ストライクウィッチーズ カザフ戦記   作:mix_cat

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第十五話 お米が届いた!

 今度補給に来る時にお米を持ってきてくれるという約束を知っているのは、清末、児玉、佐々木、中野の下士官4人だ。正規の手続きを踏んでの依頼ではないので、士官2人には秘密だ。下士官4人は素知らぬ風を装いながら、密かに胸をわくわくさせながら日々の業務にいそしんでいる。しかし、待つとなるとなかなか機会は来ないものだ。多い時には連日飛来する輸送機が、ばったりと来なくなってしまった。膨らんだ期待を抱えていつ来るともわからない輸送機を待つのはなかなか辛い。最初わくわくしていた気持ちが、やがてじりじりした気持ちに変わり、やがて干天の慈雨を待ち焦がれるような気持に変わる。まるで周囲の乾燥した大地のようだ。

 

 そしてついに、待ち焦がれた輸送機飛来の連絡が入る。清末たちは、期待に胸を膨らませつつ滑走路脇に集まった。こっそり頼んでいるので士官には話していないため、士官2人は知らずにいる。程なく零式輸送機が停止して、貨物ドアが開いた。今回の輸送担当はあの主計科下士官だろうか。他の人だったらもちろんおあずけになるので、運命の一瞬だ。胸がきゅっと詰まる。そこへひょいと顔を見せたのは例の主計科下士官で、清末たちはみんな祈るような必死の表情でもしていたのか、一瞬驚いた顔をして、そのあとにこっと笑う。つまり、どうやら秘密の物資は無事調達できたらしい。

 

 わっと歓声を上げて4人は輸送機に駆け寄る。その目の前に、憧れの米俵が積まれていく。一つ、二つ、三つ、四つ・・・、それで終わりだった。でも4俵、240キロのお米が届いたのだ。大収穫だ。

「ありがとうございます。」

 ウィッチたちのこぼれんばかりの笑顔に、主計科下士官は照れて頭をポリポリと掻く。

「扶桑内地産の一等米というわけにはいきませんでしたけれど、まあそこそこのものが手に入りました。」

 ウィッチたちは目をきらきら輝かせて積み上げられた米俵を見つめながら、炊きあがったご飯から湯気の立ち上る様を思い描いてうっとりしている。まだ10代前半の少女たちといえども、やはり皆扶桑人らしくご飯に対する思い入れは強く深いのだ。

 

「お前たち、そこで何をしている。」

 突然の詰問調の声に、みんなびくっとして振り返る。すると、栗田少尉が幼い顔に精一杯の威厳を持たせて、小さな体で仁王立ちになっている。しまった、見つかった。軍の輸送機関をこっそり私的に流用したことになるのだから、どんな処罰が待っているのかわからない。ここはひとつ、何事もないかのように装うしかない。

「はい、お米の補給を持ってきてくれたんです。」

 清末が、さも当然のことのように、にっこりと微笑みながら答える。しかし生憎栗田少尉はごまかされてくれない。

「お米? そんなもの今日の補給品リストにないぞ。リストにないものは受領できないから持ち帰ってもらいたい。」

 栗田少尉は冷たく言い放つ。

 

 佐々木と中野は、新人の立場では口を挟むわけにはいかないし、そもそもこういう時にどうしたらいいのかもわからない。せっかく持ってきてくれたお米を送り返されてしまうのではないかとの恐怖におびえつつ、清末や児玉がどう切り抜けてくれるのか、固唾を飲んで見守るしかない。せめて心の中で応援する。清末さん、児玉さん、頑張って。

 

 さあどうするか、清末はネウロイと対峙した時以上の窮地を感じる。ここをうまく切り抜けないと恋焦がれた白いご飯が食べられなくなってしまう。しかし規程上は栗田少尉の言っていることが正しいのだから、これといって打開策が思い浮かばない。そこへ、米を持ってきた主計科下士官から助け舟が入る。

「少尉殿、これは我々主計科で用意したものです。最前線で重要な任務を担っているウィッチの皆さんが、扶桑人でありながら米の飯を口にすることができないと聞いて、少しでも皆さんのお力になればと考えて持ってきたものです。ですから書類にはありませんがぜひ受け取ってください。」

 主計科としても、せっかく持ってきたものを、持って帰れと言われて、はいそうですかというわけにはいかない。

 

