落第騎士の英雄譚・竜帝は七星の頂を目指す   作:皐月の王

9 / 10
遅れましてすいません。ヒロイン投票は今回で打ち切ります。
結果はエーデルワイスに決定しました。自分なりに頑張ります


第8話 《深海の魔女》VS《七剣の竜帝》開幕

一輝が《剣士殺し》との決闘で勝利をおさめて一週間が経った夕方。いつものメンバーではなく、一輝、ステラ、有栖院が話していた。

 

「へえ。珍しいわね。シズクがイッキから離れるなんてね、しかも自分から」

 

「まあ。気を締めているでしょうね。……次の相手が相手だし」

 

「あれ?珠雫の対戦相手ってもう決まったんだ?」

 

「あら?もしかして二人ともまだ知らないの?」

 

一輝はステラに知ってる?と目配せするも、ステラは首を横に振り否定する。一輝も知らない

 

「アリス。珠雫の次の対戦相手って誰なんだ?相手が相手と言うほどだから、相当の強敵みたいだけど」

 

少し心配になって尋ねる一輝。有栖院はとても難しい表情になり応える

 

「強敵にしては質がわるい強敵よ。だって――――――――この学校の序列一位だもの」

 

それを聞いて一輝は驚いた。ステラはこの学校序列一位がどんな人物なのか知りえていない。だからそこまで驚いている一輝に尋ねる

 

「ねえ、イッキその序列一位って誰なの?イッキの知り合い?」

 

「それどころか、僕たちは彼とよく顔を合わせているよ、朝の習慣とかでね」

 

それを聞き当てはまる人物は他にはいない。ステラは直ぐに答えに辿り着いた。

 

「その相手ってもしかして……」

 

「そうよ、珠雫の相手は、もう一人のAランク騎士。二年の皇樹竜司よ」

 

 

珠雫は幼き日を追想する。自分に間違っていることを間違っていると言ってくれた兄が居た。その兄は周りの大人に殴られたりした。それは、自分が他の子を泣かせていた自分を叩いて、それに驚いて自分が泣いたからだ。そしてそんな時もう一人の子どもが姿を現し

 

『俺の友達に手を出すな!!』

 

一喝するように大人に叫んだ。その声に反応した大人はその子どもを見て直ぐに兄を殴るのをやめた、否その子どもが放つ圧に気圧されやめざるを得なかったという方が正しい。その時の自分の目には、その子どもの背後から竜が見えた気がした。

 

『一輝大丈夫?一体何があったんだよ』

 

『珠雫に弱いものいじめはダメって言って、叩いた』

 

『いや、一輝も叩いたらダメじゃん。でも確かに弱い者いじめはダメだよな』

 

そんなことを思い出していた。懐かしい思い出。そしてこの試合にかける思いは並みの物じゃなかった。

 

竜司の方は控室で軽くストレッチをしながら、イメトレをする。今回の相手は今までとは一味違う。魔力制御Aランクの一輝の妹、黒鉄珠雫。相手にとって不足はないし、油断すれば一気に持っていかれかねないと考えていた。属性不利すら彼女の前にはあまり意味をなさないのだから。でも、だからどうした。そんなのは関係無い。誰であろうとも立ちはだかるのなら全身全霊で戦うのみ。でなければ、届かないあの人には

 

「(今は目の前の対戦相手に集中だ)」

 

『二年・皇樹竜司さん。試合時間になりましたので入場してください』

 

アナウンスが呼ばれストレッチをやめる。そして息を吐き、薄暗い通路を歩く。真っ直ぐ試合会場に繋がっている。その足にためらいなんて無く。抑えきれなくなってきている闘志を燃やしながら歩く。

 

『さあそれでは、本日の第十二試合の選手を紹介しましょう!青ゲートから姿をみせたのは、今我が校で知らない者はいない注目の騎士・黒鉄一輝選手の妹にして、《紅蓮の皇女》に次ぐ今年度次席の入学生!ここまでの戦績は十五戦十五勝無敗!属性優劣何のその!抜群の魔力制御を武器に、今日も相手を深海に引きずり込むのか!一年《深海の魔女》黒鉄珠雫選手です!!!!』

 

珠雫は薄暗い通路から姿を現し、歓声響く会場に出る。だが、歓声は遠く感じる、珠雫の意識は目の前の人間に集約されている

 

『そして赤ゲートから姿を見せるのは、我が校最強の騎士。前年度七星剣武祭準々決勝で諸事情の棄権をし、七星の頂を断念しました。しかし、彼は再び七星の頂を争う戦いの場に帰ってきました!!その手には未だ全てを明かさない常勝の竜達を従え!!その七変化のスタイルに対応不可避!今日も誰も試練を突破させず薙ぎ払うのか!破軍が誇る最強の騎士!二年《七剣の竜帝》皇樹竜司選手です!!!!』

 

(皇樹竜司)

 

(黒鉄珠雫)

 

互いに互いを視認しその姿をとらえている。そのなかで珠雫は確信した。対峙してわかる

 

(……なるほど。流石に桁が段違いですね)

 

空気が重く感じる。圧倒的な重圧がプレッシャーが今まで相手してきた者とは纏っている雰囲気が何もかも違う。いつもの皇樹竜司は目の前には居ない。格上なんてレベルではない、勝算は0じゃないだけの相手だ。だからこそ珠雫は滾っている。今感じているプレッシャーもかいている汗も、心地よく感じる。この学園にきて待ち望んだ機会が巡ってきた。この四年間の研鑽、兄への思い、そしてもう一人の兄と言って過言でもない人物への憧れ。今こそ試すとき

 

(この戦いで、黒鉄珠雫の限界を試してやるッ!)

