

「分隊行動しているのかしら。なにしろ……少し待つしかないわね」

 

「(それに、考えるなら、向こうも人質の中に紛れている可能性があるのも考慮しておかねぇと)」

 

竜司は人質を見ながら考える。今のところこの状況下でここに隠れている一輝と有栖院以外で確実に信用できるのは紛れている、ステラと珠雫の二人のみ。経験があるから警戒する。杞憂で終わればそれはそれでよし。こういう時に考えるものは良くない展開だ。しかし、考えていても別の角度から予想外な展開は開かれる

 

『お母さんをいじめるな―――――ッ!!』

 

「「「ッ!?」」」

 

突如、人質の小学生くらいの少年が銃を構えた解放軍の一人に襲い掛かったのだ。

 

「(なんてことだ!)」

 

「(まずいぞ、おい!)」

 

不味いと思うも三人位置ではあの少年を止めることはできない。そのまま少年はアイスクリームを兵士に投げつけた。そんなものに攻撃力なんてあるはずも無く。だがズボンを汚すにとどまる。しかしその兵士を怒らせるには十分だった。そしてその男は仲間の静止を振り切り、少年を守りに来た母親諸共撃ち殺そうとした。だがそれはステラの炎によって焼き払われた

 

「あんた達と戦う気はないわ。親玉と交渉させなさい」

 

「バカなこと抜かしてんじゃねぇなあに偉そうにいってんだ」

 

「銃を下ろせヤキン!」

 

その言葉と共に十人ほど完全武装した兵士を連れ歩いてくる、顔に入れ墨の入った男がいた。竜司はその男の服装をみて

 

「一輝、アリス。あいつ《使徒》だ今回の騒ぎの親玉だ」

 

「どうやら、そうみたいね。明らかに周りと違うわ」

 

「うん、僕も雰囲気でそう思った」

 

三人は上から様子を伺いつつ出るタイミングを計っていた。その時竜司はふと珠雫の方を見た。珠雫を中心に魔力が張り巡らされた。しかも竜司が魔力の気配を極小で感じ取ってとり、魔力を見ることに集中しないと見れないほどの迷彩をかけていた。珠雫の魔力制御はAランクでステラのB+より上だ。魔力制御だけで見たらAランク相当の力を持っているのだ。同じ魔力制御Aの竜司が見ることが出来たが。逆を言えば、現状況でそれを見破れる人物は他にいないということだ

 

「(まじかよ、偶然感じ取れ、見れた準備かよ……迷彩の技術高いな!)」

 

竜司は珠雫の技術に驚いていた。そしてそれが完成した時が突入のタイミングだと結論付けた。再びフードコートに目を移すと。ステラが敵にこぶしを叩き込まれ膝が落ちていた

 

「何があった!?ステラはAランク並みの伐刀者なら薙ぎ払えるはずだろ!?」

 

「おそらく、ビショウとかいうやつの固有霊装ね。左手で受け止めて、右こぶしで殴りつけたの。普通なら腕諸共だろうけど彼にはそれを防ぎたたきつけるほどの能力があるのよ」

 

有栖院が見ていた光景と憶測で竜司に話す。竜司は使徒のビショウを見据える。

 

「二つで一つ揃えの固有霊装《大法官の指輪(ジャッジメントリング)》でさぁ。その特性は『罪』と『罰』左は俺に対するあらゆる危害を『罪』として吸収し、右はその力を『罰』として放出する」

 

フードコートでは仰々しくも自分の固有霊装を語るビショウの姿があった。

 

「(つまり、あの左手で防がれず攻撃を当てればいいか、あいつが追い切れない速度で落とせばいいんだな。種が割れたら穴がある能力だな)」

 

ビショウの言葉を聞きながら分析した竜司。自分ならどう対処するかを考えていると

 

「あのガキの代わりに皇女様が誤るんですよ!全裸で土下座でね!!アハハハハ」

 

とんでもないことを言い出すビショウ。それを聞いて一輝が黙っているはずも無い

 

「あの野郎……!!」

 

今にでも飛び出しそうに立ち上がろうとした。竜司は一輝の肩を掴んでそれを止め

 

「このタイミングで出ても死人が出るだけだぞ。今じゃない耐えろ一輝」

 

一輝は強く拳をにぎり込む。怒りが目に見えるほど

 

「ヒヒ……もちろん強制はしませんがねぇ。嫌なら断ってもいいですよ。その時は予定通りにガキを殺すだけですが」

 

ステラが断れないのを知って言っているのが見え見えだった。そうただ辱めているだけだ。そしてステラは服を脱ぎいよいよ下着だけになった。こんなゲスどもの前で肌を晒さなければ恥辱に頬を真っ赤に染めながら耐えている。聞くに堪えない薄汚い声。それを素肌に直に受け、ステラの体が大きく震えた、その時一輝はステラの頬に何か光るものを見る。それはステラの涙だった。一輝をその場に押しとどめていた理性がそれを見た瞬間千切れた。しかし、一輝の体は意識とは裏腹についていけなかった。何かに縫い付けられたかのように。見れば一輝の影に《黒き隠者》が突き立てられていた。《影縫い(シャドウバインド)》相手の影を介して動きを封じる有栖院の伐刀絶技

