ストライクウィッチーズ カザフ戦記   作:mix_cat

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第十七話 扶桑、オラーシャ共同作戦

「オラーシャ空軍第4航空旅団第116飛行連隊アクタウ小隊所属のナスチャ・モルダグロバです。階級は軍曹です。今回は私たちの作戦にご協力いただくということで、感謝します。」

 ナスチャ・モルダグロバと名乗ったその少女は、ドスパノワ上級中尉同様に亜細亜系の顔立ちだ。オラーシャ人の中でもカザフの出身なのだろう。そして、扶桑人と話をするのは初めてなのだろう、緊張している様子がうかがえる。

「モルダグロバさん、お疲れ様です。わたしがアティラウ派遣隊の隊長の安藤です。ドスパノワ上級中尉に約束した通り、できるだけの支援をしますから、何か要望があれば気軽に言ってくださいね。」

 安藤大尉はなるべくモルダグロバ軍曹の緊張を和らげようと、優しく語り掛ける。

「それから、ここは扶桑海軍の基地として使っていますけれど、元々はオラーシャ軍の基地なんだから、自分の基地だと思って遠慮しないで、気楽に過ごしてね。」

 一見それなりの年齢に見えるモルダグロバだが、ウィッチなのだからまだ軍曹ということは入隊して1年かそこらの若手のはずだ。そう思って見ると案外幼そうな顔をしている。そんな子が一人で他国軍の基地に派遣されてきているのだから、優しくしてあげなければと安藤大尉は思う。

 

 そこへおずおずと佐々木が手を挙げる。

「あの、質問してもいいですか?」

 手の挙げ方は遠慮がちだが、表情は興味津々といった様子だ。調子に乗って迷惑をかけないかと少し心配しつつ、多分年齢の近い佐々木達には仲良くなって欲しいと思い、安藤大尉は質問を許可する。

「質問を許可します。ただ、あまりしつこく聞かないようにしてね。」

 はい、と元気良く返事をした佐々木は、本当に安藤大尉の注意を聞いていたのか若干怪しい。早速モルダグロバに質問する。

「モルダグロバ軍曹、ずいぶん長い銃を持っていますけれど、それはどういう銃なんですか?」

 やはり長大な銃は気になるところだ。モルダグロバは、ちょっと遠慮がちに答える。

「これは、オラーシャの対装甲ライフルで、デグチャレフPTRD1941といいます。全長2m、重量16㎏で、14.5mmの銃弾を使って、一般的な地上型ネウロイなら当たりが良ければ1発で破壊できます。」

 

 それを聞いて安藤大尉が口を挟む。

「ということは、モルダグロバさんは、地上型ネウロイを破壊するのに爆撃はしないの?」

「はい、ええと、大型の地上型ネウロイを破壊するのには、爆弾を使わないと無理ですけれど、その・・・、あまり得意じゃありません。」

 モルダグロバのこの答えは、地上型ネウロイへの攻撃が得意なウィッチが来ると聞いて、爆撃仲間が増えると期待していた安藤大尉を軽く失望させる。せっかく爆撃談議に花を咲かせられると思っていたのに。新人たちはもとより対象外だし、清末と児玉のベテラン組も爆撃は素人で、話し相手になるような人がいないのだ。そんな安藤大尉に佐々木が尋ねる。

「そういえば、扶桑では対装甲ライフルを使う人って見かけないですね。」

「ええ、扶桑にはあまりいい対装甲ライフルがないからね。ブリタニアのボーイズを使っている人はいるけど。」

 扶桑の対装甲ライフルというと、陸軍の九七式自動砲があるが、全長2m、口径20㎜は良いとして、重量が59㎏もあって、ウィッチが使うには不向きだ。海軍としてはあえて陸軍の兵器を使いたいとは思わないということもある。だから必要な人はブリタニアのボーイズを使うことになる。ボーイズは欧州ではいくつもの国で使われている実績もある。

 

「つまり、モルダグロバさんは、トラックを襲撃したネウロイを探し出して、そのPTRD1941で狙撃して撃破するのが今回の任務なのね。」

「はい。」

「で、その間うちの隊員が護衛すればいいのね。」

「はい、お願いします。」

「うん、じゃあ明日は清末さんと佐々木さんで護衛してください。」

 ここまで他人事のようにぼおっと聞いていた清末は、突然自分に振られてあわてて姿勢を正す。

「了解しました!」

 佐々木もあわてて返事をする。

「はいっ!」

 もっとも護衛すると言っても、着任以来哨戒飛行中に襲われたことなどないから、ただ一緒に哨戒してくるだけになりそうだ。まあ、ネウロイを発見するための目は多い方が良い。

 

 

 そして翌日、モルダグロバと護衛の清末と佐々木は出撃する。まずはネウロイの襲撃があったという、アティラウの北方、ウラル川の西側に沿って北上する街道を160㎞ほど進んだ地点に行く。そしてその周囲にネウロイが潜んでいないか探索するのだ。しかし、茫漠と広がる大地に、これと言って手掛かりはなく、どこを探せばよいやら戸惑うばかりだ。清末が愚痴るように言う。

「でもさぁ、本当にこんな所までネウロイが来たのかなぁ。だって防衛線になっているボルガ川から400㎞はあるんだよ。それだけの距離を移動する間、一度も見つからないなんてことあるのかなぁ。何度も哨戒に出てるけど、わたし一度もネウロイ発見してないんだよね。佐々木は見たことある?」

