ストライクウィッチーズ カザフ戦記   作:mix_cat

12 / 25
第十一話 時に落ち込むこともある

 夜の帳が降りた。町外れにある基地周辺には明かりはほとんどないので、周囲は真の闇に包まれて、その分満天の星空が鮮烈だ。そんな星空を佐々木と中野は見上げている。天空一杯に星が瞬く夜空を見つめていると、なんだか吸い込まれていくような気がする。それなりに開けた街で生まれ育った佐々木や中野には、見たこともない景色だ。そこで中野が大きくため息をついた。

 

「迪子ちゃん、ため息なんかついて、そんなに星空に感動した?」

 佐々木は深く感動していたので、その感動を共有できるものと思っての問いかけだったが、案に相違して中野はやや不服そうに応じる。

「そりゃあ星は綺麗だけど、今はそんな気分じゃないよ。」

「えっ?」

「はあ、わたしって駄目だな。折角みんなをネウロイから守るためにウィッチになったのに、そのために前線に配属されたのに、みんなを守るどころか、訓練もまともにできない。清末さんや児玉さんにも叱られてばっかり。」

 中野は星空を見上げながらも、思うように訓練について行けないことを悩んでいたのだ。中野が任務について真面目に悩んでいる時に、自分は星が綺麗とか考えていて恥ずかしいとやや赤面しつつも、まだ配属されて間がないのだから仕方ないと思って、佐々木は中野を慰める。

「それはわたしも同じだよ。清末さんや児玉さんの要求にぜんぜん応えられていないもの。でも配属されてしばらくはみんなそんなものじゃないのかな?」

 佐々木はそう言って小首を傾げるが、中野はそうは思えないようだ。

「そうかな。児玉さんなんか、わたしに特別に厳しいような気がする。きっとわたしがあんまりできないから殊更に厳しくしてるんだよ。」

「いやいや、そんなことないんじゃないかな。迪子ちゃんは組むことが少ないからわからないかもだけど、清末さんもすごく厳しいよ。訓練受けてて泣きそうになるもん。」

「ううん、厳しさが辛くて泣きそうになるのはあるけど、そうじゃなくて、なんて言ったらいいのかな、訓練学校では訓練が辛くてもこんな感じは受けなかったんだけど・・・。」

 中野はそう言ってうつむいた。

 

「うーん、よくわからないなぁ。」

 佐々木も配属になってからの訓練がきついのも、要求されていることがなかなか上手くできないのも中野と一緒だし、できない自分を不甲斐なく、残念に思っているのも多分一緒だ。訓練学校を卒業するまでに抱いた自信をすっかり打ち砕かれて、しょげる気持ちもある。でも、それは実戦部隊の厳しさを知らなかったことによる認識不足から来たもので、現在感じている厳しさも、ひょっとすると実戦に出るとまた覆されることになるかもしれない。だから、やはり配属されたばかりの内は、誰でもそんなものなのではないかと思う。

「うん、やっぱり配属されてすぐは、誰でもどこの部隊でもついて行けなくてもそれが普通だよ。頑張ってそのうちできるようになればいいんだよ。」

 そう言って佐々木は中野の肩をぽんぽんと軽く叩く。

「うん・・・。」

 中野は一応はうなずいたものの、どうにも佐々木ほど前向きになれないようだ。

 

 

 翌日の訓練はまた模擬空戦だ。訓練用のペイント銃をそれぞれに持つと上空へ舞い上がる。

「きょうはわたしがやるね。」

「うん、いいよ。」

 相変わらず割と適当な感のある清末と児玉だが、どうやら今日は清末が2対1の対戦相手になるようだ。対戦開始位置に移動しながら佐々木が言う。

「今日も昨日と同じようにやろう。清末さんがどう来るかわからないけど、昨日は旋回している最中に相手から目を離して、その隙に内側に回り込まれたから、旋回する間も清末さんから目を離さないで、動きをしっかり追っていけば昨日みたいにはならないと思うんだ。」

 中野も訓練となればいつまでも昨夜のもやもやした気持ちを引きずってはいられない。今度は勝ちたいという負けん気もある。

「うん、今日は勝とうね。」

 気持ちを込めて機銃をぎゅっと握りなおす。

 

 反転して清末と相対すると、魔導エンジンの出力を上げてぐっと加速する。見る見る接近する緊張の一瞬だ。今は訓練で相手が持っているのはペイント銃だということがわかっているが、もしこれが実戦で、相手がネウロイで実弾やビームを撃ってくるという状況だったらと考えると胃がきゅっと締め付けられるような感じがする。そんな状況なら、とてもまっすぐ向かっていくことなどできず、さっさと旋回して退避するか、当たりもしない距離で機銃を撃ち始めてしまうか、撃たれる前からシールドを広げてしまうか、いずれそんなことになってしまうのが落ちだろう。そういう意味では幾多の実践を潜り抜けてきた清末や児玉は凄いと思うし、とてもかなわないと思う。だが、今は訓練だ。訓練ならそのような実戦経験の差は必ずしも決定的な実力差につながらない。だから少なくとも訓練では勝ちたいと思う。そんなことを考えているのも一瞬だ。轟音と風圧を吹き付けて清末がすれ違う。

「今よ!」

 佐々木が叫ぶのと同時に、中野は一気に引き起こして急旋回に入った。

 