 主計科からの申し出に、栗田少尉は戸惑いを隠せない。相手が下士官で階級が下位だとしても、直接の部下ではないのだから命令権はないし、別の部隊の人に対してあまり横柄な態度をとるのもよろしくない。そもそも栗田少尉は士官と言っても、ようやく15歳になったばかりの少女に過ぎない。自分より20歳も年上と見える下士官に対して、強い態度に出るのには気後れしてしまう。そもそも、自分より年上の清末や、年下と言ってもベテランの児玉に対しても、士官としての使命感や責任感でようやく指示をしているのだ。もういっそ、はいわかりました、と言って終わりにしてしまおうかとも思う。だが、栗田少尉の士官としての規律を守らなければならないという使命感が、弱気に勝った。

「ご厚意はありがたいのですが、受領の手続きなしに補給品を受け取ることはできません。すみませんが持ち帰ってください。」

 栗田少尉の丁寧な言葉遣いが戸惑いを感じさせる。この分ならもう一押しすれば受け取ってもらえるかもしれないと、主計科下士官は押し方を考える。米俵を見た時のウィッチたちの目の輝きを思えば、是非とも食べさせてあげたい。

「少尉殿、これは慰問の品です。慰問袋を受領するときに、内容を書面と照合したりはしないですよね。だからこれは書面で確認せずに受領していただいて結構です。」

 主計科は補給の専門家だ。その専門家に良いと言われると、栗田少尉はそれで良いのかなという気がしてくる。でも原則は、書面と照合して物資に間違いがないことを確認した上で、書面に署名して受領しなければならない。栗田少尉はますます迷う。しかし、士官の責任として、断、断固として断らなければならない。

 

「みんな、どうしたの?」

 声をかけられて一斉に振り向く。

「安藤大尉。」

「隊長!」

 騒ぎを聞きつけて安藤大尉も出てきたのだ。

「みんなで集まって、何かあったの?」

 安藤大尉が出てきたのなら後はお任せしてしまえば良いと、栗田少尉名は内心ほっとして、小首を傾げる安藤大尉に説明する。

「はい、実は主計科の方が慰問の品としてお米を持ってきて下さったのですが、受領の手続きなしに受け取るわけにもいかなくて困っていたところなんです。」

 それに対して、安藤大尉は拍子抜けするほどあっさりと答える。

「あら、折角のご厚意なんだから、ありがたく頂けばいいじゃないの。」

 清末たち下士官4人は躍り上がって歓声を上げたい気分だ。もうだめかと思ったが、安藤大尉が許可したのだからもう大丈夫だ。ただ、ここで下手に騒いでまた話が変わるのを恐れて、心の中だけで歓声を上げて、ぐっと堪える。

 

「折角のお米だから、基地の皆さんにも食べてもらいましょう。」

 安藤大尉にはみんなに分けると自分たちの取り分が減るなどというみみっちい考えはないようだ。扶桑からはるばる派遣されてきて、慣れない環境や食事などに苦しんでいるのはウィッチだけじゃない。しかし、主計科下士官が言う。

「大尉殿、今回お持ちした米は4俵だけです。とても基地の全員で分けるほどの量ではありません。」

 海軍の給食の定数は一人1日米6合だ。アティラウ基地には整備隊や警備隊を含めて全部で約500人の人員が派遣されているから、全員分を合計すると1日7俵半必要になる。今回運んできた量では、とても全員に行きわたらせるのは無理だ。実際、米の必要量というのは膨大で、航空母艦瑞鶴が出撃前に米81トン、1,350俵を搭載したという記録が残っている。それに比べて輸送機1機で運べる量など微々たるものだから、ウィッチ限定とするしかないのだ。

「ですから、今回運んできた米はウィッチの皆さんだけでお召し上がりください。」

「あらそうなの、みんなで食べられないのは残念ね。」

 残念がる安藤大尉だが、よく考えればついでに持ってきた程度の量で基地の全員に行き渡らせることができないことはすぐにわかる。ウィッチだけが白いご飯を食べるのは少々気が引けるが、まあ仕方がない。それにこれでウィッチたちの士気が上がれば、いざという時の戦闘力が上がるのは確かだ。隊員たちが嬉しさを噛み殺しているのも見て取れるし、ここはありがたく頂戴しておくことにしよう。今日の夕食は、いつもにも増して賑やかな食卓になるに違いない。

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