 

「……冷静になりなさい」

 

「だけど……ッ、今出ていかないとステラが……!」

 

「落ち着け一輝。ここで出ていったらステラの頑張りが無駄になる。それに珠雫が今動いている。だから少し待てよ」

 

「気づいていたの?」

 

「まぁな。あいつはだれにも気づかれることなく事を運んでいるんだ」

 

「ええ、魔力を隠しながら人質を守れる水の結界の準備をしているわ」

 

「……そんなの、どこにも見えないけど」

 

「そりゃそうよ。珠雫はBランク騎士で全体の能力値で見たらステラに劣るけど『魔力制御』だけなら今年の入学生のなかでもぶっちぎりのナンバーワンなんだから。その一点においてはAランク相当の力を持っているわ」

 

「ああ、珠雫クラスが本気で迷彩かけたら並みの伐刀者はおろか、それに秀でていなければ見ることなんて叶わねぇよ。だからもう少し待て一輝。結界を張ると同時にお前が奇襲をかけろ」

 

それを言い終わると同時に有栖院がディスプレイを見せるマナーモードにしていたため鳴らなかったのだろう

 

『今決壊はってる できたら合図出す』今結界張ってる

 

端的で誤字だらけのメールだが、意味は伝わった

 

「(珠雫ッッ!)」

 

一輝は歓喜を込めて心の中で妹の名を叫ぶ。その求めに応じるように

 

「《障波水蓮(しょうはすいれん)》――――ッッ!!」

 

水を使う伐刀者・黒鉄珠雫が生み出す水の防壁が、人質と解放軍を分断する。

 

「あとはお願いします。お兄様、竜司さん」

 

珠雫は小さく言う。そしてその二人が動き出す。

 

「来てくれ《陰鉄》」

 

「廻りて集え《七天竜王》」

 

一輝は飛び出しすぐさま伐刀絶技を発動させる

 

「《一刀修羅》」

 

そしてビショウの固有霊装をかいくぐり

 

「第七秘剣雷光」

 

ビショウの目には信じられないものを見た。血しぶきをあげながら飛ぶ自身の左腕を。あらゆる攻撃を無力化しようが見えない攻撃は掴みようがない。防げないのだ。だから一輝は剣の振りを早くした視認できない速度まで早めて

 

『一輝は奴を倒せよ、俺達は雑魚をあいてにするから』

 

『そうよ、一輝はあの下品なボス猿を確実に無力化して』

 

二人に言われるように無力化を果たした。残りの雑魚は有栖院が片付ける前にステラが片付けてしまっていた。そして事態の収束しつつあり、珠雫が一輝の頼みを聞き、ビショウの出血を止に行こうとした瞬間

 

「動くなァァァァ!!!」

 

突然引きつった悲鳴にも似た怒声。それは人質の中から聞こえた一輝達は振り返る。紺色のスーツにも似た服を着た女性が中年の女性のこめかみに拳銃を突き付けていた。

 

「た、たすけてぇえええ!!」

 

「ガキども動くんじゃな!余計なことをしたらこの女を殺す」

 

「連中の仲間!?」

 

「人質の中に紛れていたのはてめぇらだけじゃねぇんだよ!間抜けがぁ!!」

 

断ち切られた左肩から血をほとばしらせながら、入れ墨の顔に歪ませる犯罪者。

 

「おい!そこのゴスロリのチビ!」

 

「ち、ちび……ですって!?」

 

「ああそうだ、テメェだチビ。治癒できるんだってな、聞いていた。こっちに来て俺の腕を治せェッ!できないとはァ言わねぇよなァ言わせねぇよォ?」

 

ビショウの笑い声に、ヒィ!と中年女性の悲鳴が続く。一輝は珠雫に腕を治すように声をかけようとした瞬間

 

「《神炎之蛇竜(ヒノカグツチ)》」

 

ぽつりと声が聞こえ次の瞬間。拳銃を突き付けた解放軍の女性が天に打ち上げられた。その女性は意識を失い地面にたたきつけられる

 

「《瞬天石火(しゅんてんせっか)》」

 

灼けるような紅い刀身の刀を握った竜司が居た。竜司は女性が気絶したこと確認すると、ふぅと息を吐いた

 

「やっぱり貴方の読み通りだったわね。竜司」

 

有栖院がふぅと胸をなでおろしながら言う。竜司はみんなの方を向いて

 

「これで全員片付いたな」

 

そして警察がきて事件は終息する。竜司が生徒手帳を再起動させると、ルームメイトから心配してるメールが来ていたのは別の話である




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落第騎士ヒロイン第2回

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