「いえ、わたしも一度も見たことありません。」

 佐々木は清末と組んで哨戒した他、児玉や栗田少尉とも組んで飛んでいるが、いずれの時にもネウロイを発見していない。

 

「でも、迪子ちゃんは爆撃したって言ってましたよ。だから、ネウロイがいることは確かですよね。」

「うん、いるのは確かだけど、今回の話が本当にネウロイの襲撃かどうかはわからないよね。」

「まあ、それはそうですね。何かの見間違いかもしれないですね。」

「熊にぶつかったのかもしれないし、岩にぶつかって自爆したのかもしれないよ。」

「そ、それでネウロイの襲撃って報告しますか?」

 さすがに無理があるような気がする。割合寡黙なたちらしく黙って聞いていたモルダグロバも、ついにくすくす笑い出した。

「熊は乾燥地帯にはいないわ。もっと北の方に行かないと。」

「じゃあ駱駝。」

「カザフの人は駱駝は見慣れているから、ネウロイと見間違えたりしない。」

「そ、そうですよね。」

 いい加減なことを思いつくままに言っていただけなので、まじめに返されてしまって、清末はばつが悪い。

 

「岩や木の陰にいると、見付けられないことも多いから仕方ないけど、見つかっていないネウロイは必ずいると思う。」

 元々カザフ出身のモルダグロバがそう言うのだからそうなのだろう。しかし、いるのは確実だとしても、見付けられないのでは撃破できないではないか。

「うん、でもいたとしても、見付けられないんじゃあどうしようもなんじゃないの?」

 清末の当然の疑問だが、モルダグロバは落ち着き払って答える。

「大丈夫、見付けられるから。」

「見付けられるって、低空を這い回って探すの? でも3人で手分けして探しても、これだけ広いと探しきれないんじゃないの?」

 モルダグロバは大言壮語するようなたちには見えないが、大丈夫と言い切る理由がわからない。

「わたし、固有魔法でネウロイが見えるの。」

「見えるって?」

「物陰にいても、高高度からでも、ネウロイがいるのがわかるの。だからすぐ見つかる。」

「へえ、そんな便利な魔法があるんだ。」

 それが本当なら凄い。まるで隠れた地上型ネウロイを見付けるためにいるようなものではないか。恐ろしいほどの適材適所だ。

 

「あそこ。」

 モルダグロバが指さす。

「えっ? どこ?」

 指差す方を見回しても、清末には全く見付けられない。振り返って佐々木の顔を見ても、困ったような表情が返ってくるばかりだ。

「あそこに一叢の繁みがあるでしょう。あの中に隠れてる。」

 モルダグロバはそう言ってその繁みがあるという方向に向かって降りて行く。後について降下する清末は半信半疑だ。確かに繁みがあるのはわかったが、その中のネウロイなど見えやしない。そもそも、木の葉や枝に覆い隠されているのだから、すぐ近くに行ってもわからないかもしれない。しかし、モルダグロバは迷わず一直線に降下していく。

 

 モルダグロバはかなり低くまで降下してくると降下をやめ、中空に静止するとPTRD1941を構えて狙いをつける。モルダグロバの狙う繁みをよく見ると、風に揺れる枝葉の陰に、風が吹いても動かないものが確かに隠れている。

「あれがネウロイ?」

 岩があるだけだと言われたら信じてしまいそうだ。しかしモルダグロバがそこを狙っているということは、やはりそれはネウロイなのだろう。しかし、PTRD1941を構えた様は恐ろしくバランスが悪い。身長よりも長い2mもある銃を構えて、よくもまあぴたりと静止していられるものだ。

「そんな長い銃構えてよく狙えるね。」

 感心したように声をかける清末だったが、モルダグロバは射撃に集中しているようで返事はない。そして、モルダグロバが引き金を引いた。

 

 放たれた銃弾は複雑に絡み合う枝の間を抜けて、ネウロイの装甲を貫いた。次の瞬間、ネウロイは甲高い音を立てて砕け散ると、きらきらと陽光を反射して輝く無数の破片をまき散らす。まき散らされた破片は、繁みの外へと広がって、ネウロイを隠していた木々を包み込む。まるで木々の葉が一斉に輝き出したかのようだ。

「綺麗!」

 佐々木が感嘆の声を上げる。ネウロイの破片の散る様は、その凶悪さに反して美しい。

「佐々木はネウロイが砕け散るのを見るのは初めてだっけ?」

「はい! 凄く凄いです!」

「そうやって感動するのも最初の内だけだよ。そのうち見る気もなくなるから。」

「そ、そんなことないです。清末さんはどうしてそんな水を差すようなことを言うんですか。」

 佐々木の言葉に、清末は砕け散るネウロイに目を留める暇もなかった乱戦を思い出して遠い目をする。そんな二人を尻目に、既に次の目標を見付けていたらしいモルダグロバは動き出している。清末と佐々木はこれといった働きもしていないが、モルダグロバのおかげで周辺に潜んでいたネウロイは一掃されそうだ。




◎登場人物紹介
(年齢は1947年4月1日時点)

ナスチャ・モルダグロバ(Nastya Moldagulova)
オラーシャ空軍軍曹(1933年10月25日生、13歳)
オラーシャ空軍アクタウ小隊
 レーダーでは発見できない地上型ネウロイを上空から感知する能力を持ち、物陰や茂みに潜むネウロイを発見、対戦車ライフルで狙撃して撃破する。

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