 旋回しつつも相手から目を離さない、これが案外難しい。すれ違って旋回を始めたときは、すれ違ったばかりなのだから相手はほぼ真後ろだ。思い切り振りかえると、体勢が崩れて狙ったような旋回ができない。でも首だけ回しても、真後ろの相手は視界に入らない。ある程度勘で相手の位置を想定するか、思い切り振りかえって視認した上でぶれた姿勢を素早く立て直すしかない。その点ウィッチは全身を使って飛ぶので、操縦桿がぶれなければ相当姿勢を変えても大丈夫な飛行機とは違う。もっとも、飛行機と違って死角がほぼないという大きな利点もある。

 

 多少ぶれるのを覚悟で思い切り振りかえると、清末は鋭く旋回しながら上昇してきている。上昇しているということは中野を最初の目標に選んだということだろう。さすがはベテランで、清末は鋭く素早い旋回で中野の旋回の内側に切り込んでくる。このまま行くと旋回の頂上で背面の姿勢になったあたりで、丁度背後を取られそうだ。そうなれば必敗だ。

「そうはさせない。」

 中野は旋回しながら体をひねって半回転させる。結果的にインメルマンターンのような動きになった。そして向き直って正対したところへ清末がえぐりこむように突っ込んでくる。

「あたれー!」

 中野は引き金を引き絞り、清末に向かってペイント弾を叩きつける。しかし、清末の巧みなライン取りで全然当たらない。まるでペイント弾が自ら避けるように見える。清末が機銃を構えた。佐々木がこっちに向かってきているが、まだ距離がある。前後左右に機動してみても、多分清末の射撃をかわすことはできないだろう。

「これでどうだっ!」

 中野は思い切り頭から突っ込んで、ほとんど直角に近い変針で真下に向かう。下から突き上げてくる清末との接近速度が急に高まって、あっという間に接近する。清末の驚いたような顔が急激に迫ってきて、一瞬ですれ違う。

 

「やった、かわした。」

 一瞬見えた清末の驚いた表情からすると、意表をついて攻撃をかわすことができたようだ。同時に、上昇してくる佐々木と急激に接近することになるから、2対1の態勢を取ることもできる。そう思った矢先、背中とお尻に鈍い衝撃を受ける。

「えっ?」

 振り返ると背後から清末が機銃を向けていた。衝撃を受けたあたりを見てみれば、背中から太ももにかけてべったりとペイントにまみれている。清末の意表をついたのも一瞬のことで、すぐに追撃されてしまったのだ。

「や、やられた。」

 がっくりする中野を尻目に清末はすぐに次の動作に移り、旋回する佐々木の頭を抑えにかかる。佐々木はかわす暇もなくペイント弾を浴びた。2対1の態勢を取る間もなく、各個撃破されてしまった。

 

 

「やっぱり駄目だよ、全然勝負にならないよ。」

 地上に降りた中野は佐々木に向かって悲嘆する。何もできずにペイント弾を浴びた佐々木も、今は中野を元気付ける気持ちになれない。

「はあー、やっぱり迪子ちゃんの言うようにわたしたちじゃ無理なのかなぁ。」

「うん、やっぱり諦めて国に帰るしかないのかな。」

 こんな時は配属が二人だけというのが恨まれる。同期がもっと大勢いれば、誰か彼か、根拠のないから元気でその場を盛り上げる人が出てきて、落ち込んだ気持ちが紛れたりもするのだが。その時背後で砂利を踏む音がする。振り返ると清末がいた。

 

「あんたたち、なに落ち込んでるの? 落ち込んでる暇があったら一回り走ってきなよ。思い切り走れば頭の中が空っぽになって、落ち込む気持なんかどこかに行っちゃうよ。」

 ずいぶん乱暴なことを言う。先輩相手とはいえ、さすがに中野も不服を覚えて、口を尖らせる。

「落ち込みますよ。模擬空戦では全然相手にならないし、他の訓練でも要求されたことが全然できないし、わたしウィッチに向いてないんじゃないんですか?」

 中野は口を尖らせて突っかかって来ながらもちょっと泣きそうだ。だが、清末は意外そうな顔をする。

「えっ? 向いてないって、何でそんなこと思うの?」

「えっ? えっ? だって・・・。」

 清末が本気で意外そうな表情をしているので、中野は戸惑ってしまう。全然できていないと思っていたのは勘違いなのだろうか。

「あのね、中野も佐々木も一所懸命やってるじゃない。その姿勢があればその内なんでもできるようになるよ。」

「で、でも、児玉さんにはいつも厳しく叱られているんですけど・・・。」

「そりゃあね、訓練は厳しくしないとね。でも児玉も言ってるよ、中野は見所があるって。」

「えっ? そうなんですか?」

「うん、意欲はあるし、真面目で熱心だし、何より根性があるから、将来が楽しみだって。」

「えっ? えっ? だって訓練ではいつもできないことばっかりで・・・。」

「そりゃそうだよ。だってできることばっかりやってても成長しないでしょ。できないことに挑戦して、頑張ってできるようにするから成長するんだよ。だから訓練でできないのは当たり前だよ。というか、できることよりちょっと難しいことをやらせてるんだから、いきなりできるわけないでしょ。」

 どうやら中野は勝手に思い違いをしていただけのようだ。目尻に溜まっていた涙がすっと引っ込むと、自然に笑顔が浮かんでくる。

「じゃあ、じゃあ、わたし一人前のウィッチになれますか?」

「そりゃあなれるよ。わたしも、中野も佐々木も見所があると思ってるよ。多分、二人とも成長は早い方だと思うよ。」

 さっきまで悩んだり、落ち込んだりしていたのが馬鹿みたいだ。隣で聞いていた佐々木も同じようで、なんだか表情が輝いて見える。中野は全身に力と意欲が漲ってくるのを感じる。今夜の夜空はきっと感動するほど綺麗に見えるだろう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。