 

『それでは第十二戦目、開始!!』

 

戦いを告げるブザーが鳴らされた。

 

《深海の魔女》VS《七剣の竜帝》学生最高クラス同士の戦い、意外な立ち上がりを見せていた

 

『こ、これはどうでしょうか!両者前に出ません!』

 

白銀の刀身を持つ小太刀《宵時雨》。黒と金の両刃の大剣《七天竜王》。互いに自らの霊装を手に距離を置いたままリングを半周する。試合開始からすでに一分が経とうとしている。未だに一合の打ち合いもない。だが場を支配する緊張感は静寂と共に存在していた。上位陣による潰し合いを見るために集まった観客全員が固唾を呑んで見守る

 

「どちらも仕掛けないわね」

 

ステラは強張った声でつぶやく。ステラの声に応えるように有栖院は

 

「遠巻きに相手を睨みながら、出方を窺っているわ、方やAランク、方やBランクと言う。どちらも七星剣王クラスの力を有する騎士同士。珠雫はもちろん、竜司もリングの端から端まで届く攻撃手段を持っているの。あの二人は互いに射程圏内に収めている。これほどの実力者ともなると迂闊な行動一つで流れを持っていくことも持っていかれることもあるわ」

 

「アリスの言うことも一つ。でも、それ以上に珠雫はこの試合、自分から動きたくないんだよ。竜司の剣の間合いは伐刀絶技で姿を変えるけど、最も得意なのはクロスレンジ。生徒会長の《雷切》に次ぐ速さを持つ武器を持っているからね」

 

「そうですね、竜司君のクロスレンジは私でもギリギリ勝てているくらいです」

 

その声に反応して三人は顔を上げる。そこには眼鏡をかけた栗色の長い髪の少女、生徒会長・東堂刀華が居た。

 

「こんにちは、東堂さん。今日の試合は終わったのですか?」

 

「はい、ですから、この二人の試合を見に来ました。この二人の試合は七星の頂を狙う者なら注目しない方が無理というものです。それにそろそろ彼は動き出すでしょう」

 

刀華がそう告げたときその瞬間、竜司が動き出した。大剣の後ろに構え、前傾姿勢を取り、距離を詰める姿勢を取る。間合いは二十メートル、その程度なら竜司は一瞬にして距離を詰めることは可能だ。だがそれを易々と許す《深海の魔女》では無い

 

「凍てつけ―――《凍土平原》」

 

その言葉と共に珠雫の足元が凍り付く。その氷は竜司の速度よりなお速くステージを侵食し、リング全体を凍結させた。そんな足場で全力を出せば当然スリップする。それをしないようにするにはスピードを落とすしかほかない。そのせざるを得ない状況に追い込むことが珠雫の狙いだった。すぐさま次の一手を放つ伐刀絶技《水牢弾》。一度着弾すれば、顔に張り付き呼吸を奪う水の砲弾が《宵時雨》の切っ先から放たれる。一発だけではなく、三連射だ。この足場で三連射を躱すのは至難の業。だが、そうは甘くない。相手は七星の頂の直ぐ側、その高みの居る化け物だ。減速するのではなく、さらに踏み込み加速した。水牢弾を速度で掻い潜り、手に持つ大剣《七天竜王》を間合いの外に居る珠雫の居るところ目掛けて薙ぎ払うように振るう。それは魔力により飛ぶ斬撃となって珠雫目掛けて飛翔する。珠雫の考えを看破しての速攻のカウンター。これほど速く、正確な読みを行ってくる敵は初めてだ。だが、それも想定内のことだった。魔力の斬撃が珠雫の首を狙い飛翔してきた。それを《障波水蓮》で防ぐ。珠雫は斬撃を防ぎ竜司の攻撃を処理した。そう思ったが

 

「《幻想魔竜》……《壊劫ノ失墜》!!」

 

竜司の霊装の第二の姿《幻想魔竜》が姿を現し、それの伐刀絶技《壊劫ノ失墜》を放つ。二本の剣から青白い魔力の波の斬撃を、間髪入れず放つ。一撃二撃だけではなく、次々と放たれる。珠雫は気を張り巡らせ防御に専念する。連撃で飛んでくるがその一撃は軽いものではなく、気を抜けば容易に珠雫の守りを容易に打ち崩してくる。しかも移動しながら放たれているから、珠雫は反撃に移すにも容易ではない。竜司はトドメと言わんばかりに放つ……が《七天竜王》の動きが止まる。竜司の足には水の足が掴んでおり瞬間に凍結する。竜司はその場に縫い付けられる。同時に頭上に影がかかる。竜司は珠雫から視界を外し上を見る。目にしたものは巨大な円柱型の氷塊。もう遅い己の鼻が触れる眼前に迫った光景だった。全ては珠雫の思い描いたものだ。落下した氷塊は竜司ごとリングを叩き割る。その威力は凄まじく、破壊の亀裂は観客席にまで及ぶ。その破壊の中心に打ち立てられていたのは氷の墓標。この一撃を受けて立っていられるものなんて居ない。だが、珠雫は一切の警戒を解いていない。

 

(手ごたえがあったのに、なのに、重圧が緩まっていないっ!!)

 

その認識が正しいと証明するかのように、氷が解けはじめ声が聞こえる

 

「《神炎之蛇竜》!!」

 

やがて火柱が氷塊を飲み込み爆ぜる。火花をまき散らし火柱が消える。その中心に《七剣の竜帝》が佇んでいた。双方攻守を譲らず、会場は半壊する。互いに有効打は無し。一見実力は実力は拮抗しているように見えるこの戦いは、再び振り出しに戻った

 

落第騎士ヒロイン第2回

  • 雷切・東堂刀華
  • 深海の魔女・黒鉄珠雫
  • 比翼・エーデルワイス

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。